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第1章 獣の檻

第28話 交錯する謀

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 しばらく寝台に倒れ臥していた翠蓮すいれんは、琰単えんたんが扉を閉め、立ち去る音が聞こえなくなり、気配さえも完全に感じられなくなるころ、むくりと体を起こした。

「……渓青けいせい

 翠蓮が冷静に渓青を呼ぶと、寝台の横の隠し扉から静かに渓青が出てくる。翠蓮はもつれた髪をかき上げ、渓青がふわりと新しい夜着を羽織らせた。

「お疲れ様でした」

 そういって椀に水を一杯差しだしてくる。翠蓮はそれを受け取り、ぐいっと一気に飲み干した。一息ついたところで、かたわらに立つ渓青に呟いた。

「……無駄に・・・喘いだせいで喉が乾きました。それで……どうでしたか」
「そうですね、見事なまでの短小で早漏、そしてそれに気づかれていらっしゃらない尊大でやたらと前向きな態度に、笑いを堪えるのに必死でした」
「……そんなことは分かっています。そうではなくて」

 実のところ、翠蓮も何度も吹き出しそうになった。初めてのときはただただ恐ろしくておぞましいだけだったが、冷静に・・・観察してみると滑稽以外の何者でもなく、解放されたら渓青とともに大笑いしようと決めて、歯を噛み締めて笑いを飲み込んでいた。

 ただ、翠蓮が聞きたかったのはそれについてではなかった。翠蓮が渓青を「早く言え」とでもいうようにじっとみつめると、渓青は苦笑してため息をついた。

「とても良かったと思いますよ」

 渓青がそう言って笑ったので、翠蓮はようやくある種の緊張が解けてほっとした。

「まずは……そうですね、東宮殿下は嫌がる女を無理やり犯すのに大層興奮していらっしゃったご様子ですので、嫌がり続けたのは正解でしたね。しばらくはこの方向性で良いかと思います」
「そう……他には?」
「嫌がりながらも体は抗えずにしとどに濡れている、というのも興が掻きたてられていたようで。藍月漿らんげつしょうは今後も使用したほうがいいでしょうね」
「ええ……仕込んでおいてよかったと思います。正直、ほとんど触れずに挿れられたときは肝が冷えました」
「翠蓮様のお体に傷をつけないようにするためにも、常用されたほうが良いかと。緊急時に備えて寝台の中の棚にも入れておきますね」
「分かりました」

 翠蓮が神妙に頷くと、渓青は翠蓮のもつれた髪を優しく梳いて言った。

「特訓の甲斐あって、東宮殿下は翠蓮様の締めつけにいたく満足されたみたいですね」
「……!」

 正直なところ、渓青のその言葉が翠蓮にとっては一番嬉しかった。

 翠蓮は、今はもう渓青のものと同じ大きさの狎具こうぐを咥えこめるようになっている。それでも琰単を「満足」させるためにはどうしたらいいか、それが二人が考えた「特訓」だった。

 琰単の妃嬪ひひんたちは子を産んだり、宦官との交わりで大きな狎具こうぐを使用しつづけているせいで、おそらく琰単にとっては「緩く」なっている。それに後宮の女たちはほとんど出歩かない。そのために下腹部や脚の筋肉も発達しておらず、その締めつけは陰茎の小さな琰単には「物足りない」のだろう、と渓青は推測した。

 翠蓮は前回、処女だったことによりその締まりは琰単にとって理想のものだった。だが、翠蓮もそのままなにも手を施さないのであれば、琰単の後宮の女たちと同じ道を辿ることは想像に難くない。

 そのため渓青は、翠蓮に様々な「課題」を与えた。
 下腹部や太腿の筋肉を鍛えるために、室内でもできるような鍛錬を日に何度も繰りかえした。直接、膣の中の圧力を上げるために、球状の器具を常時入れられ、その状態で鍛錬させられたこともある。圧を確かめ、さらに鍛えるためと称して渓青に中をいじられつづけたときは、翠蓮は朦朧とする意識の中で渓青を恨めしく思ったりもした。

 肉体面だけではない。琰単の好みを調べあげたうえで、琰単の興をさらに掻きたてるための言動、ねやでのふるまい、喘ぎ声、等々翠蓮は何度も演技の練習をさせられた。
 琰単の技術と陰茎では翠蓮が快感を得ることはないと分かっていたため、素面しらふの状態でも感じているように見える訓練までさせられて、恥ずかしさのあまり逆に感じてしまい、渓青に叱責されたのち、お仕置きということさえあった。

 すべてが効率的に確実に琰単を「堕とす」ために整えられていった。

 そんなある日、東宮の宦官が内密に渓青のもとへやってきた。「東宮殿下がこちらへひそやかにお渡りになられたいので手筈を整えろ」と伝言を携えて。

 これ幸いと渓青は、日ごろの愚痴や翠蓮のせいで宦官にさせられたことの恨みつらみを滔々とうとうと語り、ちらりと使いの宦官に目配せする。
 気遣いの言葉とともに、渓青のたもとへするりと重みが加わった。それで渓青は世間話に乗せて、自らが夜番を勤めており、の刻ころには交替をせねばならないので体が辛い、たまには休みたいと語った。それだけでよかった。

 あとはもう、すべてが計画どおりだった。



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