太陽を追いかける月のように

あらんすみし

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新しい友だち

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俺と川口青年が同棲を始めて2ヶ月がすぎた。
俺のSNSへの投稿も、付き合う前の揺れ動くものから一転、穏やかな彼との幸せな生活を報告する投稿ばかり。
そんな他愛の無い投稿なのに、いいねをしてくれる人がたくさんいて、中には気持ち悪いとかの誹謗中傷をしてくる人もいたが、とても励みになる反応が多くて救われていた。
そんなある日のことだった。
俺のSNSに一件のDMが届いたのは。
それは、いつも俺と彼との生活を応援してくれている、ハンドルネーム「冷凍パイナップル」さんだった。
以降、「パインさん」とする。
『突然のDMすいません。いつも後輩君との投稿を楽しみにしてます。お二人の投稿を見ていると、お互いを愛することの尊さを思い出させてもらいます。これからもお二人のことを応援させていただきます』
僅かこれだけのメッセージで、当時はこのDMを気に留めることはなかった。
他にもこうして突然DMを送ってくるフォロワーはいたりしたからだ。
しかし、この日以来、俺の投稿にパインさんは必ずコメントを残してくれるようになり、いつしかパインさんのコメントが楽しみになってくる。
やがて、お互いにDMで頻繁に個人的にやり取りをするようになり、遂には通話機能でお喋りまでするようになる。
パインさんとは、一度も会ったことが無いのに、まるでそれまでずっと長い付き合いのあった友人のように会話が弾んだ。
きっとそれは、パインさんのウィットに富んだ会話のせいかもしれない。
元来は、あまり初対面の人と話すことが苦手な俺だったが、こんな俺の話でもパインさんは急かさずにきちんと聞いてくれるし、返しも楽しかった。
「一度、会ってみませんか?」
パインさんが聞いてきた。
「えっ!マジですか?」
「私は本気ですよ。福山さんに是非、お会いしてみたいです」
俺は少し迷った。いくら親しくなったとは言え、相手は見ず知らずの人物だ。
実際に会ってみて、実は怪しい金儲けや宗教の勧誘だったらどうしよう?
「少し迷いますよね、気が向いたらでいいですよ。考えてみてください」
「はい、そうですね。少し考えてみます」
どうしたらいいものか。俺の中では、会ってみたい気持ちと会わない方がいいのではないか、という気持ちと完全に割れていた。
「どうしたんですか?ぼんやりして」
「えっ?」
「それ、トンカツですよ」
ふと手元を見ると、俺はトンカツに納豆をかけていた。
「あっ!」
「何をやっているんですか、勿体無い」
「ごめん、ちょっと考え事していて」
「悩み事なら俺に話してみてくださいよ、せっかく一緒に暮らしているんですから」
俺は、川口青年のお言葉に甘えることにした。
これまで言わずにいたSNSのこととか、そこで2人のことを投稿していることとか、周囲の反応とか、そしてパインさんと仲良くなって会おうと言われて迷っていることを、包み隠さず話した。
「そうなんですね。うーん、ちょっと怪しい感じもしますね」
「やっぱりそうか?」
「でも、会ってみたい気持ちもわかります」
川口青年は、俺が勝手に彼とのことをSNSにあげていることは触れずに、真剣に俺の悩みを一緒に考えていてくれている。
「それじゃあ、俺も一緒に会ってみるというのはどうですか?」
俺は、川口青年の提案に驚いて咄嗟に声が出なかった。
「福山さん、押しに弱いところあるから、変な壺とか売りつけられても断われなさそうだし、でも俺が一緒なら少しは心強くなれませんか?」
なるほど、たしかに彼の言うとおりかもしれない。
「それでお前がいいなら、俺としても助かるけど。本当にいいのか?」
「当たり前じゃないですか。それに、俺も福山さんの友だちに紹介してもらえると嬉しいし、福山さんがどんな人と仲良くしているのか興味があります」
「それじゃあ、OKだと返事しようかな」
「そうしてください」
こうして俺は、川口青年と一緒にパインさんにリアルで会うことになる。


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