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第1章 憧れへの挑戦
Ⅱ 動き出す歯車
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地恵期20年 2月12日
ユーサリア セントリアス区 トレイルブレイザーベース 第2次試験試験会場
「ロビン、止まれ!」
ガンッッッ!!!
会場に入った瞬間、俺は大地を思い切りグランディウスで叩いた。グランディウスの衝撃は大きく円形に広がり、周囲の受験生の足にもその衝撃は伝播する。
その時、グランディウスに埋められた鈍色の〈土〉のジェクトが反応し、俺達の踏みしめる大地が一瞬にして激しく盛り上がった。俺たち2人の身体は大きく弾き飛ばされ、空中にふわりと投げ出された。
「俺とロビンの足場だけ隆起させた!これで他の受験者と距離を取れるだろ?」
体を打ち付ける風が気持ちいい。
空中旅行を満喫する俺の真横で、ロビンは驚いて体制を崩しまくっている。高所恐怖症ではないはずだが、下を見ないようにと目を瞑っていた。
「い、いや、確かにそうだけど!このあとどうすんのぉぉぉぉぉ!?!?」
「ぷっ!ハハハハハッ!ロビン、なんだよその顔!」
体勢を崩して頭から風をもろに受けているロビンの口は、歯茎までくっきりと見えるほど大きく開かれ、乾燥した目からは微かに涙が漏れている。
そんな様子を見た俺は笑いを堪え切れずに口を大きく開けると、案の定俺まで風を顔面から受けてしまった。
「えあお!?おおあおおううううおい!?(レハト!?この後どうするつもり!?)」
「え!?いおえあいお!?(え!?聞こえないよ!?)」
「あああ、おううう(だから、どうする)・・・っえ、うあああぁぁぁぁ!!!!」
200m程飛ばされただろうか。
着地の瞬間、もう一度大地を叩く。すると今度は地面がクッションのようになり、俺たちを綺麗にキャッチした。
そこまではよかった。だが、他の受験者から離れて中心部に近づくという事は、敵地のど真ん中に突入するのと同じ事。俺達はすぐさま血に飢えたクリーチャーに囲まれてしまい、逃げ場を失った。
「ロビン、空中の奴は頼んだ!」
ガンッガンッガンッッ!!!
更にもう一度大地を叩く。衝撃を受けた大地は鋭く尖りながら天に向かって伸びていく。そうして生じた1m前後の無数の棘が、地上のクリーチャーの腸を正確に貫いていった。
そしてその好機を見逃さまいと、俺の背後からロビンが姿を現した。軽い足取りでジャンプして、すかさずアマテラスを構えた。すると、ただの鉄の棒でしかなかったアマテラスの両端から鮮やかな緑の光の線が出現し、同時に、その中心に空気が集まり始めた。やがてその空気は矢のような実体を作り出し、ロビンのコートをはためかせる。放たれた弓矢は、風を切りながら空中のクリーチャー・・・ではなく、生成された土の棘を射抜いた。
パキンッ
棘が砕ける。その破片は固い岩片となって、飛行する複数のクリーチャーの皮膚を切り裂き、打ち落としていった。一度でより多くのクリーチャーに攻撃できる、ジェクトが小さいロビンなりの工夫だ。
「よし!次は向こうだ!」
俺達の戦いがちゃんと通用している。修行がしっかりと身になっている。安堵した俺達は、その後も受験者の妨害を避けながら的確にクリーチャーを殲滅していった。
時間は刻一刻と過ぎていった。事件が起きたのは、残り15分程度になった頃。俺達の体にも次第に疲労が溜まり始めていたその時、突如俺の頭上で何かが光った。
「・・・っ!」
バシュッ!
熱い。体が焼けるような感覚を感じ、たまらず反射的に距離を取った。
顔を上げると、赤い炎━━━俺とロビンとの間を隔絶する、紅蓮に燃える炎がそこに広がっていた。
「うおっ!なんだこの炎!?」
「レハト!」
ロビンは咄嗟に俺に手を差し伸べる。しかし、あまりの熱さにすぐさま手を引っ込めた。
「俺の事はいい!お前はここから離れてクリーチャーを倒せ!」
「そんなこと言ったって・・・」
「いいから行け!」
そう言ってロビンを鼓舞しようとする俺の声は、僅かながら震えていた気がする。
だけど、このままもたもたしていては合格から遠ざかってしまうのも事実。
俺の目を見たロビンは一瞬の躊躇の後、すぐさま首を縦に振った。
「・・・分かった」
そう言ってロビンは俺に背を向け、急いでその場を後にした。
俺がロビンを見送った直後、岩場の上から聞き覚えのある女の声が聞こえた。
「あら、さっきのはお友達だったのかしら?いかにも弱そうなお友達ね。」
「お前、昨日の!」
そこにいたのは、昨日バケツの少女に銃を向けていた少女だった。
陽炎で揺れる少女の表情はどこか不安気で、赤いドレスを身に纏ったその姿はこの場所には場違いだったが、彼女が手に持つ銃型オブジェクトだけは殺伐とした戦場にふさわしい実戦的なデザインで、そんな少女と武器の様子が妙に不釣り合いだった。
「お前じゃない。私の名前はファレム。覚えなくていいわ。あなたは今日、ここで死ぬんだから」
ファレムと名乗るその少女は、そう言い放って俺に銃口を向けた。
「言ってくれるな。俺はレハト。生憎、俺はこんなしょうもないところで死ぬわけにいかないし、女に手を出す質でもないんだ。大人しくここから出してくれ」
「どこまで行っても生意気ね。全身丸焦げにしてあげるわ!」
そう言うと、彼女は銃のオブジェクトから無数の火炎弾を放ってきた。しかし弾速はそう速くない。俺は火炎弾の動きを避けながら素早くグランディウスで大地を叩き、土の壁で攻撃を防いだ。
「ちっ。めんどうなオブジェクトね。」
ファレムは俺の周りを走り回りながら次々と火炎弾を放っていくが、それを防ぐ事は容易い。それでもファレムはお構いなく火炎弾を発射し続けた。
「何度やっても、その攻撃は俺には効かねぇぞ!」
「さぁ、それはどうかしら?」
彼女の顔に不敵な笑みが浮かんだ。
何だ?何がおかしい?
思考を巡らして彼女の真意を探ろうとしたその時、突然意識が朦朧とし、咳が出てきた。息が苦しい。
「ゲホッ、おかしいな。お前、俺に何をした!」
「まだ気づいてないの?周りで火が燃えているのにそんなに壁を作ったら、室内は酸素が薄くなるに決まってるでしょ?」
ファレムの発言にハッとして、俺は周囲を見渡す。360度どこを見回しても土の壁、壁、壁。なりふり構わず壁を作ったせいで、気づかぬ内に上空以外の全てを密封してしまっていたらしい。
(マズイ。ロビンがいればこんなことには・・・)
「これは私自身がやったわけじゃないから殺人にはならないでしょ?どうにか脱出出来たとしても、その状態じゃまともに戦えないわね。そこで大人しくしてなさい」
どんどん彼女の声が遠くなっていく。頭痛や目眩まで生じ始めた。このままでは本当に命に関わる。
だが、こんな所でくたばる程甘い鍛え方はしていない。
俺はグランディウスの柄を固く握りしめ直すと、歯を食いしばり、脚を開いて、力強くグランディウスを大地に叩き付ける。
「勝手に殺すなぁぁぁぁぁ!!!!!!」
グワンッッッッッッッッ!!!!!!1
己を鼓舞するように、力の限り叫ぶ。
消えかける意識を気合で取り戻すかの如く振り下ろされたグランディウスの衝撃は、会場中に軽い地震を引き起こした。その勢いのまま俺は最初のように地面を隆起させると、一気に壁を飛び越えて空中からファレムを追いかける。
振り向いたファレムは口をポカンと開けて、瞳孔を広げた。
「あれだけの酸欠で、なんでそんなに動けるの!?」
「鍛え方が違うんだよおぉぉ!」
飛んだ勢いのまま、大地に力強くグランディウスを振り下ろす。
ドンッッッッッ!!!!!
激しい地鳴りが2人の足元から伝わる。ジェクトの力によって押し上げられた大地は、無数の壁となってファレムをドーム状に覆い、彼女を中に閉じ込めた。
その瞬間、会場に試験終了の放送が流れた。
━━━━━━━━━15分前━━━━━━━━━
(レハトは大丈夫かな・・・。とにかく、今は僕一人で何とかしなくちゃ・・・!)
クリーチャの相手をしている間にも、僕の頭からはレハトへの心配が抜けきれずにいた。でもレハトが大丈夫と言ったなら、きっと大丈夫なはずだ。そう信じて僕は戦闘を続けた。
そんな中、僕は前方からたくさんの何かが飛んできている事に気づくことが出来なかった。
ザザザシュッッッ!!!
足や胴体に、ちくりとした物が数本刺さった。
「ぐっ!これは・・・棘か?」
よく見てみると、それは人の指の第一関節ほどの大きさの棘だった。先端が少しべたついているが、痛みは大して感じない。大きさや方向から考えて、数十メートル前に見えるハリネズミ型のクリーチャー{ジャグドヘッジホッグ}の物だろうか。
(ダメージは少ないけど、あいつを倒さなきゃ。)
いくつか棘を抜き取ると、再び襲い掛かる棘を掻い潜りながらジャグドヘッジホッグ目掛けて矢を撃ちこむ。体の弱い僕が棘を避けられるのも修行の成果だ。
しかし、いくら倒しても攻撃が止む事は無かった。撃っても撃ってもジャグドヘッジホッグは次々と姿を現し、僕に襲い掛かった。
(マズイ。このままじゃ力を使い果たして矢を撃てなくなる・・・)
僕のアマテラスは、レハトのグランディウスに比べれば悔しい程に非力だ。レハトがいれば、一度の攻撃でもっと多くのクリーチャーを倒せたはずだ。決してここまで追い込まれない。
もちろん、だからと言って諦めるわけにはいかない。歯を食いしばりながらひたすらに僕も反撃を続けたが、じりじりと追い込まれる一方だった。
そして、不幸はそれだけにとどまらなかった。
ビリリ・・・
「ぐっ・・・!」
おかしい。
さっきまで問題なく動いていた僕の手足の動きが、次第に鈍くなっている。頭からの指令に体が追い付いていないのだ。神経がピリリと痺れ、うまく体を動かすことが出来ない。
(この棘、まさか先端に塗られているのは遅効性の神経毒か?ジャグドヘッジホッグの棘に毒なんて無かったはずなのに・・・!)
そう考えを巡らす間にも、棘は延々と発射され続ける。必死に回避と反撃を試みるも、動きが鈍くなったせいでただのサンドバッグと化してしまっている。
「おい!あんた大丈夫か!?」
突然聞き覚えのない声がしたかと思うと、僕の目の前に1人の少年が現れた。彼は鋼のように硬化した両腕で棘を弾きながら、力強くクリーチャーを蹴散らしていく。
「なんで僕を助けるんだ!危険すぎる!」
「んな事言ったって、目の前で人が死にかけてんのを黙って見てられるかっての!」
しかし、彼の助けをもってしてもこの状況を打破するには至らなかった。クリーチャーを倒そうにもここから逃げようにも、僕の体はほぼ動かない。弓矢を何発か撃つだけで精一杯だし、おまけにジェクトの力自体も持ちそうにない。
アオオオォォォン!
後方から何かの咆哮。身の毛もよだつ獣の殺気。
青ざめた表情で後ろを振り返ると、近くにいた犬型のクリーチャー{ハンガーハウンド}の群れが、こちらに気づいて襲い掛かってきたのが見えた。
(万事休すか・・・!)
逃げ場は完全に閉ざされた。不自由な体を懸命に動かしてハンガーハウンドに立ち向かうも、毒による目眩や吐き気が相まって全く当たっている気配が無い。
━━━━━ㇲゥゥゥゥゥ
絶望を告げる音が耳元で囁いた。緑に輝いていた僕のジェクトはその光を失い、とうとう力を使い果たしてしまったのだ。
既に、絶望する気力も起きなかった。僕の体を動かしていた唯一の気力さえも無くなり、体からは力が抜け、その場に膝から倒れこんだ。ただの鉄棒に成り下がったアマテラスが、カラカラと音を立てて地に落ちる。
ハンガーハウンドの足音が徐々に近づいてくる。だけど、もうそれに立ち向かう事は僕には出来なかった。
バタッ
そのまま、僕は気を失って地に伏した。
ここで諦めちゃいけないなんて分かってる。
分かってはいるけど、もう動かない。
諦めるしかないんだと、耳元で悪魔が笑ってる。
閉じられた瞳の闇の向こうで、死を宣告するカウントダウンが始まった。
僕に出来る事は、僕に期待を寄せてくれた人達への謝罪だけだった。
「ごめんレハト・・・約束、守れなかった・・・・・。ごめん・・・ごめんなさい、母さん・・・!ごめん・・・・・」
瞳から、涙が零れ堕ちた。
━━━━━キィィィィィン
起きて
脳内に響いた声で、僕は目を覚ました。
甘くて綺麗な香りが僕の体を包み、サラサラとした川のせせらぎだけが聞こえて来る。
僕は今、綺麗な花々が広がる平原に立っている。頭上には果てしない青い空が広がり、ふかふかの腕を広げた小さな動物が空を飛んでさえずりを奏でた。
目に映る景色が、天恵期の自然を写した本の景色と重なりあう。
「青空・・・。」
その時、僕は悟った。きっとここは、昔絵本で読んだ天国という場所だろうと。
人が死んだ後に行く場所━━━それが天国なのだと、何かの本で読んだことがある。
僕はきっと、死んだんだ。
気づくと、目には涙が溢れていた。
でもそれは、死んでしまった悲しみからじゃない。子供の頃からずっと憧れていた青空が、目の前にあるからだ。
永遠に見ることは叶わないと思っていた青空。
どこまでどこまでも広がる、透き通るような青。
そんな空の美しさに、この上ない感動を覚えた。
周りを見回してみると、小川の向こうにワンピースを着た黒髪の少女がこちらを見ていた。
しかし、遠くて顔は見えない。
少女の方へ行こうとすると、僕の手にアマテラスが握られていることに気づいた。
だが、今までと違う点が一つある。
これまで見たことないほどに、アマテラスは鮮やかな緑色に光り輝いていた。
体は導かれるようにアマテラスを構え、矢を放つ動作をする。
その瞬間、突風が吹き荒れ、目の前の景色ごと吹き飛ばしていった━━━━━。
気が付くと、僕は先程の試験会場にいた。
目の前では信じられない程大地が穿たれていて、200m程先の壁に大穴が空いている。他の受験者達は驚いた顔でこちらを見ている。
無論、さっきまで周りにいた数多のクリーチャーは跡形もなく消し飛んでいた。
唖然とする僕に向かって、さっき助けてくれた受験生が話しかけて来た。彼も何が起こったのか分からない様子で、目を丸くしていた、
「あ、あの・・・さっき、何が起こった・・・んですか・・・?」
何故か口調が敬語になっている。
「何って・・・・?」
「いや、何って言われても・・・。さっき倒れたと思ったら、すぐに立ち上がってその弓矢撃ったじゃないですか?そしたら、風がこう・・・ビュビュウッてなって、ズガガァッって・・・」
詳しくは分からないが、つまるところ、僕が攻撃したらこうなった・・・という事なのだろう。だとすると、夢の中で無意識化に撃ったあの攻撃が原因だと思うのだが、夢の中での攻撃が実体化するわけがない。それに、力を失ったはずのアマテラスが何故ここまで強力な一撃を撃てたのかも分からない。不可解な点ばかりだ。
とにかく、周りの様子から察するに、試験ももう終了しているようだった。さっきの攻撃のせいで沢山の受験生から注目の的になってしまっているが、あまり気分のいいものではない。一先ずそそくさと会場を出ると、丁度レハトと合流できた。
「おうロビン!お互い無事で何よりだ!ところで、さっきからめっちゃ視線感じるんだけど、もしかして俺がかっこy」
「ごめん、多分それ僕のせい・・・」
何も知らないレハトは能天気にふざけているが、状況を理解出来ていない僕にはそれに付き合っている暇がない。
「なんかあったのか?ロビンとは結構離れたとこにいたから分かんねぇんだよ」
僕は会場での出来事と、夢で見た花畑のことを話した。
「なんだそれ。ロビン、言っておくがそういう妄想をしちゃう時期は誰にでもある。俺だって昔は空が飛べるとか、もう一つの人格が俺の中に眠ってるとか思ってたもんだ。でも、そういう妄想はもう2~3年小さな子がするものだぜ?」
「そんな拗らせてないよ!・・・僕が見た夢はともかく、あの攻撃は本当っぽいし。でも、アマテラスはもう力を使い果たしちゃったんだよなぁ。とにかく、レハトも無事で本当に良かったけど・・・」
アマテラスにはめられていた風のジェクトは光を失い、ただの石ころのようになってしまっている。これではもはや使い物にならない。
「まぁ、今はこうして生きてることを喜ぼうぜ。一番の問題は合否だろ?」
「・・・まあ、それもそうだね。発表は1週間後だから、それまではこの街の観光でもしようか」
胸に残る不安は抜けない。合否の心配も、謎の攻撃の正体も、力を失ったアマテラスも、未来に対しての不安点があまりに多すぎる。
僕はそんな不安を感じながらも、一先ず試験が全て終わったことによる安心感を噛み締めて、そんなことを話しながら会場を後にしたのだった。
その姿を、ベースの一室から頬杖をついて見下ろす男女が2人。
「ヒティア。今回の試験どう思った?」
栗色の短髪と金色のメッシュが特徴的な、30代ほどの屈強な男が女に話しかけた。
「はぁ・・・。誰がどう見ても今年は異常でしょ。言うまでもないじゃない。ある会場ではただの受験生が深層融合を使うし、またある会場では、1人で1つの会場のクリーチャーの9割倒しちゃうし、おまけに中級クリーチャーが突然上級に進化して、一人を除いて皆殺しになった会場もあったらしいじゃない。4分の3で異常事態が起こるとか怖すぎよ。あんたも大変だったそうじゃない、ライデン?」
女性はため息をついて憂鬱そうな顔で男に質問し返す。
「そうだな。会場に上級が出たとなりゃ、犠牲者を減らす為に少しでも速く討伐しなきゃならないのに、試験終了まで手出しをするなってさ。そのせいで多くの命が失われたんだ。今日は審査員として来たとは言え、相変わらず上は信用ならねぇよ。」
質問し返された屈強な男は、栗色の顎髭を触りながら顔をしかめる。
「トレイルブレイザーの隊長のあなたがすぐ動けていれば、誰一人死ぬこともなかったのにね。それにしても上級が出たとはいえ、その時あなたも相当上に反抗したらしいじゃない?そんなに焦るなんて、受験者の中に知り合いでもいたの?」
「まぁ、知り合いかどうかは分からないんだがな。似てたってだけさ。」
「そう。とにかく、今回の事件が何か悪いことが起きる前兆じゃなければいいんだけど・・・。」
そう言ってヒティアと呼ばれたその女は、ライデンという男と共に、今日も仕事場へと向かうのだった。
ユーサリア セントリアス区 トレイルブレイザーベース 第2次試験試験会場
「ロビン、止まれ!」
ガンッッッ!!!
会場に入った瞬間、俺は大地を思い切りグランディウスで叩いた。グランディウスの衝撃は大きく円形に広がり、周囲の受験生の足にもその衝撃は伝播する。
その時、グランディウスに埋められた鈍色の〈土〉のジェクトが反応し、俺達の踏みしめる大地が一瞬にして激しく盛り上がった。俺たち2人の身体は大きく弾き飛ばされ、空中にふわりと投げ出された。
「俺とロビンの足場だけ隆起させた!これで他の受験者と距離を取れるだろ?」
体を打ち付ける風が気持ちいい。
空中旅行を満喫する俺の真横で、ロビンは驚いて体制を崩しまくっている。高所恐怖症ではないはずだが、下を見ないようにと目を瞑っていた。
「い、いや、確かにそうだけど!このあとどうすんのぉぉぉぉぉ!?!?」
「ぷっ!ハハハハハッ!ロビン、なんだよその顔!」
体勢を崩して頭から風をもろに受けているロビンの口は、歯茎までくっきりと見えるほど大きく開かれ、乾燥した目からは微かに涙が漏れている。
そんな様子を見た俺は笑いを堪え切れずに口を大きく開けると、案の定俺まで風を顔面から受けてしまった。
「えあお!?おおあおおううううおい!?(レハト!?この後どうするつもり!?)」
「え!?いおえあいお!?(え!?聞こえないよ!?)」
「あああ、おううう(だから、どうする)・・・っえ、うあああぁぁぁぁ!!!!」
200m程飛ばされただろうか。
着地の瞬間、もう一度大地を叩く。すると今度は地面がクッションのようになり、俺たちを綺麗にキャッチした。
そこまではよかった。だが、他の受験者から離れて中心部に近づくという事は、敵地のど真ん中に突入するのと同じ事。俺達はすぐさま血に飢えたクリーチャーに囲まれてしまい、逃げ場を失った。
「ロビン、空中の奴は頼んだ!」
ガンッガンッガンッッ!!!
更にもう一度大地を叩く。衝撃を受けた大地は鋭く尖りながら天に向かって伸びていく。そうして生じた1m前後の無数の棘が、地上のクリーチャーの腸を正確に貫いていった。
そしてその好機を見逃さまいと、俺の背後からロビンが姿を現した。軽い足取りでジャンプして、すかさずアマテラスを構えた。すると、ただの鉄の棒でしかなかったアマテラスの両端から鮮やかな緑の光の線が出現し、同時に、その中心に空気が集まり始めた。やがてその空気は矢のような実体を作り出し、ロビンのコートをはためかせる。放たれた弓矢は、風を切りながら空中のクリーチャー・・・ではなく、生成された土の棘を射抜いた。
パキンッ
棘が砕ける。その破片は固い岩片となって、飛行する複数のクリーチャーの皮膚を切り裂き、打ち落としていった。一度でより多くのクリーチャーに攻撃できる、ジェクトが小さいロビンなりの工夫だ。
「よし!次は向こうだ!」
俺達の戦いがちゃんと通用している。修行がしっかりと身になっている。安堵した俺達は、その後も受験者の妨害を避けながら的確にクリーチャーを殲滅していった。
時間は刻一刻と過ぎていった。事件が起きたのは、残り15分程度になった頃。俺達の体にも次第に疲労が溜まり始めていたその時、突如俺の頭上で何かが光った。
「・・・っ!」
バシュッ!
