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第2章 蠱毒の頂

第7話  訓練と褒美

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 琰単えんたんが帰ったあと、翠蓮すいれんは何事もなかったかのように寝台から身を起こした。同時に渓青けいせいが見計らっていたかのごとく、湯盥ゆだらいを持って入ってくる。

「……笑み一つであそこまで取り乱すとは、男とはなんとも単純な生き物ですね」

 皮肉るようにも、そして自嘲するようにもとれる笑みを浮かべて言った渓青に、翠蓮は問うた。

「……そういう渓青はどうなのですか?」
「……私は宦官ですから」

 男ではないと暗に言う渓青に翠蓮は嘆息した。渓青ももう少し嫉妬したり動揺したりしてくれればいいのに、と翠蓮は内心歯痒く思う。
 久しぶりに渓青に抱きかかえられて脚を大きく開いても、渓青は顔色ひとつ変えずにいつもどおり掻き出そうとする。

「……貴方は変わりませんね」
「翠蓮様は……お変わりになられましたね」

 そう言いながら渓青は、琰単のものを掻き出していた手にぐっと力を込めた。

「……っ! なにを……っ」
「お気づきですか?」
「…………?」

 訝しげな表情を浮かべた翠蓮に、渓青はにやりと笑って言う。

「一般的に女性は出産すると、まあ……有り体に言えばここが緩くなります」
「……っ!」

 言うと同時にぐりっと中を引っかかれて、翠蓮は羞恥と快感に顔を赤くした。

「赤子の頭が通っていくのですから致し方ありません。翠蓮様はもともと『鍛えて』いましたので多少はましですが、それでも身籠られてから今日まで特別に訓練はしていませんでしたから、出産を経て、だいぶ『変わって』しまっています」

 渓青の言葉に翠蓮は顔を引きつらせる。

「もしかして……アレをまた……?」
「ご名答です」

 嫌そうな顔をした翠蓮に渓青はにっこりと笑って言った。

「今日は皇上陛下も必死でしたし、かなり久しぶりでしたのでお気づきにならなかったかもしれませんが……回数を重ねれば気づかれるでしょうね。そして……緩ければ、十中八九、徐々に飽きてくるでしょう」

 渓青の言葉は身も蓋もなかったが、それはおそらく真実だった。今は子が生まれてのぼせあがり、笑み一つで左右されているが、琰単の思考は下半身と直結している。仕方なしに翠蓮はため息をついて言った。

「渓青……お願い」
「御意に」

 潤滑剤の助けを借りているとはいえ、渓青の指二本ならば、なんの抵抗もなく飲み込める。そこまでは翠蓮も分かっていた。

「……実感されてみますか?」
「…………?」

 すでに翠蓮のそこには渓青の右手の人差し指と中指が挿し込まれていたのだが、渓青はさらに左手も伸ばした。

「なに、を……っ!」
「ほら、こちらも入ってしまいました」
「……っ!」

 それは衝撃的な光景だった。右手と左手の人差し指と中指……つまり、四本の指で秘裂を大きく開かれ、中からはとろりと潤滑剤と琰単のものがこぼれ落ちていく。

「わかっ、わかりました、から……っ!」

 翠蓮は恥ずかしさのあまり右手で顔を覆い、左手で渓青の腕を掴んでそれを止めさせようとする。やがて、そこが拡がっていた感覚がなくなり、もとのとおり右手の指だけが中に収められた。
 今はこうして渓青の指二本を隙間なく感じられるのに、あんなに拡がってしまうだなんて、翠蓮は自分でも信じられなかった。

「……二本入っているのは感じ取れますね?」
「……はい」
「では、以前と同じように大きく息を吸って力を入れて……」
「んっ……」
「吐いて、緩めて……」
「……っ、ふ……」
「また吸って……」
「……ん、んっ……」
「はい、ではこれを二十回ずつ三回繰り返してください」
「…………‼︎」

 初日からかなりの回数の鍛錬を課された翠蓮は恨めしげに渓青を見上げたが、渓青は「教師」の仮面を貼り付けたままどこ吹く風だ。
 確かにこの鍛錬が一番効果的なことは翠蓮も今までの経験から痛いほどに理解していた。ただし、この方法は違う意味でも「効いて」しまうのだ。

