1 / 26
前日譚・『声の主』との邂逅
しおりを挟む
『………………媒介者よ』
男の声とも女の声ともつかない、いやにクリアな声で語りかけられ俺の意識は覚醒した。
いや、覚醒したというと語弊があるかもしれない。自分が認識できる世界――――眼前には闇一色が広がっている――――は、多分夢だ。何故なら、俺にはこんな闇夜より更に暗い場所に覚えがないからだ。
俺は昨晩もいつものように床に就いて、いつものように朝を迎えようとしていた筈だ。こんな一歩先どころか自分の手足すら見えない場所に、とここまで考えて夢の世界だということに確信を得た。
何せ、動かせる手足がない。どころか、動かせる筈の身体がないようだ。身体の至る所に力を入れようと試みるが、そもそも感覚すらない。なるほど全くもって現状の理解はし難いが、意識だけははっきりしているようだ。
取り乱すことなく現状を受け入れ全ては夢だ、と考えるとこの状況を楽しむ余裕すら出てくる。これが所謂明晰夢というやつだろうか?
『………………媒介者よ』
もう一度、同じ声で同じ言葉が聞こえてきた。聞こえてくるという言葉も、正確には認識としてはおかしいのかもしれないが、さしたる当惑もなく受け入れた。
媒介者、というのは俺のことですか?と疑問を投げかけようと思ったが、そもそも口はおろか感覚すらないので、意識の中で思うに留まってしまったが。
『……そうだ、お前のことだ媒介者。自分が何者であるか、分かるか?』
思うだけで相手方に通じたらしい。流石は夢だ、楽なことこの上ない。
よく分からない声の主は媒介者とは俺のことである、と言う。媒介者とは何なのか、まずもって謎ではあるが自分が何者であるか?
思春期の少年でもあるまいし、俺は……………………。
………………。
…………。
……はて?
え、ちょっと待て、俺は………………誰だ?
自分が何者であるかを思い出せない。俺はいつものように床に就き、いつものように朝を迎えようとして夢を見ている筈だが…………いつもって何だ?
明瞭な意識の片隅で、靄がかったように自分の記憶を思い出せなかった。
『……案ずるな。目が覚めればお前自身の事も、お前が成すべきことも自ずと分かるであろう』
沈黙を否と取ったのであろうか、声の主はそのように続けた。
自ずと分かる、か。便利なものだと他人事のように思う。それはそうだ、これは夢なのだから。
『……お前にはこの先遠くない未来において成すべきことがある。成すべきことを成せ』
大層重々しく声の主がそう続けた。成すべきことを成せ、といっても何をすればいいのかさっぱりなんですが。
『………………………』
おや、だんまりですかい?
会話とも言えないやり取りが交わされる中、明瞭だった俺の意識はぼんやりと霞んでいき、声の主の返答を聞く前に唐突に途切れた。
男の声とも女の声ともつかない、いやにクリアな声で語りかけられ俺の意識は覚醒した。
いや、覚醒したというと語弊があるかもしれない。自分が認識できる世界――――眼前には闇一色が広がっている――――は、多分夢だ。何故なら、俺にはこんな闇夜より更に暗い場所に覚えがないからだ。
俺は昨晩もいつものように床に就いて、いつものように朝を迎えようとしていた筈だ。こんな一歩先どころか自分の手足すら見えない場所に、とここまで考えて夢の世界だということに確信を得た。
何せ、動かせる手足がない。どころか、動かせる筈の身体がないようだ。身体の至る所に力を入れようと試みるが、そもそも感覚すらない。なるほど全くもって現状の理解はし難いが、意識だけははっきりしているようだ。
取り乱すことなく現状を受け入れ全ては夢だ、と考えるとこの状況を楽しむ余裕すら出てくる。これが所謂明晰夢というやつだろうか?
『………………媒介者よ』
もう一度、同じ声で同じ言葉が聞こえてきた。聞こえてくるという言葉も、正確には認識としてはおかしいのかもしれないが、さしたる当惑もなく受け入れた。
媒介者、というのは俺のことですか?と疑問を投げかけようと思ったが、そもそも口はおろか感覚すらないので、意識の中で思うに留まってしまったが。
『……そうだ、お前のことだ媒介者。自分が何者であるか、分かるか?』
思うだけで相手方に通じたらしい。流石は夢だ、楽なことこの上ない。
よく分からない声の主は媒介者とは俺のことである、と言う。媒介者とは何なのか、まずもって謎ではあるが自分が何者であるか?
思春期の少年でもあるまいし、俺は……………………。
………………。
…………。
……はて?
え、ちょっと待て、俺は………………誰だ?
自分が何者であるかを思い出せない。俺はいつものように床に就き、いつものように朝を迎えようとして夢を見ている筈だが…………いつもって何だ?
明瞭な意識の片隅で、靄がかったように自分の記憶を思い出せなかった。
『……案ずるな。目が覚めればお前自身の事も、お前が成すべきことも自ずと分かるであろう』
沈黙を否と取ったのであろうか、声の主はそのように続けた。
自ずと分かる、か。便利なものだと他人事のように思う。それはそうだ、これは夢なのだから。
『……お前にはこの先遠くない未来において成すべきことがある。成すべきことを成せ』
大層重々しく声の主がそう続けた。成すべきことを成せ、といっても何をすればいいのかさっぱりなんですが。
『………………………』
おや、だんまりですかい?
会話とも言えないやり取りが交わされる中、明瞭だった俺の意識はぼんやりと霞んでいき、声の主の返答を聞く前に唐突に途切れた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――


【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる