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第1章 憧れへの挑戦
Ⅰ BEGINNING
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地恵期20年 2月10日
アメリカ 旧カリフォルニア 第7洞窟 マインズ ストネア区
「おはようございます。BREAKING NEWS のお時間になりました。本日の司会はわたくし、ジョンソン=スミスです。さて突然ですが、今日は何の日だか分かりますか?そう、トレイルブレイザー選考試験の1日目です。ここで改めて、トレイルブレイザーについておさらいしてみましょう」
軽快なBGMと共に、毎朝見ているニュース番組がホログラムTVから流れて来た。
冷蔵庫から出したばかりのミルクをグイっと飲み干すと、キッチンから俺の母ちゃんが顔を出し、早く朝飯を食べろと叱りだす。
そんないつも通りの朝が今日もやって来た。
TVの向こうでは、スタジオの映像がVTRに切り替わり、
『ショッキングな映像が流れるためご注意ください』
と書かれたテロップと共に、ワールドレイジの映像が流れだした。
「20年前の8月20日、世界が滅亡するほどの超巨大災害【ワールドレイジ】が発生しました。地震、火災、津波、疾病、飢餓、あらゆる天災が世界を襲い、人類は滅亡の窮地に立たされました。そして追い打ちをかけるかのように世界中の火山が噴火を始め、火山灰が空を覆い、やがて地球に氷河期が到来しました。私達は地表に偶然出現した謎の超巨大洞窟での生活を余儀なくされましたが、その洞窟には【クリーチャー】と呼ばれる危険生物が潜んでいたのです」
VTRは、ワールドレイジ時の映像からクリーチャーが人間を襲っている映像へと切り替わる。そしてそんな中現れたのが、皆さんご存じ【トレイルブレイザー】だ。
「こちらヒティア。クライスターレのブイルド区にて、上級クリーチャー{ギガントベアー}発見。体長は20m程。同行中のスマル隊員と共に討伐にあたる。救援要請は不要」
「了解。速やかな討伐を願います」
通信機で連絡を取っているのはヒティア=へアトス。トレイルブレイザーの副隊長だ。男勝りな性格で、身体も鍛え抜かれているTHE・武闘派だ。
この映像は1年ほど前の密着取材中にたまたま彼女がクリーチャーを発見した時の映像で、トレイルブレイザーの紹介映像としてよく流されている。
「取材中に申し訳ないが緊急のお仕事だ。撮っておいて構わんが、撮れ高とかは気にしないから頑張って付いて来い。スマルは少し離れたビルの屋上で待機。連絡次第射撃準備」
「了解!」
その掛け声とともに、2人は風の様に走り出し、取材陣を置いてけぼりにした。
カメラはすぐさまドローンに切り替わり、至近距離から走っているヒティアの姿を映す。
「しっかり映せよ報道陣!まずは私の手についている赤いガントレットが【オブジェ】!つまり器ぁ!」
彼女はどこかのビルの中に入り、階段を駆け上がる。
「この丸い宝石が【ジェクト】!これをオブジェに装填すると、様々な力を付与してくれる!つまり器の中身ぃぃ!!」
勢いよく屋上へ出ると、目の前にはギガントベアーの巨大な頭があり、両者の目が合った。
ヒティア副隊長は赤いジェクトを右腕のオブジェに装填し、拳を握る。するとガントレットが振動し、勢いよく蒸気が噴出された。
「そして、オブジェとジェクトを合わせた物が【オブジェクト】!つまり・・・」
ジュウゥゥゥゥゥ・・・・・ガンッッッ!!!
「これが我々の武器だぁぁぁ!!!」
彼女は屋上から飛び出し、ギガントベアーの頭を真正面から思いっきり殴り飛ばす。
殴られたギガントベアーは十数mふっ飛ばされ、ビル街が粉々になるかに思えたその時・・・
「撃てぇ!」
ピシュンッ!
小さな麻酔針のような物を撃たれたギガントベアーはみるみるうちに体が縮んでいき、人間大の大きさにまでなってビルに衝突。
窓ガラスを突き破ってビルのフロア内に吹っ飛んだギガントベアーを追い、即座に彼女もビルに突っ込む。
「グオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」
立ち上がったギガントベアーは咆哮を唸らせ、反撃を試みる。
しかし、軽い身のこなしで咆哮を躱した彼女は、がら空きになった腹に回し蹴りをお見舞いする。
「我々こそ、人類に仇なすクリーチャーを討伐する組織!その名も・・・・・!」
固く握られた彼女の右手が激しく振動する。その拳は激しい熱気を漂わせ、周囲に陽炎を起こした。脚を開き、右手を後ろに引く。その勇ましき姿は正に鬼神。前方に突き放たれた右腕は、紅く、輝いていた。
「【トレイルブレイザー】だぁぁぁぁぁ!!!!!」
弾丸のような速さで吹き飛ばされたギガントベアーはしばらく空中を漂い、そして爆発四散した。
「・・・任務完了」
ピッ
ホログラムTVの電源を消し、テーブルを立った。
相変わらず凄まじい戦いっぷりだ。何度見ても鳥肌が立つ。これが俺の目指す【トレイルブレイザー】。正にヒーローみたいなものだ。
興奮冷めやらぬ中、俺は玄関に用意されていたバッグとオブジェクトを手に持った。
俺の名前はレハト=ダイア。
5人兄弟の次男で、17歳。
192㎝86㎏という我ながら恵まれた体格で、髪はツンツン茶髪。
ルックスは・・・多分普通。
肌は珍しくもないヒスパニック系の薄い褐色で、瞳もよくあるブラウンアイ。
つまり、体格以外はどこにでもいそうなアメリカ人って事だ。
「レハト、忘れ物は無い?」
「昨日から10回も確認しただろ、母ちゃん。受験票もお金も全部持った。もう17歳になったんだからそんなに心配しなくても大丈夫だって。ロビンも一緒に行くんだしさ。」
