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異世界編3・主要キャラ、一堂に会す
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[老人side]
「――なんっなんですか、ここはっ!? 日本じゃないの!? 分かるように説明してくださいっ!?」
森から全速力で飛び出してきた娘を説得し、寝泊りに使っている小屋までやってきた。
飛び出してきた当初は言語にならぬ声で取り乱して叫んでおったが、巻坂浩之の身体を背負っている道中に何とか落ち着いてくれたらしい。
……気が強いようで、やたらと「!?」を多用しておるが、それもそうだろう、人界から魔界に飛ばされてしまったんだから無理もない話だ。
「……落ち着きなされ、娘さん。それは追々説明していこう。まずは、浩之君の怪我を治さなくては」
どっこいしょ、と、巻坂浩之の身体を寝台に寝かせる。わしのベッドだが背に腹は代えられん。
「…………破魔の呪いがかけられていた。解呪しつつはあるが、今しばらくは魔力による治癒は困難だ。自然治癒で頼む」
「心得ましたぞ、主(しゅ)よ。さてさて、軟膏と薬草と包帯か……どれ、娘さんちょいと手伝ってくれんかね?」
魔力による治療が見込めないのなら、人間界と同じ治療の方法を取るしかあるまい。人間界の現代医学で使う高度な治療器具などありはしないから、基本は彼の自然治癒力を高めるようにするしかない。
「あ、はい、分かりました……って、どうなってるの、ほんと? 浩之君どうかなっちゃったの? 刺されておかしくなったの?」
「まぁまぁ、追々話をしていくよ。どれ、用意はわしがやるから、そこで伸びているわしの家族を浩之君のところまで運んで行ってもらえんか」
「……私達『これ』に色々やられて今こんな状況なんだけど」
「ほっほ、大丈夫じゃ、今は無害じゃよ」
娘さんが、地べたに伸びている紫色の存在に対して指をさす。
何故に、こんな姿をしているのかは分からないが、この紫色の存在が放っている魔力の波動は間違いなく家族であるロールのものだった。
巻坂浩之の身体を森から救出しようと背負った際、実はもうひと悶着あったのだ。
巻坂浩之の身体を背負って森から出ようとした矢先に、背後から紫色の物体が降ってきたのだった。
舌は出ている上に目もバッテンになっていて、死んでるんじゃなかろうか、とも思ったが、ぴくぴくと小刻みに痙攣しているため生きてはいるようだった。
それに掴み掛る娘さん。見かけとは裏腹に大層気の強い娘さんである。
「あんたのせいで、訳の分からないことになってるじゃないっ!? 浩之君を殺そうとして何企んでんのよっ!?」
ガクガクガクと紫色の物体に掴み掛って揺さぶる娘さん。おっかないことこの上なしじゃ。
「…………アレも連れて行ってくれ。色々聞き出したいこともある」
遠巻きに関わらないよう見守っていると、巻坂浩之の身体を借りた主(しゅ)に頼まれてしまったため、何とか娘さんを宥め紫色の物体も連れ帰ったという訳である。
見てくれに惑わされはしたが、魔力探知の結果、わしの家族であるロールだったというオチがつくんじゃが。
閑話休題。
色々用意を整え寝所に戻ってみると、地べたにうちのロールを転がしつつ仁王立ちの娘さんと、寝台に横たわり横目でそれを眺めている巻坂浩之の身体があった。
……何かちょっと色々面倒臭いのぅ。
とりあえず、面倒事を避けようと、巻坂浩之の身体の治療に入る。
「……痛みますかな?」
「…………問題ない。意識だけを乗っ取っているだけだからな」
「それはそれは、浩之君も不憫ですな」
「…………ふん」
軟膏を塗りたくり、薬草を貼り付け、包帯を巻く。
些か乱雑ではあるが、兎にも角にも治療は完了した。
「…………世話をかけたな」
「いえ……むしろ、頭が痛いのはこれからで」
「……治療は終わった? 浩之君は無事なのよね?」
ハッハッハ、と力のない笑みを浮かべていると、横合いから娘さんのお声がかかる。
