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レシピとクラフト!
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19時を少し回った。
外は暁が雲の西側を赤々と照らしている。
日本で言えば夏の夕暮れの様に、遅い時間まで空にいた太陽も、漸く月と交代する時間になっていた。
もっとも、このゲームには四季の概念が無いから、毎日、朝5時頃と19時頃が昼と夜の境になるのだが。
少し涼しくなる時間帯。
それでも、雪山から戻ってきたばかりのユーリやシャーは、むしろ暑いくらいに感じていた。
勿論、もう一人の仲間も。
「…ふ~ん。その人がアリアさんね?」
「ヒューッ!これまた美人じゃねえか、おい!」
拠点で留守番をしてくれていた2人。
ユーリ達から簡単に紹介をされたアリアを見て、其々に口を開いた。
「ああ。アリアもこれから共に戦う仲間だ。2人とも宜しくな!」
アリアが仲間であることをハッキリ伝えて仲をとり持つシャー。
やはり、リーダーらしく皆を纏めるのはシャーが適任だ。
「強いヤツなら大歓迎だぜ!その上、美人なら超大歓迎ってなぁ!?」
「ハンプは女性なら誰でも良いんでしょ!」
ハンプの歓迎に睨みを入れるエリーゼ。
その後、すぐに笑顔でアリアを見て、続けた。
「…それより、夕飯、すぐに用意するから、座って待ってて!」
「ああ。ありがとう、エリーゼ。噂の美味しいご飯にさっそくありつけるなんてね」
「やだなぁ!照れちゃうからそんなに持ち上げないでよ」
「あたしも、いきなり来たから、てっきり缶詰めでも御馳走になるかと思ってたんだ」
どうやら、皆、仲良くやっていけそうだ。
そんな事を思いながら、ニコニコと眺めていたユーリだったが、改めてアリアにエリーゼ達がNPCであることを伝え、エリーゼ達にも事の経緯とアリアの武器に至るまでを詳しく話した。
話し始めてすぐにエリーゼは夕食を用意し、アリアも一緒にビーフシチューの様なデミグラスベースのスープに鹿の肉を使った、鹿シチューに舌鼓を打ちながら話は盛り上がった。
牛は希にしか居ないから、牛料理はなかなかありつけないのが残念な所だ。
その後、話はクラフトとレシピの関係について、ユーリが語る事になる。
「つーか、そもそもレシピって何なんだよ?このゲームぁ、自由度高ぇから、レシピなんか無くても創作クラフトで新しいモン作れんだろ?」
きっかけを放ったのは、ハンプのこの言葉だった。
ユーリは、其々に目配りをして口を開く。
「そうなんだ。一応、レシピが無くても、プレイヤーが作り方をリアル知識で持っていて、素材や必要な道具、設備さえあれば、何でも作れるのがこのゲームなんだ。けど、創作クラフトで本当に使えるのは、品質度の設定がない一部のアイテムだけで、品質度が設定されてるアイテムについては、レシピが無いと、品質が低レベルで上限になってしまって、中盤には弱すぎて大した役に立たないものしか作れないんだよ」
「へえ」
「そうだったんかぁ」
アリアとハンプが感心した眼でユーリを見る。
こういう情報は、シャーよりユーリの方が詳しい。
シャーとエリーゼも、共に黙って聞いていた。
再びユーリはそんな皆を見渡してから、話を続けた。
「基本的には工具とか、調理器具とかは、大半が品質とか無い物だから、素材や道具さえ用意できれば好きに作れるけど、中には、例えばノコギリの刃とか包丁みたいに、刃物として武器にもなり得る物には、必ず品質レベルがあるんだ。ただ、ノコギリなんかは本気で武器にする人が居ないから、ただ木を切ったりゾンビ解体するくらいなら、品質とかは殆ど気にならない。そういう品質とかを無視できる物や、品質設定が無い物なら、創作クラフトで作っても無駄はないかな」
「なるほどな」
今度はシャーが納得する様に頷く。