 渓青の指を咥えこんだまま四十回目の息を吐き終えて、翠蓮は切なげに渓青を見つめた。

「渓青っ、渓、青……っ」
「……あと二十回、頑張ったらご褒美をさしあげますから」
「……ん……っ」

 その言葉に促されて、翠蓮はふたたび息を吐き、吸いはじめる。体の中では熱が渦を巻いて、出口を求めて荒れ狂っていた。挿し込まれた渓青の指はずっと翠蓮を狂わせる場所に当たっている。
 それを自分の意思で締めつけたり緩めたりを繰り返すこの鍛錬は、自分で自分を追い詰めるのに等しかった。

 最後の息を吐き終えた翠蓮は、矢も盾もたまらずに渓青の袖を握りしめた。

「……渓、せっ……!」
「お疲れさまでした」

 事務的にそう言って、指さえ引き抜こうとする渓青を、翠蓮は必死でとどめようとした。体の向きを変えて渓青を寝台に押し倒し、その上に馬乗りになる。胸を痛いくらいに押しつけ、腰を揺らして硬い太腿に秘部を擦りつけた。

「お願いっ……もっと……っ」

 ふう、とため息をつき渓青は手を伸ばして寝台の棚から狎具こうぐの入った箱を取り出した。それを見て、翠蓮の中にはある種の安堵のような感情が広がる。

「……今日は特別ですよ。本来、訓練のことを思えば、これを使うのは好ましくないのですから」
「……っ! ……それじゃないと、いや……っ」
「……ああ、そう言えばこちらを使うという手がありましたね」

 そう言って渓青はするりと翠蓮の臀部でんぶを撫でた。その手はそのまま下へとさがっていき、渓青にさえ触らせたことのないすぼまりに到達したとき、翠蓮はさすがに体をびくりと震わせて顔をあげた。

「……嘘……っ……そんなところ……」
「嘘ではありませんよ。男色ではこちらを使いますし、女性でも慣れれば気持ち良いそうです」

 渓青がくにくにと後孔を揉むのに、翠蓮は体を捩らせ、ごくりと唾を飲んだ。渓青の指は前だけでも翠蓮をあっという間に狂わせるのだ。後ろまで暴かれてしまったら、翠蓮の体は渓青の前にはあますところなくさらけ出されてしまう。

 それはおそれでもあり――そしてかすかな期待でもあった。

 そんな恥部まで渓青に委ね、体のすべてを預けるという依存が、心地よくもあった。どんな浅ましい姿を晒しても、渓青ならば快楽と羞恥へと変換して、翠蓮の想像を遥かに超えた悦楽へと導いてくれるという絶対的な安心感。

 四六時中「演技」をつづけている翠蓮にとって、その時だけが素の自分を解放できるひとときだった。


「残念ながらこちらは準備が必要ですから、また今度にしましょう。陛下は種付けに必死でここは使わないと思いますから、慣れたらいままでのように陛下にはばかることなく存分にお楽しみいただけますよ」

 渓青の言葉に翠蓮はごくりと唾を飲んだ。今でも十分に渓青の手管に翻弄されている自覚がある翠蓮だ。というか、いままではこれでも気をつかって「手加減」されていたのかとおののく。
 琰単になに一つ遠慮することなく、渓青に思いきり溺れられる箇所があるのだとしたら――すでに翠蓮の頭の中から「拒否」の文字は消えていた。

「さあ、さきほど頑張られたご褒美をさしあげます。このまま膝立ちになってください」
「……?」

 翠蓮は渓青の言うがままに体を起こすと、渓青の腰を跨いで膝立ちになった。すると渓青が腰に手を添えて、もっと前に、と言う。
 膝でにじり寄り、渓青の胸の横あたりまで脚をすすめた翠蓮は、さすがにそこで止まった。これ以上前に進んでしまったら――渓青の眼前に秘部を突きだす形になってしまうからだ。

 それに対して渓青は小さく笑い、翠蓮の腿の下に両手を通すと腰をぐっと抱える。翠蓮は前のめりになって体勢を崩してしまい、慌てて寝台の壁に手をついて体を支えた。

「なにを……っ」
「ああ、これでちょうどいいですね」

 そう言うなり渓青はぺろりと翠蓮の秘裂を舐めた。

「ん、んっ!」

 渓青の熱い舌が、まだ包皮をかぶったままの陰核にまとわりつく。後宮にいるときは陰毛はすべて処理してしまわなければならず、翠蓮のそこを渓青の舌から守ってくれるものはなにもない。

 ぬめぬめとした舌が陰唇を絡めとり、柔らかく食む。たったそれだけで翠蓮は体の中が痺れて、とろりと愛液が滴るのを感じた。渓青はしばらく包皮の上から陰核を啄んでいたが、やがてそこに吸いつき、口の中で器用に皮を剥く。

