21 / 30
夜の告白
しおりを挟む
滝をあとにした俺たちは、少し土産物と飲食店の並ぶエリアで、買い物と食事を楽しんだ。
2人で秋山さんや職場の同僚たちへのお土産を選んだり、名物の鮎の塩焼きや蕎麦に舌鼓を打ったりして、2人だけの旅を満喫した。
「あ~、楽しかった。こんなに楽しかったのは久しぶりです」
「そうか、それなら来て良かった。でも、まだまだお楽しみはこれからだ」
「えっ?まだ何かあるんですか?」
「着いてからのお楽しみだ」
俺は今夜宿泊するホテルへと車を滑らせる。早く川口青年の喜ぶ顔が見たくて。
ホテルの車寄せに車を停まらせると、早速ベルボーイたちがやって来て荷物を下ろしてくれる。
「凄い、こんないい所に泊まるんですか?」
ベルボーイに案内され、俺たちは最上階のフロアに案内される。
ベルボーイにカードキーの扱い方を説明してもらい、俺たちは部屋に入ると、そこには見たこともない豪華な部屋が用意されていた。
「奮発して1番いい部屋を取ったんだ」
「えぇ!こんな凄い部屋、いくらするんですか?」
「そんなことは気にするな。よく考えたら、2人で旅行したことなかったな、と思って」
川口青年は、まるで子供のように部屋の中を駆けずりまわっている。本当に無邪気でわかりやすいな。こんなに喜んでもらえるなんて、思い切った甲斐があったというものだ。
「凄いですよ!専用の露天風呂まであります!」
川口青年の興奮は覚めやらなかった。
だが、その後も川口青年の興奮は抑えられなかった。
豪華な山の幸、川の幸をメインにした常陸牛のフルコース。
豪華な設備と最高のサービスも、川口青年のお気に召したようで、彼のテンションは振り切れてしまったかのようだ。
食事とサービスを満喫したあとは、専用の露天風呂に一緒に入った。
少し痩せた川口青年の体が、病の進行を物語っているようで、俺は彼の体から目を逸らしてしまった。
「天気、晴れてて良かったな」
俺は空一面に広がる星空を見上げて呟いた。
「はい。最高です」
このまま、ずっとこのまま時間が止まってくれたらいいのに。恋人とか、そうでないとか関係無く、俺は今が最良の時間だと思えた。
「少しのぼせて来ましたね。そろそろ寝ましょうか」
大きなキングサイズのベッドは、大の男2人が並んで寝ても余裕があるほどで、普段寝ているベッドとは比較にならないスプリングが、ベタな表現だがまるで雲の上に寝ているかのようにイメージさせた。
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございます」
「俺の方こそ、久しぶりにはしゃいだよ」
「あの・・・手を繋いでもいいですか?」
そう言って、川口青年は手を差し出して来た。
「いいよ」
俺は躊躇うことなく、差し出された手を握る。
スプリングの心地いい、羽のような布団に包まれて、快適なのに眠れない時間がゆっくりと過ぎていく。
2人で並んで寝て、眠れないなんて初めて一緒に寝た時以来だな。あの頃が懐かしい。まだ一年も経っていないのに、あの頃がとても懐かしく、遠い記憶に感じる。
もう一度、今の記憶を持ってあの頃に戻れたら、どんなに嬉しいことだろうか。
「福山さん、俺、怖いです」
「幸せすぎてか?」
「茶化さないでください!」
俺たちは笑い合ったが、その笑いにはどこか無理している感じがした。
「俺、死にたくないです」
「そうだな」
俺は、それ以上何と声をかけたらいいのかわからず、自分の言語能力の無さを嘆いた。
川口青年は、布団を頭から被って咽び泣いた。きっと、精一杯泣き声を堪えているのだろう。それでもその泣き声は、俺の耳にハッキリと届いた。
俺は、彼を抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、俺は彼のためを思ってその衝動を押し殺した。
翌朝、昨日は咽び泣いていた川口青年も、すっかり元気を取り戻していた。昨夜泣いていたのが夢のようだ。
「今日はこれからどうしますか?」
「せっかく来たんだし、この辺りの観光スポットでもまわってから帰ろうか」
俺たちは大子町の観光スポットを調べて、旧上岡小学校と永源寺に行くことにした。
旧上岡小学校では、ドラマや映画のシーンを思い出しながら、あのドラマはここで撮影したんだ、とか、あのシーンはこの教室で撮影したんだ、と盛り上がった。
紅葉寺として有名な永源寺では、山道脇に並べられている小さな地蔵の掌に、小銭と紅葉の葉を乗せて写真を撮った。
たくさんの思い出と、たくさんの写真を撮って、川口青年はとても楽しんでくれたようだ。
手術まであと僅か。それまでにたくさん思い出を作ってあげたい。
それが、今の俺の生き甲斐にもなっていた。
2人で秋山さんや職場の同僚たちへのお土産を選んだり、名物の鮎の塩焼きや蕎麦に舌鼓を打ったりして、2人だけの旅を満喫した。
「あ~、楽しかった。こんなに楽しかったのは久しぶりです」
「そうか、それなら来て良かった。でも、まだまだお楽しみはこれからだ」
