太陽を追いかける月のように

あらんすみし

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訃報

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今日も変わり映えのしない1日が終わろうとしている。
仕事もうまくいかず、だけど締め切りだけは確実に迫っていて、最近は残業ばかりの毎日だ。
ちょっとだけいいことがあったといえば、残業で遅くなったおかげで帰宅ラッシュのピークは避けられたということくらいか。
職場から家までの1時間ちょっと、今夜はたまたま電車で前に座っていたOLが途中駅で降りてくれ、珍しく席に座ることができた。
僕は音楽を聴きながら、何気なくSNSのアプリを開いた。
ここ3年くらいこのSNSを利用しているが、Twitterと違って顔見知りがいないおかげで、どんなネガティブなことも思う存分呟ける。
Twitterだと、顔見知りと繋がっているため、あんまりにもネガティブなことは書くのがはばかられる。
その点、このSNSは繋がろうが繋がるまいが自由。そして、相手の顔も素性もわからない。わかっているのは、性別と相手のハンドルネームくらいで、自ら明かさない限りはどこの誰だかはまず間違ってもわからない。
流れてくる投稿に、いいねをするのもコメントを残すのも自由。全てが一期一会で、投稿をスルーしたらもうそれきり2度とその人の投稿に巡り合うことは無いだろう。
さらに優しいSNSを謳っていて、本当に利用者は優しい人ばかりで、ただ「おはよう」と投稿しただけで、いいねが二桁も付くくらい貰えて、自己顕示欲も満たされ放題。
そのせいか、Twitterには全くハマらなかった僕だけど、このSNSに限っては1日に何回も開いて、投稿したり、フォロワーさんの投稿をチェックしたりと飽きが来ない。
そんなものだから、今日も電車で座ったとほぼ同時に僕はアプリを開いてみる。
今年の夏は異常な暑さだから、今日も投稿は暑さに関するネタが多い。
他にも、何を食べたとか、仕事行きたくないとか、他愛もない投稿ばかり。
でも、その投稿の一つひとつが、匿名性が高いのがかえって親近感を呼び起こすのか、ついついいいねを押してしまう。
この日もそうだった。
しかし、この日は少し違った。
投稿の中に、普段は見かけることのないフォロワーさんが久しぶりに投稿をしていた。
まるでそれは、砂浜でキラキラと輝く蒼いガラスの欠片を見つけたような、違和感というか、物珍しさみたいな感覚を覚えた。
このSNSは表示の都合で、1000文字までは書けるものの、画面上は4行までしか表示されない。
その投稿は、4行以上のもしかしたら長めの投稿かもしれない。
基本、僕は長い投稿はあまり見ない。
見たとしても、あんまりにも長いと途中で見るのを止める。
だけど、その時の僕は、そのフォロワーさんの久しぶりの投稿ということもあって、興味を惹かれた。
いや、それは正確では無いかな。
正しくは、その投稿の冒頭4行が印象的だったから、という方がしっくりくるかもしれない。
何が冒頭4行に書かれていたかというと、
「先日、私は友人2人を相次いで亡くしました。
それは突然の別れでした。
時間が経過しても、こうしてここで書くことで涙が流れます」
そうか、このフォロワーさん、久しぶりに見たと思ったら、投稿していない間にそんなことがあったんだ。
僕は、その投稿の続きが気になって、投稿をタップしてみた。
続きにはこう綴られていた。
「今も信じられません。
2人と親しくしていた私は、2人に何も出来なかった。
福山さん、そしてその相方さん。僕は2人のことを忘れません。
そして、2人のことを見守ってくださった皆様、どうか2人を忘れないでください」
僕はこの投稿を見てハッとした。
だけど、すぐにはここに書いてあることが理解できなかった。
ここに名前の上がった福山さんは、僕のフォロワーさんでもあり、そしてその相方さんは、福山さんの投稿にいつも登場してくる、福山さんの最愛の人だったからだ。
にわかには信じられなかった。本当に僕の知っている福山さんなのか?
僕が知っている福山さんは、いつも相方さんとの幸せいっぱいの生活を投稿している人だったから。
それがどうして?
そう言われてみれば、最近、福山さんの投稿を見ることが無くなっていた。
いつからだろう?福山さんの投稿を目にしなくなったのは?
そうだ!もしこの投稿の福山さんが僕のフォロワーの福山さんなら、フォロワーリストに載っているはず。
僕はリストの中に福山さんの名前を探した。
しかし、そのリストの中に、福山さんの名前は既に無かった。
僕は何度もその投稿を読み返した。
気がつけば、僕はその投稿にコメントをしていた。
どうか、この亡くなった2人が、僕の知っている2人ではありませんように。
ただ、すがるような想いで、別人であることを確認したくてその投稿にコメントをしてみることにした。

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