「渓、青っ……ん、ああっ!」

 ぴりぴりとした刺激が翠蓮の体を駆けぬける。渓青は舌でぐるりと剥き出しにした陰核を舐めまわし、きつく吸い上げた。翠蓮は膝ががくがくと震えて、片手を寝台の壁につき、もう片手で渓青の頭を抱える。

 渓青の歯で摘まれた陰核は完全に充血しきっている。そこを舌先でちろちろとくすぐられ、翠蓮は白旗をあげた。

「渓青っ……それ、だめぇ……っ!」

 翠蓮が悲鳴をあげると、渓青の顔がすっと離れる。翠蓮は助かったという気持ちよりも、それを訝しく思った。いつもの渓青は、翠蓮が制止を訴えたところでそれを素直に聞き入れるほど優しくないのだ。

「お気に召さないようでしたので」

 思わず下を見ると、渓青はそう言って人の悪い笑みを浮かべていた。そしてねぶられてぐっちょりと濡れた肉芽にふっと息が吹きかけられる。翠蓮はそれだけでもびくりと反応した。

「このまま息を吹きつづけてみましょうか」
「そんっ、な……っ」

 小さく断続的なこの刺激だけではかえって辛いことは分かっているだろうに、そんなことを言う。翠蓮は思わず首をふるふると振った。

「それだけでは分かりませんよ。きちんと口で仰ってください」

 渓青の魂胆を悟って、翠蓮は顔に熱が集まった。それは恐ろしく恥ずかしいことだったが、言わなければ渓青はきっといつまでもこのままだろう。

「……もっと、して、ください……」
「なにをですか?」
「…………そこ、いじって……」
「そこ、とは?」

 さすがにそれは口に出せなくて、翠蓮は渓青の手を取ると、自らの秘裂へと導いた。渓青のすこし硬い指の腹が陰核を擦り、翠蓮はぴくりと体を震わせる。

「ああ、翠蓮様は指の方がお好きでしたか?」
「ち、が……っ」
「違う? ああ、両方が良かったのですね」
「う、嘘……っ! や、ああああっ!」

 陰核に喰らいつかれたまま、蜜壺にもぬるりと指が侵入してきて、翠蓮は喉をのけぞらせた。渓青の口の中で飴のように陰核が転がされる。それを意識する暇もなく、中で指がいいように暴れた。

「渓、青っ! んっ、ああっ! ひっ、っあああ!」

 剥かれた陰核と皮の隙間に渓青の舌が潜りこみ、ふちを舌先でなぶられる。そうかと思えば指は明確な意思をもって、翠蓮の弱いところを的確にさいなむ。強すぎる両方の刺激に、翠蓮はなすすべなく翻弄された。

 合わせ目からはひどい水音があがりつづけ、時折こぼれたそれを舐めとられる。いじられつづけた陰核は、南天の実のように真っ赤に色づき、腫れあがっていた。

 太腿ががくがくと震えて脚に力が入らず、膝が敷布の上で滑りそうになる。どんどん腰の位置が落ちていき、翠蓮は焦った。

「渓、せっ……おねがっ……も、許し、て……っ!」

 そう懇願しても渓青は指も舌も一向に止めない。それどころかじゅっときつく陰核に吸いつかれて、翠蓮はついに限界を迎えた。

「だめぇええっ! っ、っあああ、あああっ!」

 翠蓮は思いきり背をしならせて髪を振り乱し、体全体をこわばらせて達した。心の臓が思い切り走ったあとのようにどくどくと大きく脈打っている。はっはっと浅い息をくりかえしていた翠蓮だったが、いつの間にか脚に力が入っていないことに――渓青の顔の上に座ってしまっていることに気づいた。

「……! ごめっ、ごめんなさい……っ!」

 慌てて体を起こすと、渓青がふう、と大きく息をした。口の周りだけでなく、顔全体がべとべとに濡れている。

「……さすがにすこし苦しかったですね」
「っ……! 渓青がっ……あんな体勢で、あんなこと、するから……っ」
「翠蓮様が『もっとしてください』とおっしゃったのですよ?」
「…………っ!」

 翠蓮は顔を真っ赤にして下にいる渓青を睨みつけたが、渓青は手近にあった布で顔を拭っており、悪いなどとは微塵も思っていなさそうだった。

 その余裕がしゃくにさわった翠蓮は、なにか効果的な仕返しをしようとして――いつぞや果たせなかった「同じこと」をしてやろう、と思いついた。



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