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第1章 獣の檻
第19話 初夜 3
しおりを挟むぞわぞわとした何かが徐々にせり上がってくるのに翠蓮が身を震わせたとき、渓青の左腕がそっと腰の下に差しこまれ、翠蓮の体を浮かせた。
衣ずれの音がして、腰帯を解かれているのだと翠蓮はぼんやりと理解する。そう認識してから数呼吸後に、それがなんのためにそうしているのか思い至って、遅ればせながら翠蓮は慌てた。
「け、渓青っ……せめて、灯りをっ……」
枕元の作りつけの棚には小さな灯明皿が置かれていて、帳のおろされた寝台の中を小さくともしっかりと照らしている。覚悟を決めていることとはいえ、さすがに全てをはっきりと見られるのはかなり恥ずかしかったのだが、渓青は淡々と言った。
「色々と……確認しなくてはいけないことがありますから。ああ……もう少し筋肉をつけた方がいいですね」
なんのために?、と翠蓮は問いたかったのだが、渓青の大きな手のひらが脇腹から腰、そして下腹部をとおり太腿、となにかを確かめるように撫でていくのに反応してしまって言葉が紡げない。
腰帯という戒めを失った裳裾はすでに大きく割りひらかれていて、太腿にはじかに渓青の体の温度を感じる。それは翠蓮を安心させるものでもあり、昂らせるものでもあった。
やがて内腿を撫でていた手がゆっくりと下帯の結び目を解きはじめた。嫌、とは言えなかった。翠蓮は内心、羞恥のあまり死んでしまいたいような気持ちになっていたのだが、自分で言いだしたことなのだからそれだけは言うまい、と決めている。それにきっと渓青は、翠蓮が本当に嫌がるようなことはしないだろう、という思いもあった。
それでも、下帯がすっかりと取り去られてしまって、しかも脚の間に渓青がいるために脚を閉じることもできず、灯明の明かりのもとにそこがさらけ出された時はさしもの翠蓮も手で顔を覆ってしまった。
灯明皿から、じじっと灯芯が焦げる音がする。翠蓮の秘部もまた、焦げついてしまうのではないかと思うほど強い渓青の視線を感じた。
「……ああ良かった、すっかりと濡れていらっしゃいますよ」
「………………はい……」
翠蓮が「感度が悪い」と言われて気にしていたことを、安心させるために渓青はそう言ったのだろう。けれども翠蓮はちっとも安心などできなかった。自分の体が普通の女性とそう変わらない反応を返すことは分かったが、今度は本格的に交わる前に渓青の指と舌だけでしとどに濡らしてしまった淫蕩なものではないのか、と恥ずかしくなってきたからだ。
「……失礼いたします」
「ひっ、あああっ!」
くちり、と渓青の指先が秘裂に触れて撫であげていった。それだけなのに翠蓮は背をしならせ、息を止めて衝撃に耐える羽目に陥る。
「翠蓮様」
声をかけられて恐るおそる目を開けると、渓青がうっすらと白濁した粘液をまとう指先を翠蓮に見えるように掲げていた。
「これならば今夜はやはり『藍月漿』は必要なさそうですね」
「…………!」
渓青は事務的にそう言ってにっこりと笑ったが、もしかしたら藍月漿を使っていたほうがこんな恥ずかしい目に合わずに済んだのでは、と翠蓮が思っても後の祭りだった。
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