仁王立ちのまま顔だけこちらを向いている娘さん。まるでスタンド使いのようだ。
「……あ、あぁ、終わったよ。 血も止まっているし、もう大丈夫じゃ」
別段、わしが非難されているという訳じゃないんだが、冷や汗をかいてしまう。
「……そう、良かった」
ホッと一息吐いて胸を撫で下ろす柚繰藍という少女。こういった仕草は実にお淑やかな雰囲気でその相貌に似つかわしいのだが。
「……それで? ここに至るまでの経緯を説明してくれるのよね?」
娘さんは今までの殊勝な雰囲気とは打って変わり、剣呑な雰囲気を醸し出してきた。剣呑剣呑。
「……そ、そうじゃな、説明していこう。どこから説明したものか……」
そう言って、どこからともなく取り出した杖を振り上げ、
「……ほっ!」
「――痛っ!? 誰だ、な、何をするんだっ!?」
紫色の物体に振り下ろした。パキンッと乾いた音を上げて、まるで卵の殻のように紫色の物体の体表がひび割れていった。
「ちょ、ちょっと!? ほっ、て……まだ事情聴取もしてないのに暴力は……」
「まぁ、見ていないさい娘さん。役者が揃わん内は説明し辛いからのぅ。これ、ロールや、はよぅ起きんかいっ!」
再び、ゴンッと杖を振り下ろす。ひび割れていた紫色の体表に大きく亀裂が走り、真っ二つに分かれた。
「……だから、痛いって! その声はじっちゃんか!?」
「そうじゃよロール。さっさと起き上がらんともう一度……」
「わ、ま、待ってよじっちゃん。今、起きるよ……ったく、何がどうなってるんだよ?」
のそのそと、割れた中からひょっこり顔を出したのは、
「うそ……かわいい……」
黒猫のロールだった。
☆
お決まりのようにフェレットが喋ったと喚いて暴れ出す娘さんを何とか宥めて、ロールに事情を聴取していく。
その間、主(しゅ)は無言だった。
……少しわしの苦労も分かっていただけるとありがたいんじゃが。
「……それでロールや。何をしとったんじゃ一体。家を黙って空けたと思ったらけったいな格好で帰ってきおって」
「……それが、何も覚えていないんだよじっちゃん」
殻の中から飛び出してきたロールはぶるぶるっと身体を震わせてそう言った。
「覚えているのは、森の中で遊んでいたところまでなんだ。視界が急に真っ暗になったと思ったら、意識が遠くなってきて。気付いたら今、この場にいたんだよ」
「覚えてない、じゃと?」
「うん、全然。だから、今何がどうなってこんな状況にあるのかも分からないんだ……」
「……ふむ、そうか。詳しい情報はないということじゃな」
思案気に腕を組んでみる。今のところ、情報自体はかなり少ない。事の大枠は分かっていても、事の詳細までは把握できないようだ。
この世界でわしの役割(・・)を果たせるか不安ではあるが、致し方ない。
「……ちょっと、覚えてないって何よ。私達……のことはいいとして、浩之君を刺し殺そうとしたことも忘れてるってこと?」
「さ、刺し殺す? 僕が? 綺麗なお姉さんが何を言っているのかちょっと良く分からないけど僕、猫だよ? 爪ならまだしも……」
「その姿じゃ無理かもしれないけど、でも実際……」
「……娘さんや。ロールは本当に覚えていないようじゃ。大方、大きな魔力に目を回してぶっ倒れているところを操られていたんじゃろう」
尚も詰め寄ろうとする娘さんを制して口を開く。さて、どうやって説明したものか。
「魔力って……おじいさんこそ何を言ってるの? ファンタジーでもあるまいし……」
「ほっほ、娘さんや。信じられん気持ちも分かる。しかし、そうは言うが森で見たことのない生物に出くわしてはおらんか?」
「うっ……それはそうだけど、大きい蜘蛛と亀だし、突然変異とか……」
「うちのロールは猫なのに喋るぞ?」
「ううっ……それは、ほら、腹話術とか……」
失敬な!と叫ぶロールを抱きかかえて、宥める。全く、どうにも騒がしい子達じゃ、話が進まんわい。
「そ、それなら納得のいくように説明してください。おじいさんの話も猫ちゃんの話も理解できません」
「……そうじゃな。追々、追々とあまり引き延ばしてもよくないじゃろう。どれ、順を追って説明しようか」
