21 / 34
天を仰ぐ
4
しおりを挟む☆
「陽、こっち」
ソファに座る翠に呼ばれて、きゅと口を噛み締める。考えていることが顔に出ないように、平然としたふりをするしかない。
ここ最近の翠は、僕を膝の上に乗せて後ろから抱え込むことにハマっている。抱き枕とかぬいぐるみとかと同じような扱いだ。痩せてしまった貧相な身体じゃ、何も楽しくないだろうに。
最初はもちろん断った。けれど、「嫌だ」「無理」と並べ立てているうちに翠の表情がどんどん曇っていく。おまけに縋るように見つめられると、最終的には渋々ながらも受け入れることしかできなかった。
そうして出来上がった、新たなルール。
翠に呼ばれたら膝の上に座ること。
決して軽くはない体重を彼の細い足に負担させるのは気が引ける。鉛の人形のように固まった僕の項に顔を近づけ、すんと香りを嗅がれた。
「翠……?」
「……、……」
背後で何を企んでいるのか、戸惑いながら名前を呼ぶと、一瞬固まった翠は何もリアクションを返すことなく、そこに口付けを落とした。
「んっ」
思わず漏れたのは、自分でも予想していなかった甘い声。
自分の想像以上に敏感だったらしいそこから甘い痺れと、なんかよくわかんない変なぞわぞわがこみ上げてきて全身を巡る。熱を逃そうと荒い呼吸を吐いて、無意識に足を擦り合わせていれば、翠の手が宥めるように僕の頭を撫でた。
「えらいえらい」
「……?」
その言葉の真意を測りかねて、何も言葉を返せない。後ろを振り返って見上げると、熱に浮かされて涙で潤んだ瞳を目にした翠は更に瞳をぎらつかせ、欲を滲ませた。
戸惑いつつも抵抗しないのをいいことに、今度は大きく口を開いて僕の項に歯を突き立てる。
「っ!?」
じんじんと広がる痛みと熱。きっと、血だって滲んでいる。けれど、痛みの中に確かに甘い痺れは存在していて、燻る熱のやり場に困ってしまう。
ただ理由もなく直感的に、身体を作り変えられているような感覚がした。
どうにか溜まった熱を逃そうと、先程よりも激しくはぁはぁと熱い息を吐けば、翠に項を舐められる。その場所を執拗に攻めるのは、アルファの性だろうか。
どうすることが正解なのか分からなくて、ただ身体を震わせてそれを享受することしかできない
……こんなことをしたって、意味がないのに。こんな風に痕を残したって、オメガと違って数日で消えてしまうのに。
オメガなら誰だって、貴方の番になれるけれど。僕はただのどこにでもいるベータだから、そんな未来を夢見れない。
それなのに、何故。
何故、番になるための言わば神聖な儀式の真似事を僕にしようと思ったのか。アルファなら、その行動の重さを誰よりも理解しているはずなのに。
……翠が、分からない。
困惑しながら痛みに潤む瞳を向けても、彼は平然としていて、それが少し怖かった。この人はアルファなのだと、思い知らされた気がした。
「ごめんね、痛かった?」
「…………平気」
選択肢なんて他にない。
そう答えるしかない僕の項を、彼がどんな瞳をしながら口付けていたかなんて、知る由もなかった。
37
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております
ココア ~僕の同居人はまさかのアイドルだった~
2wei
BL
【ANNADOL シリーズ1】
アイドル・加藤亮介と、一般人・日下比呂人との甘く切ないラブストーリー
間違って二つ出てきた自動販売機のココア
運命はそのココアが握っている──
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
合わせてお楽しみください。
『セカンドココア』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/76237087/435821408
『ココア 番外編』
The link is coming soon!
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
🚫無断転載、無断使用、無断加工、
トレス、イラスト自動作成サービス
での使用を禁止しています🚫
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
START:2023.7.11
END:2023.9.21
。.ꕤ……………………………………ꕤ.。
可愛くない僕は愛されない…はず
おがとま
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる