サバゲでデスゲって、もはやリアルな修羅場ッ!!?

水咲 蓮

文字の大きさ
上 下
25 / 32

イベント!?

しおりを挟む
外は、リアルではそうそうお目にかかれない程に、綺麗な星空が広がっていた。
星座に似たような星の並び方もチラホラ見えるが、記憶している限り少し違う。
それでも、リアルでは地表の明かりが星の光を相殺して、殆どの星が見えなくなるらしいが、この世界では地表の明かりが殆ど無いせいか、星の密度がかなり高かった。
アリアの拠点から荷物を持って帰り、夕食を済ませたシャーは、夜の早いうちは拠点材料のクラフトを手伝い、シャワーを浴びてベッドに着いた。
しかし、目を閉じて暫くしても、眠れずに居た。
アリアと出会ってから、考えさせられる事が増えたのだ。
正直、悩みに近い。
寝付けないシャーは、おもむろに体を起こし、テラスに出た。
手摺までゆっくりと歩くと、星空を見上げる。
「…寝れないのか?」
手摺に両肘を預けて凭れかかり、尚も星空を見詰めるシャーに、背後から声をかける人物が居た。
「ああ。ちょっとな」
後ろを振り返りながらそう応えると、そこにはアリアが立っていたのだった。
ルームウェアとして青のシャツとハーフパンツを着ていて、白銀の髪が青と月夜のコントラストに映える。
風に靡く白銀が、月の光に照らされてキラキラと優しい瞬きを散りばめた。
「考え事か…?」
「…まあ。そんな所だ」
アリアのアバターの美しさに、一瞬見惚れてしまうが、問いに応える義務感で自我を留めた。
アリアも手摺まで歩み寄り、シャーから1メートル程離れた手摺を触る。
木造の、何とも言えない優しい手触り。
「木造は暖かみがあって良いな」
「…そうだな」
取り留めの無い話を切り出したアリアだが、シャーはそんな言葉にも律儀に応えた。
「あたしは短大に行く為に実家を出て、一人暮らしを始めたのがコンクリートのマンションだった。短大時代もそうだが、卒業して就職した会社でも、人付き合いが苦手なあたしは、その石の無機質で冷たい部屋に、おかえりなさいの返事も無い寂しい部屋に、1人で帰っていた。そんな日々の中で、時々、ふと実家の暖かさを思い出すんだ。あたしが帰るまで、必ず起きておかえりを言ってくれる母。父も忙しくてあまり顔を会わせなかったけど、会えばちゃんと会話をしていた。中学、高校時代には非行に走ったあたしだったけど、当時のダチだと思っていたヤツらにも裏切られ、人を更に信じられなくなったあたしを、そっと見守ってくれていた両親の暖かさが、木造だった実家には確かに感じられたんだ。社会に出てからそれに気付いて、それからは、木造の家にはそういう暖かみの断片みたいなものを感じる気がするんだ」
何を言うのかと思えば、と思ったが、シャーはそれを飲み込んだ。
実際、外の気温は涼しいくらいだが、木の手摺は気温より温かく感じられて、本物の無垢の木造手摺そのものの様にさえ感じる。
こんな繊細な感覚をデータで再現するって、どんだけの情報量だよ。
と、本気でツッコミたくなった。
「人って、そうやって言葉が無くてもどこか繋がりを感じられたりもするけど、逆に、相反する考えを持って、片方が思ってもいない事を平気でやるヤツも居る。そう考えると、このデスゲームと化したあたし達が居る世界にも、プレイヤーの誰かがそういうヤツかもしれない…」
話の流れは自然だった。
しかし、終盤の話はシャーの悩みの的を得ていた。
「ハハハ。アリアはやはり凄いな。俺が考えてた事も全てお見通しか」
アリアの長い話も、ここに行き着く為の、優しい道標だった。
そう。
アリアもシャーと同じ事を懸念していたのだ。
別のゲーム機個体から転移させられた、自分以外のプレイヤーと、この世界で出会った頃から。
PvP。
則ち、プレイヤー同士の殺し合いを。
既にそれは起きているかもしれない。
この、命がリアルの命と同等になった世界で。
ゲームの内容からプレイ中に死ぬことさえあり得る世界で。
普通にプレイするだけで命の危険と隣り合わせのこの世界で。
その危険に紛れて人を殺す様な殺人鬼が、同じ世界に転移させられてるかもしれないのだ。
それは、オンラインイベントにもユーリと共に参加し、PvPを経験したシャーだからこそ、転移させられてエリーゼの説明を受けていた頃から薄々想像していた。
その想像が、アリアと出会った事で現実味を帯び、その不安を強く感じるのだった。
その後は2人とも黙ったまま、暫く月を眺めた。
それから2人は、無言のまま静かに、其々の部屋に戻って行った。

