不忘探偵3 〜波紋〜

あらんすみし

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第三章 ネクストステージ

そして新しい朝が来る

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翌朝、俺は出勤簿に押印をした後、学校の事務室へと行ってみた。
「おはようございます」
俺が事務室の中に向かって挨拶すると、奥からまるで女子高生かと思うような、幼い顔をした女性がやって来た。
「おはようございます。えーっと、先日赴任されてきた・・・鈴木先生!」
「佐藤です」
「そうそう、佐藤先生!それはそうと、どうかなさいましたか?」
「実は、落とし物を探していまして」
「あら大変。何を落としたんですか?」
「それはちょっと・・・美術室で落としたのだと思うのですが、届いていませんか?」
「あぁ、それでしたら昨日・・・」
女事務員は何かを思い出したように目を見開いた。
「女の子がロケットの付いたペンダントを取りに来ましたよ。それがどうかしました?」
女事務員は、首を傾げてクスッと微笑んだ。
「ロケット付きのペンダントですか。ロケットの中は見ましたか?」
「それは内緒。うふふ、秘めた想いって切ないわよね」
「落とし主の生徒は誰か分かります?名前とか」
女事務員は、引き出しから台帳を取り出して俺に見せた。そこには、落とし物の品名と、受け渡した時間、落とし主の名前が記されてあった。落とし主の名前は、田之上洋子と書かれていた。時間は10時半か。
そうすると、彼女は美術室でペンダントを探していたのか。問題は、そのペンダントをいつ落としたか、ということになる。あんまり彼女のことを追及はしたくないが致し方ない。あとで本人に事情を聞いてみるか。
「ありがとうございます。とても参考になりました」
「どういたしまして。加藤先生、授業、頑張ってくださいね」
「佐藤です」
まったく・・・。
その時、校門の方がにわかに騒がしくなった。
見ると、校門の前に止まったタクシーから加納慎一が降りて来たところだった。
時の人の登場に、他の生徒が色めき立っているのがわかった。
俺は加納慎一のもとに駆け寄り声をかけた。
「怪我は大丈夫なのか?もう少し休んでいてもよかったんじゃないか?」
「いえ、受験を控えている身としては、授業を欠席して遅れを取るわけにはいかないので」
そんな加納慎一に、下級生の女子達が口々に黄色い声援をかける。加納慎一は、それにいちいち微笑んで軽く手を振る。
昇降口に着くと、職員室から大野もやって来て、加納慎一を気遣う言葉をかける。
俺と大野に付き添われて加納慎一が教室に入ると、それまで賑やかに歓談していた生徒達の視線が、一斉に加納慎一に注がれた。
それは、安堵と疑念とが入り混じった混沌とした空気だった。まるで、腫れ物に触るような雰囲気が漂っていた。
「おはよ、慎一!もう怪我は大丈夫なのか?」
槇隆文が明るく声をかける。それに呼応するようにして、他の生徒も加納慎一に励ましやお見舞いの声をかける。
だが、その様子を佐野杏奈だけが苦々しく眺めていた。
昨日、学校を休んでいた中井華子は、いつもと違って元気も無く、普段なら佐野杏奈にべったりしているはずなのに、珍しく1人で大人しく事態の推移を窺っているようだった。まだ本調子ではないのだろうか。
さらにその様子を、田之上陽子や珍しくホームルームに出席している目黒明日香が窺っていた。
「まったく、たいした怪我でもないくせに大袈裟なのよ。そんなに注目されたいのかしら?承認欲求の塊みたい」
佐野杏奈は、いかにも面白くなさそうに、教室中に聞こえるようにぼやいてみせた。
「誰かさんは俺がたいした怪我をしてなくてつまらなさそうだけど、いったい誰がやったんだろうね」
加納慎一も対抗して、薄ら笑いを浮かべながら佐野杏奈に嫌味を吐いた。
「何よ!まだあたしがやったと思ってるわけ?あたしにはアリバイがあるのよ!そんなにあたしのことを疑うなら、あたしが嘘をついていると証明してみなさいよ!」
「やめなさい!2人ともいい加減にしなさい!」
大野が珍しく声を荒げて2人を諌める。
「やってられないわ!」
そう言い残すと、佐野杏奈は教室を出ていく。
「佐野さん、どこへ行くの!?」
「体調が悪くなったので、保健室に行ってきまーす」
佐野杏奈は、大野の制止を無視してさっさと行ってしまった。
「大野先生、俺が彼女の様子を見てきます」
俺は大野にそう言って、佐野杏奈のあとを追って保健室へ向かった。
保健室に行くと、ベッドの上で佐野杏奈が足をブラブラさせて横になっていた。
「佐野さん、具合はどう?」
「なんだ、佐藤先生か。最悪よ、最悪な朝だわ」
佐野杏奈の苛立ちがひしひしと伝わってくる。
「君はどう思う?誰が加納君に怪我をさせたのか、心当たりは無いかな?」
「さぁ。あいつ、自作自演じゃないの?本当はただ階段を踏み外しただけの自爆を、かっこつかないから、誰かにやられたなんて嘘ついているんじゃない?」
「彼は、そういうことをしかねない?」
「そんなこと聞かれても困るけど、でも、大袈裟なのよ。内心、皆んなから注目されて気持ちいいんじゃない?」
佐野杏奈は、悔しそうに、不貞腐れた口調で口を尖らせた。
「本当に誰か心当たりは無いかな?例えば、安城君とか」
「安城君がそんな何の得も無いことするはずないわ」
佐野杏奈が起き上がり、独り言のように、自らに言い聞かせるように呟く。
「槇君や、中井さん、田之上さん。彼らも動機は無いのかな?」
「そうね、槇は大の仲良しだし、華ちゃんもそんなことするほどあいつを嫌いとも思えない。陽子は・・・もしかしたらもしかするかも。あたし達がこき使ってることを、根に持っていたりして」
佐野杏奈の口から、乾いた短い笑い声が漏れた。
「それより、あたしを殺そうとした奴を早く見つけてよ」
「勿論それも調べているよ。佐野さんは、あれはやっぱり加納君がやったと思っているの?加納君にはあんなことをする動機があるのか?」
「さぁ、どうかしら?でも、あいつ、アリバイ無いんでしょ?」
「それは安城君や田之上さんもだよ」
「でも、安城君はあんなことするかしら?陽子もそんな度胸あるとは思えないし」
誰も佐野杏奈を襲うような明確な動機は無いか。ただ、できる可能性はある。アリバイの無い3人の中にいるのか?
アリバイが無いといえは加納慎一もだ。しかし、彼は次に襲われている。まさか、加納慎一の自作自演?
それともやはり、佐野杏奈の場合は偶然の事故なのだろうか?
今のところ、佐野杏奈は加納慎一が襲われた時のアリバイがある。それに引き換え、槇隆文は動機こそ無さそうだが、アリバイは非常に曖昧だ。
安城誠や中井華子、田之上陽子はどうなのだろう?
しかし、これがもし連続した事件だとしたら、中井華子は佐野杏奈の時にはアリバイがあるので可能性は低い。槇隆文もしかり。
そうなると、残るは安城誠と田之上陽子なのだが。





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