93 / 219
第7章 聖魔大戦編
第92話 聖戦
しおりを挟む「来たか!」
魔王レイは立ち上がりながら叫んだ。
その隣には目をつぶったままの市長と腕組みをしているエルガの姿があった。この広場には、精鋭しか連れてきていない。元々辺境の村に住んでいた者達と、エルガの腹心だけの総勢で100名にも満たない人数だ。だが、現魔王軍の総戦力と言って良い軍勢だった。
二人とも緊張の顔つきで、状況を聞いている。
「敵は勇者RENを先頭に2000。勇者の隣に魔術師タイプを二人、確認しております!」
「そうか……」
「妾と市長は勇者RENを迎え撃つ。エルガは予定通り、後方待機。そして……」
魔王レイは後ろに控えていた二人を見た。
「どうやら早速、僕たちの出番みたいだね!」
「フフッ、魔術師二人の相手、私達姉妹が請け負いましょう」
リズと霞の二人は全く緊張している様子もなく答えた。
ソウの強い推薦もあり、駆けつけてくれた二人。レイは強力な助っ人を頼もしくも思っていた。が、アルティメットハンターズのリーダー、リズも霞もソウを見る目が普通の目でない事はすぐに判った。リズは分かりやすい位だ。霞は外見上はさらっとしているがやはりソウに対する接し方が少し他の人とは違っている。
この戦争が終われば、二人とはライバルか……。やれやれ、旦那さまはモテ過ぎて困るのぅ。ま、妾はハーレムに入れてもらえればそれでいいのじゃが……。
複雑な気持ちを抑えつつ、今は指示を出さねばならない時なのだ。
「頼みます。リズ殿、霞殿は妾達と共に前線へ」
「では、行くぞ!」
「おおっ!」
皆の気持ちが一つになる。行こう、聖教国の野望を打ち砕く時が来たのだ。
***
以前、勇者RENと激突した平野まで魔王軍は進んだ。
地面は所々に抉れており、木々はなぎ倒されたまま、戦いの跡が色濃く残るこの場所に陣を取り、待つこと1時間。
勇者RENを先頭に侵略者達が到着する。
話し合いの余地はない。お互いの命運をかけた一戦がこれから始まるのだ。
「よいか! 皆の者! 勇者RENは妾と市長で相手をする。他の部隊をなんとしても後方へ逃がすでないぞ!」
「「「おおっっ!!」」」
わずか30名程度の魔王軍。それが、勇者を先頭に強力な魔術師二人、そして、精鋭の兵が2000だ。
数の上では圧倒的に少ない。だが、魔王に悲壮感はない。ここで決戦となることは予想出来ていたことなのだ。
遠くで勇者が剣を抜き、こちらへ向かって振り下ろした。その号令と共に大きな歓声が上がり、兵達が一斉に突撃してくる。
「全軍、突撃じゃ!」
魔王レイは手に持った杖を前方に振りかざした。魔王軍の精鋭達が走り出す。
「市長! 行くぞ!」
「はっ、先日の借り、返してみせましょうぞ!」
魔王レイは全力で先頭を走る勇者に向かって魔法で牽制を放った。
ファイヤーボールを立て続けに数発をお見舞いする。
「ぬるいぜっ!」
勇者は叫び声を上げると、火の玉を剣で切り裂き、走る勢いは全く衰えない。
瞬く間に勇者RENは目の前だ。ギラつく聖剣に魔力を纏わせ、聖剣から金色の光が放たれる。
「ぬりゃあああああっっっ!」
勇者からの挨拶代わりの一撃。それは強烈無比な上からの振り下ろしだ。魔力を帯びた剣はその刀身が何倍もの大きさに膨れ上がり、レイの頭上に襲いかかる。
「市長!」
「お任せ下され!」
市長は前に出ると、両腕にホーリーソードを出した。短く太い聖なる剣を交差させ、勇者の振り下ろしに真っ向からぶつかった。
市長の剣は見事に勇者の一撃を防ぎきることに成功した。
「ほぅ!」
勇者RENは感心の声を上げる。
市長の剣は攻撃の為の剣ではなかった。完全に相手の攻撃を防ぎきるための防御の剣だ。勇者の剣を通さないよう、分厚く創り出す。そのため、長くすることができず、短い。
「市長! でかした! これで、勇者REN、恐れるに足りずじゃ!」
レイは攻撃魔法を連続で放っていく。ファイヤーボールを多数放つと、勇者はそれを剣で切っていく。だが……、
「なっ!?」
勇者が驚きに目を見開いた。その頬には赤く線が走り、血がタラリと流れ落ちる。
「ファイアーボールの中に、ウィンドカッターを混ぜただと?」
勇者の顔がたちまち、赤く染まり、眉を寄せ、怒りに染まっていく。
「よくも、俺様の顔に傷をっ! 殺してやる、殺してやるぞぉ!!」
勇者はさらに魔力を剣に込め、振りかぶるのであった。
***
「あらあら? RENったら……、あんな大口を叩いていたくせに」
「いつも偉そーにしてるから、たまにはいい薬じゃん?」
チコとミウはRENが苦戦しているのを遠巻きに眺めているだけだった。
「助けには行かないのかい?」
ボクは声をかけてみた。が、チコは手のひらを上に、首を左右に振る。ミウはゲンナリした顔つきになった。
「あんな奴はほっとけばええんですよ。ウチらを戦力として数えておりませんでしょうし」
「そーだよ。なんであんな奴。やられちゃえばいいんだから!」
「フフフッ、助けにいくなら阻止しなければならない所でしたが……。手間が省けて助かりましたわ」
霞がボクの隣に並んだ。
「へぇ……、貴方たち……、なかなかやりそうな雰囲気じゃありませんこと?」
「私だってもう暴れたかったんだから、ちょーどいいじゃん?」
チコとミウは自分の闘う相手が現れたことに笑みをこぼした。
「ふーん、ボクはなんだかやる気でないけどね。キミ達……たいしたことなさそうだし」
「あら? 姉さん? じゃあ、二人とも譲ってくれるのかしら?」
「そ、それはダメだよ! ちゃんと彼に借りを作っておくんだから!」
「それは残念。じゃ、二人で相手しましょうか」
二人で会話していたら、チコとミウが体をフルフルと震わせていた。
「ウチらを前にして、随分と余裕に構えてくれましたなぁ?」
「アンタたちなんてすぐにケチョンケチョンなんだからね!」
ミウはロッドを両手に持ち、走り出してきた。
「はぁ……。じゃあ、やってやりますか」
ボクは刀をアイテム袋から取り出し、横薙ぎに振るう。
ミウのロッドと刀がぶつかり合い、火花を散らした。
「私のロッドは特別なんだから! そんな刀なんか!」
「へぇ……、ホントに固いや」
そのまま刀で数撃放つも、全てロッドで防がれる。
「なるほど、そのロッドの固さは大したモノだ。鍛冶師の人に会ってみたいものだね」
「余裕ぶれるのも今だけなんだからね!」
ミウはロッドに魔力を込め、ロッドをクロスさせるように構えるのだった。
10
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜
福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】
何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。
魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!?
これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。
スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜
出汁の素
ファンタジー
アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。
これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。
そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。
のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。
第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。
第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。
第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。
第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。
1章20話(除く閑話)予定です。
-------------------------------------------------------------
書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。
全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。
下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる