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やっと来たシュウマツ!?
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変わり無い1日も、太陽の活躍に終わりを告げようと、西へ傾いていた。
紅葉の季節も間も無く過ぎ去ろうとしていて、辺りは落ち葉が散乱し、木々が寒そうな肌を所々で露にしている。
待ちに待ったこの週末を過ぎれば、暦ではもう冬だ。
そして、あのゲームにハマってから、何時間もぶっ通しで入れ込める週末が待ち遠しくなった。
そのゲームを親友と共に買い、やり初めてもう2ヶ月以上が過ぎた。
「ただいまぁ」
玄関を開けると同時に、少し冷めた男子の声。
「おかえり。さっき、隣のおばあちゃんが御萩を持ってきてくれたから、先に食べちゃって」
続けて返すのは、今しがた帰ったばかりの息子におやつを勧める母だった。
「お、…じゃ、すぐ降りてくる」
好物の名を耳にして、一瞬だけ油断した思春期の少年も、直ぐにトーンを落としてカッコつけたがる。
嬉しさを母に向けるなど、高校男児としては仲良し家族みたいで恥ずかしく、カッコ悪いと思っていた。
が、好物には負けて「いらない」と言えないのが、気持ちに素直で可愛い所だ。
高校2年にもなると、親の前ではこうして素っ気なくなるものだろう。
息子の辰巳 優耶も、例外無くそんなお年頃だった。
『今回の私共の新作は、ストレージも十分で、ゲーム都合の良い所はしっかり残してますから、既に事前予約は殺到!発売初日から売れることは勿論、その後も伸びていくこと間違い無いでしょう!例の批判だらけの作品とは大きく違いますからね!ご覧の皆様もぜひ!』
『例のゲームというと、あの、リアルを追求し過ぎた為に、発売初日からネット上で批判が殺到したという、ある意味ゲーム史上に名を残す事になった、あのゲームですね?』
『ええ、そうです。アレを作った会社は、大昔に売れた作品を、著作権が安く済む事を良いことに、今風にアレンジやリメイクして稼いでいる様な会社ですから…』
『あ、あの~、すみません、他社の内情に触れる、確証の無い批判等は、ちょっとお控えいただきたく…ブッブブッ』
『…はい、え~、一旦スタジオに引き取らせて頂きます。当チャンネルをご覧頂いている皆様、生取材中、不適切な発言がありました事、深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした…』
来月に迫ったクリスマス商戦に向け、新しく発売される新作サバゲのリポートが、夕方の情報番組を騒がせている。
「ふん。批判してるヤツらなんか、ただ自分が下手なだけじゃねぇか…」
実際、ユーザーが当初の数千分の一にまで落ちたそのゲームで、優耶は未だにプレイしていた。
数少ないプレイヤー達の多くが、一番簡単なはずのビギナーモードで苦戦している中、優耶は親友と2人協力プレイで、ノーマル、ウォリアーを飛ばし、ハードモードで渡り合っている。
1人の場合、ウォリアーモードまでなら何とか生き残れる実力はあった。
勿論、さらに上のマキシマム、狂気といった難易度もあるし、難易度が上がればそれだけ受けるダメージや敵の固さ、敵のスピード等が上がって、倒しにくく、倒されやすくなる。
それにしても、今の製作会社の担当って、あのゲームの製作会社に何か恨みでもあるのか?
