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第5章 巨獣人の里編

第61話 黒い霧の行き先

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「くっ、9900を超えてからがキツいな……」

 刀術、闇魔法、風魔法、鑑定術のレベルは9980を超えている。が、すでに作業に入ってから一週間も経過していたのだ。

 数千回にも及ぶ闘いは、精神がすり減り、頭がぼーっとする。

「ソウ君。まだ、大丈夫か? さすがの僕も疲れが溜まっているようだ……。あぁ、幻が見える……」

「リーダー! あと少しじゃないですか! 俺も……限界近いですが……、何としても……、何としても! レベルを上げきりますよ!」

「ふっ、さすがだな。ソウ君。君は変わらない。その真っ直ぐな姿勢、想い、スタイル。どれをとってもブレないな」

「それは、リーダーも同じじゃないですか! リーダーの熱い想い。伝わりましたよ! この刀からも……。リーダーのアイテムからも……、そしてリーダーの行動からも!」

「あぁ、ありがとう……。僕は幸せ者だ。こんなに理解してくれる人がいる。それがこんなに嬉しいなんて……」

「リーダー……。あと少しじゃないですか! 頑張りましょう!」

「あぁ!」

 そんなことを話した後、俺とリーダーの間に会話はなかった。

 想いは十分に伝わり合ったのだ!

 ならば、目標に向かって突き進むのみ!

 ドランは口から舌を伸ばし、泡を吹いたままだ。もうリザレクションで生き返らそうが、攻撃しようが、指一つ動かない。まるで案山子かかしだ。

 それにも関わらず、これだけキツいとはな。あぁ、少しでも目を閉じれば寝てしまいそうだ!

 周回という己との闘いはそれほどに強敵なのだ。

 パンパンッと自分の頬を叩き、気合いを入れ直す。

 リーダーも自分の頬をつねっていた。

 そして、最後の仕上げ周回へ突入していくのだった。



「やった! 俺のレベル。カンストしたぞぉ!」

「お? おめでとう! ソウ君! やったじゃないか!」

「リーダーはレベルどうです? あとどれくらいですか?」

「ふむ、僕も神聖、闇、風はあと1上がればカンストだ」

「じゃ、あと少しですね! リザレクションは任せてください!」

「あぁ、最後まで付き合ってくれ!」

「もちろんですよ!」



 そして、レベル上げ周回に入って二週間後。

「あぁ、終わった! 全てのレベルが上がりきったよ」

「おめでとうございます! リーダー!」

 俺たちは抱き合った。

「リーダー、泣いてるじゃないですか」

「そういうソウくんこそ。顔がぐしゃぐしゃだ」

 お互いの健闘を称え、二人、涙を流す。

 リーダーの体は温かく俺を包んでくれた。

「あ、コイツ、一応なんですけれど大神なんで魂がのこっちゃうんですよね。ターンアンデッド!」

 闇色の霧が晴れていく。

 ドランの魂が浄化されていくが、何も言わない。すでに精神もすり切れていたんだろう。

「終わったんだな」

「えぇ、終わりましたとも!」

「僕の家に来ないか? とりあえず……、寝よう!」

「はいっ! リーダー!」

 俺たちはフラフラになりながらも、久しぶりの洞窟へ帰還するのであった。



   *



 あの激闘から一週間が経った。俺は順調に錬金術と鍛冶術のレベル上げにいそしんでいた。

 鑑定術のレベルは9999まで上がっていたおかげもあり、マッピングの魔法と併せて、どこに何の素材があるのか、まるわかりなのだ。

 素材集めがすんなりと進むおかげで、錬金と鍛冶は瞬く間にレベルが上がっていく。

「どうやら、もう教えることがなさそうだね」

 リーダーの顔が少しさみしそうだ。

「そんなことないですよ! リーダーのおかげでここまで来れたんですから!」

「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどね」

 リーダーは今、洞窟の皆を引き連れ、村人全体のレベル上げをしていた。巨獣人の脅威は去った。しかし、この世界の森には巨大昆虫や巨大な動物がひしめく危険な世界。死なないためにはレベルをあげるしかないのだ。

 俺が、錬金術と鍛冶術のレベルを上げきるにはまだ時間がかかる。それと平行して、俺は元いた世界に帰るための手段を考えていた。

 以前に黒い霧を魔神が発生させていたのだ。もちろん膨大な魔力が必要なのは間違いないが、魔神に出来て俺に出来ないことはないだろう。

 それに、村長が使っていた小さな黒い霧で会話する魔法の存在もある。あの魔法はすでに習得済みだ。

 しかし、異世界間を繋げるほどの力はない。声と映像だけを同じ世界に飛ばすのが精一杯なのだ。

「なんとかあの大きな黒い霧を発生させなければ……」

 俺は闇魔法と錬金術を掛け合わせる研究に没頭するのであった。



 そして、二ヶ月後。

「やった! ついにあの黒い霧を出すことが出来た! これで帰れる???……のかな……」

 大きな黒い霧は目の前にある。だが、これがどこに繋がっているのか、それがわからない。

 以前に繋げた時は全く同じ構成にするだけだった。しかし今は出発地点からよくわかっていないのだ。

 どうやって、今いる場所と行き着く場所を指定するのか? こればっかりはトライ&エラーを繰り返すしかないのだろうが……。

「いきなり人体実験するしかないとは……」

 うぅむ。考えてしまう。果たして上手くいってるのか? こんな危険なモノにリーダーを巻き込むワケにもいかない。

 よって、自分で確かめるしかない。

「うん、しょうがない。諦めて突っ込んでみるか!」

 俺はリーダーに置き手紙をしたためた。

「親愛なるリーダー、リズ様へ。異世界間を移動する黒い霧を発生させることに成功しました。しかし、上手く機能するか検証するため、とりあえず、突っ込んでみます。上手くいったら、霞さんのいる世界にいきましょう! ではでは~~~」

 よし、じゃ行ってみるか! 黒い霧の中へ突入だ!



   *



 澄んだ青空。立ち並ぶビル群。熱い太陽。

 どこからどう見ても、ここは日本だな。

 ってか、帰れるのかよ!!!

 異世界の神が迎えに来たんじゃなかったのか? 俺の命が溢れたとかなんとか言ってたのに……。

 幸い、俺の服装は日本にいたときから変わっていない。つまりスーツ姿だ。

 何の違和感もなく歩けるわけだが……。

 久しぶりに歩く日本。それも東京。ここは間違いなく江戸川区平井の商店街だ。昼間だが人通りが絶え間なく続いている。

 ふと牛丼屋のマークが目に入った。

「あぁ、牛丼か……。長いこと食べてないなぁ」

 俺の数少ない持ち物の中に財布があったはずだ。えーと……、

 リーダーから譲り受けたアイテムバッグは日本でもしっかり機能した。

 お? あったあった。財布の中には少しばかりの現金が入っている。

「よし! 久しぶりに牛丼だ!」

 俺は吉田屋へ意気揚々と繰り出すのであった。



「ふぅ~、食った食った! 異世界に行ってからろくなの食べてないからな。思わず特盛り、玉子に味噌汁まで飲んじゃったよ」

 こんなに注文したのはホントに久しぶり。贅沢な注文だ。

 腹ごしらえも終わった所で、ふと目に入ったのは宝くじ。

 うーむ、もしかして……、鑑定術が使えたりするのかな?

 密かに鑑定をかける。店の中に置いてある、スクラッチくじだ。

 おっ? マジか! 当たりが丸わかりだ!

 俺はさっさとくじを買い、現金を増やしたのであった。


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