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日常編1・自己紹介がてらの日常
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四月五日、月曜日。
桜の花びらが咲き誇り、また散っていく春のうららかな一日。
――ピリリリリ……ピリリリリ………
「………………む…………んむぅ? ふぁあぁぁ………もう、朝か……」
カチリ、と目覚まし時計のスイッチを押して早起きさせる代わりにストレスを与える甲高い音を鳴り止ませた。
「…………何か変な夢を見た気がするが……ま、いいか。さ、もう一眠り……。いざ、夢の中へ……」
俺は再び深い眠りを満喫するためにいそいそと布団に包まった。
春眠暁を覚えず。どこの誰が言ったのかは知らないが、とても共感できる言葉だ。全国の学生がそう思っているだろう。
そんなお馬鹿チンなことを考えて、はたと気が付く。はて……何故に俺は目覚まし時計なんか掛けておいたんだろうか?
ズドドドドド………。
……何か遠くから地響きのような音が聞こえてくるんですが……なんだろう? 凄く嫌な予感がするなぁ……。しかも、大抵その予感は当たるのである。
ガチャッ、ダッ!
ドアが開かれる音と同時に床を強く蹴った音がすぐ近くで………って、近く?
――ズドッ!
「――ッグハァッ!?」
「起きろ~、バカ兄貴っ!」
布団越しに何か重いモノが圧し掛かってきて、更に固いモノが俺の腹に叩き込まれる。無防備もいい所で、それは完全に鳩尾にクリーンヒットしていた。
「~~~~ッ!?」
声も出せない。何故に朝からこんな悶絶しなけりゃならんのでしょうか?
「おぅ? どうした兄貴、まだ眠いの?」
「この……チビ助ぇぇぇっ!!」
「うわぁ!?」
圧し掛かっていたガキンチョの腕を取り、マウントを取られていた状態から入れ替わって腿で腕を挟み、ついでに腹と首に自分の足を乗せる。
所謂、腕ひしぎというヤツだ。俺の数ある得意技のうちで最も得意とする技の一つである。
「なぁ、晶さんよぅ……プロレスは伝授してやったが、寝起きにフライングエルボーは反則じゃないかい?」
「うぬぅ……バカ兄貴のクセに生意気な! ……イダダダッ!?」
「あん? バカ兄貴ぃ? 晶ちゃんは自分の立場が分かってないのかなぁ?」
「タップタップ! タップだよ兄貴っ」
まるで欠食児童のように痩せている晶は空いている方の腕で俺の脚をバンバンッとタップする。
朝から非情なまでの大技を喰らった俺としては些か思うところはかなりあったが、この巻坂浩之、寛大さではご町内一とまことしやかに噂されているそうなので許してやることにした。
「……ったく、起こすならもっと普通に起こせ。このままエルボー如きで永眠してみろ……確実に化けて出てやるからな」
俺は大ダメージを受けた腹を擦りながら半身起き上がる。
「で、なんだよこんな朝早くから……事と次第によっては、妹である貴様を葬らねばならんかもしれんぞ?」
「…………」
だというのに、晶は俺のベッドに腰掛けたままポカンと目を真ん丸くして俺を見上げている。まさしく馬鹿を見る目だ。誠に遺憾である。
「な、なんだよ? どうした、埴輪みたいなとぼけた顔しちまって……」
「失礼だね、この顔は生まれつきですよ。むしろ顔のことで兄貴に言われたくないね」
「失礼なっ!?」
「それよりも……兄貴。いいの?」
「な、何が?」
「昨日の夜……明日から学校だって言ってなかったっけ? 晶はそう聞いた気がするんだけど……」
その瞬間、俺の身体と時間が凍りついた。
「ガ、ガッコウ?」
……月光……菩薩? って、いやいやそうじゃなくて。
「わ、忘れてた……」
壁に掛けられたカレンダーを見る。カレンダーは三月のカレンダーのままだった。自分の無精さに些か嫌気が差したが、そこはぐっと我慢だ。挫けずに右上の来月の暦を見てみる。一昨日が土曜日で昨日が日曜。今思い返してみれば一昨日の夜、春休みの課題を貸してくれた優香に明後日から学校だから絶対遅刻しないでね、と釘を刺された気がする。それもおそろしくぶっとい釘を。
「し、しまった……今何時だ?」
「はいよ」
晶が俺の涎で湿っている枕元から、転がっている目覚まし時計をズイッと俺の眼前に押し付けた。既に時刻は八時十分に差しかかろうとしているところだ。いつもなら悠々と学校下の坂をえっちらおっちら登っているところだ。
「……まずい、もうこんな時間だ! 優香が来たらまたピーピー小言を……!」
「優香ちゃん、もう来てるよ」
「……ソ、ソウデスカ」
俺は取り敢えず俺のベッドで飛び跳ねている晶に優香を宥めさせに向かわせ、着替えをハンガーから引っ手繰りつつ寝巻きを脱ぎ、制服に着替えながら春休みの課題を鞄に突っ込んで目一杯の速さで部屋を飛び出た。
☆
「遅いよ! バカ浩之!」
「ぬぅ……」
階下にある居間に降りていくと何故かお茶を飲んでくつろいでいる優香が俺の母親と一緒に非難がましい目で俺を迎えてくれた。
そのやや釣り目がちな目には、あれだけ忠告したのにという怒りがふんだんに盛り込まれていて朝から居間をスルーしたい気持ちで一杯になる。
「す、すまねぇ……なんでか目覚まし時計が鳴らなくてな……壊れたかなー?」
「えー? 兄貴の目覚まし時計ピーピー鳴ってたよ?」
俺の寝起きで考えた必死の言い訳を能天気な晶がブチ壊していく。さすがだ、我が妹よ。ここぞというときにやってはいけないことをやってくれる。
「優香ちゃん、兄貴はねぇ今日学校があることすっかり忘れてたんだよ」
更に追い討ちを掛けるのかこのガキは。取り敢えず後でチョークスリーパーをかけてやろう。
「アンタ昨日、明日から学校だって自分で言ってたじゃない……」
自分の息子はここまで阿呆だったのかと呆れたらしく我が母は物凄く重い溜め息を吐いた。何も言い返せないのがちと悲しい。
「やっぱり、浩之は浩之ねぇ……。新学年になるんだから少しはビシッと気を引き締めるのかなぁと思ったらまぁ、変わらずいつもどおりで……」
優香も母さんに釣られてか盛大な溜め息を吐く。うーむ、朝から溜め息ばかり吐かれて形成されるこの重い空気を一刻も早くどうにかしたいんだが……。
「ねぇねぇ、二人とも」
重い空気を作り出している優香とそれを見てどう取り繕うか思案している俺に晶がちょちょいと制服の裾を引っ張って話しかける。
「重い溜め息を吐き合っている中悪いけど……学校遅刻しちゃうよ?」
「「!?」」
左腕の腕時計を見れば時刻は八時十五分。その一言で学生二人は我に帰り、居間を飛び出て玄関に向かってすっ飛んで行った。
玄関を飛び出て十分ほど全力で走っていたが段々と速度が落ちていく。徐々に優香との距離が離れていくのが少々ショックだった。
「ゲホ…ち、ちょっと待ってくれぃ……」
俺は自分の少し前を軽やかに走る陸上部期待のエースに懇願する。寝起きで朝から学校までダッシュするのは正直いって拷問である。不肖文芸部(幽霊部員)である俺様には、明らかな超過労働だ。って、自分で蒔いた種なんだがね。
「何よ、体力無いわねぇ。文芸部だからって、運動しないからよ? 春休み一度でも汗水垂らした?」
優香が口をとがらせて言いながら振り向くと両サイド上部をリボンで結んだ髪が風になびいて微かに揺れた。同時に割合ふくよかな方に分類されるばばーんと突き出た胸が強調されたがそこは見ないふりをしてやるのが紳士としてベストだ。
ガードレール沿いに植えられている桜の樹から花びらが舞い落ちてくる。手のひらを上に向けて差し出すと何枚かの花びらが乗っかった。
「……ハァハァ……ふ、ふっ僕、チンは、生きることでっ、精一杯なのデスっ」
「肩で息をしながら虚勢を張るのはやめなさい、生きるのに精一杯な人が昼過ぎまで寝てるもんですか」
「ぬ、ぬぅ……隣の家のお前が何故に俺の活動状況まで知っているんだか……」
高校生になってからは優香の部活が忙しいこともあって、それほど頻繁に交流があった訳ではない筈だが……? まさか、四六時中俺の活動を見張っているのではあるまいな?
「浩之の生息状況を確認している訳じゃなくて、晶ちゃんにお勉強を教えてたの。昼過ぎに行ったのに眠そうな顔して起きてきたら嫌でも分かるわよ」
と、呆れた様に優香は言う。いや、実際に呆れてるんだろうが……生息状況って、俺は動物か何かなのか?
「まぁ、アンタは昔からそうだから今更って感じもするけど……後輩が出来るんだから少しはいい見本としてしっかり学校生活を送りなさいよ?」
「ぬぅ……寝坊一つでここまで言われるとは……」
最近うちの母親に似てきた気がする。何故に似るのかはとんと分からないが小うるさいことこの上ない。
しかしまぁ、ブツクサと小言を垂れながらも優香はこちらに合わせて歩いてくれる。昔から文句ばっかり言うわりにはいつもこちらの言い分に折れてくれるのがこいつのいいところだ。
大谷優香。家はお隣さんで親は親友同士、学校は幼・小・中・高全て同じ学校と、もう文句の付けようがない所謂幼なじみという奴である。
「ほらほら、休むって言ったって小走りだよ。ここから歩いていったら完全に遅刻なんだから」
「うぇっ!? 歩くんじゃねぇのかよ!?」
「甘ったれたこと言うんじゃないの、だらしないんだから。ほらファイト~、後半分だよ~」
「お、覚えてろ…優香……ぐぇ……」
そして学校まで桜の花びらの舞う中、再び地獄のランニングが始まったのであった。
桜の花びらが咲き誇り、また散っていく春のうららかな一日。
――ピリリリリ……ピリリリリ………
「………………む…………んむぅ? ふぁあぁぁ………もう、朝か……」
カチリ、と目覚まし時計のスイッチを押して早起きさせる代わりにストレスを与える甲高い音を鳴り止ませた。
「…………何か変な夢を見た気がするが……ま、いいか。さ、もう一眠り……。いざ、夢の中へ……」
俺は再び深い眠りを満喫するためにいそいそと布団に包まった。
春眠暁を覚えず。どこの誰が言ったのかは知らないが、とても共感できる言葉だ。全国の学生がそう思っているだろう。
そんなお馬鹿チンなことを考えて、はたと気が付く。はて……何故に俺は目覚まし時計なんか掛けておいたんだろうか?
ズドドドドド………。
……何か遠くから地響きのような音が聞こえてくるんですが……なんだろう? 凄く嫌な予感がするなぁ……。しかも、大抵その予感は当たるのである。
ガチャッ、ダッ!
ドアが開かれる音と同時に床を強く蹴った音がすぐ近くで………って、近く?
――ズドッ!
「――ッグハァッ!?」
「起きろ~、バカ兄貴っ!」
布団越しに何か重いモノが圧し掛かってきて、更に固いモノが俺の腹に叩き込まれる。無防備もいい所で、それは完全に鳩尾にクリーンヒットしていた。
「~~~~ッ!?」
声も出せない。何故に朝からこんな悶絶しなけりゃならんのでしょうか?
「おぅ? どうした兄貴、まだ眠いの?」
「この……チビ助ぇぇぇっ!!」
「うわぁ!?」
圧し掛かっていたガキンチョの腕を取り、マウントを取られていた状態から入れ替わって腿で腕を挟み、ついでに腹と首に自分の足を乗せる。
所謂、腕ひしぎというヤツだ。俺の数ある得意技のうちで最も得意とする技の一つである。
「なぁ、晶さんよぅ……プロレスは伝授してやったが、寝起きにフライングエルボーは反則じゃないかい?」
「うぬぅ……バカ兄貴のクセに生意気な! ……イダダダッ!?」
「あん? バカ兄貴ぃ? 晶ちゃんは自分の立場が分かってないのかなぁ?」
「タップタップ! タップだよ兄貴っ」
まるで欠食児童のように痩せている晶は空いている方の腕で俺の脚をバンバンッとタップする。
朝から非情なまでの大技を喰らった俺としては些か思うところはかなりあったが、この巻坂浩之、寛大さではご町内一とまことしやかに噂されているそうなので許してやることにした。
「……ったく、起こすならもっと普通に起こせ。このままエルボー如きで永眠してみろ……確実に化けて出てやるからな」
俺は大ダメージを受けた腹を擦りながら半身起き上がる。
「で、なんだよこんな朝早くから……事と次第によっては、妹である貴様を葬らねばならんかもしれんぞ?」
「…………」
だというのに、晶は俺のベッドに腰掛けたままポカンと目を真ん丸くして俺を見上げている。まさしく馬鹿を見る目だ。誠に遺憾である。
「な、なんだよ? どうした、埴輪みたいなとぼけた顔しちまって……」
「失礼だね、この顔は生まれつきですよ。むしろ顔のことで兄貴に言われたくないね」
「失礼なっ!?」
「それよりも……兄貴。いいの?」
「な、何が?」
「昨日の夜……明日から学校だって言ってなかったっけ? 晶はそう聞いた気がするんだけど……」
その瞬間、俺の身体と時間が凍りついた。
「ガ、ガッコウ?」
……月光……菩薩? って、いやいやそうじゃなくて。
「わ、忘れてた……」
壁に掛けられたカレンダーを見る。カレンダーは三月のカレンダーのままだった。自分の無精さに些か嫌気が差したが、そこはぐっと我慢だ。挫けずに右上の来月の暦を見てみる。一昨日が土曜日で昨日が日曜。今思い返してみれば一昨日の夜、春休みの課題を貸してくれた優香に明後日から学校だから絶対遅刻しないでね、と釘を刺された気がする。それもおそろしくぶっとい釘を。
「し、しまった……今何時だ?」
「はいよ」
晶が俺の涎で湿っている枕元から、転がっている目覚まし時計をズイッと俺の眼前に押し付けた。既に時刻は八時十分に差しかかろうとしているところだ。いつもなら悠々と学校下の坂をえっちらおっちら登っているところだ。
「……まずい、もうこんな時間だ! 優香が来たらまたピーピー小言を……!」
「優香ちゃん、もう来てるよ」
「……ソ、ソウデスカ」
俺は取り敢えず俺のベッドで飛び跳ねている晶に優香を宥めさせに向かわせ、着替えをハンガーから引っ手繰りつつ寝巻きを脱ぎ、制服に着替えながら春休みの課題を鞄に突っ込んで目一杯の速さで部屋を飛び出た。
☆
「遅いよ! バカ浩之!」
「ぬぅ……」
階下にある居間に降りていくと何故かお茶を飲んでくつろいでいる優香が俺の母親と一緒に非難がましい目で俺を迎えてくれた。
そのやや釣り目がちな目には、あれだけ忠告したのにという怒りがふんだんに盛り込まれていて朝から居間をスルーしたい気持ちで一杯になる。
「す、すまねぇ……なんでか目覚まし時計が鳴らなくてな……壊れたかなー?」
「えー? 兄貴の目覚まし時計ピーピー鳴ってたよ?」
俺の寝起きで考えた必死の言い訳を能天気な晶がブチ壊していく。さすがだ、我が妹よ。ここぞというときにやってはいけないことをやってくれる。
「優香ちゃん、兄貴はねぇ今日学校があることすっかり忘れてたんだよ」
更に追い討ちを掛けるのかこのガキは。取り敢えず後でチョークスリーパーをかけてやろう。
