1 / 1
I'm HOME
しおりを挟む
東京から、およそ4時間のところに、そのトンネルはある。
長さはおよそ100メートルほどのトンネルは、昼でも薄暗く壁は苔むし、中は不思議と外気よりも涼しい。
今から21年前、トンネルの先にあるS村I地区で、上流の溜池が決壊して大規模な土石流が発生し、住民121人のうち102人が亡くなる災害があった。
その後、この地区は廃村となり今に至る。
そして、いつしかこの村へ続くトンネルは、冥界へと続くトンネルとして、有名な心霊スポットとして噂されるようになる。
いろいろな噂が飛び交うなか、全ての話しに共通するのは、夜中の午前2時にトンネルの中である事をすると、心霊現象が起きるというものだった。
しかし、そのある事というのが何なのかは諸説あり、真偽の程は定かでなかった。
ただ、実際にそのある事をした者が行方不明になったり、生きて帰って来た者は精神を病み、後に自殺する者もいたという噂だった。
そんなある夏の夜、4人の大学生が納涼心霊体験と題して、肝試しにトンネルへやって来た。
「あたし、肝試しなんて初めて~。楽しみ~。」
橘なぎさは楽しみを隠せなかった。
「私は怖いわ。ねぇ、やっぱり帰ってカラオケ行かない?」
楠木恵梨香は不安を隠せなかった。
「大丈夫、どうせただの噂なんだから。幽霊なんていないって。いざとなったら、俺が守ってやるから。」
片桐徹は期待を隠せなかった。
「そうそう、こんなこと若い今のうちしかできないし、何事も挑戦だよ。」
中山達也はハンドルを握りながら不敵な笑みを隠せなかった。
そして、4人を乗せた車がトンネルの前に停車した。車を降りた4人はトンネルの入り口に立つと、トンネルから涼しい風が吹いてくる。しかし、その風はどこか纏わりつくような湿気を含んでおり、苔の独特な香りがした。
「早く行きましょ。」
橘なぎさが足取りも軽やかにトンネルに入って行く。
「あとは計画どおり…頑張れよ。」
中山達也が片桐徹に耳打ちする。
「おう、ありがとな。」
片桐徹は、親指をあげて橘なぎさのもとへ向かう。
「何?計画って?」
楠木恵梨香が中山達也に尋ねる。
「気づかないか?片桐、橘の事が好きなんだよ。だから俺が2人の距離を縮めるために、今回の肝試しを計画したんだよ。」
「そう…片桐くん、なぎさのことが好きなんだ…。」
楠木恵梨香は視線を落とす。
「…楠木には、楠木のいいところがあって、それを好きな奴がいるから…」
中山達也が消え入りそうな声でフォローする。
「そんな人、いるわけないわ。こんなネガティヴな女なんて。」
「僕じゃ、だめなのかな?」
2人の間に沈黙が訪れる。
「え?」
中山達也は、思わず楠木恵梨香を抱きしめてしまう。
橘なぎさと片桐徹は、トンネルの中間地点くらいにやって来た。
トンネルの壁は、これまでに肝試しで来た人たちの物であろう、落書きが一面に描かれていた。
「もう、不謹慎ね。でも、これだけたくさんの人が来てると思うと、ちょっと安心するね。」
「なぎさちゃん、怖くないの?」
「どうして?楽しいじゃない?片桐君は、もしかして怖いのかな?」
そう言ってなぎさは片桐徹をからかう。
「それで、このあとどうすればいいの?何をしたら幽霊が出るの?」
橘なぎさが片桐徹に対して、上目遣いで尋ねる。
「それはね、こうするんだよ。」
片桐徹は、思い切り息を吸い込んだ。
「ただいまーーー!」
片桐徹の叫び声が幾重にもトンネルの中で反響する。
どれくらいしただろうか?30秒くらい経っただろうか?
「何も起きないけど…?」
橘なぎさは不服そうに頬を膨らます。
その時。
「おかえりーー!」
中山達也の大きな声がトンネル内で木霊した。
「もう!達也君たら!ふざけちゃって!」
憤慨するなぎさちゃんも可愛いな、と徹は思った。すると、徹の携帯に電話がかかってきた。
「徹?どうだ?うまくいったか?」
達也だった。
「おーい!そろそろ帰ろうぜー!」
え?
達也が呼んでいる。
電話口の達也が叫んでいる。
「おい、どうした?どうかしたのか?返事しろ!」
達也の声が、電話とトンネルの入り口の両方から聞こえる。
「どうかしたの、徹君?」
なぎさが不安げに徹のシャツの袖を掴む。
『どっちだ?どっちが本物だ?』
「惑わされるな、徹!俺の言うことを信じろ!」
え?
