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+ピーピー!
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空は青く、白い雲も少なめに、ゆっくりと流れていた。
「居た!!」
「「ッ!?」」
ユーリが見つけたのは、2人の生存者だった。
イベントが重なるとは聞いた事がないが、全く無いとも言い切れない為、この2人がプレイヤーかNPCかはまだ判断できない。
「お兄さん!…で良いのかな!?」
生存者の片割れの男の子がユーリにそう聞いた。
ユーリのアバターが女の子に見えなくもないせいで、向こうも判断がつかないのだろう。
明るく輝く様な金色の髪と瞳。
サラサラなストレートヘアをボブカットで分け、ハンチングが被さる。
衣服はシロポロに紺のベストと短パン。
膝下までの青い靴下にエンジの革靴を履いた、見るからに貴族の坊っちゃんだ。
色の取り合わせは微妙なセンスだが。
「ああ、お兄さんだ…よ!」
言うなり、2人に襲いかかろうとしたゾンビにボーガンをくれてやった。
「うひゃ~ッ!!」
「うぎゃッ!汚なッ!?」
「ッ!?君たち、怪我とかしてない!?」
倒したゾンビの返り血が、女の子の方に降りかかった。
桃花色の縦巻きカールに、同色の瞳。
衣服は髪よりは濃いめのピンクに、白のレースをあしらったライトドレス。
靴までピンクに塗られた革靴を履き、ピンクと白の2色で纏められた、これまた貴族の令嬢の様だった。
そのピンクのドレスのスカートに、紫のドットがアクセントに散りばめられた。
ゾンビの返り血は、ハードでは怪我などに付着し、感染する事もあった。
その為、飛沫が上がった瞬間、ユーリは反射的に確認したのだった。
「大丈夫!今のところは怪我とかしてないよ!」
男の子の方がそう答える間に、ユーリは崖とも言えそうな急斜面を滑り、途中もう1体のゾンビも脚を吹っ飛ばして、駆け寄った。
倒れたゾンビの頭に向かって、スパイククラブを振り下ろす。
「うわ~!」
「グロ~…」
2人の反応は、明らかにサバイバル慣れしたそれではなかった。
しかし、イベント中のユーリには、漏れなく一度に3体のリスポーンが付いて回る。
2人にゆっくり話をする間も無く、次のリスポーンで地面から3体のゾンビが這い出てきた。
「うわぁ!またこんなに!?」
「きゃあッ!もうやだ!ホントにやだ~!!」
「ごめん、そっち向いてゆっくり話す事もできないけど、俺は君達の悲鳴を聞いて、助けに来たんだ。だから、落ち着いて俺の話を聞いて?」
ユーリは、できる限り丁寧に話し掛ける。
2人の顔が見えないから、反応が気になる所だが、実際には2人が顔を見合せ、各々でユーリの言葉を脳内で噛み砕いていた。
ユーリにとっては、油断はできない戦闘なだけに、そんな2人の間さえも、何秒、何十秒と長く感じられる。
そんな沈黙が3人の間を埋めたが、口を開いたのは、男の子の方だった。
「助けに来てくれてありがとう。僕たち何も手伝えそうになくてごめん…」
「いや、良いよ。それより、君達はプレイヤー?」
「そうよ。でも、こんなゲームがやりたかった訳じゃないのに、こんな事になっちゃって…」
「え?それってどういう…いや、その話は後にしよう。オホンッ。今、俺が来た高台の向こうに、俺の仲間が居るんだ。そんで、俺達はイベントを受けてて、NPC達の護衛をしながら、俺達の拠点に向かってる所。良かったら、君達も一緒に来る?そしたら俺と仲間で、NPCの護衛ついでに俺達の拠点に連れていくけど…?」
「いいの!?」
ユーリの提案に、女の子の方が目を輝かせる。
期待に溢れる目に、ユーリは僅かに怖じ気付いて躊躇った。
「あ、ああ、いいぜ。それでもし、自分達の拠点に戻りたかったら、イベント終わってからで良ければ連れていくよ?」
プレイヤーを自称する2人を助け、保護する旨を伝えるユーリ。
「僕たちの拠点?」
「そんなのあるの?」
「…へ?」
今度は、ユーリの提案も掴み所の無い返事が反って来る。
これじゃまるで、このゲームの事すら解ってないみたいじゃないか。
このゲームをやろうと思って始めたなら、最初にチュートリアルで基本的なクラフト等をエスコートされ、石斧や石のピッケル、草を編んだ衣服、寝袋、木製ブロック等を作って、まずはゾンビから身を守る為に、自分の拠点を木製ブロックで組み立てる所から始めようとするのがセオリーだ。
それすらも分からないとなると、このゲームをやろうと思って始めたワケじゃないのかもしれない。
他に理由が思い付かない。
そう感じたユーリは、以前話していたプレイヤー保護の事を思い出す。
これは、俺がやるしかない。
どういう経緯なのか、このゲームの事も知らずにこんなデスゲの世界に放り出されて、放っておくわけにもいかないだろう。
見てみぬフリなどできない。
この子らが、この後ゲーム内で死んだなんて事になったら、俺は一生後悔する。
ユーリは、自分が本当に守り抜けるのか、等と幾つかの反論も生まれる心の中で、葛藤を振り払い、この子らを守り抜くと、強く決心したのだった。
「君達、拠点の事もわからないで、デスゲになってからのこの5日間、どうやって生きてきたの!?」
イベントを受けているユーリの周りは、ゾンビのリスポーン率が上がっていて、倒しても倒しても、次から次へと地面から這い出てくる。
そのゾンビの多さに足がすくみ、ヘタリ込んでいるのが、少女アバターのプレイヤー。
そして、その子を庇う様に立って居るのが少年アバターのプレイヤーだった。
「昨日までは、こんなに一度に多くのゾンビに遭遇したこと無かったから、ゾンビを見たらすぐに逃げてた」
「逃げ回って、家を見つけたら、家の周りに居るゾンビをどちらかが惹き付けて、もう一人の方が家の中に入って、缶詰めとか水を見つけて、何とか食べ繋いできたんだ」
少女に続いて、少年がその苦労を語る。
「家の中にもゾンビが居た事があって、その時は、ゾンビに会った時点で食べ物探しも諦めて、別の家を探した」
「途中、住宅街とか、交差点にお店が6軒くらいある所を通ったけど、ゾンビが多すぎて、建物の中にも入れなかった」
かなり空腹とのギリギリの葛藤をしながら、綱渡りの様に生き抜いてきたらしい。
2人の子供に、同情の念が絶えない。
「夜は、どうしてたんだ?」
こうユーリが聞くのも、夜の外では危険度が格段に上がるからだった。
「最初に入った家で蝋燭を見つけて、初日の夜はそれに火を付けて歩いてた。そしたら、明かりにやたらとゾンビが集まってくる事に気付いたんだ。でも火が無かったら暗くて外は歩けないし、仕方なく3軒目に見つけた家に戻って、屋根裏に上がって、2階から屋根裏までの梯子を壊して、ゾンビが上がって来られない様にして、真っ暗なままで交代で寝たりした」
「その家にも缶詰めが結構あって、それまでに貯めて持ってた分もあったから、2日くらいそこで、缶詰め食べて過ごしてたかな。そしたら、私が屋根裏にあった換気ダクトに座った時に、ダクトの鉄板がベコンッて鳴って、その音で外に居たっぽいゾンビが家の中に入って来ちゃって…」
「そうそう。梯子を壊したって言っても、壁を壊されたりして、家が崩れても嫌だから、放っておくわけにもいかなくて、僕が二軒目で手に入れてた石斧で屋根を壊して、そこから屋根の上に出て逃げたんだ」
「おお!やるね!でも、屋根裏って所謂3階と同じ高さなワケだから、飛び降りたら骨折とかして動けなくなったんじゃない?」
「私もこの子も、そんなに高い所から飛び降りられなくて、屋根の縁から下を見たら、左の方に1階と2階の間の屋根が出てるのを見つけて、そこに降りてから地面に着地したんだ」
「あー。なるほどね…」
「それからもだいたい同じ様な事をしながら、昨日の夜は、ここから北東に結構行った所にあった、変な形の家で1泊して、今日の日の出に合わせて出てきた」
聞けば聞く程、まだ通常の夜だった事が幸いしたとしか思えない。
これがブラッドムーンホードの夜だったら。
とてもじゃないが、生きていられたとは思えないのだ。
「そしたら、この辺に来た時、急にゾンビが多く居るから、ビックリして逃げ回ってたら、ここに追い詰められたんだ」
「もしかしたら、イベントの発生地に近づいたんだな。沢山のゾンビ達は、俺達も受けてるイベント用に増加中なんだ」
もしかしたら、それ程離れてない所で、別のプレイヤーが同じイベントを受けているのかもしれない。
そう思ったユーリは、この2人が他のプレイヤーのイベントに遭遇した事を想像した。
