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第8章 聖教国にて
第113話 手引き
しおりを挟む王族を捕らえ、宰相も捕らえ、そろそろ大丈夫だろう、なんて考えていたのが間違っていた。
「よいかっ! 今こそ魔界へ攻め込み、我が聖教国の強さを思い知らせてやる時が来たのだ!」
この演説を行っているのは軍務大臣、ヴェーグナーである。彼は俺の知らぬ間に政権を握ってしまったようで、今や玉座に座っているそうだ。
俺は自分の失敗を悔やんでしまう。公爵が戻ってくれば、政権をヴェーグナーに渡す前にこの国ごと制圧出来たかも知れないのだ。だが、公爵が兵を引き連れてくる前に、この軍務大臣はすぐに動き始め、公爵が王都を去ってからわずか2日で王都の政権を握ってしまったのだ。
当然、公爵は王都に入ることが出来ず、王都の外に陣を張り、交渉を持ちかけている。だが、ヴェーグナーが応じる可能性は低いだろう。
俺は王都を囲む山に陣を張った公爵の元を訪れていた。
「これはソウ殿! よくいらっしゃった、と言いたい所なのだが……」
俺のことが兵士達にまで伝わっていたようであっさりと通してもらえたうえに、公爵自らお出迎えであった。
「すみません、このような時に……」
公爵はとてつもなく忙しいだろうに嫌な顔もせず対応してくれた。こちらが恐縮してしまいそうだ。
陣幕の中へ案内されると、簡易なテーブルとイスが用意してあり、そこへ案内された。しかも温かいお茶まで出てくる。
「いや、よくいらっしゃってくれた。して、どういったご用件ですかな?」
「公爵。軍務大臣であるヴェーグナー卿は王宮に兵を固めています。普通に攻めていては兵を多く失う可能性が高いかと思いましてね」
「うむ、じゃがワシは既に覚悟を決めておる。たとえ、謀反と言われようと魔界へ攻めるなぞ愚策の極み。そんなことをせんでも聖教国には豊富なダンジョン資源があるのじゃ。当分困ることなどなにもない。じゃがのぅ……」
「王族に続き、宰相まで行方不明となっているのに、何故、魔界を攻めるのでしょう? そこがずっと気になっているのですが……」
「あぁ、あ奴らにとって人間以外は家畜としか見ておらん。その差別主義こそが元凶となっておる」
「差別主義……」
「そうじゃ、この聖教国を建国した初代聖王は異界より訪れた者じゃったそうじゃ。並外れた魔法を駆使し、聖剣を使いこなし、亜人種を追い払ったという伝説が今も伝わっておる」
「なるほど、初代から人間以外は皆敵だと。そういう考え方なわけか」
「あぁ、じゃが、ワシはその考え方を改めるべきじゃと思っておってな。まぁそのおかげで先日は捕らえられてエラい目に会ったわけじゃがの」
皆が亜人を排斥している中、一人だけ反対を唱えるのは大変だっただろう。やはり、この国を託せるのは、公爵をおいて他にいない。
「公爵。お頼みしたことがあります。人払いをお願いできないでしょうか?」
「ほぅ、このタイミングでワシに頼みとな?」
公爵は渋い顔をしたが、俺の提案を聞き入れてくれるのだった。
***
(公爵視点)
ソウ君からの話は信じられないことばかりだった。だが、彼が手引きして城に入れると言う。無論、争わずに城に入る事が出来るにこしたことはないのだが、果たしてそんなことが可能なのだろうか?
「お父様、ソウ様のおっしゃっていたことは真実なのでしょうか? 私は間近にソウ様の魔法を見てきましたが……」
娘であるメティにはおおよそのことは伝えた。しかし、ソウ殿の話はあまりにも荒唐無稽すぎて、いきなり全てを信用するのは難しいだろう。現に、ソウ殿の圧倒的な魔法を間近に見たワシですら、半信半疑なのだ。
「にわかには信じがたいが、あの信じられないほどの魔法を使いこなすソウ殿のことだ。ここは信じていくしかあるまい。なぁに、ソウ殿に拾ってもらった命だ。彼を信用して話に乗ってみるのも悪くあるまい」
「それは、そうなのですが……」
「よし、では手筈通りに突撃していくぞ!」
約束の時間になった。城の門からは合図である煙が昇り、門の前で跳ね上がっていた吊り橋がゆっくりと降りてくるのが見えた。
ギ、ギ、ギと大きな音を立てて降りてくる橋の先に待ち構えるのは果たして地獄か天国か。
「全軍、城を目指し突撃!!!」
兵たちに一斉に指令をだした。とはいっても、争いは殆どないと説明を受けているため、突入するのは、わずかに300人程度でしかない。城を取り押さえるだけの最低限の人数だ。
ワシを先頭に、娘も馬に跨がり門へ向かって走って行く。
降りた吊り橋にはソウ殿の話通り、出迎えの者がいた。なんでも、異界から召喚された勇者だという。
その勇者は黄金の鎧を身に纏い、背丈ほどもある巨大な剣を背中に背負っていた。
「勇者REN殿とお見受けいたす。跳ね橋を降ろしていただき、感謝いたす!」
馬に跨がったまま、大声で話すと彼はニッコリと笑みを浮かべた。
「なぁに、ソウには世話になったからな。この国の立て直しくらい協力させてくれ!」
黄金の勇者は驚くことに我々の馬と併走できるほど早く走り、一緒についてきてくれた。
やがて、城の門が見えてくる。そこではまだ戦いが繰り広げられていた。だが、圧倒的な魔法と、打撃を放つ、二人の女性が敵の数をどんどん減らしていく。
「遅いぞ。予定に遅れが出ている。早く片づけろ!」
檄を飛ばす黄金の勇者に二人は不満そうな顔色を浮かべる。
「こっちは敵が多かったのよ! もぅ、人の気も知らないで!」
「そや! 城門押さえろって命令、あまりにもアバウトすぎん? こないに敵がぎょーさんおるなんて聞いてへんわ!」
二人は文句を言いながらも凄まじい勢いでヴェーグナーの兵を葬っていく。だが、まだ城門の前には数百騎の敵兵が待ち構えていた。
「どけどけ~! この聖剣の餌食になりたくないやつはとっととここから立ち去るがいい!」
黄金の勇者が聖剣に魔力を込め、天に向かって剣を振りかざす。すると、聖剣に稲妻が落ち、その稲妻を纏うように天高くその刃が伸びていく。
「こ、これほどの魔力! 城門の兵を一気に倒す気なのか?」
ワシが考えている以上にこの勇者の力というのは、凄まじかった。この聖剣とやらは1対1の剣ではなく、最早、攻城兵器といって差し支えないだろう。
その剣が振り下ろされた。
襲いかかってきていた敵兵達は、みるみるうちに黄色い稲妻に飲み込まれ、蒸発するように消え去っていったのだった。
「公爵! 先へ!」
ハッと気付くと、城門の前には敵はいなかった。勇者が立ち止まっていたワシに声をかけつつ、その剣でさらに城門そのものを切り裂いた。
ゴゴゴゴゴォォォォォ。と轟音を響かせながら城門は倒れるように開いた。
「あぁ、恩に着る! 勇者よ!」
ワシは城門で馬を降り、城の中へ駆けていくのであった。
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書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。
全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。
下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。
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