なんで10回も忘れ物を確認するかって?それはもちろん、俺が人生の中で忘れ物をしまくってきたせいだ。学校の日にリュックごと忘れるのはもちろん、服を着ていくのを忘れたこともある。家族からはよく「産まれてくる時に知性を忘れて来たんじゃないか」とは言われるが、否定しきれないのが悔しいところだ。
「はぁ・・・。生まれた頃からの幼馴染があんただなんて、ロビンが可哀想だわ。折角マデロおじさんが作ってくれたオブジェクトも壊したりするんじゃないよ」
「わかってるって。もう待ち合わせの時間だから行くよ。いってきます!」
「いってらっしゃい」
玄関の扉を開けると、いつものように少し土臭い臭いが鼻を通り抜ける。石造りの民家が点々と並び、白く光る街灯が町中を照らしていた。
今日も静かな一日だ。
俺は身の丈ほどある巨大なハンマー型オブジェクトを片手で担ぐと、待ち合わせの駅へと走りだした。
街の中心部からは少し離れているおかげで、道中にはあまり人の姿はない。軽い足取りでスピードをグングンと上げると、民家の窓もガタガタと鳴り始める。走った後に吹く小さな風が、通り過ぎる人々の服をバサバサと揺らし、朝の空気を浴びながら俺は街を駆け抜けた。
「悪ぃ悪ぃ、待った?」
駅前にいたのは俺の幼馴染、ロビン=クィリネスだ。
俺と同じ17歳で、艶のある黒髪のナチュラルヘアと碧色の目が、街灯の光を受けてキラリと輝いている。俺より小柄で大人しい奴だけど、こいつは勉強がずば抜けて得意だ。成績も学年1位だし、どんな友達からも好かれるイケメン優等生。チャームポイントは、頭頂からぴょんと跳ねるアホ毛だ。
「30分待ったよ。もう怒るのも時間の無駄だから速く行こ。どうせ集合時間聞いてなかったでしょ」
「え?9時集合でしょ?」
「8時集合って伝えたよ!どうせ遅れるから8時半に来たのに・・・」
こんな事がよくあるから、ロビンには頭が上がらない。
そうこう言いながら、俺達は新首都ユーサリア行きのモノレールに乗車した。
いつもと違って、今日の乗客は俺達くらいの年頃の少年少女たちが多く、それに圧迫されている常連の大人達は少々肩身が狭そうな雰囲気で今日の朝刊を読んでいた。
真っ暗な窓の外をボケーッと見つめていた俺に、ロビンが話しかけてきた。
「それにしても、そのオブジェクトやけに大きいよね。何㎏ぐらいあるの?」
「んー、多分40㎏ぐらい?俺のは<土>のジェクトだから、重ければ重いほどいいんだよ。ロビンの弓のオブジェクトもいい感じだな。矢は無くていいのか?」
「僕のは<風>のジェクトだから、普通の矢の代わりに空気の矢を生み出せるんだよ」
俺が持っているのは、デカい鉄塊をそのままくっつけたようなハンマー型オブジェクト。塗装もされていない灰色と黒色の地味なオブジェクトだ。
そしてロビンの弓型オブジェクトも、黒い鉄の棒を緩やかに歪曲させたようなシンプルな構造をしている。
どっちもマデロおじさんっていう知り合いの職人に作ってもらったのだが、どうやらデザイン性というものには興味が無いらしい。
「・・・あっ、見えてきたよ」
ロビンが車窓の方を向きながらそう呟く。
そこから見えたのは、全長100メートル程のタワーや煌々と輝く無数の建造物達だ。無機質なビル街が洞窟内を圧迫するように立ち並び、白い街灯が町中を照らしている。奥には巨大な湖が広がり、街の光を受けて鮮やかに光り輝いている。
お互い終始無言でその景色を眺めた。
俺達を含む少年少女が向かっている場所は、その湖の中心にある『トレイルブレイザーベース』で行われる『トレイルブレイザー選考試検』だ。
(あれから14年か・・・)
俺は呆然と、トレイルブレイザーになると決めた14年前のある日を思い出していた。俺がトレイルブレイザーを志した時の景色と、その建物の光が重なり合った。
そして同じように、ロビンもその景色に感銘を受けていたように見える。
「行くぞ」
小さく呟いた俺の声に、ロビンは凛とした顔で頷いた。
第7洞窟━━━それが俺達の住む洞窟の名前だ。
かつて地表を栄えさせた高い技術力は受け継がれ、ジェクトによって科学の範疇を超えた事さえ実現できるものの、文明を失ってからの月日はそう長くはない。
そのため、この街もまだ発展途上と言わざるを得ないし、何より鉄などの物的資源が圧倒的に不足している。技術力はあるのに、大きく発展することは出来ないってことだ。
一見すると街並みは豊かなように見えるが、少し路地から外れると、家や家族を失った人達が座り込み、どこからか盗むか拾ってきた食べ物で今日を食いつないでいる。
俺達が着いたユーサリアという街は、この第7洞窟の首都だ。
セントリアス湖と呼ばれる湖を中心に街が栄えていて、湖上には国の重要機関が集まったセントリアス区が浮かんでいる。試験が行われるトレイルブレイザーベースもそこに位置している。
街とセントリアス区は3つの長い橋で繋がっている。
電車に乗ってその橋を渡り、ガイドボットの案内で俺達が辿り着いたのは、数十分前に車窓から見えた100メートル程のタワーだった。
「トレイルブレイザーの本部、トレイルブレイザーベース。ここはこの洞窟で最も大きい建物なんだ。実はタワーは一般開放されてる観光用で、実際の本部は地下に広がってるんだよね。」
得意げに話すロビンの表情は珍しく子供のようにキラキラしていて、その様子は俺にとっても少し意外なものだった。
100mで最大って言っても、ワールドレイジ以前はもっと高い建物などいくらでもあった。洞窟生活になった現在だと必然的に天井が低いから、100mが限界高度になるのは仕方ないと言えるだろう。
「ところで今日は筆記試験だけど、ちゃんと勉強してるよね?」
少し意地悪そうな表情でロビンは俺の方を向いた。相変わらずこいつは、座学に至っては余裕をかましている。
「ゔっ、嫌な事言うなよ・・・。まぁ、少しは勉強したけど」
「大丈夫だよ。筆記試験自体はそんなに難しいものじゃないから。基礎的な学力と洞窟についての知識がある程度分かってれば。」
そう言ってロビンは足早に会場へと足を運ぶ。
俺よりも小さなその後ろ姿は不思議と頼もしく感じ、羨ましくも感じ、そして少し憎くも感じた。そんなロビンの軽快な足取りを追いかける俺の歩みはどこか不安気で、肩から溜息が漏れだした。
「それが出来りゃ苦労しないって・・・」
* * * * *
━━━━━━その日夢に見たのは、14年前のある日の記憶。
そこに映るのは、壁中に散りばめられた多彩な光を放つジェクトの原石と、横たわる巨大なクリーチャーの亡骸。
そして手に剣を握る一人の若者。
赤青黄色・・・無限とも思える程の色の光に照らされるその姿は、まるで虹のように輝いている。
「大丈夫?怪我はない?」
たった一言、彼はそう呟いて振り返った。
その顔はよく覚えていない。
その服装も覚えていない。
ただ一つ鮮明に覚えているとすれば、剣を持つその若者の姿に、俺は強い憧れを抱いた事。
虹に照らされるその姿は、まるで絵本に現れる救国の勇者のようで、俺も彼の様になれたらと子供ながらに思ったのを今でも覚えている。
心臓の鼓動が高鳴る。
その時、俺の中で何かの始まりを告げる予感がした。
* * * * *
目を覚ますと、そこには知らない天井が広がっていた。
いつもと違う白い天井。
白いベッド。
白いカーテン。
そんな朝景色を、黄色い街灯の光が温かく染めている。
視界の端に、見覚えのある少年の姿が見えた。
「ロビンか。おはよう」
「おはよう」
シングルベッドが2つあり、俺はその片方に寝ていることに気づいた。
ロビンはもう片方のベッドに座って昨日の筆記試験の自己採点をしているようで、その問題用紙には赤いチェックマークが沢山ついている。さぞ正解が多かったのだろう。
「ここって受験生用のホテル?」
「そうだよ。チェックインしてお風呂入ったらすぐ寝ちゃったもんね。昨日の筆記どうだった?手応えあった?」
その発言には微塵の悪意も感じられない。込められているのは、ただ純粋な好奇心だけだった。
俺はあくびを一つして、淡々とその質問に答える。
「そんなもん微塵もねぇよ。そもそもなんでトレイルブレイザーに学力なんて必要なんだよ。そんなの研究部隊と治癒部隊に任せとけばいいじゃん」
「仕方ないでしょ。洞窟では何が起こるか分からないんだし。明日の二次試験は戦闘試験だから、そこで挽回しなよ」
トレイルブレイザー選考試験は筆記試験と戦闘試験の2つを実施するが、その間に1日だけ休みがある。今日がその日だ。
思わずため息が漏れそうになった。
勉強してこなかったわけじゃない。
なんならロビンと同等かそれ以上に勉強したはずだ。
それでも昨日の筆記試験の出来なさを思い出すと、今にも死にたくなってくる。
学校のテストならここまで落ち込むことは少ないはずなんだけど・・・。
「そうだな。取り敢えず朝食の時間までランニングでもしてくるわ」
そんな不安は胸の奥にしまい込み、俺はランニングがてら、このユーサリアを探索してみることにした。
第7洞窟には、朝昼晩を区別する明確な指標は無い。街灯が時間帯によって黄・白・水色・赤・青・消灯と変わるが、基本的には時計に頼っている。
そんな街灯の動力は電気ではなく、<明>のジェクトだ。
従来の発電技術は、資源や地理的に使えないことがほとんどだ。その為、他の家電や器具などにもジェクトが使われていることは多く、現在の生活のほとんどはオブジェクトに依存していると言っても過言ではない。
「ふざけんじゃないわよ!!!」
寄り道しながらしばらく走っていると、裏道の方から少女の怒鳴り声が聞こえた。
気になって声のした方へ向かうと、十数メートル先で、高そうな服を着た15~6歳くらいの少女が、バケツを持った13歳くらいの少女を怒鳴りつけていた。
どうやらバケツの水をこぼして濡らしてしまったらしい。
高そうな服を着た少女が一方的にバケツの少女を責め立てているように見える。
すると突然、高そうな服を着た少女がバケツの少女に銃型のオブジェクトを向けた。
(マズイ)
俺がそう思うよりも速く、体は無意識に動いていた。
少女の指が引き金を引くまでのほんの数秒の間で、俺はその銃を叩き落とした。
「何すんのよあんた!」
バシッ
激昂した彼女は拳を握って俺の顔面に向かってパンチ!・・・と思ったが、その拳を容易く受け止めた。彼女の拳は妙に震えていて、か弱いものだった。
俺は彼女の腕を軽く捻ってみると、苦い顔でこちらを睨んできた。
「ぐっ・・・!離しなさいよ!」
「お前があの子に謝るまで離さない。そのオブジェクトは人を傷つける為の物じゃない」
「知らないわよ、そんな綺麗事!」
彼女の表情からは焦りや緊張が感じられた。
投げやりに俺に当たってくる彼女は、まるで何かに怯えているようだ。
「その人を離してあげてください!」
俺の背後からそう言ったのは、先程撃たれかけていた方の少女だった。
憐れむような顔で彼女を見るその少女からは、彼女とは反対に凛とした態度が感じられた。
「なんで君まで・・・?」
おかしな状況だ。
何故命を奪おうとしていた側が動揺していて、逆に命を奪われかけていた側がここまで冷静でいられるのだろう。
俺にはそれが不思議に思えた。
「ごめんなさい!元はと言えば、私がその人に水をかけちゃったのが原因なんです。おねえさん、本当にごめんなさい!」
バケツの少女は何秒も深々と頭を下げていて、俺は思わず手の力が緩んだ。
その隙を見計らったもう片方の少女は即座に俺から離れ、銃のオブジェクトを拾い上げた後、どこかに逃げてしまった。
逃がす訳にはいかない。それを追いかけようとする俺の腕をバケツの少女が掴んだ。
「もう大丈夫です。助けてくれてありがとうございました!とても嬉しかったです! 私、グレイシアって言います。なんとお礼すればいいか・・・」
ふっ。さてはこの子、俺に惚れたな?
彼女いない歴=年齢の俺にも、ついに春が訪れたということか。
やはり神様っていうのは見てるんだな♪
「礼には及びませんよ、お嬢さん。俺の名前はレハト=ダイア。トレイルブレイザーになって、将来この世界に光を取り戻す男です。もしよろしければ、この後お茶でも?」
「何やってんのレハト」
間髪入れずに、聞き知った声がツッコミを入れた。後ろを振り向くと、そこにいたのは汚物を見るような目をしたロビンだった。 呆れるようにため息を吐くと、グレイシアと名乗ったその少女に申し訳なさそうな様子で謝罪をした。
「変なのに絡ませちゃってごめんね!こいつにはキツく言っとくから!」
ロビンはそう言って、俺の右耳を掴んでズリズリと引き摺り出した。
痛い。
「じゃあ、気をつけて帰ってね~」
「え、あ、どうも~?」
困惑しながらも、グレイシアちゃんは苦笑いでこちらに手を振っている。
その後大人しくホテルに連れて行かれた俺が、必死の弁解虚しくこっぴどくロビンに叱られたのは言うまでもない。
翌日━━━━━
いつものように窓から差し込む街灯の黄色い光で、俺は目を覚ました。
今は朝4時頃だろうか。
準備運動をし、今度は寄り道をせずに10分でランニングを終わらせる。その後公園でオブジェクトの素振りを1時間と、30分間瞑想しながらイメージトレーニング。
俺が毎朝やる朝食前の日課だ。
ロビンと朝食を済ませると、何回も持ち物を確認し、一昨日と同じようにトレイルブレイザーベース本部へと足を運ぶ。
そこに向かうまでの電車の中で、こんな話があった。
「レハト。そう言えば、オブジェクトの名前決めた?」
「あー、二次試験の前に名前登録するんだっけ?何も考えてなかったわ」
完全に忘れていた。こういうことに関してはあいかわらずロビンに頼りっきりだ。
俺は笑いながらそう答えると、改めて俺のオブジェクトを見つめる。
俺のハンマー型オブジェクトは、鎚の中央にギラリと光る鈍色の丸いジェクトが埋め込まれている。黒く大きなその鎚はボコボコに凹んでいて、何度見ても無愛想なデザインだ。
「笑い事じゃないでしょ。まぁ、そうだと思ってレハトのも考えておいたんだけどね」
「おっ!流石ロビン!」
「《グランディウス》っていうのはどう?」
グランディウス・・・。響きは悪くない。
「なんでその名前に?」
「グラディウスっていうのは、戦いの神マルスの別称なんだよ。で、そこに大地の意であるグランドを掛けたんだ」
中々センスのあるネーミングセンスだ。流石ロビンなだけある。
「なるほど、よく分からんがそれで決まりだ!因みにロビンのは?」
俺はロビンの持つオブジェクトも見る。
その弓型のオブジェクトもやはり地味なデザインをしている。取っ手の上部に緑のジェクトが埋め込まれただけで、あとは黒一色だ。
「僕のは《アマテラス》だよ。東洋の言葉で『天を照らす』っていう意味なんだ。いつか本物の空が見れますようにっていう願いを込めてね。ほら、着いたよ。」
見上げた先にあるのは、一昨日と何も変わらないトレイルブレイザーベース。
だが前に比べて、何故か威圧感を感じてしまう。
俺の緊張のせいだろうか。
中へ入った後、エレベーターで説明会場の地下5階まで下り、しばらくそこで待機した。
時間になると、試験官が二次試験の説明を始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第19回トレイルブレイザー選考試験 第二次試験
・場所はここから20m下の二次試験専用空洞。
・試験会場は直径1㎞の円形で、4つある会場の内のどれか1つで行う。
・1つの会場につき10個の入場扉があり、好きな扉を選んで入場する。
・そこには数百体の下級~中級クリーチャーが放されていて、どのくらい強いクリーチャーをどれほど倒したかで合否が決まる。
・試験中は殺さない限りいくら他の受験者たちを妨害しても良い。
・試験時間は30分。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いくら下級~中級クリーチャーといえども、生身の人間では全く歯が立たない。
ましてやこの試験は15歳以上であれば誰でも受験が可能だ。
だから、毎年この二次試験で約1割の受験生は死亡すると言われている。
それでも尚この無謀な試験が行われるのは、絶望だらけのこの世界で、家族や友人、夢や希望を失った人間に、富・名声・憧れなどの一縷の望みを人々に与えているからだ。
「レハト、いよいよだね。準備はできた?」
「さぁな。でも、この日の為に14年修行してきたんだ。絶対受かるさ」
「そう、だよね・・・」
そう呟くロビンの顔には、いかにも不安そうな表情が浮かんでいた。
「やっぱりレハトは強いね。僕なんて、さっきから足の震えが止まらないんだ。怖くて怖くて仕方ない。それに僕のジェクトはみんなより小さいから、いつ力を使えなくなるか・・・。」
ジェクトはその大きさによって使用できる力の大きさが決まっていて、力を使い果たすとただの石ころになってしまう。トレイルブレイザーのジェクトは手のひらサイズが一般的だが、ロビンのジェクトは数回りも小さい。ジェクトの出力の大小は、戦闘における生死に直結する。
言うまでもなく、俺だって緊張している。
なんせクリーチャーと戦うのはこれが初めてだからだ。
緊張しないわけがない。
戦いっていうのは1人でするものじゃない。だから背中を預けあえる、信頼できる仲間が必要なんだ。
俺はもちろんロビンを信じている。
こいつは俺に無いものをたくさん持ってる。
今の俺に出来ることは、こいつを励まし、鼓舞する事だ。
そう思った。
「何言ってんだ。俺だって恐怖を感じてないわけじゃない。恐怖をゼロにすることはどうやっても出来ないんだから。だったら俺は、恐怖を感じる暇もないぐらい成功を信じる。足がすくむ暇もないくらい頭と体を動かして、一歩でも成功に近づけたいんだ。そっちの方が、例え失敗しても、後悔が少なくて済むと思うからさ」
「ふふっ、こういう時は良い事言うんだね。でもありがとう。最善を尽くすよ。絶対に勝とう」
ロビンの表情に笑顔が戻った。
「おおよ!」
すると、会場から放送が流れた。
「間もなく第二次試験を開始します。受験生の皆様は速やかにお集まり下さい。」
「レハト、1つの受験会場に入場する為の扉が10個あるよね?受験者数から考えて、1個の扉あたり約50人の人数が入場すると思う。だから、入場したらまず最初に妨害を受けないようにしたいんだ。お願いできる?」
「任せとけ!作戦はお前に任せたぜ、ロビン!」
「もちろん!」
会場全体に放送が響き渡る。
「それでは第二次試験、はじめ!」
アメリカ 旧カリフォルニア 第7洞窟 マインズ ストネア区
「おはようございます。BREAKING NEWS のお時間になりました。本日の司会はわたくし、ジョンソン=スミスです。さて突然ですが、今日は何の日だか分かりますか?そう、トレイルブレイザー選考試験の1日目です。ここで改めて、トレイルブレイザーについておさらいしてみましょう」
軽快なBGMと共に、毎朝見ているニュース番組がホログラムTVから流れて来た。
冷蔵庫から出したばかりのミルクをグイっと飲み干すと、キッチンから俺の母ちゃんが顔を出し、早く朝飯を食べろと叱りだす。
そんないつも通りの朝が今日もやって来た。
TVの向こうでは、スタジオの映像がVTRに切り替わり、
『ショッキングな映像が流れるためご注意ください』
と書かれたテロップと共に、ワールドレイジの映像が流れだした。
「20年前の8月20日、世界が滅亡するほどの超巨大災害【ワールドレイジ】が発生しました。地震、火災、津波、疾病、飢餓、あらゆる天災が世界を襲い、人類は滅亡の窮地に立たされました。そして追い打ちをかけるかのように世界中の火山が噴火を始め、火山灰が空を覆い、やがて地球に氷河期が到来しました。私達は地表に偶然出現した謎の超巨大洞窟での生活を余儀なくされましたが、その洞窟には【クリーチャー】と呼ばれる危険生物が潜んでいたのです」
VTRは、ワールドレイジ時の映像からクリーチャーが人間を襲っている映像へと切り替わる。そしてそんな中現れたのが、皆さんご存じ【トレイルブレイザー】だ。
「こちらヒティア。クライスターレのブイルド区にて、上級クリーチャー{ギガントベアー}発見。体長は20m程。同行中のスマル隊員と共に討伐にあたる。救援要請は不要」
「了解。速やかな討伐を願います」
通信機で連絡を取っているのはヒティア=へアトス。トレイルブレイザーの副隊長だ。男勝りな性格で、身体も鍛え抜かれているTHE・武闘派だ。
この映像は1年ほど前の密着取材中にたまたま彼女がクリーチャーを発見した時の映像で、トレイルブレイザーの紹介映像としてよく流されている。
「取材中に申し訳ないが緊急のお仕事だ。撮っておいて構わんが、撮れ高とかは気にしないから頑張って付いて来い。スマルは少し離れたビルの屋上で待機。連絡次第射撃準備」
「了解!」
その掛け声とともに、2人は風の様に走り出し、取材陣を置いてけぼりにした。
カメラはすぐさまドローンに切り替わり、至近距離から走っているヒティアの姿を映す。
「しっかり映せよ報道陣!まずは私の手についている赤いガントレットが【オブジェ】!つまり器ぁ!」
彼女はどこかのビルの中に入り、階段を駆け上がる。
「この丸い宝石が【ジェクト】!これをオブジェに装填すると、様々な力を付与してくれる!つまり器の中身ぃぃ!!」
勢いよく屋上へ出ると、目の前にはギガントベアーの巨大な頭があり、両者の目が合った。
ヒティア副隊長は赤いジェクトを右腕のオブジェに装填し、拳を握る。するとガントレットが振動し、勢いよく蒸気が噴出された。
「そして、オブジェとジェクトを合わせた物が【オブジェクト】!つまり・・・」
ジュウゥゥゥゥゥ・・・・・ガンッッッ!!!
「これが我々の武器だぁぁぁ!!!」
彼女は屋上から飛び出し、ギガントベアーの頭を真正面から思いっきり殴り飛ばす。
殴られたギガントベアーは十数mふっ飛ばされ、ビル街が粉々になるかに思えたその時・・・
「撃てぇ!」
ピシュンッ!
小さな麻酔針のような物を撃たれたギガントベアーはみるみるうちに体が縮んでいき、人間大の大きさにまでなってビルに衝突。
窓ガラスを突き破ってビルのフロア内に吹っ飛んだギガントベアーを追い、即座に彼女もビルに突っ込む。
「グオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!」
立ち上がったギガントベアーは咆哮を唸らせ、反撃を試みる。
しかし、軽い身のこなしで咆哮を躱した彼女は、がら空きになった腹に回し蹴りをお見舞いする。
「我々こそ、人類に仇なすクリーチャーを討伐する組織!その名も・・・・・!」
固く握られた彼女の右手が激しく振動する。その拳は激しい熱気を漂わせ、周囲に陽炎を起こした。脚を開き、右手を後ろに引く。その勇ましき姿は正に鬼神。前方に突き放たれた右腕は、紅く、輝いていた。
「【トレイルブレイザー】だぁぁぁぁぁ!!!!!」
弾丸のような速さで吹き飛ばされたギガントベアーはしばらく空中を漂い、そして爆発四散した。
「・・・任務完了」
ピッ
ホログラムTVの電源を消し、テーブルを立った。
相変わらず凄まじい戦いっぷりだ。何度見ても鳥肌が立つ。これが俺の目指す【トレイルブレイザー】。正にヒーローみたいなものだ。
興奮冷めやらぬ中、俺は玄関に用意されていたバッグとオブジェクトを手に持った。
俺の名前はレハト=ダイア。
5人兄弟の次男で、17歳。
192㎝86㎏という我ながら恵まれた体格で、髪はツンツン茶髪。
ルックスは・・・多分普通。
肌は珍しくもないヒスパニック系の薄い褐色で、瞳もよくあるブラウンアイ。
つまり、体格以外はどこにでもいそうなアメリカ人って事だ。
「レハト、忘れ物は無い?」
