不忘探偵3 〜波紋〜

あらんすみし

文字の大きさ
上 下
9 / 34
第二章 始まりの鐘の音

女王の乱心

しおりを挟む
何かが割れるような激しい音と、空気を切り裂くような女の悲鳴を聞いた俺たちは、勢いよく校長室を飛び出した。
中庭の方が騒然としていた。
誰よりも早く大野が中庭へ向かって走り出した。それに続いて俺と小川、目黒明日香、久米川教頭と金井校長も騒然とする中庭へと駆け出した。
中庭には多くの生徒が詰めかけていて、中庭を取り囲む人垣をどうにか掻き分けて行くと、そこには中庭の中心で砕け散った鉢植えと腰をくずして座り込んでいた佐野杏奈の姿があった。
大野が急いで佐野杏奈のもとへと駆け寄る。
「佐野さん!大丈夫?怪我は無い!?」
そう言って大野は真っ青な顔をしている佐野杏奈を抱きしめた。
「いったい何があったと言うんですの?」
金井校長が金切り声をあげて周囲を見渡す。
「どうやら、上からそこの鉢植えが落ちてきたようですね」
久米川教頭は現場の様子を見て、比較的冷静に状況を把握しているようだった。
その時だった、それまで真っ青な顔をして震えていた佐野杏奈が、目黒明日香を睨みつけて自分を抱きかかえている大野の腕を振りほどいて立ち上がった。
「目黒!てめぇ、よくもやりやがったな!」
佐野杏奈はそれまでの恐怖におののいていた表情を一変させて目黒明日香に詰め寄り、目黒明日香の胸倉を掴んでそのまま突き倒した。目黒明日香は小さく悲鳴を上げ、その場に倒れこんだ。その目黒明日香に向かって、佐野杏奈は馬乗りになり、さらに暴行を加える。
「ちょっと!何をやっているの!?」
その場にいた俺や大野や小川、久米川が、なおも目黒明日香に暴行を加える佐野杏奈を何とか引き離そうとする。しかし、猛り狂った佐野杏奈の力は凄まじく、男も含めた大人4人がやっとのことで押さえつけられるくらいの勢いであった。
「な・・・何よ、いきなり」
佐野杏奈にいきなり突き倒され暴行を加えられた目黒明日香は、狼狽え、それだけ言うのが精一杯だった。
「あんた、あたし達のこと恨んでいるんだろ?分かっているんだからね、あんたがあたしを嵌めようとしていることくらい、あたしが分からないとでも思ったのか!?バカ!!こんなことしてただで済むと思うなよ!!」
「な・・・何言ってるのよ・・・私、校長室にいたのよ。大野先生たちに聞いてみなさいよ。言いがかりをつけるのはやめて!」
目黒明日香は、上体を起こして佐野杏奈に反論した。
「そうよ、目黒さんはたしかに先生たちと一緒にいたわよ、それだけは信じて」
大野も目黒に同意して擁護する。
「じゃあ、いったい誰がこんな事するのよ!?この女以外にこんなことする奴、誰がいるって言うのよ!?あたしは許さない、絶対にこんなことした奴を探し出して思い知らせてやる!」
佐野杏奈は、なおも金切り声を張り上げて目黒明日香を睨みつけて威嚇していた。
「とにかく、怪我が無いか保健室へ行きましょう」
そう言うと、大野は佐野杏奈を連れて保健室へと向かった。
「どう思う?彼女は誰かにやられたと凄い剣幕だったが、お前から見てこれはどう思う?」
俺は落ちて砕け散った鉢植えと、校舎の窓を見比べながら考えた。
『鉢植えの落下地点と、窓の位置から考えると、これは事故の可能性が高いが、とりあえず調べてみる必要があるだろうか?』
多くの生徒たちは久米川教頭に促されての場を立ち去っていたが、まだ何人かの生徒は残っていた。
「目黒さん、怪我は大丈夫かい?」
俺はそう言って目黒明日香の手を取り引っ張り起こした。
「私は・・・大丈夫です。ちょっとあの女に叩かれた頬が痛いけど・・・それより、私にかけられた濡れ衣を晴らしてくれませんか?そのためなら、私何でも協力しますから。そうでないと、またあいつらに何をされるかわかりません」
目黒明日香がすがるような眼で俺に懇願する。
「もちろんそれは大切なことだ。しかし、もしこれが何らかの事件だった場合、君にも危害が及ぶ可能性がある。それは何としても避けないといけない」
俺の言葉に、目黒明日香は失望の色を隠せなかった。
「でも、学校で調査するなら、誰かの協力が必要にならないでしょうか。大野先生でもいいでしょうけど、生徒のことは同じ生徒である私の方が調査にはうってつけだと思います。お願いです、ぜひ協力させてください!」
目黒明日香の力強い言葉に気圧された俺は、思わず小川と顔を見合わせた。目黒明日香のことを考えれば、彼女をこれ以上の危険に晒すことはできない。しかし、気丈な目黒明日香が素直に自分の言うことを聞いてくれるとも思えない。
「わかった・・・ちょっと考えさせてもらえないか。これから事故なのかそうでないのか調べて、その上で学校から正式に調査の継続の依頼があれば考えさせてもらう。それでいいかな?」
俺はそれだけ言うのが精一杯だった。こうでも言わなければ、その場を収めることができないと判断したからだった。
「わかりました、私はとりあえず教室に戻ります。でも、もし必要となったら言ってください。私にできることならなんでもしますから」
そう言い残して、目黒明日香は肩を落として中庭を去っていった。
目黒明日香が立ち去ったのと入れ替えに、俺たちの所へ久米川教頭が歩み寄って来た。
「どうもお騒がせいたしました。わが校の生徒がお見苦しいところをお見せしてしまったようで、大変申し訳ありません」
「いえ、そのようなことは。それより、今回の件、少し調べてみた方がいいのでは無いでしょうか。大切な生徒たちを守るためにもお願いできませんか?」
「わたくしの一存では何ともすぐに結論を出せないのですが・・・あっ、校長」
躊躇う久米川教頭と俺たちのもとに、金井校長が歩み寄って来た。
「校長先生、大切な生徒と御校の名誉を守るためにも、ぜひこの男に調査の継続をお願いできませんか?」
小川はそう言うと、金井校長へ向かって頭を下げた。
「でも、そんなことしたら、余計騒ぎが大きくならないかしら・・・」
金井校長の反応はいまいち鈍いものがあった。きっと、これ以上騒ぎが広がるよりは、自然消滅してほしいというのが本音なのだろう。
「校長、何卒ご決断を!」
久米川教頭は、尚も金井校長へ調査の継続をするように食らいつく。
「校長先生、ここはきちんと調査を調べておいた方が学校のためですよ。うやむやなまま放置しておくと、変な噂に尾ひれがついて余計に学校の評判が落ちかねませんよ」
小川がまだ周囲に残っている生徒たちに聞こえないように、それとなく校長の耳元で囁くように呟いた。
「わかりました・・・学校のためとあっては仕方ありません。どうか、よろしくお願いいたします」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この目の前にあるぺちゃんこになった死体はどこからやってきた?