「えっ?まだ何かあるんですか?」
「着いてからのお楽しみだ」
俺は今夜宿泊するホテルへと車を滑らせる。早く川口青年の喜ぶ顔が見たくて。
ホテルの車寄せに車を停まらせると、早速ベルボーイたちがやって来て荷物を下ろしてくれる。
「凄い、こんないい所に泊まるんですか?」
ベルボーイに案内され、俺たちは最上階のフロアに案内される。
ベルボーイにカードキーの扱い方を説明してもらい、俺たちは部屋に入ると、そこには見たこともない豪華な部屋が用意されていた。
「奮発して1番いい部屋を取ったんだ」
「えぇ!こんな凄い部屋、いくらするんですか?」
「そんなことは気にするな。よく考えたら、2人で旅行したことなかったな、と思って」
川口青年は、まるで子供のように部屋の中を駆けずりまわっている。本当に無邪気でわかりやすいな。こんなに喜んでもらえるなんて、思い切った甲斐があったというものだ。
「凄いですよ!専用の露天風呂まであります!」
川口青年の興奮は覚めやらなかった。
だが、その後も川口青年の興奮は抑えられなかった。
豪華な山の幸、川の幸をメインにした常陸牛のフルコース。
豪華な設備と最高のサービスも、川口青年のお気に召したようで、彼のテンションは振り切れてしまったかのようだ。
食事とサービスを満喫したあとは、専用の露天風呂に一緒に入った。
少し痩せた川口青年の体が、病の進行を物語っているようで、俺は彼の体から目を逸らしてしまった。
「天気、晴れてて良かったな」
俺は空一面に広がる星空を見上げて呟いた。
「はい。最高です」
このまま、ずっとこのまま時間が止まってくれたらいいのに。恋人とか、そうでないとか関係無く、俺は今が最良の時間だと思えた。
「少しのぼせて来ましたね。そろそろ寝ましょうか」
大きなキングサイズのベッドは、大の男2人が並んで寝ても余裕があるほどで、普段寝ているベッドとは比較にならないスプリングが、ベタな表現だがまるで雲の上に寝ているかのようにイメージさせた。
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございます」
「俺の方こそ、久しぶりにはしゃいだよ」
「あの・・・手を繋いでもいいですか?」
そう言って、川口青年は手を差し出して来た。
「いいよ」
俺は躊躇うことなく、差し出された手を握る。
スプリングの心地いい、羽のような布団に包まれて、快適なのに眠れない時間がゆっくりと過ぎていく。
2人で並んで寝て、眠れないなんて初めて一緒に寝た時以来だな。あの頃が懐かしい。まだ一年も経っていないのに、あの頃がとても懐かしく、遠い記憶に感じる。
もう一度、今の記憶を持ってあの頃に戻れたら、どんなに嬉しいことだろうか。
「福山さん、俺、怖いです」
「幸せすぎてか?」
「茶化さないでください!」
俺たちは笑い合ったが、その笑いにはどこか無理している感じがした。
「俺、死にたくないです」
「そうだな」
俺は、それ以上何と声をかけたらいいのかわからず、自分の言語能力の無さを嘆いた。
川口青年は、布団を頭から被って咽び泣いた。きっと、精一杯泣き声を堪えているのだろう。それでもその泣き声は、俺の耳にハッキリと届いた。
俺は、彼を抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、俺は彼のためを思ってその衝動を押し殺した。
翌朝、昨日は咽び泣いていた川口青年も、すっかり元気を取り戻していた。昨夜泣いていたのが夢のようだ。
「今日はこれからどうしますか?」
「せっかく来たんだし、この辺りの観光スポットでもまわってから帰ろうか」
俺たちは大子町の観光スポットを調べて、旧上岡小学校と永源寺に行くことにした。
旧上岡小学校では、ドラマや映画のシーンを思い出しながら、あのドラマはここで撮影したんだ、とか、あのシーンはこの教室で撮影したんだ、と盛り上がった。
紅葉寺として有名な永源寺では、山道脇に並べられている小さな地蔵の掌に、小銭と紅葉の葉を乗せて写真を撮った。
たくさんの思い出と、たくさんの写真を撮って、川口青年はとても楽しんでくれたようだ。
手術まであと僅か。それまでにたくさん思い出を作ってあげたい。
それが、今の俺の生き甲斐にもなっていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ポンコツアルファを拾いました。
おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて……
ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。
オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。
※特殊設定の現代オメガバースです

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる