3 / 20
First contact
しおりを挟む
さて、私の模倣犯がなぜか十字の刻印のことを知っているかとなれば、最も可能性が高いのは模倣犯が警察関係者である場合だ。
どうにかして警察関係者と接触できないだろうか?
そう考えた私は、フリーライターと身分を偽って関係者に接近することを思いついた。
事件ことを取材している者なら、事件について聞き取りをすることにも何ら疑問を抱かれることは無いだろう。
そのためには、今の仕事を続けながらやることは難しい。
私は、その日のうちに会社に一カ月の休職願いを出し、家族には札幌への長期出張でしばらく家を空ける、ということにした。
9件目の事件が起きた新宿中央署の近くのビジネスホテルに部屋を取り、そこを拠点に調査を開始することにした。
準備を整えると、私はさっそく新宿中央署へと向かった。入り口の受付で、水曜日の切り裂きジャックの取材をしたい、と申し出て名刺を見せると、受付の女性警察官はあからさまに渋い顔をして、記者会見がその日の夜に開かれる事を教えてくれた。
ところで、フリーライターとは実際にどのような活動をすればいいのだろうか?
闇雲に警察関係者に聞き込みをして、かえって変な印象を持たれるのも後々面倒なことになりそうだ。
と、いうことで、私は警察署の周りをウロウロしている取材関係者にくっついて、一定の距離を保ちながらおこぼれを貰うことにした。
なるべく目立たないように、しかし、確実に情報を聞き逃さないように、慎重かつ大胆に行動しなければならない。
その時、私の横を通り過ぎた老齢の刑事が、手帳を落とした。私はその手帳を拾って、その老齢の刑事と若い刑事に声をかけた。
「あの、手帳を落としましたよ。」
すると、その手帳から一枚の写真がするりと舞い落ちた。
その写真を拾い目を落とすと、被害者の名前や聞き込みで得たと思われることが書かれた、ニュースで見た9人目の被害者の顔写真だった。
そうなれば、この二人の刑事は明らかに捜査関係者だ。ならば話しは早い。私は老齢の刑事に話しかけた。
「わたくし、フリーライターをしております北島と申します。」
私は、今朝、急ごしらえで作った偽名の名刺を刑事に差し出した。
「実はわたくし、今朝発生した水曜日の切り裂きジャックの事件を取材しておりまして…先程の写真、今回の被害者の方の写真ですよね?少しお話を伺えないでしょうか?」
「すいません、我々急いでいるもので。」
老齢の刑事と一緒にいる若い刑事が話しを遮る。
「ライターさん、あなたもこの世界に長いこといらっしゃるなら、少しは礼儀をわきまえた方がよろしいと思いますよ。私は、あんたらみたいな仕事をしている人間が嫌いでね、だから何もあんたらに話すことは無い。」
イヤなジジイだ。
「すいません、実はわたくし、今回のことが初めての仕事で、右も左も分からず踏み込んでしまい、申し訳ありません。」
「そうでしたか。それならば仕方ない部分もありますね。では、お気をつけて取材をして下さい。我々はこれで失礼いたします。手帳を拾っていただき、ありがとうございます。」
それだけ言うと、二人の刑事は警察署の建物の中に入って行った。
気に喰わない。この私に向かって説教するなんて、私を捕まえることすらできない無能な連中に何故、私が遜らないといけない?
「あのフリーライターさん、けっこう年齢がいってそうですよね。40半ばくらいかな?あの歳でフリーライターを始めるなんて、変わった人ですよね。」
河辺が振り返ると、そこにはまださっきのフリーライターが立っていて、よくは見えなかったがこちらを睨みつけているように感じた。
「まぁ、人にはそれぞれ事情があるんだろう。何にしろ、それと我々の捜査は関係無いことだ。」
加納は、吐き捨てるように呟いた。
河辺はさっきもらった名刺に目を落とした。
フリーライター、北島康介。あの金メダリストと同じ名前。へぇー、そうなんだ。だが、特段珍しい名前とも言えない。こういうこともあるだろう。
そんなことを考えながら、河辺はポケットにその名刺をねじ込んだ。
どうにかして警察関係者と接触できないだろうか?
そう考えた私は、フリーライターと身分を偽って関係者に接近することを思いついた。
事件ことを取材している者なら、事件について聞き取りをすることにも何ら疑問を抱かれることは無いだろう。
そのためには、今の仕事を続けながらやることは難しい。
私は、その日のうちに会社に一カ月の休職願いを出し、家族には札幌への長期出張でしばらく家を空ける、ということにした。
9件目の事件が起きた新宿中央署の近くのビジネスホテルに部屋を取り、そこを拠点に調査を開始することにした。
準備を整えると、私はさっそく新宿中央署へと向かった。入り口の受付で、水曜日の切り裂きジャックの取材をしたい、と申し出て名刺を見せると、受付の女性警察官はあからさまに渋い顔をして、記者会見がその日の夜に開かれる事を教えてくれた。
ところで、フリーライターとは実際にどのような活動をすればいいのだろうか?
