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崩れるアリバイ

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田中政臣から依頼を受け、改めて謎の死を遂げた5人の関係者全員に事情を聞けた日の翌日、探偵と小川は田中政臣に調査の中間報告をしに向かった。
しかし、これには九十九要の証言した、浜村一死亡当日のアリバイの確認という意味合いも含まれていた。
もし、仮に九十九の証言とおり政臣が浜村死亡の日時に五反田にいたことが確かなら、初めてアリバイに疑問符が付くことになる。
そうなれば、過去の案件のアリバイについても徹底的に再度調べられることになり、結果、全ての死亡案件が政臣を通じて結ばれることとなる。
兎にも角にも、まずは政臣に当時のアリバイの再確認をすることが先決だ。
探偵と小川は、政臣の職場に向かい会議室へと通される。
程なくして政臣が会議室に入ってきた。
「すいません、お待たせしてしまって。電話が若干伸びてしまいました。どうぞ、お掛けください」
探偵と小川は、政臣に促されて椅子に座った。
「政臣、いちおう紹介してくれた関係者には全て話しを聞けたよ。アポの調整をしてくれてありがとう」
「いえ、僕はただお2人のお役に立てればと最低限のことをしたまでです。それで、何か新しい事実はありましたか?」
政臣は、食い入るように前のめりにかじりついてくる。
「基本的に、以前政臣君から聞いた話しと大きく違う話しは聞けなかったよ。立場の違いによる視点の違いは多少あるものの、概ねこれまでの話しの補足程度だ」
「そうですか、それでは僕の無実を証明したのかどうかも曖昧なままということになるわけですね」
政臣の表情には、どこか安堵と失望の入り混じった複雑な表情があった。
これまでと変わらず確実なアリバイに守られているという安心感と、新しい情報が出てこないことにより、警察関係者の疑念が晴れないことについての失望感がないまぜになっているようだった。
「ところでだ。政臣に一つ確認しておきたいことがある。政臣にとっては、悪い知らせかもしれないが」
小川が切り出したことで、場の空気に変化が生まれた。一気に緊張感が高まった。政臣の顔が不安げに曇る。
「何でしょうか?確認したいことって」
「浜村一が亡くなった日のことだ。浜村が亡くなったと思われる死亡推定時刻に、五反田で政臣のことを見たという目撃証言を聞いたんだ」
政臣の表情に、明らかな暗い影が差し込む。
「でも、僕はその日のその時間、同窓会に出席していたんですよ。他の皆んなも証言してくれるはずです」
狼狽する政臣に、小川は追い討ちをかける。
「残念だが、政臣を乗せたというタクシー運転手の証言があるんだ。ホテルから浜村一の住むマンションまでと、五反田から同窓会の開かれている大崎のホテルまでの往復。政臣、俺はお前の無実を信じている。だから正直に、事実を教えてほしい。それがお前の無実を証明できる唯一の方法なんだ」
項垂れる政臣を小川は諭す。
「わかりました。全てを正直にお話しいたします」

その日、僕の心は本当は同窓会どころではありませんでした。
数日後には、会社を辞めるかどうかを決めなければならない瀬戸際だったのですから。
同窓会の会場に到着してすぐのことでした。電話がかかってきました。浜村からの電話でした。
今度の聴聞会のことだという話しでした。奴の用件を簡単に言えば、僕に非があったと認めれば懲罰動議をとりさげてやる、という僕には承服しかねる話しでした。
僕はそれを一蹴すれば良かったのかもしれませんが、何とか浜村と話し合いを持つ機会にならないかと、一縷の望みを託して同窓会を抜け出して浜村の部屋へと向かいました。
同窓会は200人前後の人が集まります。僕1人が途中で姿を消しても、誰も気づかないし、気にも留めなかったのでしょう。そのとおり、警察に僕がいたという証言をする奴はいても、途中で僕が出て行ったと言う奴はいなかったようです。
ホテルから浜村のマンションまでは10分くらいでした。
僕は浜村の部屋に行き、インターホンのチャイムを鳴らしました。
でも、誰も出てきません。何度も鳴らしてみましたが、部屋の中からチャイムの音はすれど、誰もいないのか人の気配はありませんでした。
近所のコンビニにでも行ったのかと思って、10分くらいでしょうか、待っていたのですけど、戻って来る気配も無いのでそのまま駅前に行ってタクシーを拾い、同窓会へ戻りました。
その間、約30分ちょっとでしょうか。
それだけなんです、たしかに僕は浜村の部屋に行きましたが、結局あいつには会えなかったんです!信じてください!

「どうしてそのことを初めに言ってくれなかったんだ?」
「こんなこと言っても、信じてもらえないと思ったし、叔父さんとは言っても警察の人だし、やっぱり怖かったんです」
全ての感情を吐露した政臣は、いつしか咽び泣いていた。
「とにかく、大事な証言だ。警察に行って正直に事情を説明しよう」
小川が政臣の肩を支えて立ち上がらせる。と、その時、政臣の携帯が鳴った。
「知らない番号です」
「出ても構わないよ」
小川に促されて政臣は電話に出た。
「はい・・・そうです、田中政臣は僕ですが・・・えっ!そんな・・・わかりました、すぐに伺います!」
電話を切った政臣の顔は、すっかり血の気が引いて真っ青になっていた。
「どうした?誰からの電話だったんだ?」
「警察でした」
政臣がやっとのことで呟いた。
「何?警察が何だって?」
小川の問いかけに、政臣は少し間を開けて答えた。
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「何だって!?」
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