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夢現
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「……いたい」
「どこが?」
「…………ここ」
そう言って、心臓を示す。
……言うべきじゃない、言ったら駄目だ。
頭では分かっているのに、翠の前では嘘をつけない。じっと見つめられているせいか、口が勝手に動き出す。
「僕みたいなベータが求めたら駄目だってことぐらい、ちゃんと分かってるんだ」
「うん」
「……でも、翠がいないと心にぽっかり穴が空いたみたい」
「…………」
「ごめんなさい、こんなことを考えてしまって……」
考えることすら烏滸がましい。望むことさえ罪だと思った。だけど心優しい翠は、そんな僕でも受け止めてくれる。
「何を、考えてたの?」
「……僕が今から言うこと、全部忘れてくれる?」
「うん、いいよ」
チョコレートをどろりと溶かしたように甘ったるい瞳。その口元は緩く弧を描いている。
だって、翠が忘れるって言うから。だったら、本音を吐き出してしまってもいいかなって、安易にそう思っちゃったんだ。
「…………翠の、運命になりたい」
その言葉を聞いた瞬間、翠の瞳がぎらりと光る。まるで獲物を前にした獰猛な肉食獣のようで、「あ、僕、これから捕食されるんだ」と自分の未来を察してしまう。
何も言わない翠が僕の前に跪く。月に照らされた顔はいつになく真剣で、その瞳に吸い込まれてしまいそう。翠とひとつになれるなら、それもいいかも。……なんて、馬鹿げたことを現実逃避するみたいに考えてたら、ずっと大事に抱えていたシャツを奪い取られた。
「あ、」
「これはもういらないね」
そう言って、後方にシャツを適当に放り投げる。嗚呼、僕の大事な安心毛布だったのに。その行方を名残惜しく目で追っていたら、手を引かれて、翠の太腿の上に座る形になった。シャツじゃない、本物だ。こっちの方がずっといい。
だけど、いつも後ろから抱え込まれてばかりだったから、こうして真正面に翠の顔が見えるのは違和感。どんな表情をしているのかバレバレなのが恥ずかしくて、でも目と目が合うのは嬉しい。
「ふふ、緊張してるね」
「……意地悪」
「だって、陽があまりにもかわいいから」
彼の細く長い指が涙を流した跡をなぞる。逃げ出したいと頭では思うのに、翠から離れるのが惜しくて、磁石でくっついているかのようにこの場所から動けない。
羞恥に歪んだ顔を見られたくなくて、翠の肩に顔を埋めた。途端に、いつもの香りが漂ってきて、酩酊しているみたいに思考がぼやけてくる。すりすりと、猫のように首筋に擦り寄って、その香りを堪能する。
こんなの、現実の僕じゃないみたい。夢を見ているんだって、そう思いたくなるほど自分の行動が受け入れ難いのに、奥底に無理やり溜め込み続けたせいで歪んだ欲望は全く収まる気配がない。
「ッ!」
しばらく大人しくしていた翠も僕の首筋に顔を寄せる。敏感なその場所に口付けられて、思わず身を捩った。言葉にならない声が漏れて、自分の手で口元を抑えれば、翠はそれを許さない。手を取られて、指を絡め合う。
僕を苛める張本人なのに、助けを求めるように眉を下げて翠を見つめた。もっともっとって期待と、恥ずかしさのあまりどうにかなっちゃいそうで逃げ出したい気持ちが入り混じる。
「どこが?」
「…………ここ」
そう言って、心臓を示す。
……言うべきじゃない、言ったら駄目だ。
頭では分かっているのに、翠の前では嘘をつけない。じっと見つめられているせいか、口が勝手に動き出す。
「僕みたいなベータが求めたら駄目だってことぐらい、ちゃんと分かってるんだ」
「うん」
「……でも、翠がいないと心にぽっかり穴が空いたみたい」
「…………」
「ごめんなさい、こんなことを考えてしまって……」
考えることすら烏滸がましい。望むことさえ罪だと思った。だけど心優しい翠は、そんな僕でも受け止めてくれる。
「何を、考えてたの?」
「……僕が今から言うこと、全部忘れてくれる?」
「うん、いいよ」
チョコレートをどろりと溶かしたように甘ったるい瞳。その口元は緩く弧を描いている。
だって、翠が忘れるって言うから。だったら、本音を吐き出してしまってもいいかなって、安易にそう思っちゃったんだ。
「…………翠の、運命になりたい」
その言葉を聞いた瞬間、翠の瞳がぎらりと光る。まるで獲物を前にした獰猛な肉食獣のようで、「あ、僕、これから捕食されるんだ」と自分の未来を察してしまう。
何も言わない翠が僕の前に跪く。月に照らされた顔はいつになく真剣で、その瞳に吸い込まれてしまいそう。翠とひとつになれるなら、それもいいかも。……なんて、馬鹿げたことを現実逃避するみたいに考えてたら、ずっと大事に抱えていたシャツを奪い取られた。
「あ、」
「これはもういらないね」
そう言って、後方にシャツを適当に放り投げる。嗚呼、僕の大事な安心毛布だったのに。その行方を名残惜しく目で追っていたら、手を引かれて、翠の太腿の上に座る形になった。シャツじゃない、本物だ。こっちの方がずっといい。
だけど、いつも後ろから抱え込まれてばかりだったから、こうして真正面に翠の顔が見えるのは違和感。どんな表情をしているのかバレバレなのが恥ずかしくて、でも目と目が合うのは嬉しい。
「ふふ、緊張してるね」
「……意地悪」
「だって、陽があまりにもかわいいから」
彼の細く長い指が涙を流した跡をなぞる。逃げ出したいと頭では思うのに、翠から離れるのが惜しくて、磁石でくっついているかのようにこの場所から動けない。
羞恥に歪んだ顔を見られたくなくて、翠の肩に顔を埋めた。途端に、いつもの香りが漂ってきて、酩酊しているみたいに思考がぼやけてくる。すりすりと、猫のように首筋に擦り寄って、その香りを堪能する。
こんなの、現実の僕じゃないみたい。夢を見ているんだって、そう思いたくなるほど自分の行動が受け入れ難いのに、奥底に無理やり溜め込み続けたせいで歪んだ欲望は全く収まる気配がない。
「ッ!」
しばらく大人しくしていた翠も僕の首筋に顔を寄せる。敏感なその場所に口付けられて、思わず身を捩った。言葉にならない声が漏れて、自分の手で口元を抑えれば、翠はそれを許さない。手を取られて、指を絡め合う。
僕を苛める張本人なのに、助けを求めるように眉を下げて翠を見つめた。もっともっとって期待と、恥ずかしさのあまりどうにかなっちゃいそうで逃げ出したい気持ちが入り混じる。
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