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第6章 アナザージャパン編

第72話 北へ

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「ご報告します! 大魔神様」

 密偵として走っていた鬼が俺の前に跪き、頭を垂れる。

「うん、どうだ? 何かわかったか?」

「はい、どうやら、北に棲む妖怪が絡んでいるとの情報を受け、偵察しました所、北の山奥に棲むという竜神が関わっているようです」

「おお、でかした! 早かったじゃないか!」

「はっ、恐悦でございます!」

 北に棲む、竜神か。西洋のドラゴンとは違う、日本の竜。二本脚で歩くのではなく、空を飛び回るのだろうか。会ってみないことにはなんともいえないな。

「よし、では早速、その竜に会いに行ってくる!」

「ははっ! 恐れながら、大魔神様」

 密偵はその場に座ったまま、さらに申し述べる。

「私を連れて行ってくださいませんか? 必ずお役に立ってみせます!」

 密偵から帰ったばかりというのに、気概のある奴だ。

「よし、わかった。お前の名前は?」

「はっ、大牙たいがと申します」

「わかった、大牙、すぐに出発するぞ。いいな!」

「はっ!」

 俺はコンと大牙を引き連れ、北へ向かうことになった。



   *


 大牙は走るスピードも速く、密偵を永いことやっていたこともあり、案内役にはこの上ない男だった。

「へぇ、すると大牙は密偵をもう二十年以上やってきたのか!」

「はい。前の大王はそれ以外の事をやらせたくなかったのでしょう」

 あー、なんとなくわかる。あの大王は基本的に自分が一番じゃないと気が済まないタイプだ。部下が強くなるのは構わないが、強くなりすぎるのは問題視したことだろう。だから部署異動は最低限。色々なことをやらせず、経験をつませない。そうすれば、自分より強い者が現れにくいはずだからな。

「それで、大牙は俺に何を望むんだ? 何も考えずに申し出たわけじゃないんだろう?」

「はっ、もしお許しいただけるなら、竜神との闘いを見たいのです。そして、自分が強くなる為の参考とさせて頂きたいのです!」

 根が真面目なタイプなのだろう。顔が真剣だ。だが、見てるだけて強くなれるのなら苦労はない。

「うーむ、大牙はレベルいくつなんだ?」

「はっ、今は600位であります」

「ふむむ……」

 どうしよう……、思ってたよりもずっと弱いな。もしかして、あの鬼族達って見かけほどレベル高くないのかな?

「600じゃ物足りないだろう? もし、レベル上げのチャンスがあったら参加しないか? ま、俺としては大牙にまずは強くなってもらいたいんだ」

「よろしいのですか? 私なんかが……」

「あぁ、勿論だ。だけど、手は抜かない。厳しい訓練になるだろう。それでもいいか?」

「勿論であります! 今よりも強くなれるのであれば、なんでもします!」

 大牙ってホントに真面目で堅いタイプなんだな。もう少し砕けて話してくれても構わんのだけど……、まぁ、チャンスを待つとするか。

 そんな話をしていると、遠くに山が見えてきた。連峰がそびえる高い山だ。山頂は雪で覆われ、中腹から緑が広がっている。標高でいうと恐らくだが、3000メル級といったところか?

「あの山々の間に大きな湖があるのです。そこに棲まう竜がどうやら、人間界に兵を送り込んでいたのです」

「そうか。でもどうしてわかったんだ?」

「はっ、あの山々は元々、私の偵察任務の担当場所だったのです。ですから長期間潜伏しておりましたし、実際にブラックゲートから送り出している所をしかと確認しております」

「ん? それって大王に報告はしてあったのか?」

「はっ、あの竜は他の部族を拉致し、洗脳しては送り込んでおりました。鬼族も多数の犠牲が出ておりました。しかし、対応はしていただけませんでした。悔しい思いをしていた者も多数いたのですが……」

「そうか。大変だったな。ってか、あの大王の野郎。知ってやがってウソつきやがって。まぁいい。よく教えてくれた!」

 そうこう話しているうちに山の麓まで到着した。

 だが、山の入り口には大軍が待ち構えていた。

 その大軍の前には竜の頭部を持つ大男が壇上に立っている。大軍は完全に武装しており、これから戦いにいく前の様相だ。

 森に身を隠していると、竜の頭部を持つ大男が何やら大声で話し始めた。

「よいか、皆の者! ついに異世界を征服する時がきた! もうじき、我らを迎えるゲートが開く! それと供に我らが異世界の覇者として君臨するのだ!」

 歓声が沸き起こり、辺りの森がビリビリと震えるほどの音量に包まれた。

「見よ! 異世界では弱き人間という種族が栄華を誇っている。奴らを蹂躙し、豊かな大地を我らが奪い取るのだ!」

 小さな黒い霧が現れると、そこには人間達が暮らしている姿が映し出される。

 それを血走った目で憎むように見つめる軍勢たち。

「大牙、この世界はそんなに飢えているのか?」

「我らが、鬼族の土地はそんなことはないでしょう。ですが、北の大地は冬が長いのです。あの竜族は水竜ですから水が清くないと生きられませんので……」

「なるほど、綺麗な水と食料の確保という難題があるのか……。だが、人間界に攻め込むのはいただけないな。止めなければ」

 俺は口の前に風魔法を使い、簡単な拡声器を創る。

「そこまでだ! おい、お前等! もし異世界へ行くというのなら、俺を倒してから行くがいい!」

 一気に衆目が集まる。ただでさえ、武器を持ち、殺気立っていた軍なのだ。目の前にいた兵から次々と襲いかかってくるのであった。


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