上 下
214 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第210話 激闘

しおりを挟む
 ニュートはゆっくりとオレの方を振り向いた。

 オレのつけた傷はすでに治りつつあり、ニュートの左腕は何事もなかったかのように戻っている。

(あの再生能力……、なんて厄介な)

 奴の再生能力は巨人族のギガースから奪い取ったもの。オリジナルほどではないにしろ、あまり魔力を消費せずに回復するため、試合が長引けば長引くほど、MPに限りのあるオレの方が不利になる。実際、ルシフェルは焦りから自滅したようなものだ。

(ならば……、再生能力など関係ないほど致命的な一撃で勝負を一気に決める必要がある)

 オレの額に汗がタラリと流れ落ちた。

(これほどの使い手であるニュートに致命的な一撃を入れる…………か)

 オレは刀を握る手に力を込めた。

(やるしかない。オレは負けるわけにはいかないんだ)

 今、再びニュートと対峙する。

「今のは中々の攻撃だった。だが、この程度の傷などオレにとってはかすり傷に等しい。クククッ……貴様を倒し、オレはこの世界の王になるっ! 貴様の能力を喰らい、さらなる進化を遂げ、オレに歯向かうものなどこの世に存在しなくなるのだ! 光栄に思うがいい! 王のいしずえとなることを!」

 ニュートの叫びは会場の観客すらも怯えさせ、会場中が静まり返る。

「他人を一方的に蹂躙しておいて王などと……、ならばオレが止めてみせよう! ニュートよ。お前の野望もここまでだ!」

 オレの刀とニュートの刀が再び相まみえる。

 何度も交わされていく剣戟。火花が激しく散ったかと思えば、そのすぐそばからまた新たな火花が咲き誇り、そして散っていく。

「す、凄まじい剣と剣のぶつかり合いですっ! 正直、剣と剣がぶつかる火花があるから私でも剣同士がぶつかっているのが分かりますが、それが無かったら二人がなにをしているのかすら分からないかも知れません!」

「そうですね。これほどハイレベルな攻防を見るのは私も始めてです! ニュートはルシフェルを取り込んでからさらにパワーアップしましたね! 剣のスピードが準決勝とは一段違うように感じます! それについていくRENですが、まさかこれほどの実力を持っていたとは……。いやぁ、世界は広いとしか言いようがありません! まさに歴史に残る試合と言っても過言ではないですね!」

 解説者の熱い声と想いが観客達の声援に火を灯した。

 観客達は地鳴りのような音を足で踏みしめ、声高く、舞台に声援を送っていく。

 どちらを応援するでもなく、この歴史的な試合を見せる二人を応援せずにはいられないのだ。

 会場から怒涛の声援が飛び交う中、ニュートと攻防を重ねていたオレは舌を巻いていた。

(くうううっっっ! こ、これほどの強さ。あの時を思い出す……)

 オレの脳裏に思い浮かんだのは、洗脳され、チームメイトであり、親友であり、なにより最大のライバルであるソウと戦った記憶が蘇ってくる。

 洗脳されていたとはいえ、ソウとの戦いの映像はしっかりと脳裏に焼き付いていたのだ。

(思い出せ、あの容赦ない無数の剣を! ソウはオレの目にもとらえきれないほどのスピードで数十体もの残像を残し、さらに複数の技を行使していたのだ。今のオレならそのレベルの高さがよくわかる。実質のレベルが最高峰に到達しているだけではない。剣のありとあらゆる可能性を突き詰めていった先にある強さ。

 オレは、あの高みへ到達しなければならない。そして、いつかソウを倒し、彼のライバルとしての地位を取り戻す!!!

 それがソウにしてやれるオレの恩返しでもあり、本当のチームメイトとなるための必須条件なのだ!!!)

 オレは戦いの中で少しずつパワーアップしていた。ニュートほどの強敵と戦っていると否が応でも経験値が溜まっていくのだ。そして、身体強化が強まるにつれ、すぐにそのスピードを身にまとい、戦いの中で身につけていく。

「ぬうっ!?」

 ニュートの眉根が寄る。

 奴の態勢こそ崩せはしないが、剣を振るスピードにおいては完全に上回っている。

(この調子なら…………)

 オレはニュートの怯んだ微かな隙を見逃さなかった。

 奴の放った小太刀による払いあげ。そこに絡めるように自らの刀を走らせ、そして上空へと巻き上げた。

 瞬間、ニュートの左側がガラ空きになる。

(ここだっ!!!)

 オレは勝負を仕掛けるため、ニュートの左側から大太刀で振り下ろした。

「もらった~~~~~っ!!!!!」

 オレは勝利を手にした…………はずだった。

 ニュートは目をキラリと光らせ、口を大きく開くとその最奥からドス黒い魔力の塊を吐き出したのだ。

 ブレス。あの竜族の神、バハルの能力を奪い取り、元々ニュートが持っていた毒と呪いの効果を最大限にまで高め上げた必殺技。

 今、ニュートの最大の奥義が不用意に踏み込んだオレに襲いかかったのだ。

(くっ、この態勢では躱すことはできない!!! このまま刀を振り下ろし、奴のブレスを斬るしかないっ!!!)

 瞬間、オレの視界は全て黒に染め上げられた。ブレスの勢いとオレの刀がぶつかり合う。

 怒涛の勢いで流れ来る黒い奔流。オレは刀を支えるだけで精一杯だった。

(くうううっっっ!!! これほどの威力だとはっ!)

 オレの抵抗も虚しく、ニュートのブレスはオレの胸にぶつかった。

「ぐああああああっっっ!!!!!」

 体が浮き上がり、数十メルも吹き飛ばされ、オレの体は入場口近くの壁に激突。そこでようやく止まるのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

西からきた少年について

ねころびた
ファンタジー
西から来た少年は、親切な大人たちと旅をする。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...