「こ~ら。口にものを入れたまましゃべらない。御萩のきな粉が飛んでるじゃない」
母におでこをパチンと叩かれながら、優耶は口を尖らせていた。
そんな息子が間も無く最後の1つを口に入れた所で、母は空いた皿を片手で取り、もう片方に持っていた布巾でテーブルに散ったきな粉を拭く。
今では、生活空間のオーガニック化が数年前から流行り、何でもかんでも除菌や殺菌を薬品に頼って行うのが良い事とはされず、私生活では昭和時代の衛生管理が最適とされている。
「ご馳走さま!」
サッサと拭き終わって皿をシンクに持っていこうとする母に、全部飲み込んだ優耶が手を合わせた。
「隣のおばあちゃんに、顔合わせたらちゃんとお礼言うのよ?」
「解ってるよ!」
「優耶が好きだからって、ワザワザ作って持ってきてくれるんだから…」
「わーかってるってば!!」
優耶が産まれる前。
両親が結婚してここに居を構えた時から、ご近所付き合いで良くしてくれている、隣に住む老齢の女性が居た。
優耶が産まれた頃から、我が孫の様に可愛がってくれていて、優耶も、そんなバアちゃんの御萩が好きだった。
加えて言えば、優耶の妹と弟もその御萩が好きで、2人は直接バアちゃんの家に行ってご馳走になっているらしい。
フルダイブゲームは、身体的成長への影響等を考慮して、15歳未満は遊べない。
家に居ても母がうるさいし、やること無いからと向こうにお邪魔しているのだろう。
「…あ、俺、これから光輝とゲームするから、夕飯は適当に置いといて」
「あら、そう。…ミッキーと一緒なら仕方ないわね。後片付けまでちゃんとやるのよ?」
「わーってるって!てか、光輝の事ミッキーって呼んでるの、今じゃ母ちゃんだけだから、アイツ恥ずかしくて嫌がるぜ?」
「ああ、そうよね。もうそんな子供扱いされたくない年頃だもんね。でも、ミッキーはしっかりしてるから良いけど、あなたはもう少しミッキーを見習って…」
「あー、はいはい!それ以上はウザいだけだから!」
「…ふぅ。まったく、誰に似たのやら…」
母の最後の言葉が、独り言のように虚空に消える。
小学校に入って直ぐに仲良くなって、今では優耶の幼馴染みで親友となった月城 光輝は、勿論、例のゲームでも優耶の相棒だった。
そして、いつものように今日も2人で、限り無くリアルに近いあの世界で、暴れる事を約束していたのだった。
自室に入ると、とりあえず光輝に「今から行くぜ」とSNSのPAINを送る。
ついでに、ダッシュするウサギのスタンプを送って、モバイルギア、所謂スマホの後継機を閉じた。
明日から連休だから、時間はたっぷりある。
先に行く事になっても、待っていれば良い話だ。
光輝からの返事は待たずに感覚接続シートに背を凭れかける。
ヘッドギアを被って、一言呟いた。
「ムーヴスタート…」
声にした瞬間、シートとヘッドギアが連動して青い光を放つ。
優耶の視界には、奥行きのある前方から光が迫り、追い越し、暗闇の中に光のルートを駆け抜ける様に吸い込まれていく映像が写し出された。
間も無く前方中心に光の玉が現れ、やがてそれが大きく、近づいてきて、優耶を光の中に包み込む。
何度やっても眩しくて、反射的に一旦、目を閉じる様に考えてしまう。
そうして、やがて光が和らいだと思って目を開けると、そこには荒れ果てた世界が広がっていた。
「やっと来たぜ…」
楽しみに胸を膨らませていた期待を、大きな吐息と共に吐き出す。
「…この終末の世界に!!」
続けて、やる気が漲ってきた優耶はアバターの声で吠えた。
この、ハザードトゥダイというゲーム世界の、リアルな大空へ向かって。
紅葉の季節も間も無く過ぎ去ろうとしていて、辺りは落ち葉が散乱し、木々が寒そうな肌を所々で露にしている。
待ちに待ったこの週末を過ぎれば、暦ではもう冬だ。
そして、あのゲームにハマってから、何時間もぶっ通しで入れ込める週末が待ち遠しくなった。
そのゲームを親友と共に買い、やり初めてもう2ヶ月以上が過ぎた。
「ただいまぁ」
玄関を開けると同時に、少し冷めた男子の声。
「おかえり。さっき、隣のおばあちゃんが御萩を持ってきてくれたから、先に食べちゃって」
続けて返すのは、今しがた帰ったばかりの息子におやつを勧める母だった。
「お、…じゃ、すぐ降りてくる」
好物の名を耳にして、一瞬だけ油断した思春期の少年も、直ぐにトーンを落としてカッコつけたがる。
嬉しさを母に向けるなど、高校男児としては仲良し家族みたいで恥ずかしく、カッコ悪いと思っていた。
が、好物には負けて「いらない」と言えないのが、気持ちに素直で可愛い所だ。
高校2年にもなると、親の前ではこうして素っ気なくなるものだろう。
息子の辰巳 優耶も、例外無くそんなお年頃だった。
『今回の私共の新作は、ストレージも十分で、ゲーム都合の良い所はしっかり残してますから、既に事前予約は殺到!発売初日から売れることは勿論、その後も伸びていくこと間違い無いでしょう!例の批判だらけの作品とは大きく違いますからね!ご覧の皆様もぜひ!』
『例のゲームというと、あの、リアルを追求し過ぎた為に、発売初日からネット上で批判が殺到したという、ある意味ゲーム史上に名を残す事になった、あのゲームですね?』
『ええ、そうです。アレを作った会社は、大昔に売れた作品を、著作権が安く済む事を良いことに、今風にアレンジやリメイクして稼いでいる様な会社ですから…』
『あ、あの~、すみません、他社の内情に触れる、確証の無い批判等は、ちょっとお控えいただきたく…ブッブブッ』
『…はい、え~、一旦スタジオに引き取らせて頂きます。当チャンネルをご覧頂いている皆様、生取材中、不適切な発言がありました事、深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした…』
来月に迫ったクリスマス商戦に向け、新しく発売される新作サバゲのリポートが、夕方の情報番組を騒がせている。
「ふん。批判してるヤツらなんか、ただ自分が下手なだけじゃねぇか…」
実際、ユーザーが当初の数千分の一にまで落ちたそのゲームで、優耶は未だにプレイしていた。
数少ないプレイヤー達の多くが、一番簡単なはずのビギナーモードで苦戦している中、優耶は親友と2人協力プレイで、ノーマル、ウォリアーを飛ばし、ハードモードで渡り合っている。
1人の場合、ウォリアーモードまでなら何とか生き残れる実力はあった。
勿論、さらに上のマキシマム、狂気といった難易度もあるし、難易度が上がればそれだけ受けるダメージや敵の固さ、敵のスピード等が上がって、倒しにくく、倒されやすくなる。
それにしても、今の製作会社の担当って、あのゲームの製作会社に何か恨みでもあるのか?
