不忘探偵3 〜波紋〜

あらんすみし

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最終章

悲劇の朝

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翌日、俺が出勤すると久米川教頭が血相を変えて駆け寄ってきた。
「あぁ、教頭先生、おは・・・」
俺が挨拶をする間もなく、久米川教頭は俺の腕を掴んで応接室へ押し込んだ。
「どうかしたんですか?」
「大変ですよ、佐藤先生!先ほど田之上陽子のお母様から電話があって、昨夜から彼女が帰って来てないということなんですよ!」
俺は絶句した。まさか、昨日の今日で犯人は動いたというのか?
「佐藤先生!とにかく田之上を探さなくては!」
「警察にはもう届けを出してあるのですか?」
「それが、校長が直に田之上のお母様を説得して、まだ届け出させていないのです」
あの女め!こんな時でもまだ学校の体面を優先させるつもりか!
「とにかく彼女を探さなければ!」
「探すと言われましてもどこを?」
確かにそうだ。警察の力を借りられない以上、俺1人が闇雲に探し回っても意味が無い。
「ひとまず彼女の身の安全が第一です。すぐにでも警察に捜索願いを出させて下さい!」
俺の言葉に久米川教頭はおろおろしている。
「早く!」
その時、部屋の外の廊下が慌ただしくなった。
大勢の人の足音が聞こえ、生徒達だろうか?騒然としている。
「何事でしょうか?」
俺と教頭が部屋の外に出てみると、廊下を多くの生徒達が走っていた。皆、口々に何かを叫んでいる。ひどく興奮しているようだ。
「あっ、教頭先生に佐藤先生!」
俺たちを見つけて教師の1人が声をかけてきた。
「何事ですか?えらい騒ぎになってますが」
久米川教頭が不安げな様子を隠せずに問いただす。
「さっき生徒が駆け込んできて、講堂の裏に誰かが倒れていると。それで、すでに生徒達の間では大騒ぎになってまして」
俺は、その場に久米川教頭たちを残して、生徒達のあとについて走り出していた。
俺が講堂の裏にたどり着くと、そこには幾重にも生徒達が取り囲んでいて、何人かの教師が興奮気味の生徒達を制止していた。
俺が幾重にも重なる生徒達の壁を掻き分けて現場に入ると、そこには頭に麻袋を被らされた女子生徒の横たわる姿を確認することができた。
俺はその横たわっている女子生徒の傍らに駆け寄り、被らされている麻袋を取り除いた。
そこには、ぐったりと血の気の失せて顔面蒼白となっている田之上陽子の姿があった。
田之上陽子の首には紐の跡がある。現場の様子から見ると、木の枝に紐をひっかけ、首を吊ろうとしたが枝が折れて自殺に失敗したかのように見える。
俺は、ぐったりとして反応の無い田之上陽子の呼吸と脈を確認する。
良かった、まだ微かだが呼吸も脈もある。しかし、危険な状態に変わりは無い。早急に然るべき措置を取らねば。
そこへ救急隊が駆けつけた。
そして、田之上陽子は速やかに搬送されて行った。
田之上陽子が搬送されて行ったのと時を同じくして、警察関係者が現場に到着した。
その中には、小川の姿も見えた。
「よぉ、朝っぱらから大変な目に遭ったな」
俺は一言「あぁ」と返すことしかできなかった。
「あとで俺と一緒に来てくれないか?少し事情を聴きたい。それに最近連絡してなかったしな、調査状況も教えてほしい」
「わかった、あとで署まで行く。しかし、その前に例の生徒達に話しを聞かなければならない」
「あの生徒達の中に、本当に犯人がいると思っているのか?」
「いるさ。必ずこの事件の犯人を突き止めてやる」
俺は、警察関係者で慌ただしくなった現場から離れ、教室へと向かった。
俺は怒りに打ち震えていた。あの中の誰が田之上陽子をあんな目に遭わせたのかはわからないが、必ずあの中にいる。それだけは確実だ。俺は、込み上げる怒りを抑えることができず、廊下を教室へと向かって大股に歩いて行った。
すれ違う生徒達の挨拶に応える余裕も無く、おそらく生徒達も俺の様子にいつもと違う雰囲気を肌で感じていただろう。
俺は教室のドアを勢いよく開ける。そこには、いつにも増して緊張感で張り詰めていた。
生徒達の視線がいっせいに俺に向けられる。そこには、明らかな怯えと不安が研ぎ澄まされた刃物のように存在するのが感じられた。
「佐野、加納、安城、槇、中井。話しがある。ついて来てくれ」
教室にいる生徒達は、身じろぎもせず固まっていた。これから何が始まるのか、この5人がどうなるのか、事態の推移を固唾を飲んで見守っていた。
俺は、5人を連れて1番近くの空き教室へ入った。
「今さら説明することも無いだろうが、今朝、田之上君が講堂裏で倒れているのが発見された」
俺の言葉に、5人の反応は様々だった。
佐野杏奈と加納慎一は気丈に振る舞っているように見せていたが、どことなく不安の色を見せている。
安城誠はいつものように飄々とした様子で、落ち着き払っている。
槇隆文は、最近はかつてのひょうきんなキャラは影を潜め、今朝も今にも飛びかかってきそうな攻撃性をその目に浮かべている。
中井華子は、すっかりと怯えきっていて、今にも半狂乱になって泣き叫びそうなくらい不安定に見えた。
「あまり考えたくはないことだが、俺は、この中に一連の事件の犯人がいると思っている」
「何を突然言い出すんですか?僕たちが彼女を襲うわけないじゃないですか」
安城誠が朗らかに俺の言葉に異議を唱えた。
「そうだわ!どんな理由があったとしても、あたし達が陽子にあんな事する理由なんて無いわ」
佐野杏奈をはじめとして、その場にいた全員が口々に俺に向かって、自分たちの行為では無いと抗議をする。
「そうか・・・わかった。もう十分だ。そう遠くないうちに全てが明るみになるだろう」
俺は改めて確信した。そうして俺は5人をその場に残して部屋を出た。そうか、そういうことだったのか。これで全ての点が繋がった。
あとは「なぜ」犯人が凶行に至ったのか、動機の解明だけだ。それが分かればこの事件の解決も近い。







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