179 / 219
第9章 勇者RENの冒険
第177話 一回戦第八試合 決着
しおりを挟むイケる。
俺の直感がそう伝えている。
今、バハルのブレスが飛んでこようとしている時、俺の気分は不思議と落ち着いていた。
それもこの手に握る、グレンのおかげだろう。
グレンはこの試合中もパワーアップを繰り返し、今や、俺の身長以上の長さにまで進化していた。
そして、内包する魔力も増していたのである。
来い。今の俺ならば、貴様のブレスを必ずや斬り裂いて見せる。
バハルはブレスの体制に入っている。今更他の攻撃をするわけもない。
口の周りの魔法陣が解け、バハルの前に巨大な風魔法の大筒が浮かび上がる。そして、口の中には先程のブレスが霞むほどの超高温のエネルギー体が見え隠れした。
その時は来た。
バハルは大きく口を開き、ブレスを発射した。大筒の効果により、ブレスは細く凄まじいスピードで発射された。
それと同時に、
「来やがれッ! ブレスだろうが何だろうが斬ってみせる!」
自らを鼓舞し、グレンを振り下ろす。
グレンとブレスがぶつかりあった。
今まで受けたこともない衝撃がグレンから伝わってくる。
腕はブルブルと震える。また、周りの超高温により、鱗が少しずつ黒く焼けていく。
耐えろッ! 俺の身体よ。このブレスを斬り、勝負に勝つのは俺だッ!
目を見開いてグレンを確認する。
グレンもありったけの魔力を放出しながら今もブレスとぶつかり合っていた。
そして、グレンにぶつかったブレスは四方八方に飛び散っていき、俺の周囲に炎の壁がいくつも出来上がっていく。
グレンはよくやってくれている。ここで俺がへばるワケにはいかん!
グレンを持つ指は真っ黒に焼けてくる。余りの熱さに、手の感覚が麻痺しているのだ。だが、焼けた指同士がくっつき、何とかグレンを支えていた。
ぐううぅ! 指に魔力を集中し、再生を高めるしか無いッ!
そこからは一進一退。ブレスで焼ける指と集中した魔力での再生が拮抗し、なんとかブレスを凌いでいく。
指に魔力を集中したため、顔の一部が焦げてくる。
くっ、左目が……、見えなくなっちまった……。だが……、もう少しだ。勝つのは……、俺だーーーーーッッッ!!!
最後の魔力を振り絞り、懸命に耐え抜いていく。
そして、ついにブレスが弱まった。
バハルも全霊の力を振り絞って放出したに違いない。これほどの熱量を生み出すにも魔力を膨大に消費するのだ。
後は……、俺の身体さえ動けば……、俺の勝ちだッ!
一歩、足を前に動かす。
焼けた足はかろうじて動く程度だった。動きが重い。
だが、俺の再生能力はじっくりと、確実に俺の身体を再生していく。
また一歩、足を動かした。
先程よりも動きは軽くなった。
そして、また一歩、前に出た。
煙が晴れ、バハルの姿がようやく確認できた。
奴は口をパクパクと動かし、信じられないものでも見ているかのように目を見開き、大粒の汗が額にびっしりと浮かんでは流れ落ちていた。
また一歩、前にでた。俺の再生能力はすでに足の感覚を取り戻した。意思に沿って足が動いたのだ。
「ぬぅりゃああああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
グレンを正眼に構えたまま、俺は目一杯のダッシュをした。
驚愕の表情をしたままのバハルは一歩も動かなかった。いや、動けなかったのだろう。それほどまで、あのブレスに全てを賭けていたに違いない。
グレンを前に突き出す。
グレンの先端はまるで吸い込まれるかのようにバハルの胸に突き刺さっていった。
グレンを通して、振動が伝わってくる。バハルの命の鼓動だ。
オレは手を目一杯回す。グレンがバハルの胸の中をグルリと周った。心臓の周りを破壊しつくすのだ。バハルの胸からブシュ! と血が吹き出す。
手に伝わる振動がどんどん弱まり、それが確かな手応えとして伝わった。
「俺の勝ちのようだな……」
バハルの目の周りには血が滲み、顔中の穴という穴から血が吹き出す。
「こ、この下等種がぁ……」
俺はグレンから手を離した。グレンは心臓から充分に血を吸い上げ、そろそろ食事も終わる頃だ。
俺は俺でやらねばならないことがある。それは……。
「……、ニュ、ニュートの剣がバハルを貫いたーーーーーッッッ!!!」
「凄まじい執念です! まさか、あのブレスを耐え抜き、そして、反撃までしてみせるとは……。私はニュートの戦力を大幅に間違えていましたッ! まさか、伝説の竜、神竜、破壊竜と呼ばれたバハルを上回るとは……、あり得ませんッッッ!!!」
「ん? ニュートが大きく口を開きました! こ、これは一体……、ッ! な、なんと! ニュートが、バハルの顔に噛みつきましたッッッ!!! い、いやッ! ニュートの口が大きく変化していきますッ! これは、の、飲み込むのかッ!」
「こ、これは……、バハルの能力を奪い取る気ですッ! 彼ら、蛇人族は獲物を喰って、その能力や思考パターンなど様々なものを奪うと聞いたことがありますッ! まさにその瞬間を見ることができるとはッ!」
ニュートは口をどんどん大きく開いていく。
ニュートはすでにバハルの頭部を飲み込んでおり、さらに齧り付くように肩口も口内へ入れていく。
その凄惨な食事を邪魔する者は誰もいないのであった。あの解説者達でさえも絶句して口を開けたまま、何も発することすら出来ないでいるのだった。
0
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる