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ホウシン!
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束の間の休息に、皆が愛称の話で盛り上がってる中、ユーリはもう一つ引っ掛かる事に思考を向けた。
データ転移前の記憶が、どうもNPCの彼らにもあるように思えた件についてだ。
先程のエリーゼの反応もそう。
ユーリが屋根を組んだのはデータ転移前の、現実世界の時間でも一晩挟んだ前日。
その、リアル前日の行動を、エリーゼは"あたかも見ていた様に"「頑張ってた」と言ったのだ。
確かに、エリーゼはユーリと仲間設定していて、ユーリがログインしている間はエリーゼも近くに居る事になっていた。
仲間設定しているNPCが特にやる事が無い時、プレイヤーがクラフトや手作業を行っていると、NPCは近くで周囲警戒を勝手にやってくれたりする。
昨日も例外なく、ユーリが屋根を作っている時に、2階のユーリの真下のマス辺りをウロウロと警戒していた。
ユーリからも下を見下ろせばエリーゼの姿が見えていたから間違いない。
しかし、それはスペックが国家機密レベルになる前の話だと言うのが引っ掛かるのだ。
結局の所、五感に特化して容量を割いたゲームだから、それ以外のデータ容量は荒くなり勝ちで、NPCの行動パターンや日常会話のセリフなどは少なく、コアな話になると「それは私にはわからない」的な返答しか返ってこなくなる。
それくらい、思考性能も乏しく、1個体に使う記憶領域も少ないから、例えばプレイヤーの誕生日にログインしたら、NPCが祝ってくれるとか、そういうプレイヤーが喜ぶ様な事や、日常的に頻繁に出る言葉、指示や命令等の重要事項、趣味や好きなこと等の記録以外は残されてないと思っていた。
だが、スペックが一般家庭用ゲーム機程度でも、一応、AIとして近況のログインや進捗データ等は、隠し記録の類いにでも収集していたという事か。
今の情報量で考えられるのは、こんなところか。
こういう難しい話は、今回の様に他の事を気にせず、じっくり考えに耽って良ければ、自分でも考えるのだが、周りを気にしていたら全然頭が働かないのが、普段のユーリだ。
従って、考え事はいつもシャイニード任せだった。
「じゃ、ユーリも解ったな?」
「あ?へ?」
「ユーリったら、また考え事してたのね?シャーほど考えるの得意じゃないんだから、程ほどにしときなよ?」
エリーゼはユーリの連れだからか、ユーリには距離感も近く、色々と無遠慮で言ってくる所がある。
どこか、ユーリの姉気分を臭わせた。
実際、設定上のエリーゼの歳は20歳だから、ユーリより4つも年上なのは事実である。
「俺とハンプソンは名前が長いから、みんなで愛称で呼ぶことにした。俺はシャーでハンプソンはハンプ。そんな話だ」
因みにハンプは19歳だとか。
その割にはガタイがイカツ過ぎる。
「り、了解。それにしても、シャイニードの愛称が、半世紀前のロボット漫画の、有名な登場人物の名前になるなんてな」
「それな。シャー・アンタッチャブルだっけ?」
「違げーよ!シャア・アズナ…」
「そ!ん!な!事より!!…これからどーすんだよ、相棒達よぉ!?」
ユーリとシャーの、どうでもいいやり取りに、ハンプが割って入る。
これはもう、この4人のお決まりのスタイルになりつつありそうだ。
そうして改めて、この先の予定を話し合うことにし、ハンプの問いにシャーが応じた。
「そうだな、やっぱり、当面は食料確保と武器の玉数集めか?」
「それならよー、狩りついでに鳥の巣漁って、卵と羽根取って、木材とか石集めすれば、石矢も出来るし食材も集まって良ーんじゃね?」
「料理担当の私からすると、未加工の生肉を切らしてるから、保存用含めて多めに確保しておきたい所ね。とりあえず、4人で4日か5日程度の調理加工済みのものはあるけど、無くなってから狩りしても、上手くいかなくて飢え死にしちゃうかもだしね」
「…となりゃ、町の探索と森での狩り、二手に別れるってなぁ感じか?」
「そうしたい所だけど、俺達はまだピストルとか銃火器系の武器を組み立てる知識がないから、その辺のレシピも欲しいし、拠点強化も早めに整えたいよな」
「ユーリ。拠点の強化は、コンクリートが大量に作れる様になるまで待って、無駄に資材を減らすのを止めようって話を、拠点建て始めた時にユーリが提案してたんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど、状況が変わったから、なんかモヤッとしたものが、こう、胸に引っ掛かってるんだよな」
「つってもよー。今の素材と設備じゃ、コンクリートはミキサー無ぇから作れねーだろ?」
「そうなんだ。コンクリートミキサーのレシピか、トレーダーハウス以外でミキサーがあって、モンキーレンチがあれば、解体して持ってこれるんだが…」
「レシピは本屋が確率高いよね。レンチは高級住宅街で車イジリを趣味にしてそうな、独立ガレージがある家とかに、ある確率が高いんだっけ?」
「道端に転がってる車のトランクにも入ってるかもだぜ?」
「とりあえず、今の拠点にあるのは、キャンプファイヤーと、フォージが2個ずつ。それから、ワークベンチ、水源井戸、革乾燥用のハンガー、裁縫台が1つずつってところだ。ピストルとか機械系を作る為の精密工台とか、さっき言ってたセメントミキサー、薬品とか作るケミカルステーションはまだ無い」
「ワークベンチは農耕具とか、撲殺斬刺殺系、罠やボウガンみたいな狩猟系武器と、釘とか杭とかの簡単な消耗品しか作れないから、強力な武器を作るとか、ネジみたいな精巧部品を作るには、精密工台は必須だよね」
「たまに、ゾンビがピストルやライフルを持ってる時があるじゃない?」
「あと、交番近くの道端とかに落ちてる事も結構あるんだよね」
「んなのぁ、感染前の警官の所にゾンビが来て、大体の警官は銃で戦っただろうから、そうして戦った結果、数に負けてゾンビに食われた時に落としたモンだろーよ」
「だから、落ちてる銃は玉が無いのが多いのか~」
「ちょっと待て、みんな。話が逸れはじめたから、修正しよう。時間は有限だ。それに、10日に1度の大群襲撃、つまり恐らくは7日後の夜に来るフォードにも備えたい。1度整理して、優先順位をつけていこう」
「そうだったわ。フォードに備えなきゃいけないのよね。それなら、それこそフォードまでもたないかもしれない食料品調達は最優先かも」
「確かに。それと同時に、それを保存するための地下保冷庫の雪確保も忘れちゃだめだ」
「後は弓矢の玉数と、武器強化の為のレシピと精密工台の入手だな」
「んだよ、やることたんまりじゃねーか」
4人で相談していて、漸く話がまとまりそうだ。
やることは山積みだから、できるだけ無駄な時間は省かなければ、準備が間に合わなくてフォードで殺られるプレイヤーはかなり多いのだ。
具体的な行動方針を話し合おうとしていた、まさにその時だった。
4人しか居ないはずの拠点に、4人が2階に集まる最中、1階で、何か物音がした。
「シッ!」
シャーの声と仕草で、4人に緊張が走る。
微かな呻き声と共に、ユーリとシャーにとっては予想外な事態が起こるのだった。
データ転移前の記憶が、どうもNPCの彼らにもあるように思えた件についてだ。
先程のエリーゼの反応もそう。
ユーリが屋根を組んだのはデータ転移前の、現実世界の時間でも一晩挟んだ前日。
その、リアル前日の行動を、エリーゼは"あたかも見ていた様に"「頑張ってた」と言ったのだ。
確かに、エリーゼはユーリと仲間設定していて、ユーリがログインしている間はエリーゼも近くに居る事になっていた。
仲間設定しているNPCが特にやる事が無い時、プレイヤーがクラフトや手作業を行っていると、NPCは近くで周囲警戒を勝手にやってくれたりする。
昨日も例外なく、ユーリが屋根を作っている時に、2階のユーリの真下のマス辺りをウロウロと警戒していた。
ユーリからも下を見下ろせばエリーゼの姿が見えていたから間違いない。
しかし、それはスペックが国家機密レベルになる前の話だと言うのが引っ掛かるのだ。
結局の所、五感に特化して容量を割いたゲームだから、それ以外のデータ容量は荒くなり勝ちで、NPCの行動パターンや日常会話のセリフなどは少なく、コアな話になると「それは私にはわからない」的な返答しか返ってこなくなる。
それくらい、思考性能も乏しく、1個体に使う記憶領域も少ないから、例えばプレイヤーの誕生日にログインしたら、NPCが祝ってくれるとか、そういうプレイヤーが喜ぶ様な事や、日常的に頻繁に出る言葉、指示や命令等の重要事項、趣味や好きなこと等の記録以外は残されてないと思っていた。
だが、スペックが一般家庭用ゲーム機程度でも、一応、AIとして近況のログインや進捗データ等は、隠し記録の類いにでも収集していたという事か。
今の情報量で考えられるのは、こんなところか。
こういう難しい話は、今回の様に他の事を気にせず、じっくり考えに耽って良ければ、自分でも考えるのだが、周りを気にしていたら全然頭が働かないのが、普段のユーリだ。
従って、考え事はいつもシャイニード任せだった。
「じゃ、ユーリも解ったな?」
「あ?へ?」
「ユーリったら、また考え事してたのね?シャーほど考えるの得意じゃないんだから、程ほどにしときなよ?」
エリーゼはユーリの連れだからか、ユーリには距離感も近く、色々と無遠慮で言ってくる所がある。
どこか、ユーリの姉気分を臭わせた。
実際、設定上のエリーゼの歳は20歳だから、ユーリより4つも年上なのは事実である。
「俺とハンプソンは名前が長いから、みんなで愛称で呼ぶことにした。俺はシャーでハンプソンはハンプ。そんな話だ」
因みにハンプは19歳だとか。
その割にはガタイがイカツ過ぎる。
「り、了解。それにしても、シャイニードの愛称が、半世紀前のロボット漫画の、有名な登場人物の名前になるなんてな」
「それな。シャー・アンタッチャブルだっけ?」
「違げーよ!シャア・アズナ…」
「そ!ん!な!事より!!…これからどーすんだよ、相棒達よぉ!?」
ユーリとシャーの、どうでもいいやり取りに、ハンプが割って入る。
これはもう、この4人のお決まりのスタイルになりつつありそうだ。
そうして改めて、この先の予定を話し合うことにし、ハンプの問いにシャーが応じた。
「そうだな、やっぱり、当面は食料確保と武器の玉数集めか?」
「それならよー、狩りついでに鳥の巣漁って、卵と羽根取って、木材とか石集めすれば、石矢も出来るし食材も集まって良ーんじゃね?」
「料理担当の私からすると、未加工の生肉を切らしてるから、保存用含めて多めに確保しておきたい所ね。とりあえず、4人で4日か5日程度の調理加工済みのものはあるけど、無くなってから狩りしても、上手くいかなくて飢え死にしちゃうかもだしね」
「…となりゃ、町の探索と森での狩り、二手に別れるってなぁ感じか?」
「そうしたい所だけど、俺達はまだピストルとか銃火器系の武器を組み立てる知識がないから、その辺のレシピも欲しいし、拠点強化も早めに整えたいよな」
「ユーリ。拠点の強化は、コンクリートが大量に作れる様になるまで待って、無駄に資材を減らすのを止めようって話を、拠点建て始めた時にユーリが提案してたんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど、状況が変わったから、なんかモヤッとしたものが、こう、胸に引っ掛かってるんだよな」
「つってもよー。今の素材と設備じゃ、コンクリートはミキサー無ぇから作れねーだろ?」
「そうなんだ。コンクリートミキサーのレシピか、トレーダーハウス以外でミキサーがあって、モンキーレンチがあれば、解体して持ってこれるんだが…」
「レシピは本屋が確率高いよね。レンチは高級住宅街で車イジリを趣味にしてそうな、独立ガレージがある家とかに、ある確率が高いんだっけ?」
「道端に転がってる車のトランクにも入ってるかもだぜ?」
「とりあえず、今の拠点にあるのは、キャンプファイヤーと、フォージが2個ずつ。それから、ワークベンチ、水源井戸、革乾燥用のハンガー、裁縫台が1つずつってところだ。ピストルとか機械系を作る為の精密工台とか、さっき言ってたセメントミキサー、薬品とか作るケミカルステーションはまだ無い」
「ワークベンチは農耕具とか、撲殺斬刺殺系、罠やボウガンみたいな狩猟系武器と、釘とか杭とかの簡単な消耗品しか作れないから、強力な武器を作るとか、ネジみたいな精巧部品を作るには、精密工台は必須だよね」
「たまに、ゾンビがピストルやライフルを持ってる時があるじゃない?」
「あと、交番近くの道端とかに落ちてる事も結構あるんだよね」
「んなのぁ、感染前の警官の所にゾンビが来て、大体の警官は銃で戦っただろうから、そうして戦った結果、数に負けてゾンビに食われた時に落としたモンだろーよ」
「だから、落ちてる銃は玉が無いのが多いのか~」
「ちょっと待て、みんな。話が逸れはじめたから、修正しよう。時間は有限だ。それに、10日に1度の大群襲撃、つまり恐らくは7日後の夜に来るフォードにも備えたい。1度整理して、優先順位をつけていこう」
「そうだったわ。フォードに備えなきゃいけないのよね。それなら、それこそフォードまでもたないかもしれない食料品調達は最優先かも」
「確かに。それと同時に、それを保存するための地下保冷庫の雪確保も忘れちゃだめだ」
「後は弓矢の玉数と、武器強化の為のレシピと精密工台の入手だな」
「んだよ、やることたんまりじゃねーか」
4人で相談していて、漸く話がまとまりそうだ。
やることは山積みだから、できるだけ無駄な時間は省かなければ、準備が間に合わなくてフォードで殺られるプレイヤーはかなり多いのだ。
具体的な行動方針を話し合おうとしていた、まさにその時だった。
4人しか居ないはずの拠点に、4人が2階に集まる最中、1階で、何か物音がした。
「シッ!」
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