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九死に…!?
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「くそッ!これは、あくまで、ゲームのデータベースなんだ!こんな所で、本当にリアルの命を、落とすなんて、そんな、フザケた死にかたが、あるか!!」
視界はほとんど白一色で、足元の凹凸すら見分けが付かない。
呼吸を荒くして、白煙が頻繁に口から吐き出される。
親友の転落から少し時間が経ち、崖下の目的地点までたどり着いたシャーが、必死に積もった雪を掻き分けていた。
崖を降りるのに苦戦して時間が経ったとは言え、倒れた人を埋める程、降り積もる時間は経過してないはずだ。
「1マス分掘って、そのまま1段下を水平展開的に掻き分けていくか…」
親友への心配が爆発しているのと、吹雪の中での孤独感が勝って、自然と独り言が頻繁に口を突く。
手持ちの石と木で、即席の石スコップを作り、雪を掻き進めた。
文句ばかり吐きながらも、50センチ程の雪を掘り、そこに降りて周りを掻き分けていく。
もし今、ゾンビが来たら、シャーの近接攻撃は敵の頭部には届かない。
つまり、こちらの攻撃は敵に致命傷を与えないのに、敵はこちらの頭部などを狙い放題で、圧倒的不利、という事だ。
敵の接近に早めに気付き、雪の上に上がる暇があれば何とかなるかもしれないが、もし、不意を突かれたら不利を強いられる事になる。
それを覚悟して尚、雪を掻き分けて進む。
暫くした頃。
結構な時間が過ぎたが、未だゾンビに遭遇しない事を不思議に思いつつ、シャーは雪を掘り続けていた頃だった。
自分以外の足音が、微かに吹雪の音に混ざって聞こえたのだ。
「くそッ!とうとうゾンビに嗅ぎ付けられたか!」
相手してる暇など無いのに!などと思いながら、1段低い位置から手を付けてない雪の上に飛び乗った。
早めに足音に気付けたのには、自らの幸運に感謝しかない。
「今の俺は気が立っている。来るなら容赦できないぞ!?さぁ、来い!」
鉄板を巻き付けた棍棒、所謂アイアンクラブを握りつつ、弓を構えてクラブを持つ右手で矢を引く。
そうしてゾンビを迎え撃つつもりで足音のする方を睨んだ。
音は段々と近づいていた。
一人で太刀打ちできるのか。
そんな不安も過るが、それを生唾と共に喉の奥へ追いやる。
その時。
吹雪のベールの向こうに、人影がボヤッと映った。
「そこか!!」
人影に、先手必勝とばかりに矢を射た!
しかし、影は殆ど無反応で、さらに近付いてくる。
「クソッ!やはりまだ弓矢なんて通用しないのか!」
外した可能性もあるが、シャーとしては影に真っ直ぐ射れた確信があり、当たった前提で思考が固まっていた。
その上、頭に血が登ったシャーは、弓矢を投げ捨ててクラブを構え直す。
そして、まだ少し距離のある影に飛びかかった!
至近に来て、クラブが振り下ろされる瞬間。
人影だったものが、山男の姿で目の前に現れる。
ガツンッ!!
躊躇なく張り下ろしたクラブは、姿を見せた山男の脳天に向かって直撃した。
しかし、それを受けたゾンビは首を傾げながらも、あまり効いてる様子がない。
「固ッ!?」
思わず声を漏らす。
山男は間髪入れずにシャーを掴もうと手を伸ばした。
「ヤバッ!!」
着地して直ぐに後ろへ飛び退く。
捕まったらアウトだ。
間一髪で避け、距離をとりなおし、改めて敵を見た。
ユーリは2人でなら倒せると言っていた。
つまり、1人では倒せないと践んでいたという事だ。
「くそッ!こんな時に…ッ!?」
憎しみやら悔しさやら、様々な感情を乗せた愚痴が出た時、シャーの目があるものを捉えた。
それは、山男の服に付いた、新しい血の飛沫だった。
「まさか!?…ユーリを…!?」
不安が的中した事を予想させる。
そんな筈は無い!
そう強く思っても、シャー自身、ユーリを探す時間がかかりすぎていた事を良く理解していた。
そのせいもあって、悪い結果を想像し、それを裏付ける様なモノを見てしまえば、希望など到底持てない。
「クッ!!…ちくしょう!!」
奥歯を強く噛み締めながら、ゲーム内外を問わないユーリ、優耶の顔が思い浮かぶ。
小学校からの付き合いは長く、次々と巡る優耶やユーリの顔は、終わりを見せる気配が無かった。
初めて話し掛けた時の顔。
走って転んで泣き出した時の顔。
お菓子の付録のシール集めで目当てのシールを手にした時の顔。
懐かしいボードゲームで勝った時の顔。
時には泣いて、笑って、真剣に、楽しく、悲しみ、怒り、駄々を捏ねて、明るく元気な顔が、幾つも浮かび上がった。
それはほんの一瞬だったかもしれない。
しかし、シャーには紛れもなく、これまでの優耶との長い付き合いを、一つ一つ巡る時間があった。
そして。
「優耶の分も、俺は生きなきゃな…」
どんな時にも諦めない優耶の為にも。
そう強く心に刻み、諦めかけた思いを前向きな気持ちで吹き飛ばす。
再びアイアンクラブを構え、山男の接近を待つ。
すると、山男の向こうに、さらなる人影が現れた。
もう、絶望的な状況だ。
奥の影も山男だとすれば、2体も相手する事になる。
流石にもう勝ち目は無い。
とはいえ、シャーの後ろはユーリが滑落した崖が壁となり、こんな吹雪では登ることもできない。
左右に逃げても、深い雪に足をとられて走れない上に、相手の方が雪山に特化しているからすぐに追い付かれる。
せめて片足だけでも切断できれば、或いは。
シャーは頭をフル回転させる。
諦める訳にはいかないのだ。
目の前の山男も、こちらの構えに隙を伺っている様で動かない。
どうやら普通のゾンビより、知能までも高いらしい。
シャーはそれを幸いと思い、冷静に考えた。
影はまだ距離がある。
なぜなら、まだ、吹雪に遮られて、小さくうっすらとしか影の色を判別できないからだ。
それなら、先程の片足切断で逃げるのが割りと現実的かもしれない。
そう考えたシャーは、腰ベルトのサバイバルナイフに左手をかけた。
切断するには刃渡りが短すぎるか。
しかし、現在用意できる刃物はこれしか無い。
敵を警戒しながら、ゆっくりとカバーから抜いて、サバイバルナイフを逆手に構えた。
ナイフなどの短刀を使用して、片手で押し切る力が必要な時、逆手に持って肘まで刃の裏に当てて体重をかけて切り抜けるのが定石だ。
「よし!来いッ!!」
ナイフを振って山男を挑発する。
山男は、光り物がチラつく方に集中を削がれたか、隙を伺うのを止めて短絡的な攻撃を仕掛けてきた。
「よっしゃ!いくぜ!」
ザシュッと山男のパンツのデニム生地を切る音が耳を突く。
両手で掴みかかる山男の左手脇の下を潜って、左足の太ももに切りかかったのだ。
「ッく!どうだ!?」
振り返り様の、敵の右手攻撃もかわしたシャーが、山男の足を確認する。
刹那。
シャーが切り込みが浅かった事を察する僅かな隙に、山男が3撃目の左手攻撃を繋げて来たのだった。
「グアッ!!…ッツ!」
まさかそんなに連続して攻撃してくるとは思わず、油断していたシャーが、右腿を引っ掻かれた。
「クソッ!マズイッ!」
山男は、思った以上に俊敏だった。
「グアァァァーーッ!!」
攻撃を当てた事で興奮し、山男が雄叫びを上げた。
シャーは自分の右足に目をやると、結構深く抉られているのが解る。
さらに、視界の左下端に自分の健康状態や体力とスタミナゲージが書かれているのだが、暫く見なかった感染マークが点滅していた。
足を引き摺って立ち上がる。
しかし、勝利を確信したかのようにゆっくりと迫る山男を、睨み返す事しか出来なかった。
もはや逃げることも叶わない。
詰んだ状況に、シャーは絶望するのだった。
視界はほとんど白一色で、足元の凹凸すら見分けが付かない。
呼吸を荒くして、白煙が頻繁に口から吐き出される。
親友の転落から少し時間が経ち、崖下の目的地点までたどり着いたシャーが、必死に積もった雪を掻き分けていた。
崖を降りるのに苦戦して時間が経ったとは言え、倒れた人を埋める程、降り積もる時間は経過してないはずだ。
「1マス分掘って、そのまま1段下を水平展開的に掻き分けていくか…」
親友への心配が爆発しているのと、吹雪の中での孤独感が勝って、自然と独り言が頻繁に口を突く。
手持ちの石と木で、即席の石スコップを作り、雪を掻き進めた。
文句ばかり吐きながらも、50センチ程の雪を掘り、そこに降りて周りを掻き分けていく。
もし今、ゾンビが来たら、シャーの近接攻撃は敵の頭部には届かない。
つまり、こちらの攻撃は敵に致命傷を与えないのに、敵はこちらの頭部などを狙い放題で、圧倒的不利、という事だ。
敵の接近に早めに気付き、雪の上に上がる暇があれば何とかなるかもしれないが、もし、不意を突かれたら不利を強いられる事になる。
それを覚悟して尚、雪を掻き分けて進む。
暫くした頃。
結構な時間が過ぎたが、未だゾンビに遭遇しない事を不思議に思いつつ、シャーは雪を掘り続けていた頃だった。
自分以外の足音が、微かに吹雪の音に混ざって聞こえたのだ。
「くそッ!とうとうゾンビに嗅ぎ付けられたか!」
相手してる暇など無いのに!などと思いながら、1段低い位置から手を付けてない雪の上に飛び乗った。
早めに足音に気付けたのには、自らの幸運に感謝しかない。
「今の俺は気が立っている。来るなら容赦できないぞ!?さぁ、来い!」
鉄板を巻き付けた棍棒、所謂アイアンクラブを握りつつ、弓を構えてクラブを持つ右手で矢を引く。
そうしてゾンビを迎え撃つつもりで足音のする方を睨んだ。
音は段々と近づいていた。
一人で太刀打ちできるのか。
そんな不安も過るが、それを生唾と共に喉の奥へ追いやる。
その時。
吹雪のベールの向こうに、人影がボヤッと映った。
「そこか!!」
人影に、先手必勝とばかりに矢を射た!
しかし、影は殆ど無反応で、さらに近付いてくる。
「クソッ!やはりまだ弓矢なんて通用しないのか!」
外した可能性もあるが、シャーとしては影に真っ直ぐ射れた確信があり、当たった前提で思考が固まっていた。
その上、頭に血が登ったシャーは、弓矢を投げ捨ててクラブを構え直す。
そして、まだ少し距離のある影に飛びかかった!
至近に来て、クラブが振り下ろされる瞬間。
人影だったものが、山男の姿で目の前に現れる。
ガツンッ!!
躊躇なく張り下ろしたクラブは、姿を見せた山男の脳天に向かって直撃した。
しかし、それを受けたゾンビは首を傾げながらも、あまり効いてる様子がない。
「固ッ!?」
思わず声を漏らす。
山男は間髪入れずにシャーを掴もうと手を伸ばした。
「ヤバッ!!」
着地して直ぐに後ろへ飛び退く。
捕まったらアウトだ。
間一髪で避け、距離をとりなおし、改めて敵を見た。
ユーリは2人でなら倒せると言っていた。
つまり、1人では倒せないと践んでいたという事だ。
「くそッ!こんな時に…ッ!?」
憎しみやら悔しさやら、様々な感情を乗せた愚痴が出た時、シャーの目があるものを捉えた。
それは、山男の服に付いた、新しい血の飛沫だった。
「まさか!?…ユーリを…!?」
不安が的中した事を予想させる。
そんな筈は無い!
そう強く思っても、シャー自身、ユーリを探す時間がかかりすぎていた事を良く理解していた。
そのせいもあって、悪い結果を想像し、それを裏付ける様なモノを見てしまえば、希望など到底持てない。
「クッ!!…ちくしょう!!」
奥歯を強く噛み締めながら、ゲーム内外を問わないユーリ、優耶の顔が思い浮かぶ。
小学校からの付き合いは長く、次々と巡る優耶やユーリの顔は、終わりを見せる気配が無かった。
初めて話し掛けた時の顔。
走って転んで泣き出した時の顔。
お菓子の付録のシール集めで目当てのシールを手にした時の顔。
懐かしいボードゲームで勝った時の顔。
時には泣いて、笑って、真剣に、楽しく、悲しみ、怒り、駄々を捏ねて、明るく元気な顔が、幾つも浮かび上がった。
それはほんの一瞬だったかもしれない。
しかし、シャーには紛れもなく、これまでの優耶との長い付き合いを、一つ一つ巡る時間があった。
そして。
「優耶の分も、俺は生きなきゃな…」
どんな時にも諦めない優耶の為にも。
そう強く心に刻み、諦めかけた思いを前向きな気持ちで吹き飛ばす。
再びアイアンクラブを構え、山男の接近を待つ。
すると、山男の向こうに、さらなる人影が現れた。
もう、絶望的な状況だ。
奥の影も山男だとすれば、2体も相手する事になる。
流石にもう勝ち目は無い。
とはいえ、シャーの後ろはユーリが滑落した崖が壁となり、こんな吹雪では登ることもできない。
左右に逃げても、深い雪に足をとられて走れない上に、相手の方が雪山に特化しているからすぐに追い付かれる。
せめて片足だけでも切断できれば、或いは。
シャーは頭をフル回転させる。
諦める訳にはいかないのだ。
目の前の山男も、こちらの構えに隙を伺っている様で動かない。
どうやら普通のゾンビより、知能までも高いらしい。
シャーはそれを幸いと思い、冷静に考えた。
影はまだ距離がある。
なぜなら、まだ、吹雪に遮られて、小さくうっすらとしか影の色を判別できないからだ。
それなら、先程の片足切断で逃げるのが割りと現実的かもしれない。
そう考えたシャーは、腰ベルトのサバイバルナイフに左手をかけた。
切断するには刃渡りが短すぎるか。
しかし、現在用意できる刃物はこれしか無い。
敵を警戒しながら、ゆっくりとカバーから抜いて、サバイバルナイフを逆手に構えた。
ナイフなどの短刀を使用して、片手で押し切る力が必要な時、逆手に持って肘まで刃の裏に当てて体重をかけて切り抜けるのが定石だ。
「よし!来いッ!!」
ナイフを振って山男を挑発する。
山男は、光り物がチラつく方に集中を削がれたか、隙を伺うのを止めて短絡的な攻撃を仕掛けてきた。
「よっしゃ!いくぜ!」
ザシュッと山男のパンツのデニム生地を切る音が耳を突く。
両手で掴みかかる山男の左手脇の下を潜って、左足の太ももに切りかかったのだ。
「ッく!どうだ!?」
振り返り様の、敵の右手攻撃もかわしたシャーが、山男の足を確認する。
刹那。
シャーが切り込みが浅かった事を察する僅かな隙に、山男が3撃目の左手攻撃を繋げて来たのだった。
「グアッ!!…ッツ!」
まさかそんなに連続して攻撃してくるとは思わず、油断していたシャーが、右腿を引っ掻かれた。
「クソッ!マズイッ!」
山男は、思った以上に俊敏だった。
「グアァァァーーッ!!」
攻撃を当てた事で興奮し、山男が雄叫びを上げた。
シャーは自分の右足に目をやると、結構深く抉られているのが解る。
さらに、視界の左下端に自分の健康状態や体力とスタミナゲージが書かれているのだが、暫く見なかった感染マークが点滅していた。
足を引き摺って立ち上がる。
しかし、勝利を確信したかのようにゆっくりと迫る山男を、睨み返す事しか出来なかった。
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