熱い。体が焼けるような感覚を感じ、たまらず反射的に距離を取った。
顔を上げると、赤い炎━━━俺とロビンとの間を隔絶する、紅蓮に燃える炎がそこに広がっていた。
「うおっ!なんだこの炎!?」
「レハト!」
ロビンは咄嗟に俺に手を差し伸べる。しかし、あまりの熱さにすぐさま手を引っ込めた。
「俺の事はいい!お前はここから離れてクリーチャーを倒せ!」
「そんなこと言ったって・・・」
「いいから行け!」
そう言ってロビンを鼓舞しようとする俺の声は、僅かながら震えていた気がする。
だけど、このままもたもたしていては合格から遠ざかってしまうのも事実。
俺の目を見たロビンは一瞬の躊躇の後、すぐさま首を縦に振った。
「・・・分かった」
そう言ってロビンは俺に背を向け、急いでその場を後にした。
俺がロビンを見送った直後、岩場の上から聞き覚えのある女の声が聞こえた。
「あら、さっきのはお友達だったのかしら?いかにも弱そうなお友達ね。」
「お前、昨日の!」
そこにいたのは、昨日バケツの少女に銃を向けていた少女だった。
陽炎で揺れる少女の表情はどこか不安気で、赤いドレスを身に纏ったその姿はこの場所には場違いだったが、彼女が手に持つ銃型オブジェクトだけは殺伐とした戦場にふさわしい実戦的なデザインで、そんな少女と武器の様子が妙に不釣り合いだった。
「お前じゃない。私の名前はファレム。覚えなくていいわ。あなたは今日、ここで死ぬんだから」
ファレムと名乗るその少女は、そう言い放って俺に銃口を向けた。
「言ってくれるな。俺はレハト。生憎、俺はこんなしょうもないところで死ぬわけにいかないし、女に手を出す質でもないんだ。大人しくここから出してくれ」
「どこまで行っても生意気ね。全身丸焦げにしてあげるわ!」
そう言うと、彼女は銃のオブジェクトから無数の火炎弾を放ってきた。しかし弾速はそう速くない。俺は火炎弾の動きを避けながら素早くグランディウスで大地を叩き、土の壁で攻撃を防いだ。
「ちっ。めんどうなオブジェクトね。」
ファレムは俺の周りを走り回りながら次々と火炎弾を放っていくが、それを防ぐ事は容易い。それでもファレムはお構いなく火炎弾を発射し続けた。
「何度やっても、その攻撃は俺には効かねぇぞ!」
「さぁ、それはどうかしら?」
彼女の顔に不敵な笑みが浮かんだ。
何だ?何がおかしい?
思考を巡らして彼女の真意を探ろうとしたその時、突然意識が朦朧とし、咳が出てきた。息が苦しい。
「ゲホッ、おかしいな。お前、俺に何をした!」
「まだ気づいてないの?周りで火が燃えているのにそんなに壁を作ったら、室内は酸素が薄くなるに決まってるでしょ?」
ファレムの発言にハッとして、俺は周囲を見渡す。360度どこを見回しても土の壁、壁、壁。なりふり構わず壁を作ったせいで、気づかぬ内に上空以外の全てを密封してしまっていたらしい。
(マズイ。ロビンがいればこんなことには・・・)
「これは私自身がやったわけじゃないから殺人にはならないでしょ?どうにか脱出出来たとしても、その状態じゃまともに戦えないわね。そこで大人しくしてなさい」
どんどん彼女の声が遠くなっていく。頭痛や目眩まで生じ始めた。このままでは本当に命に関わる。
だが、こんな所でくたばる程甘い鍛え方はしていない。
俺はグランディウスの柄を固く握りしめ直すと、歯を食いしばり、脚を開いて、力強くグランディウスを大地に叩き付ける。
「勝手に殺すなぁぁぁぁぁ!!!!!!」
グワンッッッッッッッッ!!!!!!1
己を鼓舞するように、力の限り叫ぶ。
消えかける意識を気合で取り戻すかの如く振り下ろされたグランディウスの衝撃は、会場中に軽い地震を引き起こした。その勢いのまま俺は最初のように地面を隆起させると、一気に壁を飛び越えて空中からファレムを追いかける。
振り向いたファレムは口をポカンと開けて、瞳孔を広げた。
「あれだけの酸欠で、なんでそんなに動けるの!?」
「鍛え方が違うんだよおぉぉ!」
飛んだ勢いのまま、大地に力強くグランディウスを振り下ろす。
ドンッッッッッ!!!!!
激しい地鳴りが2人の足元から伝わる。ジェクトの力によって押し上げられた大地は、無数の壁となってファレムをドーム状に覆い、彼女を中に閉じ込めた。
その瞬間、会場に試験終了の放送が流れた。
━━━━━━━━━15分前━━━━━━━━━
(レハトは大丈夫かな・・・。とにかく、今は僕一人で何とかしなくちゃ・・・!)
クリーチャの相手をしている間にも、僕の頭からはレハトへの心配が抜けきれずにいた。でもレハトが大丈夫と言ったなら、きっと大丈夫なはずだ。そう信じて僕は戦闘を続けた。
そんな中、僕は前方からたくさんの何かが飛んできている事に気づくことが出来なかった。
ザザザシュッッッ!!!
足や胴体に、ちくりとした物が数本刺さった。
「ぐっ!これは・・・棘か?」
よく見てみると、それは人の指の第一関節ほどの大きさの棘だった。先端が少しべたついているが、痛みは大して感じない。大きさや方向から考えて、数十メートル前に見えるハリネズミ型のクリーチャー{ジャグドヘッジホッグ}の物だろうか。
(ダメージは少ないけど、あいつを倒さなきゃ。)
いくつか棘を抜き取ると、再び襲い掛かる棘を掻い潜りながらジャグドヘッジホッグ目掛けて矢を撃ちこむ。体の弱い僕が棘を避けられるのも修行の成果だ。
しかし、いくら倒しても攻撃が止む事は無かった。撃っても撃ってもジャグドヘッジホッグは次々と姿を現し、僕に襲い掛かった。
(マズイ。このままじゃ力を使い果たして矢を撃てなくなる・・・)
僕のアマテラスは、レハトのグランディウスに比べれば悔しい程に非力だ。レハトがいれば、一度の攻撃でもっと多くのクリーチャーを倒せたはずだ。決してここまで追い込まれない。
もちろん、だからと言って諦めるわけにはいかない。歯を食いしばりながらひたすらに僕も反撃を続けたが、じりじりと追い込まれる一方だった。
そして、不幸はそれだけにとどまらなかった。
ビリリ・・・
「ぐっ・・・!」
おかしい。
さっきまで問題なく動いていた僕の手足の動きが、次第に鈍くなっている。頭からの指令に体が追い付いていないのだ。神経がピリリと痺れ、うまく体を動かすことが出来ない。
(この棘、まさか先端に塗られているのは遅効性の神経毒か?ジャグドヘッジホッグの棘に毒なんて無かったはずなのに・・・!)
