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第9章 勇者RENの冒険

第135話 獣神の祝福

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 その頃、帝国では……

「お、王よっ、お気を確かに!」

 突然の試合終了、それも黒騎士は何もすることがないまま倒れてしまったのだ。その姿を見ていた王は口から泡を吹き出し、ガクッと項垂れるようにして気を失ってしまったのだ。

 お付きの近衛騎士が王の手足を抱え、寝室へ向かって運び出していく。

「こ、これから人間界は一体どうなってしまうのだ? やつら、魔物や魔族、亜人達に支配されてしまうとでもいうのか?」

 宰相は額に脂汗を浮かべながら頭を抱え込み、これからの行く末に頭を悩ませるのだった。



 一方、獣人国では……

「おおっ! さすがREN殿だ。人間族代表を瞬殺するとは!」

 ドルツは拳を握り込んで喜びを露わにした。

「さすが先生です! ザッツの得意技で勝ってくれるなんて!」

 リンは父であるドルツと、嬉しさのあまり抱き合って喜びを分かち合う。

 そして、その傍らでベッドに寝ていたザッツの寝顔も少し和らいだように微笑んでいるのだった。



 俺は控え室で手応えを感じていた。

 獣人であるザッツやリンは魔力で身体を強化したり、手から魔力を放出しての打撃が得意だった。以前の俺には適性がなかったため、彼らほど巧くは出来なかったのだ。

 今も試合に勝った高揚感と自分の力が増したことによる充実感で手が震えている。そして、この試合の前に会った獣人の神とのやり取りを思い出してしまう。



「勇者RENよ。このゴッズトーナメントに出場してくれること、嬉しく思っております」

 獣人の神は俺に一礼をしながら言った。

「俺は友人であるザッツを助けたい。それだけだ。アンタに協力するわけじゃない」

 俺はこの神が敵なのか味方なのか? 判断をつけられないでいた。

 味方のフリをしているだけかも知れない。今は闘いの前だ。警戒するに越したことはないのだ。

「だとしてもです。私の創造した獣人を助けてくださるのですから……」

「え? アナタが創った?」

「えぇ、獣人は私が創り出した生物です。私の子供達と言ってもいいでしょう。その子供達を助けるため、私にも少しばかりですが力をアナタに授けたいのです」

「力を授ける、だって?」

「はい、獣人族は魔力を使い身体を強化することが得意でして、レベルが上がっていけば絶招と呼ばれる必殺技を身につけることも出来るのです。その力をアナタにも授けたいと思うのですが……、私の祝福を授けるには、まず、私のことを信じて欲しいのです」

「ふむ、その必殺技というのは気になるが、出会ったばかりのアナタを信用しろと言われても……、それは無理な話だろう?」

「そこをどうかお願いしたいのです。私はそもそもこのゴッズトーナメントには反対の姿勢を貫いていました。ですが、昨今、次々と悪神達が葬られる事件があったのです」

「ほぅ……(間違いなくソウ達の仕業だろうな……)悪神がいなくなるのは問題ないのでは?」

「そうではありません。悪というものは世の中にはある程度ですが必要なことなのです。人間にとって敵がいなくなれば内乱が起き、人間同士で争い始めるように、外部に敵がいるというのは世の中のバランスを取るためにも必要なことなのです。それによって民は団結することが出来るのです。ですが、そのバランスが崩れてきてしまっているのです」

「人類の敵が減りすぎてきた……と?」

「はい……、情けない話ですが、我々神というものは信仰されて力を付けていきます。ですが、悪がいなくなれば、一時的に平和となり、その平和の中で人々は信仰を忘れてしまうのです。

 それが、私たちから悪伸を押さえつける力を奪い取ってしまうのです」

「すまないが、多少力が無くなったところで困ることなどあるのか?」

「えぇ、悪神達は今、強固に結束し、このゴッズトーナメントの開催までこぎ着けてしまいました。そして、世界中から選りすぐりの戦士達を集め、その優れた魂を集め、より強力な悪神を、悪神達を率いるほどの悪神王を生み出そうとしているのです」

「悪神の……王」

「はい、手遅れになってしまえばこの世界が闇に包まれてしまうでしょう」

「なるほど、願いを一つ叶えるというのは表向きのエサというわけか」

「はい、そういったエサを使い、民の欲望に火を付けたり、困っている民に優しいフリをして話を持ちかけたりして、戦士達が集まってしまいました。どうか、全ての者を撃破し、悪神の復活を止めて欲しいのです」

 獣人の神はそこまで言い終えると、深く礼をした。

「わかった。初対面のアナタを信用するなんて……、我ながらどうかしてるとは思うが、そんなヤバい奴が生み出されようとしているのならば止めなければならない……ということか」

「ありがとうございます。では、アナタに獣人の神の祝福を授けましょう。こちらへ近づいて膝をついて座っていただけませんか?」

 言われた通りに獣神に近づき、膝をついて礼を取った。

 獣神は手を俺の頭にかざし、なにやら魔力を俺に向かって流し始める。

(不思議な力だ……、以前にソウからも祝福はもらったが、何か、違う力が目覚めようとしているのだろうか?)

 俺の身体が白く光り出す。力が漲るように溢れ出してきたのだ。

「うおおおっ! こ、この湧き上がる力は!」

 これでアナタにも身体強化魔法の適性が備わるでしょう。トーナメントを勝ち抜く為に使って下さい」

「わかった。あと、聞きたいことがあるのだが……、ザッツにかけられたあの呪いだ。あれの解き方を知らないだろうか?」

「あの呪いは術者が生きている限り続きます。彼ら、蛇人族スネークマンは毒を呪いの域にまで高め上げた毒のスペシャリスト。私の力では呪いを解くことは出来ないのです」

「そうか……」

 残念だが仕方が無い。元よりあの蛇人族を討ち取るつもりだったのだ。計画に変更はない。

「では、お行き下さい。貴方に獣人達の信仰のあらんことを!」

 獣人の神は俺に力をくれて送り出してくれるのだった。

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