「まず、ここはどこか、という問いに対して答えよう。ここは、魔界じゃ」
「――なんっなんですか、ここはっ!? 日本じゃないの!? 分かるように説明してくださいっ!?」
森から全速力で飛び出してきた娘を説得し、寝泊りに使っている小屋までやってきた。
飛び出してきた当初は言語にならぬ声で取り乱して叫んでおったが、巻坂浩之の身体を背負っている道中に何とか落ち着いてくれたらしい。
……気が強いようで、やたらと「!?」を多用しておるが、それもそうだろう、人界から魔界に飛ばされてしまったんだから無理もない話だ。
「……落ち着きなされ、娘さん。それは追々説明していこう。まずは、浩之君の怪我を治さなくては」
どっこいしょ、と、巻坂浩之の身体を寝台に寝かせる。わしのベッドだが背に腹は代えられん。
「…………破魔の呪いがかけられていた。解呪しつつはあるが、今しばらくは魔力による治癒は困難だ。自然治癒で頼む」
「心得ましたぞ、主(しゅ)よ。さてさて、軟膏と薬草と包帯か……どれ、娘さんちょいと手伝ってくれんかね?」
魔力による治療が見込めないのなら、人間界と同じ治療の方法を取るしかあるまい。人間界の現代医学で使う高度な治療器具などありはしないから、基本は彼の自然治癒力を高めるようにするしかない。
「あ、はい、分かりました……って、どうなってるの、ほんと? 浩之君どうかなっちゃったの? 刺されておかしくなったの?」
「まぁまぁ、追々話をしていくよ。どれ、用意はわしがやるから、そこで伸びているわしの家族を浩之君のところまで運んで行ってもらえんか」
「……私達『これ』に色々やられて今こんな状況なんだけど」
「ほっほ、大丈夫じゃ、今は無害じゃよ」
娘さんが、地べたに伸びている紫色の存在に対して指をさす。
何故に、こんな姿をしているのかは分からないが、この紫色の存在が放っている魔力の波動は間違いなく家族であるロールのものだった。
巻坂浩之の身体を森から救出しようと背負った際、実はもうひと悶着あったのだ。
巻坂浩之の身体を背負って森から出ようとした矢先に、背後から紫色の物体が降ってきたのだった。
舌は出ている上に目もバッテンになっていて、死んでるんじゃなかろうか、とも思ったが、ぴくぴくと小刻みに痙攣しているため生きてはいるようだった。
それに掴み掛る娘さん。見かけとは裏腹に大層気の強い娘さんである。
「あんたのせいで、訳の分からないことになってるじゃないっ!? 浩之君を殺そうとして何企んでんのよっ!?」
ガクガクガクと紫色の物体に掴み掛って揺さぶる娘さん。おっかないことこの上なしじゃ。
「…………アレも連れて行ってくれ。色々聞き出したいこともある」
遠巻きに関わらないよう見守っていると、巻坂浩之の身体を借りた主(しゅ)に頼まれてしまったため、何とか娘さんを宥め紫色の物体も連れ帰ったという訳である。
見てくれに惑わされはしたが、魔力探知の結果、わしの家族であるロールだったというオチがつくんじゃが。
閑話休題。
色々用意を整え寝所に戻ってみると、地べたにうちのロールを転がしつつ仁王立ちの娘さんと、寝台に横たわり横目でそれを眺めている巻坂浩之の身体があった。
……何かちょっと色々面倒臭いのぅ。
とりあえず、面倒事を避けようと、巻坂浩之の身体の治療に入る。
「……痛みますかな?」
「…………問題ない。意識だけを乗っ取っているだけだからな」
「それはそれは、浩之君も不憫ですな」
「…………ふん」
軟膏を塗りたくり、薬草を貼り付け、包帯を巻く。
些か乱雑ではあるが、兎にも角にも治療は完了した。
「…………世話をかけたな」
「いえ……むしろ、頭が痛いのはこれからで」
「……治療は終わった? 浩之君は無事なのよね?」
ハッハッハ、と力のない笑みを浮かべていると、横合いから娘さんのお声がかかる。
仁王立ちのまま顔だけこちらを向いている娘さん。まるでスタンド使いのようだ。
「……あ、あぁ、終わったよ。 血も止まっているし、もう大丈夫じゃ」
別段、わしが非難されているという訳じゃないんだが、冷や汗をかいてしまう。
「……そう、良かった」
ホッと一息吐いて胸を撫で下ろす柚繰藍という少女。こういった仕草は実にお淑やかな雰囲気でその相貌に似つかわしいのだが。
「……それで? ここに至るまでの経緯を説明してくれるのよね?」
娘さんは今までの殊勝な雰囲気とは打って変わり、剣呑な雰囲気を醸し出してきた。剣呑剣呑。
「……そ、そうじゃな、説明していこう。どこから説明したものか……」
そう言って、どこからともなく取り出した杖を振り上げ、
「……ほっ!」
「――痛っ!? 誰だ、な、何をするんだっ!?」
紫色の物体に振り下ろした。パキンッと乾いた音を上げて、まるで卵の殻のように紫色の物体の体表がひび割れていった。
「ちょ、ちょっと!? ほっ、て……まだ事情聴取もしてないのに暴力は……」
「まぁ、見ていないさい娘さん。役者が揃わん内は説明し辛いからのぅ。これ、ロールや、はよぅ起きんかいっ!」
再び、ゴンッと杖を振り下ろす。ひび割れていた紫色の体表に大きく亀裂が走り、真っ二つに分かれた。
「……だから、痛いって! その声はじっちゃんか!?」
「そうじゃよロール。さっさと起き上がらんともう一度……」
「わ、ま、待ってよじっちゃん。今、起きるよ……ったく、何がどうなってるんだよ?」
のそのそと、割れた中からひょっこり顔を出したのは、
「うそ……かわいい……」
黒猫のロールだった。
☆
お決まりのようにフェレットが喋ったと喚いて暴れ出す娘さんを何とか宥めて、ロールに事情を聴取していく。
その間、主(しゅ)は無言だった。
……少しわしの苦労も分かっていただけるとありがたいんじゃが。
「……それでロールや。何をしとったんじゃ一体。家を黙って空けたと思ったらけったいな格好で帰ってきおって」
「……それが、何も覚えていないんだよじっちゃん」
殻の中から飛び出してきたロールはぶるぶるっと身体を震わせてそう言った。
「覚えているのは、森の中で遊んでいたところまでなんだ。視界が急に真っ暗になったと思ったら、意識が遠くなってきて。気付いたら今、この場にいたんだよ」
「覚えてない、じゃと?」
「うん、全然。だから、今何がどうなってこんな状況にあるのかも分からないんだ……」
「……ふむ、そうか。詳しい情報はないということじゃな」
思案気に腕を組んでみる。今のところ、情報自体はかなり少ない。事の大枠は分かっていても、事の詳細までは把握できないようだ。
この世界でわしの役割(・・)を果たせるか不安ではあるが、致し方ない。
「……ちょっと、覚えてないって何よ。私達……のことはいいとして、浩之君を刺し殺そうとしたことも忘れてるってこと?」
「さ、刺し殺す? 僕が? 綺麗なお姉さんが何を言っているのかちょっと良く分からないけど僕、猫だよ? 爪ならまだしも……」
「その姿じゃ無理かもしれないけど、でも実際……」
「……娘さんや。ロールは本当に覚えていないようじゃ。大方、大きな魔力に目を回してぶっ倒れているところを操られていたんじゃろう」
尚も詰め寄ろうとする娘さんを制して口を開く。さて、どうやって説明したものか。
「魔力って……おじいさんこそ何を言ってるの? ファンタジーでもあるまいし……」
「ほっほ、娘さんや。信じられん気持ちも分かる。しかし、そうは言うが森で見たことのない生物に出くわしてはおらんか?」
「うっ……それはそうだけど、大きい蜘蛛と亀だし、突然変異とか……」
「うちのロールは猫なのに喋るぞ?」
「ううっ……それは、ほら、腹話術とか……」
失敬な!と叫ぶロールを抱きかかえて、宥める。全く、どうにも騒がしい子達じゃ、話が進まんわい。
「そ、それなら納得のいくように説明してください。おじいさんの話も猫ちゃんの話も理解できません」
「……そうじゃな。追々、追々とあまり引き延ばしてもよくないじゃろう。どれ、順を追って説明しようか」
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