「アンタ昨日、明日から学校だって自分で言ってたじゃない……」
自分の息子はここまで阿呆だったのかと呆れたらしく我が母は物凄く重い溜め息を吐いた。何も言い返せないのがちと悲しい。
「やっぱり、浩之は浩之ねぇ……。新学年になるんだから少しはビシッと気を引き締めるのかなぁと思ったらまぁ、変わらずいつもどおりで……」
優香も母さんに釣られてか盛大な溜め息を吐く。うーむ、朝から溜め息ばかり吐かれて形成されるこの重い空気を一刻も早くどうにかしたいんだが……。
「ねぇねぇ、二人とも」
重い空気を作り出している優香とそれを見てどう取り繕うか思案している俺に晶がちょちょいと制服の裾を引っ張って話しかける。
「重い溜め息を吐き合っている中悪いけど……学校遅刻しちゃうよ?」
「「!?」」
左腕の腕時計を見れば時刻は八時十五分。その一言で学生二人は我に帰り、居間を飛び出て玄関に向かってすっ飛んで行った。
玄関を飛び出て十分ほど全力で走っていたが段々と速度が落ちていく。徐々に優香との距離が離れていくのが少々ショックだった。
「ゲホ…ち、ちょっと待ってくれぃ……」
俺は自分の少し前を軽やかに走る陸上部期待のエースに懇願する。寝起きで朝から学校までダッシュするのは正直いって拷問である。不肖文芸部(幽霊部員)である俺様には、明らかな超過労働だ。って、自分で蒔いた種なんだがね。
「何よ、体力無いわねぇ。文芸部だからって、運動しないからよ? 春休み一度でも汗水垂らした?」
優香が口をとがらせて言いながら振り向くと両サイド上部をリボンで結んだ髪が風になびいて微かに揺れた。同時に割合ふくよかな方に分類されるばばーんと突き出た胸が強調されたがそこは見ないふりをしてやるのが紳士としてベストだ。
ガードレール沿いに植えられている桜の樹から花びらが舞い落ちてくる。手のひらを上に向けて差し出すと何枚かの花びらが乗っかった。
「……ハァハァ……ふ、ふっ僕、チンは、生きることでっ、精一杯なのデスっ」
「肩で息をしながら虚勢を張るのはやめなさい、生きるのに精一杯な人が昼過ぎまで寝てるもんですか」
「ぬ、ぬぅ……隣の家のお前が何故に俺の活動状況まで知っているんだか……」
高校生になってからは優香の部活が忙しいこともあって、それほど頻繁に交流があった訳ではない筈だが……? まさか、四六時中俺の活動を見張っているのではあるまいな?
「浩之の生息状況を確認している訳じゃなくて、晶ちゃんにお勉強を教えてたの。昼過ぎに行ったのに眠そうな顔して起きてきたら嫌でも分かるわよ」
と、呆れた様に優香は言う。いや、実際に呆れてるんだろうが……生息状況って、俺は動物か何かなのか?
「まぁ、アンタは昔からそうだから今更って感じもするけど……後輩が出来るんだから少しはいい見本としてしっかり学校生活を送りなさいよ?」
「ぬぅ……寝坊一つでここまで言われるとは……」
最近うちの母親に似てきた気がする。何故に似るのかはとんと分からないが小うるさいことこの上ない。
しかしまぁ、ブツクサと小言を垂れながらも優香はこちらに合わせて歩いてくれる。昔から文句ばっかり言うわりにはいつもこちらの言い分に折れてくれるのがこいつのいいところだ。
大谷優香。家はお隣さんで親は親友同士、学校は幼・小・中・高全て同じ学校と、もう文句の付けようがない所謂幼なじみという奴である。
「ほらほら、休むって言ったって小走りだよ。ここから歩いていったら完全に遅刻なんだから」
「うぇっ!? 歩くんじゃねぇのかよ!?」
「甘ったれたこと言うんじゃないの、だらしないんだから。ほらファイト~、後半分だよ~」
「お、覚えてろ…優香……ぐぇ……」
そして学校まで桜の花びらの舞う中、再び地獄のランニングが始まったのであった。
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