上 下
2 / 29

ケース1

しおりを挟む
まず、僕の近くで最初に人が亡くなったのは、10年前の18才の頃のことです。
まだ大学に入学したての僕は、カズさんのお店・・・あぁ、セレクトショップなんですけど、まだその頃は開店したばかりで1店舗しか無い、こじんまりとしたお店だったんですけど、今や都内に30店舗以上あるレインボーゲートという店でバイトを始めました。
そこのバイトで、僕はバイト仲間となる和田隆夫さんと出会います。
和田さんは、僕の一つ年上でバイトの先輩でもありました。
和田さんは気さくな人で、右も左も分からない僕に、親切にバイトの仕事のいろはを教えてくれました。
和田さんの誰とでも分け隔てなく接する性格のおかげで、僕たちが仲良くなるのにはそんなに時間はかかりませんでした。
一緒に夢の国に遊びに行ったり、未成年がいけないことなんですけど、和田さんの部屋で朝まで宅飲みをしたり、女の子をナンパしに行ったりしてました。
まるで、本当の兄のように、僕は和田さんを慕っていました。
僕は、冗談半分、半分本気で和田さんのことを師匠、なんて呼んでいました。
あんまりにも仲が良すぎて、いつも一緒にいたせいか、周りから「付き合ってるの?」なんて囃し立てられることがあったくらいです。
だけど、別れは突然やって来ました。
その日も僕は先輩と遊びに行く約束をしていました。
僕は待ち合わせ場所である駅前のカフェで、少し時間があったので1人でお茶をしていました。
しかし、待ち合わせの時間を過ぎても先輩は現れず、僕からメールをしても返信はありませんでした。
3時間くらい待っていたのですが、僕は仕方ないので帰ることにしました。
その時でした。先輩から電話がかかって来たのは。
しかし、僕が電話に出ると、電話口に出たのは僕の知らない声でした。
電話をかけてきたのは、警察の方でした。
何が起きたのか分からない僕に、警察の方は言いました。
「和田隆夫さんが、電車に撥ねられ死亡しました」と。
僕は、その言葉の意味を受け入れるのにどれだけの時間を要したのか、今でも思い出すことができません。
僕は、急いで教えてもらった病院へと向かいました。
先輩の遺体は、かなり損傷が激しかったらしく、先に到着していた先輩のご家族でさえも、遺体に対面させられてもらえなかったとのことでした。
不思議ですね。僕は、先輩の死を現実として受け入れることができず、涙が出ることがありませんでした。
人間、悲しすぎると案外泣かないものなんだな、なんて思ったりしました。
その後、警察の事情聴取を受けました。
警察の方の説明では、事故として捜査が進められているとのことでしたが、防犯カメラの映像から誰かとすれ違いざまに接触して線路に落ちた、とのことで事件性も視野に捜査しているとのことでした。
ということなので、僕もその時の映像を観させてもらいました。
その映像には、ホームの縁を歩いている先輩が映っていました。
そして、電車が近づいて来たところ、正面からやって来た人が先輩に接触して、先輩が線路に転落したところで映像は終わっていました。
映像を観た限り、すれ違った人がわざと先輩とぶつかったり、突き落としたようには見えなかったけど、実際にはどうだったのか、僕には見当がつきませんでした。
ただ、警察の方から聞かれたのは、先輩と接触した人物に心当たりがあるかどうか、ということを聞かれました。
正直、カメラの映像は画質が粗かったので、それが僕の知っている誰かどうかなのかまでは判別できませんでした。
背格好も普通だし、帽子を目深に被っていたし、特にこれと言って特徴があるわけでもなかったので、何もわからないという感想しかありません。
また、警察の方には、先輩の交友関係を聞かれました。だけど、僕が知る限りでは先輩が誰かの恨みを買っているとか、トラブルがあったとかいう話しは聞いたことがありませんでした。
あと、僕のアリバイも聞かれました。
先ほどもお話ししましたが、僕は事故があった時間にカフェで先輩を待っていました。店の人の証言が或るので、僕は早々に捜査対象から外されました。
結局、先輩のことは有力な証言も無かったことから、事件性は無いということで不幸な事故として解決したと聞きました。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヴァニッシュ~錯綜の迷宮~

麻井祐人
ミステリー
ある架空の国家の出来事。 アダムタイラーがあるビルの部屋の中から出られないで困っていた。 部屋には鍵が掛かっていて出られない。 窓の外には車や多くの人が行き交っていたが、 アダムタイラーには気付かない。 窓を割ることもできない。アダムタイラーに何が起こっているのか。 一方、小型爆弾Vanish「ヴァニッシュ」を使って、 大統領暗殺をもくろむテロ集団「Blast」ブラスト FBI捜査官ジェイク・ハリスはテロリスト集団に味方を装って 潜入捜査しVanish「ヴァニッシュ」のある場所を特定していたが・・・・。 二つの話は交差し意外な展開を引き起こす。 おもな登場人物 アダムタイラー 小売店の店員 仮面の男    なぞの男 ジェイク・ハリス FBI捜査官 トム・ミラー   FBI捜査官 ケビン・スミス  FBI捜査官 参謀役 ゾラクス・ダークウッド テロリスト集団「Blast」ブラストのリーダー ルカ・モレッティ マフィアのボス ジョンソン大統領 ノヴァリア合衆国の大統領 

探偵たちに逃げ場はない

探偵とホットケーキ
ミステリー
「探偵社アネモネ」には三人の探偵がいる。 ツンデレ気質の水樹。紳士的な理人。そしてシャムネコのように気紛れな陽希。 彼らが様々な謎を解決していくミステリー。 しかし、その探偵たちにも謎があり…… 下記URLでも同様の小説を更新しています。 https://estar.jp/novels/26170467 過激なシーンノーカット版 https://kakuyomu.jp/users/tanteitocake

不忘探偵4 〜純粋悪〜

あらんすみし
ミステリー
新宿の片隅で、しがない探偵業を営む男。彼は、どんな些細なことも忘れることができない難病を患っていた。 それが、どれほど辛い記憶であっても、決して忘れることも癒えることもない、そんな現実から逃げるように、探偵は世捨て人のように生きてきた。 しかし、そんな生活も悪くはない。騒がしい俗世と隔絶された世界が、探偵にとっては心の安寧を約束してくれるものだったから。 しかし、そんな平穏な生活を打ち破るような事件に探偵は巻き込まれることとなる。 腐れ縁の小川から、小川の遠い親戚筋の烏丸家で、居なくなった犬を探して欲しいという依頼だった。 2人が現地に赴くと、ちょうど烏丸家では待望の男子が誕生したところだった。 待望の男子の誕生で、烏丸家は沸きに沸いていた。代々家督を男子が受け継いできた烏丸家であったが、当主の妻にも愛人にも男子は産まれず、ようやく新しい愛人との間に男子を授かっただけに、当主の喜びも格別のものがあった。 しかし事件は起きた。 生まれたばかりの赤ん坊が何者かの手によって殺されたのだ。 こうして探偵は、烏丸家の人々の思惑が交錯する諍いの渦に巻き込まれていく。

意識転移鏡像 ~ 歪む時間、崩壊する自我 ~

葉羽
ミステリー
「時間」を操り、人間の「意識」を弄ぶ、前代未聞の猟奇事件が発生。古びた洋館を改造した私設研究所で、昏睡状態の患者たちが次々と不審死を遂げる。死因は病死や事故死とされたが、その裏には恐るべき実験が隠されていた。被害者たちは、鏡像体と呼ばれる自身の複製へと意識を転移させられ、時間逆行による老化と若返りを繰り返していたのだ。歪む時間軸、変質する記憶、そして崩壊していく自我。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、この難解な謎に挑む。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、想像を絶する恐怖と真実への迷宮だった。果たして葉羽は、禁断の実験の真相を暴き、被害者たちの魂を救うことができるのか?そして、事件の背後に潜む驚愕のどんでん返しとは?究極の本格推理ミステリーが今、幕を開ける。

忘れられし被害者・二見華子 その人生と殺人事件について

須崎正太郎
ミステリー
 用水路で発見された、若き女性の惨殺死体。  その身体には中学校の卒業写真が、画びょうで刺されて貼りつけられていた。  写真にうつっていた女の名前は、二見華子(ふたみはなこ)。  用水路沿いにある古アパートの一室で暮らしていた華子の人生は、いかようなものだったのか。なぜこのような遺体と化したのか。  地方紙の記者は、華子の人生と深く関わってきた六人の人物を見つけだし、彼女の人となりを取材する。  その実態は。  惨殺事件の真相は――

RoomNunmber「000」

誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。 そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて…… 丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。 二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか? ※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。 ※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。

探偵は今宵恋をする__。

もか♡
ミステリー
次々と起こる様々な事件を解決する探偵「月空」ある夜殺人現場に出くわしてしまった。その事件を解決していくと犯人にたどり着く、その犯人が……

魔探偵

霊内
ミステリー
[魔法、それは現代では空想、眉唾物と呼ばれる物、しかし、世界の暗い影にその空想達は潜んでいた]

処理中です...