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たった、二文字
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◇◇
「もう、何でもいいから早く抱いて」
地方から帰ってきた翠の首に手を回してそう言うと、何も知らない翠は僕がまだ発情期の猫のような状態になっているかと思ったのか、すぐに乗り気になってくれた。
よかった、最後に抱いてもらえる。思い出が増える。番ができたから、避けられるんじゃないかって不安だったんだ。でも、翠は何も番のことを話そうとはしない。僕に出ていけと言う気配すらなかった。
マネージャーの茨木さんの言った通り、僕は都合のいい性欲処理担当で、どうせなら手元に置いておこうと思っているのだろうか。翠ならもっといい人を見つけられそうなのに。変なのって、笑っちゃう。多分この時の僕は精神的にギリギリでおかしくなってた。
「気持ちいい?」
「ん、もっと」
だけどその笑みの理由を翠は勘違いして、僕が翠にやっと会えたことに喜んでいるように見えたらしい。激しくなる腰つきに翻弄されて、このままどろどろに溶けて消えてしまえたらと願ってしまう。
あーあ、出会った時からやり直せたらいいのに。
最後だと分かってするセックスは、ひどく悲しくて辛いものだった。
「っ、だめだめ、」
「んー?」
「っ、もう、イッちゃうから、」
「いいよ、いっぱい気持ちよくなって」
この数日で僕の弱いところを知り尽くした翠は的確にそこを攻めてくる。鍛え上げられた筋肉質な背中に腕を回す。本当はずっと、この腕の中にいたい。そう願っても叶うことはないって分かっているから、切なくて涙が溢れた。
翠の全ては、僕じゃない誰かのものになってしまった。だから早く、明け渡さないと。
「おねがいっ、翠、」
「なぁに?」
「ん、中に、出してっ」
「ッ、」
「 」
理性を失って、余計なことを口走った気がする。記憶が曖昧ではっきりとは覚えていないけれど、中に出してとせがんだことは覚えているのにどうしたって思い出せない。どうせなら全てを忘れていたかった。
ベータの僕は孕めないのだから、出されたところで何も変わらない。虚しくなるのは分かっていたのに、どうしても翠の痕跡を僕の中に残してほしかった。
「……陽、」
「っ、すき」
ずっと言わないようにしていた、最初で最後の愛の告白。それを聞いた瞬間、翠がふわりと花が開くように笑った。あまりにも嬉しそうに、幸せそうに。だけど、返ってきたのは口付けだけで、やっぱり翠から欲しいと思っていた言葉は何一つ聞こえてこなかった。
――僕じゃなかったんだ。
愛されているんじゃないかって思っていたのは、ただの傲慢な錯覚だった。
そりゃ、アイドルだもん。それがお仕事みたいなもんだ。「好き」なんて、言われ慣れているよね。騙されたというか、翠にはその気すらなかったというのが恥ずかしい。僕が勝手に勘違いしただけなのに。
さよなら、僕の大好きな人。
運命の番と幸せになってね。
心の中でそう呟くと同時にぎゅうっと力強く抱き締められて、僕の瞳からは一筋の涙が流れ落ちた。
「もう、何でもいいから早く抱いて」
地方から帰ってきた翠の首に手を回してそう言うと、何も知らない翠は僕がまだ発情期の猫のような状態になっているかと思ったのか、すぐに乗り気になってくれた。
よかった、最後に抱いてもらえる。思い出が増える。番ができたから、避けられるんじゃないかって不安だったんだ。でも、翠は何も番のことを話そうとはしない。僕に出ていけと言う気配すらなかった。
マネージャーの茨木さんの言った通り、僕は都合のいい性欲処理担当で、どうせなら手元に置いておこうと思っているのだろうか。翠ならもっといい人を見つけられそうなのに。変なのって、笑っちゃう。多分この時の僕は精神的にギリギリでおかしくなってた。
「気持ちいい?」
「ん、もっと」
だけどその笑みの理由を翠は勘違いして、僕が翠にやっと会えたことに喜んでいるように見えたらしい。激しくなる腰つきに翻弄されて、このままどろどろに溶けて消えてしまえたらと願ってしまう。
あーあ、出会った時からやり直せたらいいのに。
最後だと分かってするセックスは、ひどく悲しくて辛いものだった。
「っ、だめだめ、」
「んー?」
「っ、もう、イッちゃうから、」
「いいよ、いっぱい気持ちよくなって」
この数日で僕の弱いところを知り尽くした翠は的確にそこを攻めてくる。鍛え上げられた筋肉質な背中に腕を回す。本当はずっと、この腕の中にいたい。そう願っても叶うことはないって分かっているから、切なくて涙が溢れた。
翠の全ては、僕じゃない誰かのものになってしまった。だから早く、明け渡さないと。
「おねがいっ、翠、」
「なぁに?」
「ん、中に、出してっ」
「ッ、」
「 」
理性を失って、余計なことを口走った気がする。記憶が曖昧ではっきりとは覚えていないけれど、中に出してとせがんだことは覚えているのにどうしたって思い出せない。どうせなら全てを忘れていたかった。
ベータの僕は孕めないのだから、出されたところで何も変わらない。虚しくなるのは分かっていたのに、どうしても翠の痕跡を僕の中に残してほしかった。
「……陽、」
「っ、すき」
ずっと言わないようにしていた、最初で最後の愛の告白。それを聞いた瞬間、翠がふわりと花が開くように笑った。あまりにも嬉しそうに、幸せそうに。だけど、返ってきたのは口付けだけで、やっぱり翠から欲しいと思っていた言葉は何一つ聞こえてこなかった。
――僕じゃなかったんだ。
愛されているんじゃないかって思っていたのは、ただの傲慢な錯覚だった。
そりゃ、アイドルだもん。それがお仕事みたいなもんだ。「好き」なんて、言われ慣れているよね。騙されたというか、翠にはその気すらなかったというのが恥ずかしい。僕が勝手に勘違いしただけなのに。
さよなら、僕の大好きな人。
運命の番と幸せになってね。
心の中でそう呟くと同時にぎゅうっと力強く抱き締められて、僕の瞳からは一筋の涙が流れ落ちた。
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