そう考えを巡らす間にも、棘は延々と発射され続ける。必死に回避と反撃を試みるも、動きが鈍くなったせいでただのサンドバッグと化してしまっている。
「おい!あんた大丈夫か!?」
突然聞き覚えのない声がしたかと思うと、僕の目の前に1人の少年が現れた。彼は鋼のように硬化した両腕で棘を弾きながら、力強くクリーチャーを蹴散らしていく。
「なんで僕を助けるんだ!危険すぎる!」
「んな事言ったって、目の前で人が死にかけてんのを黙って見てられるかっての!」
しかし、彼の助けをもってしてもこの状況を打破するには至らなかった。クリーチャーを倒そうにもここから逃げようにも、僕の体はほぼ動かない。弓矢を何発か撃つだけで精一杯だし、おまけにジェクトの力自体も持ちそうにない。
アオオオォォォン!
後方から何かの咆哮。身の毛もよだつ獣の殺気。
青ざめた表情で後ろを振り返ると、近くにいた犬型のクリーチャー{ハンガーハウンド}の群れが、こちらに気づいて襲い掛かってきたのが見えた。
(万事休すか・・・!)
逃げ場は完全に閉ざされた。不自由な体を懸命に動かしてハンガーハウンドに立ち向かうも、毒による目眩や吐き気が相まって全く当たっている気配が無い。
━━━━━ㇲゥゥゥゥゥ
絶望を告げる音が耳元で囁いた。緑に輝いていた僕のジェクトはその光を失い、とうとう力を使い果たしてしまったのだ。
既に、絶望する気力も起きなかった。僕の体を動かしていた唯一の気力さえも無くなり、体からは力が抜け、その場に膝から倒れこんだ。ただの鉄棒に成り下がったアマテラスが、カラカラと音を立てて地に落ちる。
ハンガーハウンドの足音が徐々に近づいてくる。だけど、もうそれに立ち向かう事は僕には出来なかった。
バタッ
そのまま、僕は気を失って地に伏した。
ここで諦めちゃいけないなんて分かってる。
分かってはいるけど、もう動かない。
諦めるしかないんだと、耳元で悪魔が笑ってる。
閉じられた瞳の闇の向こうで、死を宣告するカウントダウンが始まった。
僕に出来る事は、僕に期待を寄せてくれた人達への謝罪だけだった。
「ごめんレハト・・・約束、守れなかった・・・・・。ごめん・・・ごめんなさい、母さん・・・!ごめん・・・・・」
瞳から、涙が零れ堕ちた。
━━━━━キィィィィィン
起きて
脳内に響いた声で、僕は目を覚ました。
甘くて綺麗な香りが僕の体を包み、サラサラとした川のせせらぎだけが聞こえて来る。
僕は今、綺麗な花々が広がる平原に立っている。頭上には果てしない青い空が広がり、ふかふかの腕を広げた小さな動物が空を飛んでさえずりを奏でた。
目に映る景色が、天恵期の自然を写した本の景色と重なりあう。
「青空・・・。」
その時、僕は悟った。きっとここは、昔絵本で読んだ天国という場所だろうと。
人が死んだ後に行く場所━━━それが天国なのだと、何かの本で読んだことがある。
僕はきっと、死んだんだ。
気づくと、目には涙が溢れていた。
でもそれは、死んでしまった悲しみからじゃない。子供の頃からずっと憧れていた青空が、目の前にあるからだ。
永遠に見ることは叶わないと思っていた青空。
どこまでどこまでも広がる、透き通るような青。
そんな空の美しさに、この上ない感動を覚えた。
周りを見回してみると、小川の向こうにワンピースを着た黒髪の少女がこちらを見ていた。
しかし、遠くて顔は見えない。
少女の方へ行こうとすると、僕の手にアマテラスが握られていることに気づいた。
だが、今までと違う点が一つある。
これまで見たことないほどに、アマテラスは鮮やかな緑色に光り輝いていた。
体は導かれるようにアマテラスを構え、矢を放つ動作をする。
その瞬間、突風が吹き荒れ、目の前の景色ごと吹き飛ばしていった━━━━━。
気が付くと、僕は先程の試験会場にいた。
目の前では信じられない程大地が穿たれていて、200m程先の壁に大穴が空いている。他の受験者達は驚いた顔でこちらを見ている。
無論、さっきまで周りにいた数多のクリーチャーは跡形もなく消し飛んでいた。
唖然とする僕に向かって、さっき助けてくれた受験生が話しかけて来た。彼も何が起こったのか分からない様子で、目を丸くしていた、
「あ、あの・・・さっき、何が起こった・・・んですか・・・?」
何故か口調が敬語になっている。
「何って・・・・?」
「いや、何って言われても・・・。さっき倒れたと思ったら、すぐに立ち上がってその弓矢撃ったじゃないですか?そしたら、風がこう・・・ビュビュウッてなって、ズガガァッって・・・」
詳しくは分からないが、つまるところ、僕が攻撃したらこうなった・・・という事なのだろう。だとすると、夢の中で無意識化に撃ったあの攻撃が原因だと思うのだが、夢の中での攻撃が実体化するわけがない。それに、力を失ったはずのアマテラスが何故ここまで強力な一撃を撃てたのかも分からない。不可解な点ばかりだ。
とにかく、周りの様子から察するに、試験ももう終了しているようだった。さっきの攻撃のせいで沢山の受験生から注目の的になってしまっているが、あまり気分のいいものではない。一先ずそそくさと会場を出ると、丁度レハトと合流できた。
「おうロビン!お互い無事で何よりだ!ところで、さっきからめっちゃ視線感じるんだけど、もしかして俺がかっこy」
「ごめん、多分それ僕のせい・・・」
何も知らないレハトは能天気にふざけているが、状況を理解出来ていない僕にはそれに付き合っている暇がない。
「なんかあったのか?ロビンとは結構離れたとこにいたから分かんねぇんだよ」
僕は会場での出来事と、夢で見た花畑のことを話した。
「なんだそれ。ロビン、言っておくがそういう妄想をしちゃう時期は誰にでもある。俺だって昔は空が飛べるとか、もう一つの人格が俺の中に眠ってるとか思ってたもんだ。でも、そういう妄想はもう2~3年小さな子がするものだぜ?」
「そんな拗らせてないよ!・・・僕が見た夢はともかく、あの攻撃は本当っぽいし。でも、アマテラスはもう力を使い果たしちゃったんだよなぁ。とにかく、レハトも無事で本当に良かったけど・・・」
アマテラスにはめられていた風のジェクトは光を失い、ただの石ころのようになってしまっている。これではもはや使い物にならない。
「まぁ、今はこうして生きてることを喜ぼうぜ。一番の問題は合否だろ?」
「・・・まあ、それもそうだね。発表は1週間後だから、それまではこの街の観光でもしようか」
胸に残る不安は抜けない。合否の心配も、謎の攻撃の正体も、力を失ったアマテラスも、未来に対しての不安点があまりに多すぎる。
僕はそんな不安を感じながらも、一先ず試験が全て終わったことによる安心感を噛み締めて、そんなことを話しながら会場を後にしたのだった。
その姿を、ベースの一室から頬杖をついて見下ろす男女が2人。
「ヒティア。今回の試験どう思った?」
栗色の短髪と金色のメッシュが特徴的な、30代ほどの屈強な男が女に話しかけた。
「はぁ・・・。誰がどう見ても今年は異常でしょ。言うまでもないじゃない。ある会場ではただの受験生が深層融合を使うし、またある会場では、1人で1つの会場のクリーチャーの9割倒しちゃうし、おまけに中級クリーチャーが突然上級に進化して、一人を除いて皆殺しになった会場もあったらしいじゃない。4分の3で異常事態が起こるとか怖すぎよ。あんたも大変だったそうじゃない、ライデン?」
女性はため息をついて憂鬱そうな顔で男に質問し返す。
「そうだな。会場に上級が出たとなりゃ、犠牲者を減らす為に少しでも速く討伐しなきゃならないのに、試験終了まで手出しをするなってさ。そのせいで多くの命が失われたんだ。今日は審査員として来たとは言え、相変わらず上は信用ならねぇよ。」
質問し返された屈強な男は、栗色の顎髭を触りながら顔をしかめる。
「トレイルブレイザーの隊長のあなたがすぐ動けていれば、誰一人死ぬこともなかったのにね。それにしても上級が出たとはいえ、その時あなたも相当上に反抗したらしいじゃない?そんなに焦るなんて、受験者の中に知り合いでもいたの?」
「まぁ、知り合いかどうかは分からないんだがな。似てたってだけさ。」
「そう。とにかく、今回の事件が何か悪いことが起きる前兆じゃなければいいんだけど・・・。」
そう言ってヒティアと呼ばれたその女は、ライデンという男と共に、今日も仕事場へと向かうのだった。
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