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第二章 始まりの鐘の音
右大臣と左大臣
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加納慎一が言った、佐野杏奈についての嫌悪の感情。
安城誠と槇隆文も佐野杏奈に対しては、いい感情を持っていないということか?
是非、2人にも話しを聞いてみたいもだが、2人はどこに行ったのだろう?2人とも、もう帰ってしまっただろうか?
その時、俺はたまたまクラスの生徒を見つけたので、安城達を見なかったか尋ねてみた。
「安城君と槇君なら、さっき図書室で一緒に勉強してましたよ」
俺は急ぎ図書室へと向かった。
図書室の扉を開け、中に入ると何人かの生徒の中に、隅の机に並んで座って勉強している安城誠と槇隆文の姿を見つけた。
「安城君、槇君。今、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですけど、何か?」
安城は勉強を中断されたことに、少し苛立っているようだ。
「あぁ、佐藤先生!ちょうど良かった、少し休憩したかったところなんすよ」
安城とは対照的に、槇隆文は親しげな笑みを浮かべて応えた。
「2人で勉強かい?」
「はい、もうすぐ中間テストだから、まーくんに教えてもらってたんです。ワシ、今回ちょいヤバなんで」
槇隆文が屈託の無い笑顔で安城誠の方を見る。
「大丈夫だよ、今日だけでだいぶ進展があったよ。槇君は飲み込みが早いから、きちんとやればすぐに吸収できるのだから、きっと授業中に居眠りしたりしなければ、もっと成績も良くなるはずだよ。ところで佐藤先生、僕たちに何か用ですか?」
「あぁ、さっきの休み時間に佐野さんが事故に遭ったのは知っているよね?その事で聞きたいことがあるんだ」
「そのことなら、ワシら詳しくは知らんですわ。ただ、彼女が危ない目に遭ったとしか聞いてないです」
「僕も加納君から聞いた事くらいしか。幸い軽い怪我ですんだということくらいですね」
安城誠と槇隆文は、俺の質問に揃って応えた。2人から目新しい情報を引き出すのは難しいだろうか?
「佐野さんが危険な目に遭うような理由に心当たりは無いかな?」
「それって、彼女を恨んでいる人がいるかどうか、って意味ですか?」
さすが盟朋学院一の秀才だ。察しがいい。
「僕は特に心当たりは無いですけど」
安城誠は、余計なことは言わない方が得策だと思ったのか、その目に警戒する色を浮かべて応えた。
「そうだなぁ、ワイの知る限り、杏奈ちゃんは誰かに恨まれるような子じゃないと思うけど」
「えっ?」
槇の答えに安城が思わず反応する。
「えっ?ってことは、安城君は心当たりがあるということなのかな?」
俺に見透かされたと察した安城誠は、視線を落とした。
「まぁ、彼女には敵が多いとは思いますけど」
「そうなの?ワシはああいう気の強い女子は好きだけどな」
どうやら、2人の佐野杏奈に対する評価は、全くの真逆のようだ。
「敵が多いとは、どういうことなのかな?佐野さんに危害を加えるような人物に心当たりはあるのかな?」
「まぁ、気が強いですから、彼女のことを好きではない人がいるのは事実です。でも、だからといって危害を加えるほど嫌ってる人はいないと思いますけど」
安城の言葉には、端々に事を穏便に収めたいという想いがあるのか、言葉を丁寧に選んでいるようだった。
「うーん。ワシが思うに、やっぱり目黒ちゃんかな?」
槇の素直な回答に、安城は思わず顔をしかめる。
「へぇ、それはどうして?」
「彼女、目黒ちゃんには当たりが強いから」
どうやら槇隆文にとって、佐野杏奈の目黒明日香に対する虐めは、たいして深刻なことでは無いらしい。虐めている認識が無いようだ。
「そうか、ありがとう。勉強の邪魔をして悪かったね。」
「いえ、こんなことで何かお役に立てたのであれば良かったです」
「ところで、2人は佐野さんが怪我をしたとき、どこで何をしていたのかな?」
「ワシは職員室にいました。顧問の遠藤先生に呼び出されていたんで」
「僕は、図書室で資料になりそうな本を探していました」
なんと、安城は図書室にいたのか!?
そうすると、加納慎一は嘘をついていたということになるのか?それとも、安城誠の方が嘘をついているのか?
「図書室には、他に誰かいなかったかな?」
「いえ、残念ながら他には誰もいませんでした。これはピンチかな?アリバイを立証できないということは、僕が佐野さんを怪我させたと思われてしまいますか?」
安城誠は、ケラケラと小さく笑った。
「いや、そんなことは無いよ。ただ、皆んなに聞いている形式的なことだから」
「それにしても、こんなことを皆んなに聞いているなんて、佐藤先生は警察か探偵みたいですね。ワシ、結構、推理小説読むんですわ、こう見えて。アガサ・クリスティーとか、エドガー・アラン・ポーとか、よく読みましたわ。いろんなトリックとか考えました。どうしたら事故に見せかけて殺せるか、とか、密室殺人とか」
槇隆文は、意外に読書家のようだ。
俺は、ふと、槇隆文が佐野杏奈を事故に見せかけて殺そうと計画したりするのだろうか?と想像してみたりした。
さて、これでアリバイが曖昧な人物が2人になった。加納慎一と安城誠。どちらかが嘘をついていることになる。そして、どちらも佐野杏奈に対して、いい感情を持ってはいないようだ。
槇隆文についてはどうだろう?アリバイは完璧なようだが、可能性を完全に排除するのは拙速かもしれない。あとで念のために遠藤先生に確認してみよう。
「ありがとう、邪魔をしたね。ところで、田之上さんを見かけなかったかな?」
「田之上さんなら、今日は掃除当番だから視聴覚室にいるはずですよ」
「そうか、ありがとう。それじゃあ、勉強頑張って」
俺は、2人にそう言って図書室を出て、その足で急ぎ視聴覚室へと向かった。
安城誠と槇隆文も佐野杏奈に対しては、いい感情を持っていないということか?
是非、2人にも話しを聞いてみたいもだが、2人はどこに行ったのだろう?2人とも、もう帰ってしまっただろうか?
その時、俺はたまたまクラスの生徒を見つけたので、安城達を見なかったか尋ねてみた。
「安城君と槇君なら、さっき図書室で一緒に勉強してましたよ」
俺は急ぎ図書室へと向かった。
図書室の扉を開け、中に入ると何人かの生徒の中に、隅の机に並んで座って勉強している安城誠と槇隆文の姿を見つけた。
「安城君、槇君。今、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですけど、何か?」
安城は勉強を中断されたことに、少し苛立っているようだ。
「あぁ、佐藤先生!ちょうど良かった、少し休憩したかったところなんすよ」
安城とは対照的に、槇隆文は親しげな笑みを浮かべて応えた。
「2人で勉強かい?」
「はい、もうすぐ中間テストだから、まーくんに教えてもらってたんです。ワシ、今回ちょいヤバなんで」
槇隆文が屈託の無い笑顔で安城誠の方を見る。
「大丈夫だよ、今日だけでだいぶ進展があったよ。槇君は飲み込みが早いから、きちんとやればすぐに吸収できるのだから、きっと授業中に居眠りしたりしなければ、もっと成績も良くなるはずだよ。ところで佐藤先生、僕たちに何か用ですか?」
「あぁ、さっきの休み時間に佐野さんが事故に遭ったのは知っているよね?その事で聞きたいことがあるんだ」
「そのことなら、ワシら詳しくは知らんですわ。ただ、彼女が危ない目に遭ったとしか聞いてないです」
「僕も加納君から聞いた事くらいしか。幸い軽い怪我ですんだということくらいですね」
安城誠と槇隆文は、俺の質問に揃って応えた。2人から目新しい情報を引き出すのは難しいだろうか?