ハンプは既に話が脳に響いてない様子で、「ほお~」や「へえ~」などの相槌だけ繰り返している。
それでも、ユーリの話は終わらない。
「そこで、低品質から高品質にする為に、専門的な知識を学ぶって理由設定で、レシピが存在しているんだ。創作で100や200程度の品質しか作れなかったアイテムも、そのアイテムのレシピを手に入れれば最大上限600までの品質の物を作れる様になるって言うのが、このゲームの設定なんだよ。そして更に、武器や防具、建築資材とかは、レア度によって貴重なものかどうかの区別がされている。貴重度が1番低いのがコモンで、主にどこにでもあるような素材系が殆どを占めている。そして、多くの武器防具や建築資材などはアンコモンに分類されてるかな。さらに、珍しい部類のレア。その上、伝説級のエピックに、さらに上の神話級のレジェンドってのが最高級レア度になってる。中でもレア以上に指定されているモノは、もしリアルで作り方を知っていたとしても、レシピを手に入れないと作れない様に設定されてるんだ。それを無視して、レシピ無しに勝手に姿形を真似て作っても、名前に『レプリカ』の表記が付いて、本物と同じ品質でも攻撃力が格段に低いものしか作れないんだよ」
「へぇ~、そんな決まりがあったのかよ」
「ふむ。俺も初耳だ」
「あたしも初めて知った。そんな事を聞くと、つくづくあたしはツイてるね」
「ユーリは本当に物知りよね」
ユーリの話に各々の反応が返る。
「シャーには、やり始めた頃に一度、作れる道具の話をしてたんだよな。で、もっと強力な道具については追々話すよ、って言ってたけど、あの頃はまだ俺達のクラフトレベルとかスミスレベルが低かったから、まだ早いと思ってたんだ。でも、アリアと会って、レア武器を目の当たりにしたから、各スキルレベルも上がってるし、話し時かと思ってね」
「そういえば、そんな話をしてたな。因みに、アリアのスパイククラブの他には、どんなのがあるんだ?」
「あ、あたしも聞いておきたいね」
何やら、ユーリが物知り先生みたいな感じのシチュエーションに、気分が良くなってきて、心が踊る。
「仕方ないなあ。じゃあ、特別にこの俺が、簡単に教えてあげよう!」
「下らん前置きは良いから」
調子に乗ったユーリを、シャーが冷たく切り捨てた。
「あ、はい」
ちょっとションボリするユーリ。
直ぐに気を取り直して、再び説明を始めた。
「ま、その前に、一応関係する話だから、このゲームについても軽く触れておくよ」
そう前置きして、一息入れてから話を続けた。
「このゲームって、半世紀以上前とかに流行ったゲームのストーリーとか、システムを混合させてるんだ。1つが、ある製薬会社が開発したウイルスが持ち出されてパンデミックを起こし、閉鎖されていく都市から脱出すると共にウイルス研究の証拠を集め、黒幕をぶっ潰す、ミッション性の高いストーリーの、ゾンビガンサバイバルゲーム。もう1つのメインベースになってるのは、ゾンビパンデミックで滅亡しかけた世界で、あちこちにウイルスとは別の猛毒とかも撒かれ、その毒に汚染されてない1部のエリアで裸一貫で目が覚め、身の回りの装備や拠点を整えて、一定期間に集団でゾンビ達が襲撃してくるのを防ぎ、生き残る事を目的とした、生活サバイバルとゾンビキリングサバイバルを両立したゲームなんだ」
話を始めると、プレイヤー組のシャーとアリアが、ユーリの話にのめり込んだ。
「で、ゲームの自由度が高い、生き残りを目的にしたセルフプレイのロールプレイゲームがメインベースなんだけど、もう1つのゲームのミッションとストーリー性を、サブストーリーに取り込み、マルチストーリーとマルチエンディングも用意して、『生き残り以外にも、マルチストーリーも楽しめるサバイバルゲーム』に仕上げたのが、このゲームの最大の特徴なんだ」
エリーゼとハンプも静かに話に耳を傾けている。
皆がユーリの話を聞く中、外はすっかり日が沈み、夜の暗がりに雨音が窓から囁き始めたのだった。
外は暁が雲の西側を赤々と照らしている。
日本で言えば夏の夕暮れの様に、遅い時間まで空にいた太陽も、漸く月と交代する時間になっていた。
もっとも、このゲームには四季の概念が無いから、毎日、朝5時頃と19時頃が昼と夜の境になるのだが。
少し涼しくなる時間帯。
それでも、雪山から戻ってきたばかりのユーリやシャーは、むしろ暑いくらいに感じていた。
勿論、もう一人の仲間も。
「…ふ~ん。その人がアリアさんね?」
「ヒューッ!これまた美人じゃねえか、おい!」
拠点で留守番をしてくれていた2人。
ユーリ達から簡単に紹介をされたアリアを見て、其々に口を開いた。
「ああ。アリアもこれから共に戦う仲間だ。2人とも宜しくな!」
アリアが仲間であることをハッキリ伝えて仲をとり持つシャー。
やはり、リーダーらしく皆を纏めるのはシャーが適任だ。
「強いヤツなら大歓迎だぜ!その上、美人なら超大歓迎ってなぁ!?」
「ハンプは女性なら誰でも良いんでしょ!」
ハンプの歓迎に睨みを入れるエリーゼ。
その後、すぐに笑顔でアリアを見て、続けた。
「…それより、夕飯、すぐに用意するから、座って待ってて!」
「ああ。ありがとう、エリーゼ。噂の美味しいご飯にさっそくありつけるなんてね」
「やだなぁ!照れちゃうからそんなに持ち上げないでよ」
「あたしも、いきなり来たから、てっきり缶詰めでも御馳走になるかと思ってたんだ」
どうやら、皆、仲良くやっていけそうだ。
そんな事を思いながら、ニコニコと眺めていたユーリだったが、改めてアリアにエリーゼ達がNPCであることを伝え、エリーゼ達にも事の経緯とアリアの武器に至るまでを詳しく話した。
話し始めてすぐにエリーゼは夕食を用意し、アリアも一緒にビーフシチューの様なデミグラスベースのスープに鹿の肉を使った、鹿シチューに舌鼓を打ちながら話は盛り上がった。
牛は希にしか居ないから、牛料理はなかなかありつけないのが残念な所だ。
その後、話はクラフトとレシピの関係について、ユーリが語る事になる。
「つーか、そもそもレシピって何なんだよ?このゲームぁ、自由度高ぇから、レシピなんか無くても創作クラフトで新しいモン作れんだろ?」
きっかけを放ったのは、ハンプのこの言葉だった。
ユーリは、其々に目配りをして口を開く。
「そうなんだ。一応、レシピが無くても、プレイヤーが作り方をリアル知識で持っていて、素材や必要な道具、設備さえあれば、何でも作れるのがこのゲームなんだ。けど、創作クラフトで本当に使えるのは、品質度の設定がない一部のアイテムだけで、品質度が設定されてるアイテムについては、レシピが無いと、品質が低レベルで上限になってしまって、中盤には弱すぎて大した役に立たないものしか作れないんだよ」
「へえ」
「そうだったんかぁ」
アリアとハンプが感心した眼でユーリを見る。
こういう情報は、シャーよりユーリの方が詳しい。
シャーとエリーゼも、共に黙って聞いていた。
再びユーリはそんな皆を見渡してから、話を続けた。
「基本的には工具とか、調理器具とかは、大半が品質とか無い物だから、素材や道具さえ用意できれば好きに作れるけど、中には、例えばノコギリの刃とか包丁みたいに、刃物として武器にもなり得る物には、必ず品質レベルがあるんだ。ただ、ノコギリなんかは本気で武器にする人が居ないから、ただ木を切ったりゾンビ解体するくらいなら、品質とかは殆ど気にならない。そういう品質とかを無視できる物や、品質設定が無い物なら、創作クラフトで作っても無駄はないかな」
「なるほどな」
今度はシャーが納得する様に頷く。
ハンプは既に話が脳に響いてない様子で、「ほお~」や「へえ~」などの相槌だけ繰り返している。
それでも、ユーリの話は終わらない。
「そこで、低品質から高品質にする為に、専門的な知識を学ぶって理由設定で、レシピが存在しているんだ。創作で100や200程度の品質しか作れなかったアイテムも、そのアイテムのレシピを手に入れれば最大上限600までの品質の物を作れる様になるって言うのが、このゲームの設定なんだよ。そして更に、武器や防具、建築資材とかは、レア度によって貴重なものかどうかの区別がされている。貴重度が1番低いのがコモンで、主にどこにでもあるような素材系が殆どを占めている。そして、多くの武器防具や建築資材などはアンコモンに分類されてるかな。さらに、珍しい部類のレア。その上、伝説級のエピックに、さらに上の神話級のレジェンドってのが最高級レア度になってる。中でもレア以上に指定されているモノは、もしリアルで作り方を知っていたとしても、レシピを手に入れないと作れない様に設定されてるんだ。それを無視して、レシピ無しに勝手に姿形を真似て作っても、名前に『レプリカ』の表記が付いて、本物と同じ品質でも攻撃力が格段に低いものしか作れないんだよ」
「へぇ~、そんな決まりがあったのかよ」
「ふむ。俺も初耳だ」
「あたしも初めて知った。そんな事を聞くと、つくづくあたしはツイてるね」
「ユーリは本当に物知りよね」
ユーリの話に各々の反応が返る。
「シャーには、やり始めた頃に一度、作れる道具の話をしてたんだよな。で、もっと強力な道具については追々話すよ、って言ってたけど、あの頃はまだ俺達のクラフトレベルとかスミスレベルが低かったから、まだ早いと思ってたんだ。でも、アリアと会って、レア武器を目の当たりにしたから、各スキルレベルも上がってるし、話し時かと思ってね」
「そういえば、そんな話をしてたな。因みに、アリアのスパイククラブの他には、どんなのがあるんだ?」
「あ、あたしも聞いておきたいね」
何やら、ユーリが物知り先生みたいな感じのシチュエーションに、気分が良くなってきて、心が踊る。
「仕方ないなあ。じゃあ、特別にこの俺が、簡単に教えてあげよう!」
「下らん前置きは良いから」
調子に乗ったユーリを、シャーが冷たく切り捨てた。
「あ、はい」
ちょっとションボリするユーリ。
直ぐに気を取り直して、再び説明を始めた。
「ま、その前に、一応関係する話だから、このゲームについても軽く触れておくよ」
そう前置きして、一息入れてから話を続けた。
「このゲームって、半世紀以上前とかに流行ったゲームのストーリーとか、システムを混合させてるんだ。1つが、ある製薬会社が開発したウイルスが持ち出されてパンデミックを起こし、閉鎖されていく都市から脱出すると共にウイルス研究の証拠を集め、黒幕をぶっ潰す、ミッション性の高いストーリーの、ゾンビガンサバイバルゲーム。もう1つのメインベースになってるのは、ゾンビパンデミックで滅亡しかけた世界で、あちこちにウイルスとは別の猛毒とかも撒かれ、その毒に汚染されてない1部のエリアで裸一貫で目が覚め、身の回りの装備や拠点を整えて、一定期間に集団でゾンビ達が襲撃してくるのを防ぎ、生き残る事を目的とした、生活サバイバルとゾンビキリングサバイバルを両立したゲームなんだ」
話を始めると、プレイヤー組のシャーとアリアが、ユーリの話にのめり込んだ。
「で、ゲームの自由度が高い、生き残りを目的にしたセルフプレイのロールプレイゲームがメインベースなんだけど、もう1つのゲームのミッションとストーリー性を、サブストーリーに取り込み、マルチストーリーとマルチエンディングも用意して、『生き残り以外にも、マルチストーリーも楽しめるサバイバルゲーム』に仕上げたのが、このゲームの最大の特徴なんだ」
エリーゼとハンプも静かに話に耳を傾けている。
皆がユーリの話を聞く中、外はすっかり日が沈み、夜の暗がりに雨音が窓から囁き始めたのだった。
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