それと同時に、この2人がイベントに参加してない事も察した。
それにしても、ユーリ達のイベントルートの北側に逃げてきたと言う事は、この2人が遭遇したゾンビの群れはさらに北に出没したと考えるのが妥当だろう。
と言う事は、アリアの拠点よりさらに東にでも、別のプレイヤーが居たのだろうか。
確かにマップ上では、東にもまだスクロールする程の安全地帯が広がっている。
もっとも、行ったことがないエリアだから、ユーリのマップではグレーに塗りつぶされていた。
とはいえ、アリアの拠点より東といえば、ユーリが滑落した崖があった山が連なる連山だ。
つまり、雪山の連山からなる高山地帯である。
アリアは確か、東の十字路に行ったことがあると言っていたが、十字路と言えば、四つ角に一軒ずつは店舗か民家がある筈なので、ある程度の広さの平坦な地形が必要だった。
山間に盆地でもあれば、標高が高くても十字路はできるだろう。
だが、想像する限り、高山地帯で幾つもそういう所があるとは思えない。
ゾンビの襲来に備えて、拠点は目幅の効く平坦な地形に拠点を構えなければ、ホードでの対応はかなり難しいものとなる筈だ。
従って、山の斜面などに拠点は作らないのがセオリーだった。
そんな不可解な事をするプレイヤーが本当に居るのだろうか。
「えっ!?もしかして、ゾンビが15体か20体くらい集まってた所!?あれ見て、僕らも、流石に数が桁違いだったから、パニクってソッコーで逃げたんだけど…?」
興奮した少年が、早口に捲し立てるが、ゾンビを倒しながらも落ち着いて聞いているユーリを見て、最後の方はペースダウンした。
自分で質問しておきながら、ユーリの答える隙も与えなかった自分が少し恥ずかしくなる。
それを見て、パニクったら一時的に感情が高ぶって、周りが見えなくなるタイプだとユーリは判断した。
そうすると、先程まで考えていた雪山の謎のプレイヤーの存在は、可能性としては低くなる。
ゾンビ集団を見た時も、集団とは反対に逃げれば離れられるのに、パニクったせいで、ユーリ達の進行方向に沿って逃げてしまった可能性が高まるのだ。
何にせよ、これまでの経緯に謎の多い2人を見て、些か不安が過るユーリだった。
「居た!!」
「「ッ!?」」
ユーリが見つけたのは、2人の生存者だった。
イベントが重なるとは聞いた事がないが、全く無いとも言い切れない為、この2人がプレイヤーかNPCかはまだ判断できない。
「お兄さん!…で良いのかな!?」
生存者の片割れの男の子がユーリにそう聞いた。
ユーリのアバターが女の子に見えなくもないせいで、向こうも判断がつかないのだろう。
明るく輝く様な金色の髪と瞳。
サラサラなストレートヘアをボブカットで分け、ハンチングが被さる。
衣服はシロポロに紺のベストと短パン。
膝下までの青い靴下にエンジの革靴を履いた、見るからに貴族の坊っちゃんだ。
色の取り合わせは微妙なセンスだが。
「ああ、お兄さんだ…よ!」
言うなり、2人に襲いかかろうとしたゾンビにボーガンをくれてやった。
「うひゃ~ッ!!」
「うぎゃッ!汚なッ!?」
「ッ!?君たち、怪我とかしてない!?」
倒したゾンビの返り血が、女の子の方に降りかかった。
桃花色の縦巻きカールに、同色の瞳。
衣服は髪よりは濃いめのピンクに、白のレースをあしらったライトドレス。
靴までピンクに塗られた革靴を履き、ピンクと白の2色で纏められた、これまた貴族の令嬢の様だった。
そのピンクのドレスのスカートに、紫のドットがアクセントに散りばめられた。
ゾンビの返り血は、ハードでは怪我などに付着し、感染する事もあった。
その為、飛沫が上がった瞬間、ユーリは反射的に確認したのだった。
「大丈夫!今のところは怪我とかしてないよ!」
男の子の方がそう答える間に、ユーリは崖とも言えそうな急斜面を滑り、途中もう1体のゾンビも脚を吹っ飛ばして、駆け寄った。
倒れたゾンビの頭に向かって、スパイククラブを振り下ろす。
「うわ~!」
「グロ~…」
2人の反応は、明らかにサバイバル慣れしたそれではなかった。
しかし、イベント中のユーリには、漏れなく一度に3体のリスポーンが付いて回る。
2人にゆっくり話をする間も無く、次のリスポーンで地面から3体のゾンビが這い出てきた。
「うわぁ!またこんなに!?」
「きゃあッ!もうやだ!ホントにやだ~!!」
「ごめん、そっち向いてゆっくり話す事もできないけど、俺は君達の悲鳴を聞いて、助けに来たんだ。だから、落ち着いて俺の話を聞いて?」
ユーリは、できる限り丁寧に話し掛ける。
2人の顔が見えないから、反応が気になる所だが、実際には2人が顔を見合せ、各々でユーリの言葉を脳内で噛み砕いていた。
ユーリにとっては、油断はできない戦闘なだけに、そんな2人の間さえも、何秒、何十秒と長く感じられる。
そんな沈黙が3人の間を埋めたが、口を開いたのは、男の子の方だった。
「助けに来てくれてありがとう。僕たち何も手伝えそうになくてごめん…」
「いや、良いよ。それより、君達はプレイヤー?」
「そうよ。でも、こんなゲームがやりたかった訳じゃないのに、こんな事になっちゃって…」
「え?それってどういう…いや、その話は後にしよう。オホンッ。今、俺が来た高台の向こうに、俺の仲間が居るんだ。そんで、俺達はイベントを受けてて、NPC達の護衛をしながら、俺達の拠点に向かってる所。良かったら、君達も一緒に来る?そしたら俺と仲間で、NPCの護衛ついでに俺達の拠点に連れていくけど…?」
「いいの!?」
ユーリの提案に、女の子の方が目を輝かせる。
期待に溢れる目に、ユーリは僅かに怖じ気付いて躊躇った。
「あ、ああ、いいぜ。それでもし、自分達の拠点に戻りたかったら、イベント終わってからで良ければ連れていくよ?」
プレイヤーを自称する2人を助け、保護する旨を伝えるユーリ。
「僕たちの拠点?」
「そんなのあるの?」
「…へ?」
今度は、ユーリの提案も掴み所の無い返事が反って来る。
これじゃまるで、このゲームの事すら解ってないみたいじゃないか。
このゲームをやろうと思って始めたなら、最初にチュートリアルで基本的なクラフト等をエスコートされ、石斧や石のピッケル、草を編んだ衣服、寝袋、木製ブロック等を作って、まずはゾンビから身を守る為に、自分の拠点を木製ブロックで組み立てる所から始めようとするのがセオリーだ。
それすらも分からないとなると、このゲームをやろうと思って始めたワケじゃないのかもしれない。
他に理由が思い付かない。
そう感じたユーリは、以前話していたプレイヤー保護の事を思い出す。
これは、俺がやるしかない。
どういう経緯なのか、このゲームの事も知らずにこんなデスゲの世界に放り出されて、放っておくわけにもいかないだろう。
見てみぬフリなどできない。
この子らが、この後ゲーム内で死んだなんて事になったら、俺は一生後悔する。
ユーリは、自分が本当に守り抜けるのか、等と幾つかの反論も生まれる心の中で、葛藤を振り払い、この子らを守り抜くと、強く決心したのだった。
「君達、拠点の事もわからないで、デスゲになってからのこの5日間、どうやって生きてきたの!?」
イベントを受けているユーリの周りは、ゾンビのリスポーン率が上がっていて、倒しても倒しても、次から次へと地面から這い出てくる。
そのゾンビの多さに足がすくみ、ヘタリ込んでいるのが、少女アバターのプレイヤー。
そして、その子を庇う様に立って居るのが少年アバターのプレイヤーだった。
「昨日までは、こんなに一度に多くのゾンビに遭遇したこと無かったから、ゾンビを見たらすぐに逃げてた」
「逃げ回って、家を見つけたら、家の周りに居るゾンビをどちらかが惹き付けて、もう一人の方が家の中に入って、缶詰めとか水を見つけて、何とか食べ繋いできたんだ」
少女に続いて、少年がその苦労を語る。
「家の中にもゾンビが居た事があって、その時は、ゾンビに会った時点で食べ物探しも諦めて、別の家を探した」
「途中、住宅街とか、交差点にお店が6軒くらいある所を通ったけど、ゾンビが多すぎて、建物の中にも入れなかった」
かなり空腹とのギリギリの葛藤をしながら、綱渡りの様に生き抜いてきたらしい。
2人の子供に、同情の念が絶えない。
「夜は、どうしてたんだ?」
こうユーリが聞くのも、夜の外では危険度が格段に上がるからだった。
