サバゲでデスゲって、もはやリアルな修羅場ッ!!?

水咲 蓮

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リアルと決意!!

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優しく耳に届く雨音。
気付けば外は雨が降っていた。
木造の拠点は、2階の天井が張り板無しで、屋根が剥き出しになっていた。
お陰で、それ程強い雨でなくても、雨音は大きめに室内に入ってくる。
サラサラと降っている今ぐらいが、丁度小気味良い音を室内に届けてくれた。
窓の木枠からシトシトと落ちる雨垂れの音と相まって、どこか心を落ち着かせる。
そんな雨音にも助けられ、やる気を漲らせるユーリも、あれから幾分か落ち着きを取り戻し、今後の予定をシャイニードと相談していた。
「さっきまでは遊び半分で探索なんて予定してたけど、やっぱデスゲになった以上、もうそれ所じゃないよな?」
真面目な顔だが、どこか明るさを取り戻した様にも見えるユーリが、シャイニードに問いかける。
「ああ。先ずは俺達の安全の確保だ。その為には素材集めが先か、武器強化の為のレシピ獲得が先か―――」
シャイニードもすぐには結論が出せず、そのまま2人して黙々と考えに耽っていた。
それにしても、ユーリが屋根を作っていて良かった。
このゲームでは、雨を侮ってはならないのだ。
実際のゲームでも、雨や雪と言った天候変化は突然で、今居るエリアが荒野だから雪にはならないものの、雨でも体調変化には少なからず関わってくる。
雨に濡れて体温が低くなると、身体を暖める為にエネルギーを消耗し、空腹が早くなる。
さらに、スタミナ減少によって抵抗値が下がり、ゾンビウイルスの感染速度を早めたり、風邪をひく事もある。
風邪をひくと個体差関係無く頭がぼんやりして、動きが鈍くなったり、最速で走れなくなったり、攻撃力が弱まったりもする。
それらバッドステータスによって、ゾンビとの戦闘で全力を出せずに死んだプレイヤーが、どれだけ居たことか。
それを防げただけでも、光輝がログアウトした後もユーリが残って屋根を完成させたのは、ちょっとしたミスが命取りになりかねないデスゲームとなった今では、かなりの役にたったのだった。
そんな拠点の2階には、未だ長いこと沈黙が居座っていた。
「…で、シャー達は今後、どうすんのよ?」
その長い沈黙を破ったのは、NPCのはずの荒くれ者、ハンプソンだった。
プレイヤー2人で相談していたはずが、いつの間にか混ざっていた。
いや、それに、驚くのはそれだけじゃない。
「…は?」
ユーリとシャイニードは同時に驚き、互いにパチクリと目を合わせ、瞠目したままハンプソンを見やる。
「エッ!?なな、なんだよ2人して!…き、気持ち悪りぃなぁ!?良くできた仕掛け人形じゃあるめーしよぉ!?」
2人の揃った動きからして、荒くれ男もさすがに不気味だったらしい。
身震いしながら独りハグし、体を横に向けて背中を丸めた。
怯えるような顔だけこちらに向けて、恐怖の注目から逃れたいのが見てとれる。
「な、なにこれ?」
ハンプソンの反応を見たプレイヤー2人だが、先に疑問を口にしたのはユーリだった。
ハッキリ言って、本当に驚いてるのはプレイヤー2人の方だろう。
「な、なんだよ、俺の顔になんか付いてんのかよ!?」
少し開き直って、威嚇するように語気を強めるハンプソンに、シャイニードが詰めよる。
「な、なんだ、シャー。お、俺が何かしたかよ?」
「2人とも、喧嘩は止めてよね」
割って入ったのは、紅一点のエリーゼだった。
それを耳にしたシャイニードは、視線だけエリーゼへ向けてピタリと動きを止め、ハンプソンに詰めよった時の真面目な表情を崩して、口角が上がった。
エリーゼの反応まで見て、動きを止めた一瞬で思考を巡らせ、何らかの結論を導きだした様だ。
「なるほど。国家のデータワールドと言うのは、国民の保護を目的としていただけあって、相当なデータ量なんだな」
独り言にも取れる言葉に、ユーリが付いていけない。
「…どういう事だ?」
「は?」
「何を言ってるの?」
三者三様に反応が返ってくる。
「いや、もしかしたら、これはとんでもない事かもしれないが、それは取り敢えず置いといて、ユーリ!」
「んあ!?」
不意に呼び掛けられたユーリは、虚を突かれてハッとする様にシャイニードを見た。
「いいか、ユーリ。ここは、俺達の知っているハザードトゥダイの世界じゃない。それよりも、もっと極限までリアルに近付けた、何世代もバージョンアップさせたハザードトゥダイだと思えば良い」
「え?それって…」
「ああ。だから、NPCすら本当の人間の様に、計算的なAIの思考じゃなくて、感情やら何やらまで再現した思考で、自然な人間の仕草で接する事が出来る、リアルと本当に大差無い世界になったんだ」
「ま、マジか…」
「マジだ。ハードが国家所有の機密レベルになった事と、その最先端中の最先端、一般的には未来に一般化される様なハイスペックハードが自動補正でシステム再構築した時点で、その可能性はあった」
「…てか、お前らホント、どーしたよ?」
シャイニードの話にユーリが驚くのも束の間。
ユーリの頭の中で色々な事を整理している間も無く、ハンプソンが割り込んだ。
整理がついてない様子のユーリを見て、シャイニードがそれに答える。
「いや、コイツさ、昨日、遅くまで屋根作ってくれてたらしくて、お陰でこの雨の中、俺らも濡れないで済んでるだろ?だから、個人的に感謝を伝えたかったの忘れててな。みんなの前で仰々しくありがとうを言うのも何だから、個人的にチャチャッと礼をしてたんだ!」
「あ、そうよね。ユーリ、頑張ってたもんね」
「なんだ、そんな事かよ…」
「あ、ああ、まあ、我ながらやっておいて良かったよ、ハハハ…」
本当に、本物の人間と接している様な会話だった。
少し前、ハンプソンの反応に2人が驚いたのも、通常、NPCから会話をしてくる事など、特定のNPCから発生するイベントやクエストでもない限り、あり得ないからだ。
しかし、本当の人間と同じような思考を持つNPCなら、沈黙に堪えかねて話を切り出す人が居ても何ら不思議ではない。
確かに、シャイニードの言う事は納得がいった。
それと同時に、この、NPCを含めた死まで現実的で、しかもゾンビが蔓延る危険極まりない終末世界が、まさしく自分達の命を賭けたリアル世界だと認識せざるを得なかった。
さっき覚悟を決めたはずなのに、改めて突きつけられると少し揺らいでしまう。
だが、負けられない。
真剣に、そう強く心に刻むユーリだった。
「そー言えばよー。俺、前々から思ってたんだけど、シャイニードって名前、長げぇから、愛称で呼ばねー?俺の事もハンプでも何でもいーからよぉ」
真剣に覚悟を決めるユーリを余所に、ハンプは割りとどうでもいい話を切り出した。
「あ、それ私も思ってた。私もエリーゼでもエリーでも良いよ」
「ああ。俺も構わないが―――」
一緒に真剣な話をしていたシャイニードもハンプソンの話に混ざり、拠点にユルい空気が流れる。
修羅場な世界で、束の間の休息が訪れるのだった。
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