「佐野さんが危険な目に遭うような理由に心当たりは無いかな?」
「それって、彼女を恨んでいる人がいるかどうか、って意味ですか?」
さすが盟朋学院一の秀才だ。察しがいい。
「僕は特に心当たりは無いですけど」
安城誠は、余計なことは言わない方が得策だと思ったのか、その目に警戒する色を浮かべて応えた。
「そうだなぁ、ワイの知る限り、杏奈ちゃんは誰かに恨まれるような子じゃないと思うけど」
「えっ?」
槇の答えに安城が思わず反応する。
「えっ?ってことは、安城君は心当たりがあるということなのかな?」
俺に見透かされたと察した安城誠は、視線を落とした。
「まぁ、彼女には敵が多いとは思いますけど」
「そうなの?ワシはああいう気の強い女子は好きだけどな」
どうやら、2人の佐野杏奈に対する評価は、全くの真逆のようだ。
「敵が多いとは、どういうことなのかな?佐野さんに危害を加えるような人物に心当たりはあるのかな?」
「まぁ、気が強いですから、彼女のことを好きではない人がいるのは事実です。でも、だからといって危害を加えるほど嫌ってる人はいないと思いますけど」
安城の言葉には、端々に事を穏便に収めたいという想いがあるのか、言葉を丁寧に選んでいるようだった。
「うーん。ワシが思うに、やっぱり目黒ちゃんかな?」
槇の素直な回答に、安城は思わず顔をしかめる。
「へぇ、それはどうして?」
「彼女、目黒ちゃんには当たりが強いから」
どうやら槇隆文にとって、佐野杏奈の目黒明日香に対する虐めは、たいして深刻なことでは無いらしい。虐めている認識が無いようだ。
「そうか、ありがとう。勉強の邪魔をして悪かったね。」
「いえ、こんなことで何かお役に立てたのであれば良かったです」
「ところで、2人は佐野さんが怪我をしたとき、どこで何をしていたのかな?」
「ワシは職員室にいました。顧問の遠藤先生に呼び出されていたんで」
「僕は、図書室で資料になりそうな本を探していました」
なんと、安城は図書室にいたのか!?
そうすると、加納慎一は嘘をついていたということになるのか?それとも、安城誠の方が嘘をついているのか?
「図書室には、他に誰かいなかったかな?」
「いえ、残念ながら他には誰もいませんでした。これはピンチかな?アリバイを立証できないということは、僕が佐野さんを怪我させたと思われてしまいますか?」
安城誠は、ケラケラと小さく笑った。
「いや、そんなことは無いよ。ただ、皆んなに聞いている形式的なことだから」
「それにしても、こんなことを皆んなに聞いているなんて、佐藤先生は警察か探偵みたいですね。ワシ、結構、推理小説読むんですわ、こう見えて。アガサ・クリスティーとか、エドガー・アラン・ポーとか、よく読みましたわ。いろんなトリックとか考えました。どうしたら事故に見せかけて殺せるか、とか、密室殺人とか」
槇隆文は、意外に読書家のようだ。
俺は、ふと、槇隆文が佐野杏奈を事故に見せかけて殺そうと計画したりするのだろうか?と想像してみたりした。
さて、これでアリバイが曖昧な人物が2人になった。加納慎一と安城誠。どちらかが嘘をついていることになる。そして、どちらも佐野杏奈に対して、いい感情を持ってはいないようだ。
槇隆文についてはどうだろう?アリバイは完璧なようだが、可能性を完全に排除するのは拙速かもしれない。あとで念のために遠藤先生に確認してみよう。
「ありがとう、邪魔をしたね。ところで、田之上さんを見かけなかったかな?」
「田之上さんなら、今日は掃除当番だから視聴覚室にいるはずですよ」
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