「最初に入った家で蝋燭を見つけて、初日の夜はそれに火を付けて歩いてた。そしたら、明かりにやたらとゾンビが集まってくる事に気付いたんだ。でも火が無かったら暗くて外は歩けないし、仕方なく3軒目に見つけた家に戻って、屋根裏に上がって、2階から屋根裏までの梯子を壊して、ゾンビが上がって来られない様にして、真っ暗なままで交代で寝たりした」
「その家にも缶詰めが結構あって、それまでに貯めて持ってた分もあったから、2日くらいそこで、缶詰め食べて過ごしてたかな。そしたら、私が屋根裏にあった換気ダクトに座った時に、ダクトの鉄板がベコンッて鳴って、その音で外に居たっぽいゾンビが家の中に入って来ちゃって…」
「そうそう。梯子を壊したって言っても、壁を壊されたりして、家が崩れても嫌だから、放っておくわけにもいかなくて、僕が二軒目で手に入れてた石斧で屋根を壊して、そこから屋根の上に出て逃げたんだ」
「おお!やるね!でも、屋根裏って所謂3階と同じ高さなワケだから、飛び降りたら骨折とかして動けなくなったんじゃない?」
「私もこの子も、そんなに高い所から飛び降りられなくて、屋根の縁から下を見たら、左の方に1階と2階の間の屋根が出てるのを見つけて、そこに降りてから地面に着地したんだ」
「あー。なるほどね…」
「それからもだいたい同じ様な事をしながら、昨日の夜は、ここから北東に結構行った所にあった、変な形の家で1泊して、今日の日の出に合わせて出てきた」
聞けば聞く程、まだ通常の夜だった事が幸いしたとしか思えない。
これがブラッドムーンホードの夜だったら。
とてもじゃないが、生きていられたとは思えないのだ。
「そしたら、この辺に来た時、急にゾンビが多く居るから、ビックリして逃げ回ってたら、ここに追い詰められたんだ」
「もしかしたら、イベントの発生地に近づいたんだな。沢山のゾンビ達は、俺達も受けてるイベント用に増加中なんだ」
もしかしたら、それ程離れてない所で、別のプレイヤーが同じイベントを受けているのかもしれない。
そう思ったユーリは、この2人が他のプレイヤーのイベントに遭遇した事を想像した。
それと同時に、この2人がイベントに参加してない事も察した。
それにしても、ユーリ達のイベントルートの北側に逃げてきたと言う事は、この2人が遭遇したゾンビの群れはさらに北に出没したと考えるのが妥当だろう。
と言う事は、アリアの拠点よりさらに東にでも、別のプレイヤーが居たのだろうか。
確かにマップ上では、東にもまだスクロールする程の安全地帯が広がっている。
もっとも、行ったことがないエリアだから、ユーリのマップではグレーに塗りつぶされていた。
とはいえ、アリアの拠点より東といえば、ユーリが滑落した崖があった山が連なる連山だ。
つまり、雪山の連山からなる高山地帯である。
アリアは確か、東の十字路に行ったことがあると言っていたが、十字路と言えば、四つ角に一軒ずつは店舗か民家がある筈なので、ある程度の広さの平坦な地形が必要だった。
山間に盆地でもあれば、標高が高くても十字路はできるだろう。
だが、想像する限り、高山地帯で幾つもそういう所があるとは思えない。
ゾンビの襲来に備えて、拠点は目幅の効く平坦な地形に拠点を構えなければ、ホードでの対応はかなり難しいものとなる筈だ。
従って、山の斜面などに拠点は作らないのがセオリーだった。
そんな不可解な事をするプレイヤーが本当に居るのだろうか。
「えっ!?もしかして、ゾンビが15体か20体くらい集まってた所!?あれ見て、僕らも、流石に数が桁違いだったから、パニクってソッコーで逃げたんだけど…?」
興奮した少年が、早口に捲し立てるが、ゾンビを倒しながらも落ち着いて聞いているユーリを見て、最後の方はペースダウンした。
自分で質問しておきながら、ユーリの答える隙も与えなかった自分が少し恥ずかしくなる。
それを見て、パニクったら一時的に感情が高ぶって、周りが見えなくなるタイプだとユーリは判断した。
そうすると、先程まで考えていた雪山の謎のプレイヤーの存在は、可能性としては低くなる。
ゾンビ集団を見た時も、集団とは反対に逃げれば離れられるのに、パニクったせいで、ユーリ達の進行方向に沿って逃げてしまった可能性が高まるのだ。
何にせよ、これまでの経緯に謎の多い2人を見て、些か不安が過るユーリだった。
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