原口源太郎
ミステリー
しこたま酒を飲んだ帰り道、僕たちの目の前に何かが落ちてきた。それはぺちゃんこになった人間だった。僕たちは空を見上げた。この人はどこから落ちてきたんだ?

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七 結珂の通う高校で、人が殺された。 もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。 調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。 双子の因縁の物語。

失せ物探し・一ノ瀬至遠のカノウ性~謎解きアイテムはインスタント付喪神~

わいとえぬ
ミステリー
「君の声を聴かせて」――異能の失せ物探しが、今日も依頼人たちの謎を解く。依頼された失せ物も、本人すら意識していない隠された謎も全部、全部。 カノウコウコは焦っていた。推しの動画配信者のファングッズ購入に必要なパスワードが分からないからだ。落ち着ける場所としてお気に入りのカフェへ向かうも、そこは一ノ瀬相談事務所という場所に様変わりしていた。 カノウは、そこで失せ物探しを営む白髪の美青年・一ノ瀬至遠(いちのせ・しおん)と出会う。至遠は無機物の意識を励起し、インスタント付喪神とすることで無機物たちの声を聴く異能を持つという。カノウは半信半疑ながらも、その場でスマートフォンに至遠の異能をかけてもらいパスワードを解いてもらう。が、至遠たちは一年ほど前から付喪神たちが謎を仕掛けてくる現象に悩まされており、依頼が謎解き形式となっていた。カノウはサポートの百目鬼悠玄(どうめき・ゆうげん)すすめのもと、至遠の助手となる流れになり……? どんでん返し、あります。

死神

SUKEZA
ミステリー
自分の失態により全てを失った芸人が、死神に魂と引き換えに願いを叶えてもらい人生をやりなおす、、、

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

処理中です...