闇雲に警察関係者に聞き込みをして、かえって変な印象を持たれるのも後々面倒なことになりそうだ。
と、いうことで、私は警察署の周りをウロウロしている取材関係者にくっついて、一定の距離を保ちながらおこぼれを貰うことにした。
なるべく目立たないように、しかし、確実に情報を聞き逃さないように、慎重かつ大胆に行動しなければならない。
その時、私の横を通り過ぎた老齢の刑事が、手帳を落とした。私はその手帳を拾って、その老齢の刑事と若い刑事に声をかけた。
「あの、手帳を落としましたよ。」
すると、その手帳から一枚の写真がするりと舞い落ちた。
その写真を拾い目を落とすと、被害者の名前や聞き込みで得たと思われることが書かれた、ニュースで見た9人目の被害者の顔写真だった。
そうなれば、この二人の刑事は明らかに捜査関係者だ。ならば話しは早い。私は老齢の刑事に話しかけた。
「わたくし、フリーライターをしております北島と申します。」
私は、今朝、急ごしらえで作った偽名の名刺を刑事に差し出した。
「実はわたくし、今朝発生した水曜日の切り裂きジャックの事件を取材しておりまして…先程の写真、今回の被害者の方の写真ですよね?少しお話を伺えないでしょうか?」
「すいません、我々急いでいるもので。」
老齢の刑事と一緒にいる若い刑事が話しを遮る。
「ライターさん、あなたもこの世界に長いこといらっしゃるなら、少しは礼儀をわきまえた方がよろしいと思いますよ。私は、あんたらみたいな仕事をしている人間が嫌いでね、だから何もあんたらに話すことは無い。」
イヤなジジイだ。
「すいません、実はわたくし、今回のことが初めての仕事で、右も左も分からず踏み込んでしまい、申し訳ありません。」
「そうでしたか。それならば仕方ない部分もありますね。では、お気をつけて取材をして下さい。我々はこれで失礼いたします。手帳を拾っていただき、ありがとうございます。」
それだけ言うと、二人の刑事は警察署の建物の中に入って行った。
気に喰わない。この私に向かって説教するなんて、私を捕まえることすらできない無能な連中に何故、私が遜らないといけない?
「あのフリーライターさん、けっこう年齢がいってそうですよね。40半ばくらいかな?あの歳でフリーライターを始めるなんて、変わった人ですよね。」
河辺が振り返ると、そこにはまださっきのフリーライターが立っていて、よくは見えなかったがこちらを睨みつけているように感じた。
「まぁ、人にはそれぞれ事情があるんだろう。何にしろ、それと我々の捜査は関係無いことだ。」
加納は、吐き捨てるように呟いた。
河辺はさっきもらった名刺に目を落とした。
フリーライター、北島康介。あの金メダリストと同じ名前。へぇー、そうなんだ。だが、特段珍しい名前とも言えない。こういうこともあるだろう。
そんなことを考えながら、河辺はポケットにその名刺をねじ込んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
【朗読の部屋】from 凛音
キルト
ミステリー
凛音の部屋へようこそ♪
眠れない貴方の為に毎晩、ちょっとした話を朗読するよ。
クスッやドキッを貴方へ。
youtubeにてフルボイス版も公開中です♪
https://www.youtube.com/watch?v=mtY1fq0sPDY&list=PLcNss9P7EyCSKS4-UdS-um1mSk1IJRLQ3

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
狂人との対話(作:毒拶 鋏) ― 5分間ミステリバックナンバーVol.10 ―
筑波大学ミステリー研究会
ミステリー
【バックナンバーは、どの作品からでも問題なく読めます】
2018年出題の最新作!
避暑地に立つ豪華な別荘で、別荘の主・リアが殺害された。
リアの遺体は大きな魔方陣の中央に置かれ、両腕は切断されていた。
事件の担当者であるルーフ警部は、リアの妻・コーデリアに事件の状況を聞くが、一向に要領を得ない。
まるで狂人のようなコーデリアの言動に困惑するルーフ。
彼女の証言から導き出される真相とは――?
-----------------
筑波大学学園祭「雙峰祭」にて、筑波大学ミステリー研究会が出店する喫茶店で、毎年出題しているミステリクイズ、「5分間ミステリ」のバックナンバーです。解答編は、問題編公開の翌日に公開されます。
5分間と書いていますが、時間制限はありません。
Vol.10は、2018年に出題された問題。
ヒントなしで正解できたらかなりすごいです。
幻想的な世界観や文章もお楽しみください。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる