太陽を追いかける月のように

あらんすみし

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2人で物件を探しに行ってから1ヶ月後。
俺たちは無事に2人の愛の巣を見つけて、今日、引っ越しをしていた。
結局2人で暮らす愛の巣は、不動産屋の担当お薦めの、築25年の一戸建てになった。
見るまでは、自分の生まれる前に建てられた古民家なんて嫌だ、と言っていた川口青年も、実際の物件を目にした途端、思いがけず綺麗で手入れのされた様に興奮して、他の物件は見ずに「ここでなきゃ嫌だ」と即決するほど気に入ってしまった。
引っ越しは容易だった。何しろ2人とも荷物が少ない。
引っ越し業者を頼むほどの量も無く、軽トラを借りて2往復もすれば全ての荷物を運ぶことが出来た。
一緒に暮らすのに必要な家具・家電などは、これから買って揃えればいいし、その方が楽しいということもある。
「ひととおり片付いたなぁ」
荷物は少ないとは言え、朝から始めて、午後も日が傾き始めた頃に、ようやく作業も終わりが見えてきた。
「あとで引っ越し蕎麦を作りますね」
「今日は疲れただろ?初日から張り切りすぎるなよ」
「大丈夫ですよ、若いんで」
「はいはい」
俺は川口青年の嫌味を軽く受け流して、ペットボトルのお茶を一口飲んだ。
「今日からずっと一緒ですね」
そう言うと、川口青年は俺を背後から抱きしめてきた。
「幸せです」
「俺もだよ」
これからずっと、ここで2人で愛を育んでいくのだと思うと、2人の未来が薔薇色でしかなかった。

その日の夜、さすがに若い川口青年も、朝からの引っ越しと家事で疲れ果てたのか、俺が風呂からあがってくるとソファで深い眠りに落ちていた。
俺は、冷蔵庫から缶ビールを取り出して、しばらく川口青年の寝顔を肴に晩酌を楽しんだ。
「何見てるんですか?」
その時、寝ているとばかり思っていた川口青年が、目を閉じたまま口を開いた。
俺はあまりの驚きに口に含んでいた酒を吹き出し咽せてしまった。
「なんだよ!起きてるなら言えよ!」
「なんか、楽しそうだからどうしようか迷っちゃって」
川口青年はムクリと起き上がると、大きく伸びをした。
「俺も飲もうかな」
そう言うと、川口青年は俺が手に持っていた缶ビールを奪い取って、大きく一口ふくんだ。
「明日も市役所行ったり忙しいから、そろそろ寝ようか」

次の日の午前中は、市役所に行ったり警察署に行ったり、諸々の手続きをした。
「お待たせ」
俺はマイナカードの変更手続きを終えて川口青年のいるところに戻ると、川口青年は何やらぼんやりと一点を見つめていた。
「何を見てるの?」
川口青年の視線の先を見てみると、何枚かのポスターが掲示されており、その中にLGBTQカップルのためのパートナーシップ制度のポスターがあった。
こんな田舎町でも、いつの間にかそんな制度がてきていたなんて知らなかったな。
彼は、俺とパートナーシップ制度に登録したいのだろうか?子供の時に両親が離婚したと言っていたな。家族に憧れているのだろうか。でも、さすがにこんな田舎町で男同士のカップルというだけでも目立つのに、そのうえパートナーシップは・・・。
「行きましょう」
「あぁ、そうだな」
まだ一緒に暮らし始めたばかりだし、今はそこまでは考える必要も無いだろう。それは、川口青年もわかってくれるだろう。いずれ、それが必然であるならそうすればいい。

午後は、2人で一緒に出勤し、総務課にそれぞれ転居届を提出した。
さぁーて、これでやるべきことは全て終わったかな。
「福山君、川口君、ちょっと・・・」
俺たち2人は高田部長に会議室まで呼ばれた。
「2人に聞きたいことがある。君たち、一緒に住んでいるのか?」
えっ!もうバレたのか!?
正直、この時の俺はかなり狼狽えていた。何を言ったらいいのか、どう返事をしたらいいのか、何とか誤魔化せないか、そんな事が頭をもの凄いスピードで巡っていて、実際には数秒だったのだろうが、沈黙がかなり長い時間経っていたように感じた。
「俺たち、付き合ってます」
川口青年は高田部長の聞きたいことを先回りして、堂々とカミングアウトする。
えっ!展開早すぎ!
「そ、そうか。まぁ、そういう時代だし、そんなこともあるよな。それで、職場の連中には言うのか?」
「それは・・・タイミングを見て言います」
俺は、まだ早く脈打つ心臓を、必死になだめながら毅然とした態度を装って答えた。
いずれ言う。それがいつになるかはわからないが、いつかはそうしなけばいけないのか?
もし、これが男と女なら、軽く言えるのにな。
やめよう、まだ全て始まったばかりだ。今からあれこれ考えても仕方ない。そのうち自然となるようになるだろう。

しかし、俺はこの時の考えが甘かったと、後々後悔させられることとなることをまだ知らなかった。





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