「昨日から10回も確認しただろ、母ちゃん。受験票もお金も全部持った。もう17歳になったんだからそんなに心配しなくても大丈夫だって。ロビンも一緒に行くんだしさ。」
なんで10回も忘れ物を確認するかって?それはもちろん、俺が人生の中で忘れ物をしまくってきたせいだ。学校の日にリュックごと忘れるのはもちろん、服を着ていくのを忘れたこともある。家族からはよく「産まれてくる時に知性を忘れて来たんじゃないか」とは言われるが、否定しきれないのが悔しいところだ。
「はぁ・・・。生まれた頃からの幼馴染があんただなんて、ロビンが可哀想だわ。折角マデロおじさんが作ってくれたオブジェクトも壊したりするんじゃないよ」
「わかってるって。もう待ち合わせの時間だから行くよ。いってきます!」
「いってらっしゃい」
玄関の扉を開けると、いつものように少し土臭い臭いが鼻を通り抜ける。石造りの民家が点々と並び、白く光る街灯が町中を照らしていた。
今日も静かな一日だ。
俺は身の丈ほどある巨大なハンマー型オブジェクトを片手で担ぐと、待ち合わせの駅へと走りだした。
街の中心部からは少し離れているおかげで、道中にはあまり人の姿はない。軽い足取りでスピードをグングンと上げると、民家の窓もガタガタと鳴り始める。走った後に吹く小さな風が、通り過ぎる人々の服をバサバサと揺らし、朝の空気を浴びながら俺は街を駆け抜けた。
「悪ぃ悪ぃ、待った?」
駅前にいたのは俺の幼馴染、ロビン=クィリネスだ。
俺と同じ17歳で、艶のある黒髪のナチュラルヘアと碧色の目が、街灯の光を受けてキラリと輝いている。俺より小柄で大人しい奴だけど、こいつは勉強がずば抜けて得意だ。成績も学年1位だし、どんな友達からも好かれるイケメン優等生。チャームポイントは、頭頂からぴょんと跳ねるアホ毛だ。
「30分待ったよ。もう怒るのも時間の無駄だから速く行こ。どうせ集合時間聞いてなかったでしょ」
「え?9時集合でしょ?」
「8時集合って伝えたよ!どうせ遅れるから8時半に来たのに・・・」
こんな事がよくあるから、ロビンには頭が上がらない。
そうこう言いながら、俺達は新首都ユーサリア行きのモノレールに乗車した。
いつもと違って、今日の乗客は俺達くらいの年頃の少年少女たちが多く、それに圧迫されている常連の大人達は少々肩身が狭そうな雰囲気で今日の朝刊を読んでいた。
真っ暗な窓の外をボケーッと見つめていた俺に、ロビンが話しかけてきた。
「それにしても、そのオブジェクトやけに大きいよね。何㎏ぐらいあるの?」
「んー、多分40㎏ぐらい?俺のは<土>のジェクトだから、重ければ重いほどいいんだよ。ロビンの弓のオブジェクトもいい感じだな。矢は無くていいのか?」
「僕のは<風>のジェクトだから、普通の矢の代わりに空気の矢を生み出せるんだよ」
俺が持っているのは、デカい鉄塊をそのままくっつけたようなハンマー型オブジェクト。塗装もされていない灰色と黒色の地味なオブジェクトだ。
そしてロビンの弓型オブジェクトも、黒い鉄の棒を緩やかに歪曲させたようなシンプルな構造をしている。
どっちもマデロおじさんっていう知り合いの職人に作ってもらったのだが、どうやらデザイン性というものには興味が無いらしい。
「・・・あっ、見えてきたよ」
ロビンが車窓の方を向きながらそう呟く。
そこから見えたのは、全長100メートル程のタワーや煌々と輝く無数の建造物達だ。無機質なビル街が洞窟内を圧迫するように立ち並び、白い街灯が町中を照らしている。奥には巨大な湖が広がり、街の光を受けて鮮やかに光り輝いている。
お互い終始無言でその景色を眺めた。
俺達を含む少年少女が向かっている場所は、その湖の中心にある『トレイルブレイザーベース』で行われる『トレイルブレイザー選考試検』だ。
(あれから14年か・・・)
俺は呆然と、トレイルブレイザーになると決めた14年前のある日を思い出していた。俺がトレイルブレイザーを志した時の景色と、その建物の光が重なり合った。
そして同じように、ロビンもその景色に感銘を受けていたように見える。
「行くぞ」
小さく呟いた俺の声に、ロビンは凛とした顔で頷いた。
第7洞窟━━━それが俺達の住む洞窟の名前だ。
かつて地表を栄えさせた高い技術力は受け継がれ、ジェクトによって科学の範疇を超えた事さえ実現できるものの、文明を失ってからの月日はそう長くはない。
そのため、この街もまだ発展途上と言わざるを得ないし、何より鉄などの物的資源が圧倒的に不足している。技術力はあるのに、大きく発展することは出来ないってことだ。
一見すると街並みは豊かなように見えるが、少し路地から外れると、家や家族を失った人達が座り込み、どこからか盗むか拾ってきた食べ物で今日を食いつないでいる。
俺達が着いたユーサリアという街は、この第7洞窟の首都だ。
セントリアス湖と呼ばれる湖を中心に街が栄えていて、湖上には国の重要機関が集まったセントリアス区が浮かんでいる。試験が行われるトレイルブレイザーベースもそこに位置している。
街とセントリアス区は3つの長い橋で繋がっている。
電車に乗ってその橋を渡り、ガイドボットの案内で俺達が辿り着いたのは、数十分前に車窓から見えた100メートル程のタワーだった。
「トレイルブレイザーの本部、トレイルブレイザーベース。ここはこの洞窟で最も大きい建物なんだ。実はタワーは一般開放されてる観光用で、実際の本部は地下に広がってるんだよね。」
得意げに話すロビンの表情は珍しく子供のようにキラキラしていて、その様子は俺にとっても少し意外なものだった。
100mで最大って言っても、ワールドレイジ以前はもっと高い建物などいくらでもあった。洞窟生活になった現在だと必然的に天井が低いから、100mが限界高度になるのは仕方ないと言えるだろう。
「ところで今日は筆記試験だけど、ちゃんと勉強してるよね?」
少し意地悪そうな表情でロビンは俺の方を向いた。相変わらずこいつは、座学に至っては余裕をかましている。
「ゔっ、嫌な事言うなよ・・・。まぁ、少しは勉強したけど」
「大丈夫だよ。筆記試験自体はそんなに難しいものじゃないから。基礎的な学力と洞窟についての知識がある程度分かってれば。」
そう言ってロビンは足早に会場へと足を運ぶ。
俺よりも小さなその後ろ姿は不思議と頼もしく感じ、羨ましくも感じ、そして少し憎くも感じた。そんなロビンの軽快な足取りを追いかける俺の歩みはどこか不安気で、肩から溜息が漏れだした。
「それが出来りゃ苦労しないって・・・」
* * * * *
━━━━━━その日夢に見たのは、14年前のある日の記憶。
そこに映るのは、壁中に散りばめられた多彩な光を放つジェクトの原石と、横たわる巨大なクリーチャーの亡骸。
そして手に剣を握る一人の若者。
赤青黄色・・・無限とも思える程の色の光に照らされるその姿は、まるで虹のように輝いている。
「大丈夫?怪我はない?」
たった一言、彼はそう呟いて振り返った。
その顔はよく覚えていない。
その服装も覚えていない。
ただ一つ鮮明に覚えているとすれば、剣を持つその若者の姿に、俺は強い憧れを抱いた事。
虹に照らされるその姿は、まるで絵本に現れる救国の勇者のようで、俺も彼の様になれたらと子供ながらに思ったのを今でも覚えている。
心臓の鼓動が高鳴る。
その時、俺の中で何かの始まりを告げる予感がした。
* * * * *
目を覚ますと、そこには知らない天井が広がっていた。
いつもと違う白い天井。
白いベッド。
白いカーテン。
そんな朝景色を、黄色い街灯の光が温かく染めている。
視界の端に、見覚えのある少年の姿が見えた。
「ロビンか。おはよう」
「おはよう」
シングルベッドが2つあり、俺はその片方に寝ていることに気づいた。
ロビンはもう片方のベッドに座って昨日の筆記試験の自己採点をしているようで、その問題用紙には赤いチェックマークが沢山ついている。さぞ正解が多かったのだろう。
「ここって受験生用のホテル?」
「そうだよ。チェックインしてお風呂入ったらすぐ寝ちゃったもんね。昨日の筆記どうだった?手応えあった?」
その発言には微塵の悪意も感じられない。込められているのは、ただ純粋な好奇心だけだった。
俺はあくびを一つして、淡々とその質問に答える。
「そんなもん微塵もねぇよ。そもそもなんでトレイルブレイザーに学力なんて必要なんだよ。そんなの研究部隊と治癒部隊に任せとけばいいじゃん」
「仕方ないでしょ。洞窟では何が起こるか分からないんだし。明日の二次試験は戦闘試験だから、そこで挽回しなよ」
トレイルブレイザー選考試験は筆記試験と戦闘試験の2つを実施するが、その間に1日だけ休みがある。今日がその日だ。
思わずため息が漏れそうになった。
勉強してこなかったわけじゃない。
なんならロビンと同等かそれ以上に勉強したはずだ。
それでも昨日の筆記試験の出来なさを思い出すと、今にも死にたくなってくる。
学校のテストならここまで落ち込むことは少ないはずなんだけど・・・。
「そうだな。取り敢えず朝食の時間までランニングでもしてくるわ」
そんな不安は胸の奥にしまい込み、俺はランニングがてら、このユーサリアを探索してみることにした。
第7洞窟には、朝昼晩を区別する明確な指標は無い。街灯が時間帯によって黄・白・水色・赤・青・消灯と変わるが、基本的には時計に頼っている。
そんな街灯の動力は電気ではなく、<明>のジェクトだ。
従来の発電技術は、資源や地理的に使えないことがほとんどだ。その為、他の家電や器具などにもジェクトが使われていることは多く、現在の生活のほとんどはオブジェクトに依存していると言っても過言ではない。
「ふざけんじゃないわよ!!!」
寄り道しながらしばらく走っていると、裏道の方から少女の怒鳴り声が聞こえた。
気になって声のした方へ向かうと、十数メートル先で、高そうな服を着た15~6歳くらいの少女が、バケツを持った13歳くらいの少女を怒鳴りつけていた。
どうやらバケツの水をこぼして濡らしてしまったらしい。
高そうな服を着た少女が一方的にバケツの少女を責め立てているように見える。
すると突然、高そうな服を着た少女がバケツの少女に銃型のオブジェクトを向けた。
(マズイ)
俺がそう思うよりも速く、体は無意識に動いていた。
少女の指が引き金を引くまでのほんの数秒の間で、俺はその銃を叩き落とした。
「何すんのよあんた!」
バシッ
激昂した彼女は拳を握って俺の顔面に向かってパンチ!・・・と思ったが、その拳を容易く受け止めた。彼女の拳は妙に震えていて、か弱いものだった。
俺は彼女の腕を軽く捻ってみると、苦い顔でこちらを睨んできた。
「ぐっ・・・!離しなさいよ!」
「お前があの子に謝るまで離さない。そのオブジェクトは人を傷つける為の物じゃない」
「知らないわよ、そんな綺麗事!」
彼女の表情からは焦りや緊張が感じられた。
投げやりに俺に当たってくる彼女は、まるで何かに怯えているようだ。
「その人を離してあげてください!」
俺の背後からそう言ったのは、先程撃たれかけていた方の少女だった。
憐れむような顔で彼女を見るその少女からは、彼女とは反対に凛とした態度が感じられた。
「なんで君まで・・・?」
おかしな状況だ。
何故命を奪おうとしていた側が動揺していて、逆に命を奪われかけていた側がここまで冷静でいられるのだろう。
俺にはそれが不思議に思えた。
「ごめんなさい!元はと言えば、私がその人に水をかけちゃったのが原因なんです。おねえさん、本当にごめんなさい!」
バケツの少女は何秒も深々と頭を下げていて、俺は思わず手の力が緩んだ。
その隙を見計らったもう片方の少女は即座に俺から離れ、銃のオブジェクトを拾い上げた後、どこかに逃げてしまった。
逃がす訳にはいかない。それを追いかけようとする俺の腕をバケツの少女が掴んだ。
「もう大丈夫です。助けてくれてありがとうございました!とても嬉しかったです! 私、グレイシアって言います。なんとお礼すればいいか・・・」
ふっ。さてはこの子、俺に惚れたな?
彼女いない歴=年齢の俺にも、ついに春が訪れたということか。
やはり神様っていうのは見てるんだな♪
「礼には及びませんよ、お嬢さん。俺の名前はレハト=ダイア。トレイルブレイザーになって、将来この世界に光を取り戻す男です。もしよろしければ、この後お茶でも?」
「何やってんのレハト」
間髪入れずに、聞き知った声がツッコミを入れた。後ろを振り向くと、そこにいたのは汚物を見るような目をしたロビンだった。 呆れるようにため息を吐くと、グレイシアと名乗ったその少女に申し訳なさそうな様子で謝罪をした。
「変なのに絡ませちゃってごめんね!こいつにはキツく言っとくから!」
ロビンはそう言って、俺の右耳を掴んでズリズリと引き摺り出した。
痛い。
「じゃあ、気をつけて帰ってね~」
「え、あ、どうも~?」
困惑しながらも、グレイシアちゃんは苦笑いでこちらに手を振っている。
その後大人しくホテルに連れて行かれた俺が、必死の弁解虚しくこっぴどくロビンに叱られたのは言うまでもない。
翌日━━━━━
いつものように窓から差し込む街灯の黄色い光で、俺は目を覚ました。
今は朝4時頃だろうか。
準備運動をし、今度は寄り道をせずに10分でランニングを終わらせる。その後公園でオブジェクトの素振りを1時間と、30分間瞑想しながらイメージトレーニング。
俺が毎朝やる朝食前の日課だ。
ロビンと朝食を済ませると、何回も持ち物を確認し、一昨日と同じようにトレイルブレイザーベース本部へと足を運ぶ。
そこに向かうまでの電車の中で、こんな話があった。
「レハト。そう言えば、オブジェクトの名前決めた?」
「あー、二次試験の前に名前登録するんだっけ?何も考えてなかったわ」
完全に忘れていた。こういうことに関してはあいかわらずロビンに頼りっきりだ。
俺は笑いながらそう答えると、改めて俺のオブジェクトを見つめる。
俺のハンマー型オブジェクトは、鎚の中央にギラリと光る鈍色の丸いジェクトが埋め込まれている。黒く大きなその鎚はボコボコに凹んでいて、何度見ても無愛想なデザインだ。
「笑い事じゃないでしょ。まぁ、そうだと思ってレハトのも考えておいたんだけどね」
「おっ!流石ロビン!」
「《グランディウス》っていうのはどう?」
グランディウス・・・。響きは悪くない。
「なんでその名前に?」
「グラディウスっていうのは、戦いの神マルスの別称なんだよ。で、そこに大地の意であるグランドを掛けたんだ」
中々センスのあるネーミングセンスだ。流石ロビンなだけある。
「なるほど、よく分からんがそれで決まりだ!因みにロビンのは?」
俺はロビンの持つオブジェクトも見る。
その弓型のオブジェクトもやはり地味なデザインをしている。取っ手の上部に緑のジェクトが埋め込まれただけで、あとは黒一色だ。
「僕のは《アマテラス》だよ。東洋の言葉で『天を照らす』っていう意味なんだ。いつか本物の空が見れますようにっていう願いを込めてね。ほら、着いたよ。」
見上げた先にあるのは、一昨日と何も変わらないトレイルブレイザーベース。
だが前に比べて、何故か威圧感を感じてしまう。
俺の緊張のせいだろうか。
中へ入った後、エレベーターで説明会場の地下5階まで下り、しばらくそこで待機した。
時間になると、試験官が二次試験の説明を始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第19回トレイルブレイザー選考試験 第二次試験
・場所はここから20m下の二次試験専用空洞。
・試験会場は直径1㎞の円形で、4つある会場の内のどれか1つで行う。
・1つの会場につき10個の入場扉があり、好きな扉を選んで入場する。
・そこには数百体の下級~中級クリーチャーが放されていて、どのくらい強いクリーチャーをどれほど倒したかで合否が決まる。
・試験中は殺さない限りいくら他の受験者たちを妨害しても良い。
・試験時間は30分。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いくら下級~中級クリーチャーといえども、生身の人間では全く歯が立たない。
ましてやこの試験は15歳以上であれば誰でも受験が可能だ。
だから、毎年この二次試験で約1割の受験生は死亡すると言われている。
それでも尚この無謀な試験が行われるのは、絶望だらけのこの世界で、家族や友人、夢や希望を失った人間に、富・名声・憧れなどの一縷の望みを人々に与えているからだ。
「レハト、いよいよだね。準備はできた?」
「さぁな。でも、この日の為に14年修行してきたんだ。絶対受かるさ」
「そう、だよね・・・」
そう呟くロビンの顔には、いかにも不安そうな表情が浮かんでいた。
「やっぱりレハトは強いね。僕なんて、さっきから足の震えが止まらないんだ。怖くて怖くて仕方ない。それに僕のジェクトはみんなより小さいから、いつ力を使えなくなるか・・・。」
ジェクトはその大きさによって使用できる力の大きさが決まっていて、力を使い果たすとただの石ころになってしまう。トレイルブレイザーのジェクトは手のひらサイズが一般的だが、ロビンのジェクトは数回りも小さい。ジェクトの出力の大小は、戦闘における生死に直結する。
言うまでもなく、俺だって緊張している。
なんせクリーチャーと戦うのはこれが初めてだからだ。
緊張しないわけがない。
戦いっていうのは1人でするものじゃない。だから背中を預けあえる、信頼できる仲間が必要なんだ。
俺はもちろんロビンを信じている。
こいつは俺に無いものをたくさん持ってる。
今の俺に出来ることは、こいつを励まし、鼓舞する事だ。
そう思った。
「何言ってんだ。俺だって恐怖を感じてないわけじゃない。恐怖をゼロにすることはどうやっても出来ないんだから。だったら俺は、恐怖を感じる暇もないぐらい成功を信じる。足がすくむ暇もないくらい頭と体を動かして、一歩でも成功に近づけたいんだ。そっちの方が、例え失敗しても、後悔が少なくて済むと思うからさ」
「ふふっ、こういう時は良い事言うんだね。でもありがとう。最善を尽くすよ。絶対に勝とう」
ロビンの表情に笑顔が戻った。
「おおよ!」
すると、会場から放送が流れた。
「間もなく第二次試験を開始します。受験生の皆様は速やかにお集まり下さい。」
「レハト、1つの受験会場に入場する為の扉が10個あるよね?受験者数から考えて、1個の扉あたり約50人の人数が入場すると思う。だから、入場したらまず最初に妨害を受けないようにしたいんだ。お願いできる?」
「任せとけ!作戦はお前に任せたぜ、ロビン!」
「もちろん!」
会場全体に放送が響き渡る。
「それでは第二次試験、はじめ!」
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