Correct×Tale - 世界を修正する少女と媒介者の少年 -

椎名詩音

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前日譚・『声の主』との邂逅

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『………………媒介者よ』

 男の声とも女の声ともつかない、いやにクリアな声で語りかけられ俺の意識は覚醒した。

いや、覚醒したというと語弊があるかもしれない。自分が認識できる世界――――眼前には闇一色が広がっている――――は、多分夢だ。何故なら、俺にはこんな闇夜より更に暗い場所に覚えがないからだ。

 俺は昨晩もいつものように床に就いて、いつものように朝を迎えようとしていた筈だ。こんな一歩先どころか自分の手足すら見えない場所に、とここまで考えて夢の世界だということに確信を得た。

 何せ、動かせる手足がない。どころか、動かせる筈の身体がないようだ。身体の至る所に力を入れようと試みるが、そもそも感覚すらない。なるほど全くもって現状の理解はし難いが、意識だけははっきりしているようだ。

 取り乱すことなく現状を受け入れ全ては夢だ、と考えるとこの状況を楽しむ余裕すら出てくる。これが所謂明晰夢というやつだろうか?

 『………………媒介者よ』

もう一度、同じ声で同じ言葉が聞こえてきた。聞こえてくるという言葉も、正確には認識としてはおかしいのかもしれないが、さしたる当惑もなく受け入れた。

 媒介者、というのは俺のことですか?と疑問を投げかけようと思ったが、そもそも口はおろか感覚すらないので、意識の中で思うに留まってしまったが。

 『……そうだ、お前のことだ媒介者。自分が何者であるか、分かるか?』

 思うだけで相手方に通じたらしい。流石は夢だ、楽なことこの上ない。

よく分からない声の主は媒介者とは俺のことである、と言う。媒介者とは何なのか、まずもって謎ではあるが自分が何者であるか?

 思春期の少年でもあるまいし、俺は……………………。

………………。

…………。

……はて?

え、ちょっと待て、俺は………………誰だ?

 自分が何者であるかを思い出せない。俺はいつものように床に就き、いつものように朝を迎えようとして夢を見ている筈だが…………いつもって何だ?

 明瞭な意識の片隅で、靄がかったように自分の記憶を思い出せなかった。

 『……案ずるな。目が覚めればお前自身の事も、お前が成すべきことも自ずと分かるであろう』

 沈黙を否と取ったのであろうか、声の主はそのように続けた。

 自ずと分かる、か。便利なものだと他人事のように思う。それはそうだ、これは夢なのだから。

 『……お前にはこの先遠くない未来において成すべきことがある。成すべきことを成せ』

 大層重々しく声の主がそう続けた。成すべきことを成せ、といっても何をすればいいのかさっぱりなんですが。


 『………………………』

おや、だんまりですかい?
 会話とも言えないやり取りが交わされる中、明瞭だった俺の意識はぼんやりと霞んでいき、声の主の返答を聞く前に唐突に途切れた。
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