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第9章 勇者RENの冒険
第144話 一回戦第三試合 悪魔族代表 イヴリス VS 死の国代表 ジーク
しおりを挟む「会場の皆様、お待たせいたしました! 会場の整備が終わりました!」
解説者リサの声が元気に響く。会場からは毒だらけになってしまった第一試合の会場を元に戻すべく、50人もの天使が修復魔法と毒の中和魔法を使用していた。そのおかげもあり、1時間ほどで大会が引き続きが行われる運びとなったようだ。
「東の方角! 悪魔界の女王! イヴリスの入場!」
イヴリスは投げキッスをしながら天使達にウィンクをしていた。花道の途中で止まってはグラビア嬢のような決めポーズをとり、サービスしまくっている。
***
「一体何をしているんだ? あの女は?」
正直な感想が思わず口から漏れてしまった。だが、優勝候補とも言われていた悪魔の女王の実力を見ることが出来るいい機会だ。じっくりと拝ませてもらおう。だが、一つ気になることがある……。
「おい、いつまでそこにいるつもりだ?」
部屋の隅の天井、そこに一匹のコウモリが逆さになってぶらさがっている。当然ながらここは天界なのだ。普通のコウモリなんて存在しているわけがない。
「なぁーんだ、バレてたのか。しょうがない……」
コウモリが口を開くと人の声が聞こえてきた。そして、俺のそばに飛んでくると、そのコウモリが数十匹にも数を増やし、黒い塊を形作っていく。
やがて、コウモリが黒い物体に吸収されるように消えていくと、その黒い物体が色を取り戻し、ヴァンパイアのキュイジーヌが現れるのであった。黄金の長い髪。整った美貌。口を開くと見える八重歯。間違いなくキュイジーヌ本人である。
「まったく、ヒドいよ! REN君! 君に目を付けたのはボクのほうが先だったのに! あんな悪魔にキスされてデレデレしちゃってさ!」
キュイジーヌは頬を膨らませて腰を曲げて俺に顔を近づけ、謂れの無い文句を言い始めた。
「あれはいきなりだったんだ。仕方が無いだろう? それにデレデレなんてしてない」
「うっそだー! 顔が蕩けてたよ? 言っておくけどね? 悪魔にほだされちゃダメだよ? いつか身を滅ぼされるんだからね?」
「ほぅ、詳しいのか? 良かったらアイツについて教えてほしいものだが……」
「え? ボクが知ってるのは他の悪魔達だから……、キュイジーヌのことは聞いたことしかないんだ。だから教えれるほどのことはないんだけど……」
「それでも構わんさ。知っていることがあるなら教えてくれないか?」
「しょーがないなぁ。大サービスだよ?」
腕組みをした上に大きな胸が乗っかり、とても扇情的なポーズをわざわざ作りながら、俺にアピールするように見せつけてくる。
こいつもイヴリスと考えていることは同じか。全く、何を考えていることやら……。
「イヴリスはね、現存している最古の悪魔って言われてるんだ。ポイントはね、長生きしていればそれだけ保有できる魔力も増えていることが多い傾向がある、ということなんだ。それだけでも脅威といえるだろうね。ボクが知ってる悪魔は30000歳だけど保有する魔力量は、もう……とにかくとんでもない量だよ。極大魔法を連発で数十発討ってもまだMPが尽きないんだからね……、ボクなら悪魔とケンカなんて絶対にゴメンだね」
「ほぅ、なるほど……ということはイヴリスも保有する魔力は相当ある、と考えられるわけか」
「うん、ボクはまだ20000歳程度の若輩者だけど、ボクの父上よりもイヴリスは年上だって聞いてるよ。えっと父上が60000歳ぐらいだから……」
「なるほど、MPは相当量ある、ということか。ありがとう、参考になる」
「どういたしまして。とっていもこの程度しかボクがわかってることはないんだけどね」
キュイジーヌは片目をウィンクしながらペロッと下を出した。金髪の輝くロングヘアーと抜群のプロポーションを見せつけるよう決めポーズ付きだ。そして、上胸を殊更強調するように、胸の下で腕を組んで見せつけてくるのであった。
***
「さぁ、まさかの参戦となった大悪魔、イヴリスの姿が見えてきました!」
「イヴリスこそ悪魔の中の悪魔! さて、その推定年齢は……うがあああっっっ!!!」
「どうしました? ローファンさん?」
ローファンは首に手を当て、苦しみ出す。
「ローファンさん! 大丈夫ですか?」
「女性の年齢を言うのはダメよ? わかったかしら?」
イヴリスの声が実況席に届く。花道と実況席は相当離れているが、大悪魔に距離など関係なかった。
「はっ、はぁーーっ、はぁーーっ。た、大変失礼しました!」
ローファンがイヴリスを向いて頭を下げると、ようやく解放されるのだった。
「いきなりの凄い技でした! これだけ離れてる相手を触れもせずに呼吸困難にするなんて……」
「えぇ、イヴリスには様々な伝説があります! 先代の悪魔王を打ち破り、女王の座に着いたという伝説は天使界でも有名です! その他にも多種族の王達を葬り去ってきた逸話は数多くあります! どこまでが本当のことなのか? わからないことだらけですが、間違いなく言えるのは、彼女こそ優勝候補の筆頭である、ということです!」
「解説ありがとうございます! さぁ、イヴリスが舞台に立ちました! 続いては対戦相手の入場です」
「西の方角! 死の国代表リッチ! ジーク!!!」
「さぁ、ジークが見えて参りました! うわっと、無性に寒気がします! な、ななな、なんでしょうか? 震えが止まりません!」
「死の国代表、ジークですね。リッチというアンデッドの最高位に位置する種族となっております! えー、こちらは未確認情報なのですが、この闘いに参加したジークと双璧を為していたリッチのハーデスが先日から行方不明になっているとの情報が入っております。まぁ、あの誰も近づかない遺跡のダンジョンで大人しくしてるだけとは思いますがね。ハーデスなんて間違っても倒されるような相手ではないですから」
「そうですねぇ、ハーデスは有名ですからねぇ。近づく者は死あるのみ、ですから……。ただジークも有名だと思うんですよ。何と言っても、元勇者ですからね!」
「リサさんもご存じでしたか! そう、ジークは元々人間族の勇者だったんですね! それがいつしか、こんな恐ろしい男に変わり果ててしまい……、いやぁ、人生ってわからないですねぇ」
「ローファンさんはジークが得意としている魔法などはご存じないでしょうか?」
「ジークは何と言っても元勇者ということもあり、雷魔法、神聖魔法、そして、リッチになってから闇魔法を修めているようです。特に死霊を使役する魔法は得意みたいですよ!」
「死霊を使役ですって??? うぅ~~~っ、怖いですねぇ! さぁ、ジークも舞台に上がりました! 会場の天使達にアピールの投げキッスをしているイヴリス。対するジークはイヴリスからじっと目を離しません! 睨んでいます! 目が赤く光っていて怖いです!」
ジーク。元勇者か……。俺の使う雷魔法と神聖魔法に加え、闇魔法を使うのか……。しかし、モニターで見ているというのに、何だこの悪寒は……。
俺は震える身体を隣に座っているキュイジーヌにバレないよう、腕組みをして抑えながらじっと、闘いが始まるのを待つのであった。
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