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第6章 アナザージャパン編
第70話 アルティメット・バーリトゥード
しおりを挟むズンッッッ!!!
大王のハイキックが飛んでくる。俺もまたハイキックを打っていた。
お互いのキックが宙でぶつかり合う。そして、お互いの残った足が地面の石を割った。
この一撃を打ち合っただけで、俺にはわかった。この大王の実力はフェイクじゃない。俺の骨に響く振動は本物の武道家の証。ならば……、
残像を多数残し、奴の周りを取り囲んでいく。
「ほぅ、これほどの残像。初めて見る。だが……」
大王は口角を上げると、振り向きもせず、後ろに蹴りを放ってきた。
かろうじてガードが間に合ったが、ガードごと吹き飛ばされ、闘技場に転がってしまう。
「フッ、ワシに子供だましは通用せぬ。本気で来い!」
観客も大盛り上がりで、大王コールまで起き始めた。
だ~い、おう! だ~い、おう! だ~い、おう!
「全く、大した人気ぶりだよ」
今のは危なかった。攻撃の態勢に入ってしまったので、相手のカウンターを躱しきれなかった。なるほど、不敗を名乗るだけある。
大王は俺が立ち上がるのを待っていた。追撃をしてこない所を見ると、俺にダメージがないことをわかってるのか。
全く、なんて奴だ。これほどワクワクする闘いはエルガ以来か。あいつも鬼神って呼ばれてたな。ま、鬼といってもオーガと日本の鬼はどこか違うようだが……。
立ち上がると、今度は大王から仕掛けてきた。
腹への回し蹴りだが、躱すとすぐに回転し、次の蹴りを放ってくる。鮮やかで素早い回転はつけいるスキを与えない。次々に回転しながらの蹴りが放たれる。
「む? なんだ、これは……」
躱したつもりのローキックだが、俺の脚がふらついた。
「グッハッハ! そこだ!」
続けざまに放たれるハイキックを何とか腕で防いだが、十メル近くも吹き飛ばされ、また闘技場を転がってしまった。
あのローキック……、風魔法を纏わせて、俺の脚の自由を奪ったのか。
「どうした? 大魔神よ。魔族の代表なのだろう? もっと楽しませろ」
会場は歓声で大盛り上がり。大王の人気ぶりは凄まじいものがあった。
「ワンワンッ!!」
コンが遠くで吠えているのか。すまないな。醜態を晒してしまった。
ゆっくりと立ち上がる。大王はどうせ追撃は打ってこないのだ。観客への魅せ方というものすら巧いのだ。本当に嫌になる。
大王はすぐに間合いを詰め、今度はパンチを連続で打ってきた。
一発一発を躱すことは造作もない。後ろに下がりつつ躱していく。すると大王はパンチと見せかけて、俺の腕を掴み、風魔法を至近距離で打ち込んできた。もちろん、即座の魔法のため、威力はない。だが、俺の動きを一瞬止めるには充分なものだ。
「くっ! またか!」
今度は俺の腹に大王の渾身のパンチが突き刺さった。
「ぐあああっっっ!」
体がくの字に折れ曲がり、俺は二十メル以上も吹き飛ばされた。
腹に穴が空くんじゃないかと思えるほどの衝撃だ。
これで三度、地を這わされた。
全く、やってくれるものだ。
俺は自分にヒールをかけた。腹の痛みもすぐになくなり、すぐに立ち上がる。
大王はすでに勝ったつもりなのか、余裕の笑みを浮かべていた。
「どうした? ワシの攻撃に手も足も出ないか?」
「いいや、アンタが武器を使わないで、素手なものだから、俺まで素手で付き合っちまった。だけど、風魔法を織り交ぜるんだもんな。ずるいじゃないか」
「グッハッハ、何を言うかと思えば……。武器などいくらでも使えば良い。魔法も無制限。アイテムの使用も無制限。これぞ、黄泉の国名物! アルティメット・バーリトゥードよ!」
凄まじい歓声だな。耳がおかしくなりそうだよ。だが、言質はとった。
「何でもありなんだな……。後悔するなよ?」
「ワシが後悔じゃと? グワァハッハッハッハ! 面白い冗談だ!」
俺はアイテム袋から特製のポーションを五本取り出した。そして、頭の上から被っていく。
「ぬ? 体力回復ポーションか? いいぞ! いくらでも使うが良い! そしてワシを楽しませろ!」
このバトルジャンキーめ。今使ったのは、攻撃アップ、防御アップ、素早さアップ、魔法攻撃アップ、魔法防御アップのポーションだ。
リーダーに教わってから、自分で創っておいたのだ。
そして、リーダーから譲り受けた刀を取り出す。この刀も譲り受けた後に、自分の錬金術を用いて、俺が使いやすいようにチューンしたのだ。神聖魔法の魔力をほぼ無制限に取り込めるようにね。
よし、準備は整った。
手に魔力を込め、トルネードカッターを唱える。
「むぅ! なかなかいい魔法だ! だが! ワシの拳で打ち破ってやるわ!」
大王がトルネードカッターに渾身のパンチを放つ。俺の魔法と大王のパンチが激突し、闘技場を覆う結界が割れ始める。
「ぐっ、ぐおおおおおっっっ!!!」
大王は自らのパンチでトルネードを上空へ弾き返した。
「遅かったな。これで終わりだ」
大王の背後に回り込んだ俺はその無防備な背中に刀を振り下ろした。
「ぐあああああっっっ!!!」
絶叫を挙げ、倒れる大王。一瞬でこと切れたボスを見て、観客席は静まりかえった。
「ふぅ、全く。世話のやける奴だ。リザレクション!」
時が巻き戻るように大王の傷が塞がり、意識を取り戻す。
「はっ、ワ、ワシは、一体……」
「俺が生き返らせたんだ。体の傷も治ってるだろ?」
「ぬぅ、面妖な術を使いおって! ワシが貴様に負けるはずがないじゃろうが!!!」
大王は顔を真っ赤にして怒りだした。
あ~あ、人の話を全く聞きやしないのか。これは少し、お灸を据えてやる必要がありそうだな。
「ワンワンッ!」
コンもやってしまえ、と言ってるし。
俺は再度、大王を地に這わせるべく、闘い始めるのであった。
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