上 下
182 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第180話 ズールの攻勢

しおりを挟む


 ズールの剣が突然、目の前に迫った。

 咄嗟に剣で受けるも次の攻撃がすぐに迫ってくる。俺はズールの左側に廻りこんだ。

 先程の攻撃で傷ついた左側のほうが少し攻撃が緩いはず。

 だが、俺の期待も虚しく、奴のスピードは速く迫る。

「クッ!」

 俺は雷魔法を左手で放ちつつ、ズールから距離を取り離れた。

 傷ついているはずの左の腕を見る。

 するとズールの傷が少しずつ塞がっていくのが見えた。このまま手をこまねいていては敵の回復を待つだけ。なんとしてもここで踏み込む必要がありそうだ。

 俺は瞬時に移動し、ズールの側面から攻撃を仕掛けていく。もちろん、今怪我を負っている左側だ。

 側面に回り込んで攻撃したとしても、ズールは腕の数が多いため、流れるように連続で攻撃をしてくる。

 先程のように魔法を絡めれば……、くっ……、ズールも魔法を剣に纏わせてきやがった。

 俺の剣から放たれる雷撃とズールの剣から放たれる炎撃がぶつかり合い、相殺されてしまった。

 すぐに真似してくるだけでなく、いきなり使いこなしただと?

 距離を取るべく、遠くへジャンプし後退する。

 ズールは今の攻防で俺の技を完全に見きったようだな。ニタリと口元を歪ませ、剣を一舐めしている。俺が負わせた傷もすっかり塞がってしまっていた。

 振り出しに戻ってしまったか……。さすがはズールといっておこう。凄まじい戦闘のセンスだ。

 下手に戦闘が長引けば、それだけ奴は経験からパワーアップしていくだろう。ならば……早めに勝負を決める必要があるな。

 俺は静かに、正眼に剣を構えた。そして、剣に雷魔法をしっかりと纏わせる。

 ズールも俺に合わせて剣に魔法を纏わせた。それも六本の剣全てに。

「あーっと、RENが剣に雷を纏わせましたッ! 剣を正面に構えました! これはいつ仕掛けてもおかしくない! 目が離せませんッ! 対してズールも剣に炎を纏わせた! こ、こちらは六本の剣の全てが魔法剣となっております! 凄まじい迫力ッ!」

「さすがズールですね。剣に纏わせる炎の量も質も相当なものがありますよ! ここまでの攻防は五分と五分! ここから試合が動くかもしれませんよ!」

 解説者が言い終わるや否や、ズールが動き始めた。

 スッと消えるように移動し、俺の正面から斬り込んでくる。先程とは違い、正面の上段からの振り下ろし。

放ってきている剣を受けると、さらに上段から別の剣が振り下ろされてくる。

 サイドステップで躱しても、奴はすぐに追ってきた。続けざまに剣を振り下ろしてくるのだ。

 何度も受け、躱し、移動し、また受け、止まることなく続く攻防。

 俺が防戦一方に追い込まれるほどにズールは戦闘巧者であった。

 剣だけでは凌ぎきれず、魔法を時折、織り交ぜて攻撃していく。だが、それも読まれたかのようにズールは炎の魔法で迎撃する。

「激しい打ち合いからの、魔法戦に突入しておりますッ! 両者一歩も引きませんッ!」

「RENもズールも魔法が上手いですよ! 剣による攻撃の合間にうまく魔法を挟み込んで隙を無くしているんですね! 魔法ばかりになっても単調になってしまいがちですからすぐに、剣の攻撃に切り替わっていきます。この当たりもスムーズで両者に差はほとんどありませんね!」

 俺は常に雷の魔法を放ちつつズールを牽制していく。

 今のズールは血の気が多いようですぐに俺との間合いを詰め、剣の連撃を放ってくる。

 チィッ! さすがに休ませてはくれないか……。

 三発目の剣を受けたときだった。ズールの二本の腕が同時に伸びてきた。

 こ、これは?

 二本の腕から放たれた炎の魔法は一体となり、俺の雷魔法を貫いた。

 ぬうッ!

「あああーーーーーッ! ついにRENが被弾したかーーー! ズールの魔法、それも二本の腕から放った炎の魔法が重なり合い、RENの魔法を貫きましたーーーッ!」

「むッ? いや、リサさんッ! まだ決まってないですよ! 見てください、煙が晴れていきます。RENは無事に立っています!」

「あああッ!!! 確かに! RENにズールの魔法が直撃したはずですが、RENは無事のようですね! それどころか、無傷でしょうか?」

「恐らくですが、魔法に対するバリヤーのようなものを張って耐えたんだと思います。なんせ、あれだけの魔法がヒットしたにもかかわらず無傷ですからね。まさかRENがこれほど高度な魔法を見せるとは思いませんでしたよ」

 隠していたバリヤーの存在が知られてしまったが、まぁいい。俺の計画に狂いはない。

 ズールは怒り狂ったように魔法を連発して発射してきた。それも魔法を重ね合わせての強烈なものを連発して放ってきた。そのすべてが極大魔法といって差し支えないものだ。1メルほどもある大きさの炎の巨弾が数発、俺の視界を埋め尽くした。

「さすがにそれを喰らうわけにはいかないな」

 これでどうだッ!

 魔力を大きめに練った特大の雷を手から放つ。

 俺の前に数百本もの雷が現れては地に吸い込まれるように落ちていく。

 絶え間なく放電される雷がズールの強大な炎にいくつもぶつかっていく。一つ一つの雷ではズールの炎に勝てない。だが、炎魔法の行く手を遮る数百本もの雷が次々にぶつかっていくと、炎の塊が少しずつ小さく、弱くなっていく。やがて、俺の前に来る頃にはすっかり消え去ってしまうのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ
ファンタジー
自身の暗い性格をコンプレックスに思っていた男が死んで異世界転生してしまう。 転生した先では性別が変わってしまい、いわゆるTS転生を果たして生活することとなった。 せっかく異世界ファンタジーで魔法の才能に溢れた美少女になったのだ。元男は前世では掴めなかった幸せのために奮闘するのであった。 これは前世での後悔を引きずりながらもがんばっていく、TS少女の物語である。 ※この作品は他サイトにも掲載しています。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...