「…達也、今、お前なんて言った?」
徹は電話口の達也に尋ねる。
「え?俺のことを信じろ、って。」
「達也、お前、いつから一人称が“俺“になったんだ?」
電話が切れた。
こうして俺たちは命拾いをした。
それからと言うものの、俺たちは肝試しはおろか、お化け屋敷に行くことさえなくなった。
もし、あの時、電話の方を信じていたら、俺たちはどこに連れて行かれていたのか?それは誰にもわからない。
長さはおよそ100メートルほどのトンネルは、昼でも薄暗く壁は苔むし、中は不思議と外気よりも涼しい。
今から21年前、トンネルの先にあるS村I地区で、上流の溜池が決壊して大規模な土石流が発生し、住民121人のうち102人が亡くなる災害があった。
その後、この地区は廃村となり今に至る。
そして、いつしかこの村へ続くトンネルは、冥界へと続くトンネルとして、有名な心霊スポットとして噂されるようになる。
いろいろな噂が飛び交うなか、全ての話しに共通するのは、夜中の午前2時にトンネルの中である事をすると、心霊現象が起きるというものだった。
しかし、そのある事というのが何なのかは諸説あり、真偽の程は定かでなかった。
ただ、実際にそのある事をした者が行方不明になったり、生きて帰って来た者は精神を病み、後に自殺する者もいたという噂だった。
そんなある夏の夜、4人の大学生が納涼心霊体験と題して、肝試しにトンネルへやって来た。
「あたし、肝試しなんて初めて~。楽しみ~。」
橘なぎさは楽しみを隠せなかった。
「私は怖いわ。ねぇ、やっぱり帰ってカラオケ行かない?」
楠木恵梨香は不安を隠せなかった。
「大丈夫、どうせただの噂なんだから。幽霊なんていないって。いざとなったら、俺が守ってやるから。」
片桐徹は期待を隠せなかった。
「そうそう、こんなこと若い今のうちしかできないし、何事も挑戦だよ。」
中山達也はハンドルを握りながら不敵な笑みを隠せなかった。
そして、4人を乗せた車がトンネルの前に停車した。車を降りた4人はトンネルの入り口に立つと、トンネルから涼しい風が吹いてくる。しかし、その風はどこか纏わりつくような湿気を含んでおり、苔の独特な香りがした。
「早く行きましょ。」
橘なぎさが足取りも軽やかにトンネルに入って行く。
「あとは計画どおり…頑張れよ。」
中山達也が片桐徹に耳打ちする。
「おう、ありがとな。」
片桐徹は、親指をあげて橘なぎさのもとへ向かう。
「何?計画って?」
楠木恵梨香が中山達也に尋ねる。
「気づかないか?片桐、橘の事が好きなんだよ。だから俺が2人の距離を縮めるために、今回の肝試しを計画したんだよ。」
「そう…片桐くん、なぎさのことが好きなんだ…。」
楠木恵梨香は視線を落とす。
「…楠木には、楠木のいいところがあって、それを好きな奴がいるから…」
中山達也が消え入りそうな声でフォローする。
「そんな人、いるわけないわ。こんなネガティヴな女なんて。」
「僕じゃ、だめなのかな?」
2人の間に沈黙が訪れる。
「え?」
中山達也は、思わず楠木恵梨香を抱きしめてしまう。
橘なぎさと片桐徹は、トンネルの中間地点くらいにやって来た。
トンネルの壁は、これまでに肝試しで来た人たちの物であろう、落書きが一面に描かれていた。
「もう、不謹慎ね。でも、これだけたくさんの人が来てると思うと、ちょっと安心するね。」
「なぎさちゃん、怖くないの?」
「どうして?楽しいじゃない?片桐君は、もしかして怖いのかな?」
そう言ってなぎさは片桐徹をからかう。
「それで、このあとどうすればいいの?何をしたら幽霊が出るの?」
橘なぎさが片桐徹に対して、上目遣いで尋ねる。
「それはね、こうするんだよ。」
片桐徹は、思い切り息を吸い込んだ。
「ただいまーーー!」
片桐徹の叫び声が幾重にもトンネルの中で反響する。
どれくらいしただろうか?30秒くらい経っただろうか?
「何も起きないけど…?」
橘なぎさは不服そうに頬を膨らます。
その時。
「おかえりーー!」
中山達也の大きな声がトンネル内で木霊した。
「もう!達也君たら!ふざけちゃって!」
憤慨するなぎさちゃんも可愛いな、と徹は思った。すると、徹の携帯に電話がかかってきた。
「徹?どうだ?うまくいったか?」
達也だった。
「おーい!そろそろ帰ろうぜー!」
え?
達也が呼んでいる。
電話口の達也が叫んでいる。
「おい、どうした?どうかしたのか?返事しろ!」
達也の声が、電話とトンネルの入り口の両方から聞こえる。
「どうかしたの、徹君?」
なぎさが不安げに徹のシャツの袖を掴む。
『どっちだ?どっちが本物だ?』
「惑わされるな、徹!俺の言うことを信じろ!」
え?
「…達也、今、お前なんて言った?」
徹は電話口の達也に尋ねる。
「え?俺のことを信じろ、って。」
「達也、お前、いつから一人称が“俺“になったんだ?」
電話が切れた。
こうして俺たちは命拾いをした。
それからと言うものの、俺たちは肝試しはおろか、お化け屋敷に行くことさえなくなった。
もし、あの時、電話の方を信じていたら、俺たちはどこに連れて行かれていたのか?それは誰にもわからない。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
トゴウ様
真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。
「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。
「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。
霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。
トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。
誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。
「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
他サイト様にも投稿しています。
ノック
國灯闇一
ホラー
中学生たちが泊まりの余興で行ったある都市伝説。
午前2時22分にノックを2回。
1分後、午前2時23分にノックを3回。
午前2時24分に4回。
ノックの音が聞こえたら――――恐怖の世界が開く。
4回のノックを聞いてはいけない。
りこの怖いはなし
月見こだま
ホラー
本文は全て実話を元にしたフィクションです。どこまでが本当なのか、信じるのかはこれを読んでいるあなた次第です。さて、まずは全ての物語の中心となっていただく少女をご紹介しましょう。
少女の名は神田りこ。十一歳の誕生日を迎えたばかりです。
彼女は田舎のごく平凡な家庭の次女として生を受けました。六歳上に姉、三歳上に兄がいますが、その中で彼女が一番『母方』の血を濃く受け継いでしまったようです。
今回紹介するのは、彼女が体験したほんの少しだけ怖いお話。
***更新予定
4話→18日0時
5話→19日0時
6話→20日0時
7話→21日0時
人身事故
津嶋朋靖(つしまともやす)
ホラー
俺が乗っていた電車が人身事故で止まってしまった。足止めを食らった駅で、電車の先頭を見に行くと、事故犠牲者の肉片が連結器に残っている。
それをスマホで撮影した俺は、足止めを食らった腹いせに『なんちゅうことさらすんじゃ! わしゃ急いでるんじゃぞ! 自殺するなら余所で死ねや! ボケ!』とツイッターに投稿した。
ところがしばらくすると、俺のツイッターに……
『ボケとは失礼な。私は自殺などしていません。踏切の途中で、車椅子が立ち往生してしまったのです』
まるで犠牲者本人みたいな返信があった。
どうせ誰かのイタズラだろうと思っていたのだが……
蠱毒な少年 -闇に咲く白い花-
こーいち
ホラー
その少年は孤独にして___蠱毒。
"それ"は、かの有名な口裂け女や人面犬のように、どこからともなく囁かれ始めた都市伝説。
名前、性別、国籍、出生...全てが謎に包まれた、摩訶不思議な少年。
その少年は神出鬼没にして、常に死の傍らに寄り添う。
闇に咲く白い花、人はそれを「蠱毒な少年」と呼んだ。
これは、その少年に関わった、関わってしまった人間たちの物語。
妻を愛する夫、探偵と女子高生、大病を患った少女。
様々な立場から描かれる、愛と憎しみの群像劇。
あなたは私を死なせる。
本作はプロローグを含め全4章、43話+αで構成されています。
一話2000字程を目安にしています。
お気軽に評価、ブックマークなどしていただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
本作は下記サイトにも投稿しています。
カクヨム様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891960986
ステキブンゲイ様
https://sutekibungei.com/novels/8cbf40af-70d9-4944-a274-413e6a34e1a6
異界劇場 <身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集>
春古年
ホラー
身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集。
通勤通学、トイレ休憩のお供にどうぞ♪
Youtubeにて動画を先行公開中です。
2023年2月28日現在、通常動画とショート動画合わせて約50本の動画を公開しています。
次のURLか、Youtubeにて"異界劇場"とご検索下さい。
https://www.youtube.com/@ikaig
是非、当チャンネルへのお越しをお待ちしております。
第6回ホラー・ミステリー小説大賞参加中!
😊😊😊投票をお願いします😊😊😊
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる