サバゲでデスゲって、もはやリアルな修羅場ッ!!?

水咲 蓮

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拠点撤収!

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室内は、雪山にしては珍しく晴れた陽気に当てられ、割りと明るい印象を受けた。
1階はやはり迎撃フロアにしていて、地下から2階まで突き抜ける、一辺2.5メートルもの太い主柱が中央に佇む。
その主柱の四辺には、同じく地下から2階まで繋がる梯子が張られ、各階を木製ハッチで隔てていた。
中央の主柱の周囲4.5メートルのスペースだけ、地面から3マス分、1.5メートルの高さに高くなっている。
四つ角にも一辺1.5メートルの柱を備え、一階はそれらの他には、例の塀まで全面的にウッドスパイクが敷き詰められていた。
そして、2階には居住スペースと、すぐ使えるアイテム倉庫。
地下に工場こうばと加工用素材のアイテム倉庫があり、食料保管庫には、やはり雪が詰め込まれ、保冷されていた。
「やっぱり、電気が無いから冷蔵庫動かないし、食料を保存するなら雪の保冷庫になっちゃうよな」
「ここは雪山だから、そこら辺に置いてても他のエリアより腐食は遅いけどね」
ユーリの話しにアリアも笑って応える。
が、2人とは反面、シャーは難しい顔で呟く。
「だがやはり、雪山では肉の確保は難しいか…」
保冷庫の中には、肉類が少なく、缶詰めがやたらと多い。
「缶詰めは、切り株とかを漁ると、結構入ってる事が多いんだ」
住民が寒さ対策と外出を少なくする為か、雪山エリアでは、主にコート等のアウター系が多くを占める衣類が一番多く、次に保存食である缶詰めが多く手に入る。
「マジか。俺ぁ肉の無ぇ生活ぁゴメンだぜ」
肉大好きなハンプが、眉を歪めてエリーゼを見た。
「はいはい。別にハンプの事はどうでも良いけど、私も肉は大事だと思うから、絶やさない様にちゃんと管理します!」
五月蝿いものを見るように、不快感を露にした顔で、エリーゼがハンプを見返した。
「おいおい、俺の扱いザツじゃね…?」
「アハハ…」
とうとうエリーゼの方が立場が上になったらしく、泣きつくハンプを見たアリアが苦笑していた。
そんな3人を他所に、シャーとユーリはアイテム類に目を配る。
「とりあえず、野菜類も大事だから、腐らせないうちに持って行くぞ」
「缶詰めはどうする?ここを雪山の出張拠点にするなら、残しておいても良いんじゃない?」
シャーの判断にユーリがそんな提案をする。
しかし。
「いや、アリアと出会って、他のプレイヤーが居る事も明確になった以上、そのうち他のプレイヤーがここを見つけるだろう。そして、プレイヤーなら、他人の拠点を見つければ中のアイテムを奪うのが定石だ。デスゲと化した今、各々が努力して集めた物を奪うのは、普通なら気が引けるが、中にはそうでないヤツも居る。そんな自分の事しか考えないヤツに、タダでくれてやる義理は無いだろ?」
シャーの言葉には、少し冷めた見方が感じられるが、実際、世の中には自分の事しか考えない輩は少なくないとは思う。
そんなヤツらに、アリアの所持品をタダでくれてやるわけにはいかない。
「あたしはもう、あんた達の仲間だから、あんた達の管理方法で一緒に管理してくれて構わないよ」
2人の話に耳を傾けていたらしいアリアが、ユーリ達に管理を委ねた。
ならば、アリアも賛同してくれた、この世界のプレイヤーを助ける事に使うべきだ。
自分達で助けた人達と共に、キチンと管理が行き届いた状況で消費するのが有意義な消費方法だろう。
「じゃあ、万が一、良い人が迷い込んだ時の為に、乾パン缶とスープ缶、それと水だけ1つずつ置いて行こう。乾パンは17ポイントも空腹を満たす代わりに8ポイントの喉の渇きが増すけど、トマトのスープ缶が3ポイントの空腹と11ポイントの渇き、水が18ポイントの渇きを癒すから、差し引いても腹20と喉21の回復ができる。それだけ回復したら、切り株や木のウロとか調べながら南下すれば、何かしら食品を見つけながら雪山を抜けるだけの分は補えるだろ?」
こんなデスゲームでも、他人を心配して、救済策を考えるユーリ。
「そうだな。世の中、悪いヤツばかりじゃない。そういう人達を救済するなら、俺は反対しない」
「どんなヤツが手にするかは、神のみぞ知るってヤツだな?」
「ユーリの思いが叶う事を祈るわ」
シャーの後に、さっきまでじゃれ合っていたハンプとエリーゼも同意を示した。
「南に行けば俺達の拠点も遠くない。拠点まで来れば、仲間になってくれるかもしれないし」
皆の反応を見て、そんな事を笑顔で言うユーリ。
その顔は裏も表も無く、屈託の無い無邪気な子供のそれだった。
裏を見て卑屈になるのは簡単だが、時にはユーリの様に、他人を無条件に信じる事も必要なのだろう。
それが、ユーリという人当たりの良い人間を育てる要因なのだから。
「なんならあたしが定期的にここを覗きに来ようか」
「えっ?」
「もし迷い人が来て、この缶詰めを使ったら、別の迷い人が来た時に何も無いから、補充してやらないとね。あたしはこの雪山に慣れてるから、崖の位置とかも把握してるし、半日ちょっとあれば行って戻ることもできるからね」
アリアからもそんな提案を受けた。
「そうだな。じゃ、ここの管理とかも含めて、後の事はアリアに任せよう。何かあったら、言ってくれればその分の時間を割く予定を考えるから、頼む」
「わかった」
そうして、アリアの拠点は雪山遭難者を少しでも減らす為の避難小屋とした。
そして、先の缶詰めの他に1部の防寒用衣類とその場凌ぎ程度の武器、後は大量にありすぎる、どこでも手に入る資材類を残し、他の良い資材やアイテムは皆で持てるだけ持って帰る事にした。
「さて。ざっとこんなもんかな?」
「そうだね。これでもあたし的には幾つも民家を探索したし、東の山間やまあいにある十字路の店とかも1人で探索してきて、結構集めたつもりだったんだけどね…」
ユーリが大きめのバックパックのジッパーを閉じながら呟くと、アリアが少し申し訳ない顔をする。
「十分だ。メカニカルパーツや様々な工具、色々な物に使える配線、何より銃のパーツがあるのは凄くありがたい」
「そうだぜ。ニトロパウダーとか火薬、硝石なんかが多いのも、クラフトマスターの俺からすりゃ、大収穫だ!」
「食料を管理する私としても、缶詰めは保存が効くし、食材も増えて大助かりだわ」
「何より、皆もアリア自身が仲間になってくれただけで、本当に良かったと思ってるんだらさ」
皆が喜びをアリアに伝える。
が。
「おい、ユーリ。オメー、何か最後に良いところ持っていこうとしてやがんな?」
「そうだな。最後のユーリの発言は、格好良くまとめた感じでズルいぞ」
何やらユーリの最後の言葉は、他の男達に火をつけたらしい。
「ええっ!?だって、皆が先に色々言うから…」
2人に詰め寄られ、しどろもどろなユーリ。
「は?」
「それは関係ないな」
「だよな?」
「ああ」
「じゃ、格好つけヤロウは一発しばいとくか!?」
「…だな!」
シャーとハンプが2人で話を進め、結託した。
そんな男達を横目に。
「まったく、男ってどうしようもないわね」
「お、おい、何だか解らないけどそのへんにして…」
呆れるエリーゼと、とりあえず止めようとするアリア。
「放っておいて大丈夫よ、アリア」
そんなアリアをエリーゼが制す。
「おりゃあ!覚悟しろやぁ!」
「ユーリ!喰らえ!」
「…ッ!!?」
シャーとハンプが息を合わせてユーリに飛びかかった。
そして。
「ギャハハハ…!!」
突然、室内に響く笑い声。
「…は?」
「…ね?」
アリアは呆気にとられ、止めようとしていた体の力が抜ける。
エリーゼは落ち着いて、抑えていたアリアを離した。
尚も笑い声は止まらない。
ハンプに取り押さえられ、シャーにくすぐられるユーリの笑い声が、これから主が居なくなる拠点の室内を、明るく満たすのだった。
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