8 / 20
視線
しおりを挟む
さっきの会見は良い余興だった。面白すぎて食が進む。
「北島さん、こんな時によく蕎麦なんて食べていられますね。」
私の向かいに座る月島は、さっきから少しも蕎麦に口をつけていない。
「腹が減っては戦は出来ぬ、と言うだろ?食べらる時に食べておいた方がいいですよ。」
内心、こんな面白い展開なんだから、食欲が湧いて当たり前だろ、と思いながら私は蕎麦を啜った。
「死刑、執行するんでしょうか?」
月島がポツリと誰に対してでもなく呟いた。
「それは無理だと思いますよ。」
「なぜ、ですか?」
月島が私の顔を覗き込む。
「執行の権限は法務大臣が持っているのは知ってますよね?しかし、いくら権限があってもそう易々と印を押すとは思えない。ましてや今回は連続殺人鬼からの要求だ。そんな要求を呑んだとあっては、この先の選挙にも影響を及ぼしかねない。そんな弱腰でどうする、ってね。」
「次の犠牲者のことは考えないのでしょうか。」
月島は納得できないようだった。恐らく、同じ女性ということで被害者の心情に共鳴しているのであろう。
「月島さんは、死刑囚とこれから犠牲になる女性と、どちらに死んでほしいですか?」
私はわざと月島に意地悪な言い方で質問してみた。
「死んで欲しいなんて・・・どちらも大切な命です。両方守らないと。」
やれやれ、やはりこの女は救いようが無い。人の死に際に臨んだことのない奴は、甘ったれたことしか言わない。世の中、そんな優しくはないのに。
私は蕎麦屋の前で月島と別れ、ホテルへと戻ることにした。
その時、背後から声がした。
「北島さん。」
最初、私は自分のことを呼ばれていることに気づかず、そのままスルーしてしまいそうになった。
「北島さん、少しお話しを伺えないでしょうか?」
そこには老齢の男と、20代くらいの男が立っていた。親子くらい年が離れているようだが、親子では無さそうだ。なんとも不釣り合いな2人組だった。
「北島康介さんですね。」
そう言うと加納と河辺という2人は警察手帳をかざして名乗った。
刑事が私に何の用だというのだろうか?
「今日、会見場にいらっしゃいましたよね。今回の事件と犯行声明について、お話しを伺えないでしょうか?」
刑事がなぜ、私にわざわざそんなことを聞きに来たのだろう?
「なぜ、そんなことを私に?」
「いえ、皆さんに伺っているので、気を悪くなさらないで下さい。参考までに、ご意見を伺えないでしょうか。」
ここで拒むのは、心象が悪いだろう。素直に従うとしようか。
「挑戦状についてでしょうか?驚きました。まさかあんなことになろうとは。」
それからあとは、2人は大したことは聞いてこなかった。
当たり障りのないことを聞かれただけで、少しでも警戒した自分がバカを見た感じであった。
いったい、あの2人は何をしに来たのだろう?
私は怪訝に思いながら、2人の背中を見送った。
ふん、どうせ無能な警察なんかに捕まえられなんかしないさ。
「おかえりなさいませ。」
ホテルの受付でマネジャーから鍵を貰い、私はエレベーターへと向かう。
「北島様、お手紙をお預かりしております。」
「手紙?誰からだろう?」
「中学生くらいの子が802号室の人に渡して下さい、と言って持って来られました。差し支えなければ、中身を確認されてみてはいかがでしょうか?」
マネジャーが、ペーパーナイフを差し出してきたので、それを受け取り私は手紙を開封してみた。
中には写真が何枚かと便箋が入っていた。
"藤井さん、私は全て知っている"と便箋には書かれていて、私が胡桃沢美香子を殺害している様子がおさめられていた。
私は驚きのあまり、思わず手紙を落としそうになった。
「どうされましたか?顔色が悪いようですが。お薬でもお持ちしますか?」
マネジャーが狼狽している私を見て気遣ってくれている。
「い、いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます。」
私はそれだけ言うのが精一杯で、そそくさと写真をしまうと、急いでエレベーターに乗り込んで自室へと駆け込んだ。
どうして?どうしてこんな写真が!?
それに、どうして私がここに宿泊していると分かった?どうして私の本名を知っている?
刑事達の動きも気になるが、いったい誰が何の目的で?
クソッ!こうなったら、やられる前に殺るしかない。
こいつの正体を暴いて血祭りにあげてやる。
「北島さん、こんな時によく蕎麦なんて食べていられますね。」
私の向かいに座る月島は、さっきから少しも蕎麦に口をつけていない。
「腹が減っては戦は出来ぬ、と言うだろ?食べらる時に食べておいた方がいいですよ。」
内心、こんな面白い展開なんだから、食欲が湧いて当たり前だろ、と思いながら私は蕎麦を啜った。
「死刑、執行するんでしょうか?」
月島がポツリと誰に対してでもなく呟いた。
「それは無理だと思いますよ。」
「なぜ、ですか?」
月島が私の顔を覗き込む。
「執行の権限は法務大臣が持っているのは知ってますよね?しかし、いくら権限があってもそう易々と印を押すとは思えない。ましてや今回は連続殺人鬼からの要求だ。そんな要求を呑んだとあっては、この先の選挙にも影響を及ぼしかねない。そんな弱腰でどうする、ってね。」
「次の犠牲者のことは考えないのでしょうか。」
月島は納得できないようだった。恐らく、同じ女性ということで被害者の心情に共鳴しているのであろう。
「月島さんは、死刑囚とこれから犠牲になる女性と、どちらに死んでほしいですか?」
私はわざと月島に意地悪な言い方で質問してみた。
「死んで欲しいなんて・・・どちらも大切な命です。両方守らないと。」
やれやれ、やはりこの女は救いようが無い。人の死に際に臨んだことのない奴は、甘ったれたことしか言わない。世の中、そんな優しくはないのに。
私は蕎麦屋の前で月島と別れ、ホテルへと戻ることにした。
その時、背後から声がした。
「北島さん。」
最初、私は自分のことを呼ばれていることに気づかず、そのままスルーしてしまいそうになった。
「北島さん、少しお話しを伺えないでしょうか?」
そこには老齢の男と、20代くらいの男が立っていた。親子くらい年が離れているようだが、親子では無さそうだ。なんとも不釣り合いな2人組だった。
「北島康介さんですね。」
そう言うと加納と河辺という2人は警察手帳をかざして名乗った。
刑事が私に何の用だというのだろうか?
「今日、会見場にいらっしゃいましたよね。今回の事件と犯行声明について、お話しを伺えないでしょうか?」
刑事がなぜ、私にわざわざそんなことを聞きに来たのだろう?
「なぜ、そんなことを私に?」
「いえ、皆さんに伺っているので、気を悪くなさらないで下さい。参考までに、ご意見を伺えないでしょうか。」
ここで拒むのは、心象が悪いだろう。素直に従うとしようか。
「挑戦状についてでしょうか?驚きました。まさかあんなことになろうとは。」
それからあとは、2人は大したことは聞いてこなかった。
当たり障りのないことを聞かれただけで、少しでも警戒した自分がバカを見た感じであった。
いったい、あの2人は何をしに来たのだろう?
私は怪訝に思いながら、2人の背中を見送った。
ふん、どうせ無能な警察なんかに捕まえられなんかしないさ。
「おかえりなさいませ。」
ホテルの受付でマネジャーから鍵を貰い、私はエレベーターへと向かう。
「北島様、お手紙をお預かりしております。」
「手紙?誰からだろう?」
「中学生くらいの子が802号室の人に渡して下さい、と言って持って来られました。差し支えなければ、中身を確認されてみてはいかがでしょうか?」
マネジャーが、ペーパーナイフを差し出してきたので、それを受け取り私は手紙を開封してみた。
中には写真が何枚かと便箋が入っていた。
"藤井さん、私は全て知っている"と便箋には書かれていて、私が胡桃沢美香子を殺害している様子がおさめられていた。
私は驚きのあまり、思わず手紙を落としそうになった。
「どうされましたか?顔色が悪いようですが。お薬でもお持ちしますか?」
マネジャーが狼狽している私を見て気遣ってくれている。
「い、いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます。」
私はそれだけ言うのが精一杯で、そそくさと写真をしまうと、急いでエレベーターに乗り込んで自室へと駆け込んだ。
どうして?どうしてこんな写真が!?
それに、どうして私がここに宿泊していると分かった?どうして私の本名を知っている?
刑事達の動きも気になるが、いったい誰が何の目的で?
クソッ!こうなったら、やられる前に殺るしかない。
こいつの正体を暴いて血祭りにあげてやる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
【朗読の部屋】from 凛音
キルト
ミステリー
凛音の部屋へようこそ♪
眠れない貴方の為に毎晩、ちょっとした話を朗読するよ。
クスッやドキッを貴方へ。
youtubeにてフルボイス版も公開中です♪
https://www.youtube.com/watch?v=mtY1fq0sPDY&list=PLcNss9P7EyCSKS4-UdS-um1mSk1IJRLQ3

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
狂人との対話(作:毒拶 鋏) ― 5分間ミステリバックナンバーVol.10 ―
筑波大学ミステリー研究会
ミステリー
【バックナンバーは、どの作品からでも問題なく読めます】
2018年出題の最新作!
避暑地に立つ豪華な別荘で、別荘の主・リアが殺害された。
リアの遺体は大きな魔方陣の中央に置かれ、両腕は切断されていた。
事件の担当者であるルーフ警部は、リアの妻・コーデリアに事件の状況を聞くが、一向に要領を得ない。
まるで狂人のようなコーデリアの言動に困惑するルーフ。
彼女の証言から導き出される真相とは――?
-----------------
筑波大学学園祭「雙峰祭」にて、筑波大学ミステリー研究会が出店する喫茶店で、毎年出題しているミステリクイズ、「5分間ミステリ」のバックナンバーです。解答編は、問題編公開の翌日に公開されます。
5分間と書いていますが、時間制限はありません。
Vol.10は、2018年に出題された問題。
ヒントなしで正解できたらかなりすごいです。
幻想的な世界観や文章もお楽しみください。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる