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カリ!!

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丁度、四方の壁をブロックに置き換えた所で、少し遅くなったが昼食をとった。
シンプルな豚肉の腸詰。
所謂ソーセージに、サラダ、スパニッシュオムレツと、ドイツとスペインの組み合わせが不思議と合う。
皆、満足度高い食事に舌鼓を打っていた。
野菜類は地下の冷蔵保管庫に多少は保管しているから、ある意味、肉が無くても良いなら、野菜だけで1週間くらいは食べていけるだろう。
缶詰めも合わせたらもっと食い繋ぐ事が可能そうだ。
あと3日で無くなりそうなのは、あくまで肉で、生肉は既に切らし、ソーセージや干し肉等の加工肉にしてあるのが、あと3日で終わりそう、と言う旨をエリーゼが話していた。
肉が無くなったら飢え死にと言うのは、バランス良く、美味い料理を作りたいという、エリーゼの誇張表現か。
しかし、事実として狩りはそんなに簡単な事ではない。
簡単ではないのに、肉体労働も必要とするサバイバル生活では、スタミナや体力を付けるのに肉は欠かせない。
肉が無くなる事態というのは、活力等にも存外影響が大きく、エリーゼくらいの危機感が正しいのかもしれない。
「よし、じゃあそろそろ支度して、行くか」
一息ついた所で、シャーがユーリを窺う。
「そうだな。あ、と、冷蔵庫の雪の残量ってどんな感じかな?」
シャーに相槌を打った後、エリーゼに視線を移した。
「そうね。そんなに直ぐに無くなる程じゃなかったとは思うけど、私の判断じゃ自信無いから、やっぱりユーリ達も行く時見といてくれる?」
「解った。少なかったら、今日にでも雪集めだね」
エリーゼとユーリのやり取りを聞いて、シャーも頷く。
「俺ぁ、いつも通り拠点材料のクラフトしとくわ」
「ああ。頼む」
ハンプの確認に、シャーが頷いた。
「うっし!じゃ、行くか!」
「おう!」
「頼んだぜ~」
「気をつけてね」
見送る2人に笑顔で頷き、ユーリとシャーは地下への梯子を降りるのだった。


「シャー!そっち行った!」
「おお、任せろ!」
ユーリの掛け声に待ち構えていたシャーが弓を放つ。
見事に鹿の眉間へと矢が刺さり、長い首をぐわん、とふらつかせながら、鹿が倒れた。
「よっしゃー!」
「決まったな!」
喜びはしゃぐ2人は、仕留めた獲物の方へ駆け寄った。
「思いの外、上手く行きすぎて肉が大量だぞ!」
「最初は『兎も無駄にできない!』とか言ってたのにな!」
冷蔵庫の雪は、半分くらい無くなってたから、補充するに越したことは無いが、今日のところは予定通り狩りだけをして、明日にでも狩りついでに雪を持ち帰る事になった。
そして、既に良い収穫を得ていた2人が、これを最後にと鹿を見つけて追い込み、たった今仕留めた所だった。
「やはり、弓のパラメーターが高いと、狩りにも間違いなく効果出てるな」
「そりゃそうだ。最初の頃に同じ事やっても、矢は突き刺さらなかったんじゃないかな」
「横っ腹に刺さった矢も、鹿が逃げて走り回ってたら、そのうち抜け落ちてたしな」
「そうそう。あの頃じゃ、今みたいに射貫く事は出来なかったからなぁ」
「2回のフォードも含めて、お互い70匹近くゾンビを倒してきたから、弓のスキルもかなり底上げしただろう」
「しかも、弓と矢を作ってはワザとスクラップにして、また作ってを何度も繰り返して、クラフトスキルも上達してるから、クラフトした弓の品質が早くも300越えてるし」
「さらに、ワークベンチを使ったコンバインで弓そのものの品質を格段に上げたからな」
「俺のは品質だけなら、MAX600をカンストしちゃってるし」
「俺のは564。もう少しでカンストだ」
ハザダイでは、能力値を含む基本パラメーターは、全てスキル制となっている。
力、知力、魔力、素早さ、幸運など、所謂RPG的な能力値は無い。
代わりに、走りを持続させるスタミナの減少を抑えたり、費やしたスタミナの回復を早めたり、クラフトの作業ペースを早めたり、武器を扱う早さや強さ、技術を高めたり等の能力値が、スキルレベルによって上達するのだ。
中でもクラフトの品質向上は、分類上同種のアイテムをクラフトする事で上達するのだが、仮に打撃系のクラブをクラフトしまくっていると、同じ打撃系のハンマー等も品質が上がった物を作成出来るようになる。
但し、既に作られた物の品質は、作った当初の品質なので、古くなった品質の低い物は、捨てずにどんどんスクラップして、少しでも素材に戻し、最新の品質の物を作り直した方が有効だった。
或いは、ワークベンチを手に入れたら、最高品質の物に低品質の物をワークベンチでコンバインし、品質をさらに上げる事もできた。
品質に差がありすぎると、最高品質の物の劣化を修復するだけになってしまう場合もあるが、差が少なければ少ない程、品質が上がる量が変わったりもするのだ。
但し、コンバインで上げた品質の物はあくまでも一点もので、クラフトのスキルが向上した訳ではない。
例えば、通常クラフトで250品質から50個クラフトし、最後に300品質の物ができた時、その50個全てをコンバインして、350品質の物ができるが、その他に新たに同じものをクラフトした時には、コンバインではクラフトスキルが上がる訳ではないので、出来上がる品質は301の物となる。
品質は、このゲームを攻略するためにはかなり重要な要素で、例えば武器なら、その武器の攻撃力を表すと思って差し支え無いだろう。

獲物の左右を、挟むようにたどり着いた2人が向き合うと、近くでゾンビの呻き声が聞こえた。
「あぁ~、うぅぅぅ~…」
「ゾンビか!?」
「近くにリスポーンしたみたいだ」
「アイツら、さっきまでソコに居なかったのに、気付いたらリスポーンしてたとか、よくあるよな」
「特に今は、これ迄に倒してきた獲物の生肉も持ってるから、その匂いで遠くのゾンビも引き寄せられるし、地中のゾンビも起きてくるらしいよ」
「とにかく、手早く鹿を解体して、2人で分担して担ごう!」
「そうだな。解体はシャーに任せた。俺はアイツを仕留めてくるぜ!」
「頼んだ!」
ゾンビも、生肉の臭いにつられて、真っ直ぐ来るだろうから、解体が終わるまでには攻撃されてしまう。
解体中は無防備だから、ユーリが殺るしかない。
他に豚も一頭背中に担ぎ、兎は二頭、鳶や野鳥の玉子は20個以上もバックに入っている。
既に生肉臭は撒き散らしているから、鹿を取らなくても襲われるのは同じなのだ。
ならば、この大量の肉を捨て置く選択肢は無い。
重い分、動きは鈍くなるが、筋力という意味ではプレイヤーは等しく並みよりは力持ちな設定になっていて、常識を越える程ではないが、非力なリアルの自分よりは運動量に余裕がある。
50立方センチの小石のブロック、80キロくらいの物を持って移動できるのだから、リアルなら筋肉ムキムキな外見をしてそうだが、そんな外見など特にゲームを左右しないから、そういうどうでも良い所は割りとリアルにこだわっていない。
これも、五感にプログラムを集中させた分の削減部分って訳だ。
そんな五感も、視界が迫り来るゾンビを捕らえて離さない。
緊張が全身を駆け巡る。
野戦の準備はしてきている。
これまでも野戦で倒して来ているじゃないか。
そんな覚悟を決めて、ユーリは迫り来るゾンビに立ちはだかったのだった。
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