そうして、一晩が明ける。

『ピロピロリン―――』
朝、皆が朝食を取っている所で、プレイヤー3人の元にメールが届いた。
「なんだ?」
「何々?」
シャーとユーリが疑問を抱きながら、視界右下のメールボックスを開く。
視界には、視点を示す半透明の丸があり、それを各種アイコン等に重ねて瞬きする事で、そのアイコンのコンテンツを開く事ができる。
メールボックスを開くと、視界中央にボックスの中身が一覧表示され、過去に開いたメールは開封した封筒のマークが、未読のメールには未開封のマークが付いていた。
気付けば幾つも未読メールが来ていたが、殆どはこのゲームがデスゲとなった原因の1つである、関東大震災についての事後の進捗だった。
状況を知りたい人はつぶさに自分から調べようとするだろう。
このゲームは、メールボックスの隣にグローバルシステムのアイコンがあり、それを開くとフレンド登録したプレイヤーとのチャットや通話、さらにはインターネット接続で検索エンジンにも接続でき、調べ物もできる。
さらには、ワールドネットプレイで外国のプレイヤーと遊ぶ時、料理する時等には、翻訳アプリや料理レシピアプリなど生活サポート的アプリを課金ダウンロードでき、必要な時に視界の指定した位置にタスクウインドウで開く事もできる。
拠点で時間をもて余したプレイヤーなどは、ネットでテレビを観る事も、時間/日の月額定額課金で可能だった。
そうして調べるくらいのプレイヤーなら、メールで来ている事にも気付き、自ら見ようとするであろう事と、ゲームの内容的に緊張する状況や、集中する状況で、それらを切らせる事になり得る事等から、地震情報は国家機関の方の処置で、着信音がミュートにされていた。
ユーリ達は、それらにざっと目を通し、自分達の関わる情報はあまり無さそうな事を確認して、詳細はまた夜にでも改めて見る事にした。
そして、わざわざ着信音を鳴らして届いた、最新のメールを開く。
すると。
「おお!全員参加可能の一斉イベントだ!」
真っ先に声をあげたのは、ユーリだった。
「ホード前に、仲間を集めてプレイヤー有利に進められる様に、計らった様なイベントだな」
シャーは少し離れた視点から、俯瞰した見方をする。
「政府の施策?」
アリアはさらに先に踏み込んでいたようだ。
「いや、違うだろうな。政府がこのゲームの危険性を理解していたら、もっと早く、もっと安全性を確保できる施策を投じているはずだ。よく、政治家は庶民と感覚がズレ過ぎているとか批判が絶えないが、ゲームの様に、明らかな結果が見え、数値化によって明確な欠点利点が判別でき、プログラムを弄れば幾らでも改変できるものなんて、政府が本気で取り掛かれば、プレイヤーが死なない様に設定する事ぐらい簡単なはずだからな。それをしないのだから、恐らくはこのゲームの危険性自体を把握してないくらい、ズレてると言うより、そもそもが未知なんじゃないかと思う。だから、多分これはデベロッパー側のプログラムに元々あった、ランダム式のイベントだろう」
シャーの持論は、正しいかどうかは不明だが、解らなくはない。
いずれにせよ、ここに来てのイベント発生に、ユーリ達は、大幅な人員確保を期待して、心を踊らせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

入れ替わりノート

廣瀬純一
ファンタジー
誰かと入れ替われるノートの話

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...