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天を仰ぐ
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しおりを挟む先程とは違う意味で眉を下げていれば、僕を見上げている翠と目が合う。下から見上げられたら隠すことができない表情なんてバレバレ。誤魔化すように、へにゃりと下手くそな笑顔を作るしかなかった。
たとえネガティブな感情が顔に出ていたとしても、僕の心の内までは流石の翠も分からないだろう。このあまりにも重たい無価値な恋心がバレなければ、それでいいと思う。
「陽は素直だね」
「……、ただの一般人なので」
僕は演技の上手い俳優でもないし、本音を隠し通すホストでもない。唇を尖らせてそう言えば、くすりと笑われる。
「褒めてるんだよ。俺は陽のそういうところが好きだから」
「っ、」
これ以上瞳を見ていたら、言わないはずの言葉が溢れ出してしまいそうだったから。たまらなくなって、天を仰いだ。
きっと、アイドル様は普段からいろんな人に言っているから何の照れもなく口にできるのだろうけれど、軽々しく「好き」とか言わないでほしい。
心臓が一際大きく跳ねた音が、翠まで届いていないことを願うしかなかった。
「変わらないでね」
「僕はずっと僕のままだよ」
変わるとしたら、翠の方だ。
今は平凡なベータを面白がって傍に置いているけれど、飽きがきたら僕なんてすぐに捨てられる。だけど、そんなことを本人に直接言えるほど、僕は勇敢でも正直者でもなかった。
すると僕の返答に満足したのか、翠はごろりと寝返りを打つと猫のように擦り寄ってきた。
身動きを取るたびにサラサラと揺れる、肩まで伸びたホワイトブロンド。彼の真似をして、バレないように毛先に触れるけれど、敏い翠にはすぐに気づかれてしまう。
「どしたの」
「綺麗な髪だなあと思って」
「……好き?」
「うん、この髪色が一番翠に似合うんじゃないかな。どこにいても、翠だって一目で分かるし」
何かを試すように、一瞬の間を空けて投げかけられた質問。そこに深い意味はないと、動揺を悟られないよう、平気な顔をして嘯くことしかできない。
「なら、ずっとこの色にする」
「……それは、」
「陽がすぐに見つけられるなら、これが一番いい」
僕なんかより、ファンの人の意見を聞いた方が絶対にいいに決まっているのに。説得しようにも、変なところで頑なな翠はこれ以上聞く耳を持たない様子。
まあ、仕事関係や気分次第で髪色なんてすぐに変わる。多忙なトップアイドル様は、こんなありふれた日常の会話なんてすぐに忘れてしまうだろうと思ったから、説得するのは早々に諦めてしまった。
もぞもぞとお腹に顔を埋める翠がどんな表情をしているのか、僕には全く分からなかった。
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