「こ~ら。口にものを入れたまましゃべらない。御萩のきな粉が飛んでるじゃない」
母におでこをパチンと叩かれながら、優耶は口を尖らせていた。
そんな息子が間も無く最後の1つを口に入れた所で、母は空いた皿を片手で取り、もう片方に持っていた布巾でテーブルに散ったきな粉を拭く。
今では、生活空間のオーガニック化が数年前から流行り、何でもかんでも除菌や殺菌を薬品に頼って行うのが良い事とはされず、私生活では昭和時代の衛生管理が最適とされている。
「ご馳走さま!」
サッサと拭き終わって皿をシンクに持っていこうとする母に、全部飲み込んだ優耶が手を合わせた。
「隣のおばあちゃんに、顔合わせたらちゃんとお礼言うのよ?」
「解ってるよ!」
「優耶が好きだからって、ワザワザ作って持ってきてくれるんだから…」
「わーかってるってば!!」
優耶が産まれる前。
両親が結婚してここに居を構えた時から、ご近所付き合いで良くしてくれている、隣に住む老齢の女性が居た。
優耶が産まれた頃から、我が孫の様に可愛がってくれていて、優耶も、そんなバアちゃんの御萩が好きだった。
加えて言えば、優耶の妹と弟もその御萩が好きで、2人は直接バアちゃんの家に行ってご馳走になっているらしい。
フルダイブゲームは、身体的成長への影響等を考慮して、15歳未満は遊べない。
家に居ても母がうるさいし、やること無いからと向こうにお邪魔しているのだろう。
「…あ、俺、これから光輝とゲームするから、夕飯は適当に置いといて」
「あら、そう。…ミッキーと一緒なら仕方ないわね。後片付けまでちゃんとやるのよ?」
「わーってるって!てか、光輝の事ミッキーって呼んでるの、今じゃ母ちゃんだけだから、アイツ恥ずかしくて嫌がるぜ?」
「ああ、そうよね。もうそんな子供扱いされたくない年頃だもんね。でも、ミッキーはしっかりしてるから良いけど、あなたはもう少しミッキーを見習って…」
「あー、はいはい!それ以上はウザいだけだから!」
「…ふぅ。まったく、誰に似たのやら…」
母の最後の言葉が、独り言のように虚空に消える。
小学校に入って直ぐに仲良くなって、今では優耶の幼馴染みで親友となった月城 光輝は、勿論、例のゲームでも優耶の相棒だった。
そして、いつものように今日も2人で、限り無くリアルに近いあの世界で、暴れる事を約束していたのだった。
自室に入ると、とりあえず光輝に「今から行くぜ」とSNSのPAINを送る。
ついでに、ダッシュするウサギのスタンプを送って、モバイルギア、所謂スマホの後継機を閉じた。
明日から連休だから、時間はたっぷりある。
先に行く事になっても、待っていれば良い話だ。
光輝からの返事は待たずに感覚接続シートに背を凭れかける。
ヘッドギアを被って、一言呟いた。
「ムーヴスタート…」
声にした瞬間、シートとヘッドギアが連動して青い光を放つ。
優耶の視界には、奥行きのある前方から光が迫り、追い越し、暗闇の中に光のルートを駆け抜ける様に吸い込まれていく映像が写し出された。
間も無く前方中心に光の玉が現れ、やがてそれが大きく、近づいてきて、優耶を光の中に包み込む。
何度やっても眩しくて、反射的に一旦、目を閉じる様に考えてしまう。
そうして、やがて光が和らいだと思って目を開けると、そこには荒れ果てた世界が広がっていた。
「やっと来たぜ…」
楽しみに胸を膨らませていた期待を、大きな吐息と共に吐き出す。
「…この終末の世界に!!」
続けて、やる気が漲ってきた優耶はアバターの声で吠えた。
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