サバゲでデスゲって、もはやリアルな修羅場ッ!!?

水咲 蓮

文字の大きさ
上 下
8 / 32

建築のウンチク!!

しおりを挟む
ゾンビとの初戦を終えて、4人は1階の迎撃フロアに来ていた。
まだ雨は止まず、バリケードの向こうには水溜まりも出来ている。
その水溜まりに打ち付ける雨を見れば、かなり強めな雨である事は解る。
だが、風はそれ程強くないから、拠点内に雨が吹き込む心配は無さそうだ。

フロアの名付けの通り、拠点のここ1階は、ゾンビ達が来た時の迎撃を目的としていて、家具等は一切置いていない。
武器の玉類を直ぐに取り出せる様に、玉類を収納する木箱が2ヶ所、迎撃フロアの天井であると同時に2階の床でもある張り板に設えていて、2階からも1階からも、どちらからでも収納、取り出す事ができる。
さらに、バリケードで迎撃したゾンビから回収したアイテムも、同じ様に設えた木箱がもう2つあって、ゾンビ回収用と武器の玉用を其々対角に、四つ角辺りに計4つ、用意した。
それから、中央の柱とそれに沿う螺旋階段。
19メートル四方の四つ角に、2階を支える四つの太い主柱がある。
太さは2メートル四方。
数十階建てのマンションでも建ちそうなしっかりした主柱だ。
そして、その19メートル四方の四角形から、各辺の外側3メートル離れた位置に、外面24平方メートル、内面22平方メートルのバリケードが四角く囲っていた。
つまり、バリケードの幅は1メートルである。
2階の面積はそのバリケードの真上に、外面が揃う様に壁を設えている。
一応、バリケードに含まれる5マスおきの柱が、2階の一番外枠までの重みを支えていて、その柱の耐久力なら、あと1.5メートル(50センチ×3マス)程なら外に張り出しても良いのだが、余裕を持って24メートル四方で纏めたのだった。
シャーは、改めて外の泥濘に目をやる。
目的が定まらない足跡が1人分。
恐らくはそれが、あのゾンビのものに違いなかった。
「やっぱりだ」
4人で念のためバリケードの内側を一週して、シャーが口を開く。
「ああ、小石のブロックで作ったバリケードに、損傷は見当たんねーな」
ハンプも確認するように状況を口にした。
「壊されてないって事は、やっぱり…」
「つまり、このおでこから腰の辺りまでの空間を潜り抜けて侵入したって事ね」
先程のゾンビの侵入方法についての疑問に、ユーリの発言をエリーゼが引き継いで、結論を出した。
再びユーリが、独り言の様に思考を溢す。
「普通に見れば、潜り抜けられる幅は余裕であるし、人間なら、普通に間を潜ろうとするのは当然だけど…」
先細るユーリの声に代わって、シャーがNPC達に説明を始めた。
「このゲームのゾンビ達は、プログラムバグのせいで、この隙間を抜けるという思考が無くて、行動も勿論できなかった。例外としては、ゾンビの攻撃範囲である、半径1メートル以内に生存者が入ると、ゾンビは攻撃してきて、それが生存者に届いて当たる事。それと、その攻撃がバリケードに当たって、バリケードの耐久が尽きて破壊され、侵入を許してしまうケース。これらは活きてるゾンビが居る間はバリケードに近付き過ぎず、ゾンビから半径1メートル以上離れていれば、攻撃もされないから壊される事は無い―――」
ここまでの説明に、ハンプとエリーゼはウンウンと頷く。
これも、これまでの状況データが裏記録に残されていた事で、これまでも会話が無くてもプレイヤーの行動を観察して理解していた範囲なのだろう。
「―――後は、かなり希なケースだが、死に至らないダメージでもゾンビが倒れる事はよくあるけど、その倒れ方によってはこのスペースに上半身が倒れ込み、後ろから他のゾンビに押し込まれて、バリケードの中に転がり込む事。そういうマグレかミスでもない限り、ゾンビの通常行動でここを抜けて来るなんて事は、万に一つもあり得なかったはずなんだ」
攻略法を調べたユーリが、ネットの情報を信じて作ったバリケードだ。
機密スペックに転移するまでのハザードトゥダイであれば、それは間違いなかった。
「じゃあ、拠点内にリスポーンした可能性は?」
エリーゼが、少し責任を感じて沈むユーリを見て、別の可能性を探る。
「拠点には寝床もあるから、その付近、寝床から周囲半径20メートル圏内ではゾンビは勿論、アイテム等もリスポーンされないはずだ。
逆に、その範囲を越えれば、例えば鳥の巣の卵や羽根なら、別の鳥がその巣を再利用して、再び卵を産み、羽根を落としていくから、3日~5日程度でリスポーンする。でも、何らかの不具合によって、その設定が効かない事態があった可能性も0じゃない」
シャーが顎に手を当てながら、エリーゼの問いに答え、尚も続けた。
「しかし、ゾンビのリスポーンシステムはこのゲームのかなり土台的な位置付けにあるはずだから、おいそれと簡単に設定を変える事は考えにくい。やはり、考えれば考える程、恐らくは、可能性としては限りなく0に近いな」
それを聞くと、エリーゼも、他の誰もが黙ってしまった。
シャーも考えが纏まらないせいで、そのまま思考に耽り、皆の周りを沈黙が支配する。
「ま、何時までもただ考えてたってキリがねぇ。侵入される前提で対処法を考え直して、それに合わせた拠点の形を考えよーぜ!?」
その沈黙は、またもハンプの切り込みで解消された。
しかも、ずいぶんと的を射た話をしたのは意外だった。
仲間設定しているシャーに似てきているワケじゃないだろうか。
4人が少し落ち着き、明るいやり取りがまた交わされ始めた頃、ユーリから改めて切り出した。
「これが、俺がモヤモヤしてた事だったんだ。なんだか、ゾンビの侵入がハッキリした事で、恐怖や嫌な気持ちはあるけど、モヤモヤは無くなった。ゾンビにも、幼児くらいの考える能力はあるのかも。で、それがスペックが上がったコンピューターで処理能力も上がって、さらにプログラムの綻びまで修正されたんだから、こうこともあり得るんだ」
「そうか。ユーリはハッキリとは頭で理屈を組めなかったが、こういう"バグが無くなって危険が増した事"等を直感的に感じていたのかもな」
「ってぇ事ぁよぉ。今後の方針の話、拠点強化って最優先事項なんじゃね?」
「そうね。こうなった以上、バリケードは頼れない」
「ああ。さっきの今後の予定は、一旦リセットだ。またすぐにでも襲って来ないとも限らない以上、拠点の強化を最優先にして、食料品や雪確保は次点。その後、玉数の順で優先順位を入れ替えよう」
「そうね。仕方ないわ。同時に2・3体のゾンビが襲ってくる事もザラにあるから、拠点は一刻も早く対処しないと、今晩にも皆がゾンビになっちゃうかもしれないからね」
「おいおい、そりゃゾッとしねーな」
「…そうだな。でもそれなら、拠点強化については安心してくれ。実は俺に良い案がある…」
ここで胸を張って言い出したのは、ユーリだった。
皆がユーリに注目する。
ユーリはそれを、やる気の漲る視線で返し、現実の建築に関する理論と、ネットで調べた過去作のゲーム内設定上の、耐久等の情報を基に、ウンチクを語り始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

入れ替わりノート

廣瀬純一
ファンタジー
誰かと入れ替われるノートの話

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

処理中です...