18 / 20
急転
しおりを挟む
加納が射殺された翌日の朝。
捜査会議は沈痛な雰囲気に包まれていた。
加納を射殺した巡査は防犯カメラの解析から、公園の中に入った所までは確認できた。しかし、そのあとの姿はプッツリと途絶えてしまった。どうやら、入念に下調べをしていたのか、防犯カメラの死角を縫って公園から出たのだろう、と推察された。
その場に居た捜査関係者全員が、加納の仇討ちのため、弔い合戦だ!と意気込み、捜査会議は最初の沈痛な空気とは一変して、勇ましい刑事たちの号令で幕を閉じた。
捜査会議のあと、河辺は月島と合流してこれからの方針について話し合った。
「それじゃあ、北島さんのことについては何も足取りが掴めていないということなのね?」
「あぁ、入念に下調べをしたんだろう。公園から出たあとの足取りはさっぱりだ。月島さんの方は?」
「あれから北島さんのことは見てないわ。もう、逃げてしまったみたい。」
「くそ!あと一歩のところまで迫っていたのに!」
河辺は苛立ちを隠せない。
「加納さんは、何も残していなかったの?」
「今、鑑識がいろいろ調べている。加納さんの所持品とか、家の捜索で何か出てくればいいんだけど。」
河辺の言葉では、それらも期待は出来なさそうで、月島も落胆を隠せなかった。
「そこで一つ考えたんだ。月島さんにやって欲しいお願いがあるんだ。」
「・・・私にできること?何でも言って。」
「それはね・・・」
河辺は周りに気をつけながら月島に耳打ちをする。
それに対して月島は目を見開いて驚きの表情を隠せないでいた。
私は、あの老刑事を始末したことに満足して、久しぶりに我が家に帰ることにした。
「ただいま。」
私が玄関で靴を脱いでいると、奥から美咲が出てきて「おかえりなさい、あなた。」と言ってきた。
よく考えたら、美咲は探偵を雇って私の身辺調査をしていたのだったな。どこまで知っているのかわからないが、今はそっと様子を見守ろう。
「美華は?」
「今日は塾に行ってるわ。」
「塾?ダメじゃないか、今日は水曜日なんだから。」
我ながらなんて白々しいことを言っているのか、私は心の中で自分自身に対して失笑した。
「そうね・・・」
美咲は感情をどこに置いてきてしまったかのように、素気なく応えた。
やはり彼女は何かを知っているようだ。それがどこまでなのかはわからないが、彼女もどうにかしなければならなさそうだ。
私はリビングのソファに腰をかけ、何気なくテレビをつける。
テレビでは、相変わらずくだらない下世話な情報番組が垂れ流されている。
やれ誰が付き合っているだの離婚しただの、美味しいものの特集だとか、どこまでもこの国の国民はめでたいものである。
しかし、コマーシャルが明けた時、私は凍りつくことになる。
速報と銘打って、司会者がとんでもないニュースを読み始めた。
「速報です!一部報道によりますと、水曜日の切り裂きジャックを名乗る犯行声明が届いたということです!」
何だと!?そんなもの、私は出してないぞ?
「犯行声明を読み上げます。」
水曜日の切り裂きジャックへ
私が誰かわかるか?
9人目を殺った真の切り裂きジャックだ。
お前の時代は終わった。
これからは私がお前に代わって
真の粛清を行う。
まずは、お前の大切なモノを粛清する。
これがお前が犯した罪への償いになる。
テレビの画面の中では、喧々囂々の大騒ぎになっている。大騒ぎしたいのは、こっちの方だよ!
誰だ?こんなことをするのは?いや、こんなことができるのは?
加納は始末した。奴では無い。では、月島か?いや、あの女がこんな気略を持ち合わせているとは考えられない。ならば誰だ?
その時、突然電話が鳴った。
「はい、藤井でございます・・・え?何ですって!?」
美咲が受話器を握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
「どうした?何があったんだ!?」
私が美咲の肩に手を置いて問いただすと、美咲はポツリと呟いた。
「美華が・・・」
美咲はそう答えるのが精一杯らしかった。
私は、美咲から受話器を奪い取り、電話の向こう側の声に耳を澄ませた。
「おまえの娘を預かった。取り返したければ、全ての始まりの場所に一人で来い。我こそがシンの切り裂きジャックだ。」
それだけ言うと、電話は切れた。ボイスチェンジャーで声は加工されていて、誰の声かは判別出来なかった。
「あなた・・・警察に・・・」
美咲はすっかり狼狽してしまって、微かに震えた声で懇願した。
「それはダメだ!そんなことをしたら美華が危ない。私が1人で行く。必ず美華を取り戻してくるから、気をたしかに持って待っていてくれ、いいね。」
私は美咲に言い聞かせると、急いで全てが始まった場所へと向かった。
捜査会議は沈痛な雰囲気に包まれていた。
加納を射殺した巡査は防犯カメラの解析から、公園の中に入った所までは確認できた。しかし、そのあとの姿はプッツリと途絶えてしまった。どうやら、入念に下調べをしていたのか、防犯カメラの死角を縫って公園から出たのだろう、と推察された。
その場に居た捜査関係者全員が、加納の仇討ちのため、弔い合戦だ!と意気込み、捜査会議は最初の沈痛な空気とは一変して、勇ましい刑事たちの号令で幕を閉じた。
捜査会議のあと、河辺は月島と合流してこれからの方針について話し合った。
「それじゃあ、北島さんのことについては何も足取りが掴めていないということなのね?」
「あぁ、入念に下調べをしたんだろう。公園から出たあとの足取りはさっぱりだ。月島さんの方は?」
「あれから北島さんのことは見てないわ。もう、逃げてしまったみたい。」
「くそ!あと一歩のところまで迫っていたのに!」
河辺は苛立ちを隠せない。
「加納さんは、何も残していなかったの?」
「今、鑑識がいろいろ調べている。加納さんの所持品とか、家の捜索で何か出てくればいいんだけど。」
河辺の言葉では、それらも期待は出来なさそうで、月島も落胆を隠せなかった。
「そこで一つ考えたんだ。月島さんにやって欲しいお願いがあるんだ。」
「・・・私にできること?何でも言って。」
「それはね・・・」
河辺は周りに気をつけながら月島に耳打ちをする。
それに対して月島は目を見開いて驚きの表情を隠せないでいた。
私は、あの老刑事を始末したことに満足して、久しぶりに我が家に帰ることにした。
「ただいま。」
私が玄関で靴を脱いでいると、奥から美咲が出てきて「おかえりなさい、あなた。」と言ってきた。
よく考えたら、美咲は探偵を雇って私の身辺調査をしていたのだったな。どこまで知っているのかわからないが、今はそっと様子を見守ろう。
「美華は?」
「今日は塾に行ってるわ。」
「塾?ダメじゃないか、今日は水曜日なんだから。」
我ながらなんて白々しいことを言っているのか、私は心の中で自分自身に対して失笑した。
「そうね・・・」
美咲は感情をどこに置いてきてしまったかのように、素気なく応えた。
やはり彼女は何かを知っているようだ。それがどこまでなのかはわからないが、彼女もどうにかしなければならなさそうだ。
私はリビングのソファに腰をかけ、何気なくテレビをつける。
テレビでは、相変わらずくだらない下世話な情報番組が垂れ流されている。
やれ誰が付き合っているだの離婚しただの、美味しいものの特集だとか、どこまでもこの国の国民はめでたいものである。
しかし、コマーシャルが明けた時、私は凍りつくことになる。
速報と銘打って、司会者がとんでもないニュースを読み始めた。
「速報です!一部報道によりますと、水曜日の切り裂きジャックを名乗る犯行声明が届いたということです!」
何だと!?そんなもの、私は出してないぞ?
「犯行声明を読み上げます。」
水曜日の切り裂きジャックへ
私が誰かわかるか?
9人目を殺った真の切り裂きジャックだ。
お前の時代は終わった。
これからは私がお前に代わって
真の粛清を行う。
まずは、お前の大切なモノを粛清する。
これがお前が犯した罪への償いになる。
テレビの画面の中では、喧々囂々の大騒ぎになっている。大騒ぎしたいのは、こっちの方だよ!
誰だ?こんなことをするのは?いや、こんなことができるのは?
加納は始末した。奴では無い。では、月島か?いや、あの女がこんな気略を持ち合わせているとは考えられない。ならば誰だ?
その時、突然電話が鳴った。
「はい、藤井でございます・・・え?何ですって!?」
美咲が受話器を握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
「どうした?何があったんだ!?」
私が美咲の肩に手を置いて問いただすと、美咲はポツリと呟いた。
「美華が・・・」
美咲はそう答えるのが精一杯らしかった。
私は、美咲から受話器を奪い取り、電話の向こう側の声に耳を澄ませた。
「おまえの娘を預かった。取り返したければ、全ての始まりの場所に一人で来い。我こそがシンの切り裂きジャックだ。」
それだけ言うと、電話は切れた。ボイスチェンジャーで声は加工されていて、誰の声かは判別出来なかった。
「あなた・・・警察に・・・」
美咲はすっかり狼狽してしまって、微かに震えた声で懇願した。
「それはダメだ!そんなことをしたら美華が危ない。私が1人で行く。必ず美華を取り戻してくるから、気をたしかに持って待っていてくれ、いいね。」
私は美咲に言い聞かせると、急いで全てが始まった場所へと向かった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
【朗読の部屋】from 凛音
キルト
ミステリー
凛音の部屋へようこそ♪
眠れない貴方の為に毎晩、ちょっとした話を朗読するよ。
クスッやドキッを貴方へ。
youtubeにてフルボイス版も公開中です♪
https://www.youtube.com/watch?v=mtY1fq0sPDY&list=PLcNss9P7EyCSKS4-UdS-um1mSk1IJRLQ3

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
狂人との対話(作:毒拶 鋏) ― 5分間ミステリバックナンバーVol.10 ―
筑波大学ミステリー研究会
ミステリー
【バックナンバーは、どの作品からでも問題なく読めます】
2018年出題の最新作!
避暑地に立つ豪華な別荘で、別荘の主・リアが殺害された。
リアの遺体は大きな魔方陣の中央に置かれ、両腕は切断されていた。
事件の担当者であるルーフ警部は、リアの妻・コーデリアに事件の状況を聞くが、一向に要領を得ない。
まるで狂人のようなコーデリアの言動に困惑するルーフ。
彼女の証言から導き出される真相とは――?
-----------------
筑波大学学園祭「雙峰祭」にて、筑波大学ミステリー研究会が出店する喫茶店で、毎年出題しているミステリクイズ、「5分間ミステリ」のバックナンバーです。解答編は、問題編公開の翌日に公開されます。
5分間と書いていますが、時間制限はありません。
Vol.10は、2018年に出題された問題。
ヒントなしで正解できたらかなりすごいです。
幻想的な世界観や文章もお楽しみください。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる