不忘探偵3 〜波紋〜

あらんすみし

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第一章 少女が死んだ

第一章 完結

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「ちょっと!解決したって本当なんですの!?」
校長室に入ってくるなり、金井校長は開口一番、感嘆の言葉をあげた。
校長室には俺と大野の他に、久米川教頭と小川も同席していた。
「えぇ、私も今朝聞いて驚いたのですが」
久米川教頭も事態を掴めず、かなり戸惑っているようだった。
「だって、昨日の今日ではないの!たった1日で解決するなんて、どうなっていらっしゃるの?」
金井校長は興奮が収まらないのか、なおも早口で捲し立てる。
「それで、結局どうなったんだ?白鳥萌に対する虐めはあったのか?死因は自殺なのか?心不全なのか?まさか他殺じゃないだろうな?」 
小川は結論が早く知りたくてウズウズしているのを隠せないでいた。
「ちょっと!刑事さん、殺人だなんて物騒なことは言わないでください!」
金井が小川の一言に一喝する。
「すいません、私も何が何だか混乱しておりまして、申し訳ありません」
「それでは、時間も無いので早速ですが報告をしていただきましょうか?」
久米川の進行で俺は、その場に居合わせた全員に視線を走らせて口を開いた。
「結論から言います。白鳥萌が虐めを受けていた事実はなく、彼女の死は病死と推察されます」
俺がそう結論づけると、金井校長は一拍置いて深く深呼吸をしてから、ソファの背もたれに体を預けた。
「よかった・・・」
「それで、どうしてそのような結論に至ったのでしょうか?」
久米川教頭も安心したのか、これまでのような落ち着いたトーンの喋り方に戻っていた。
「まず、虐めについてですが、これは事情があって後ほど説明させていただきます。そして、白鳥萌の死因ですが、彼女はただの心不全ではなく、脳腫瘍により亡くなったものと思われます」
「脳腫瘍?何でそんなことが言えるんだ?」
小川はどこか腑に落ちないでいた。
「彼女が最近、眼鏡を新調していることが理由の一つです」
「眼鏡、ですか?それが脳腫瘍とどのような関係があるのですか?」
久米川教頭は、いつもの柔和な笑顔をするのを忘れて、俺に質問をしてくる。
「白鳥萌は、数ヶ月前から心身の不調を周囲に訴えていました。目の霞み、頭痛、吐き気。これらは脳腫瘍特有の症状を表しています。彼女はもとから乱視で、初期症状の目の霞みといった症状は眼鏡のせいだと思い、眼鏡を新調したのです」
「それって、どうして亡くなった時にわからなかったのかしら?」
金井校長は朗らかに疑問を投げかけた。
「今回のような場合、亡くなったその場で検視が行われ検視調書が書かれます。それをもとに医師が死亡診断書を書くわけですが、特段の不審な点や事件性が無ければ、表面的なことしか見ないのです。今回の場合は、外傷も無く、特段事件性を思わせる理由も無かったので、心不全とされたわけです」
小川は申し訳なさそうに、普段からは考えられないような小さな声で弁明した。
「まぁ、こちらとしては、白鳥萌さんの死の理由が、自殺や事件性が無いのなら、それで構わないのですが」
久米川教頭は、安堵したのか普段の柔和な笑顔を取り戻して、柔らかい物腰で語った。
「そうすると、次は虐めがあったかどうかですわね。虐めは無いと先程おっしゃってらしたけど、それは確かなんですの?あとから虐めがありました、なんてことにならないでしょうね?」
金井校長は、貫くような視線で俺を見て、次の言葉を促した。
「今回の件を調べていて、誰もが白鳥萌さんが虐められていたなんて事は無い、と証言しました。それは非常に信憑性の高い証言でしょう。では、なぜ彼女が虐められていた、かもしれないと皆さんが思ったか。それは全て、学校が虐めを隠蔽しようとしていて、虐めが原因で白鳥萌さんが自殺したという怪文書の存在です。それがあることで皆さんの中に疑念が生まれました。逆に言えば、怪文書が無ければ、誰も白鳥萌さんの死について疑念を持つことも無かったわけです」
「それでは一体誰があんな怪文書を?それもお分かりになっているのですか?」
俺の言葉に聞き入っていた久米川教頭の顔から、再び笑顔消えて真剣に耳を傾けているのがわかる。
「それは直接、本人に聞いてみましょうか」
俺はそう言うと、扉を開けて廊下にいる人物に声をかけた。
すると、そこには大野に付き添われた目黒明日香の姿があった。
「彼女が怪文書の送り主です。そうですよね?」
目黒明日香は、すっかり項垂れて小さく頷いた。
「でも、どうして彼女がこんなことをしたんでしょうか?」
「それは、虐められていたのが実際は白鳥萌ではなく、この目黒さんだからです。さぁ、自分の口であなたの想いをここで伝えてください」
俺に促された目黒明日香だが、なかなか言葉が出てこない。そんな目黒明日香の肩を、大野は優しくさすって後押しをする。
「だって、誰も助けてくれないんだもの・・・学校は知ってて知らんぷりだし、そんな学校が嫌いだった。そんな時、白鳥さんが死んだ。その時、私は思いついたの。学校を困らせたい、実際に虐めがあることを認めさせたい、私の存在に目を向けてほしい、って。だからまず、学校側の出方を伺うために文書を送ったの。学校に誠意があるなら、私が虐められていることに目を向けて、調べてくれるって思って。もし、それでも何も変わらなければ、マスコミに訴えるつもりでした」
「まぁ、何て恐ろしい子なんでしょう!こんなことでっち上げて学校を脅そうとするなんて!」
金井校長は、目黒明日香を睨みつけて糾弾した。
「黙れ、クソババア!そもそも虐めを隠蔽しようとし、彼女の声を無視し、追い詰めたお前らの責任だろ!」
俺は金井校長に負けじと、それ以上に大きな声で金井校長を一喝した。
「でも探偵さん、どうして私が怪文書の犯人だって分かったの?」
「それはね、保健室で君と話した時に、君自身が告白したからだよ」
「え?だってあの時、ほとんど何も聞かれていなかったけど」
目黒明日香は、あの時のことを頭の中で反芻しながら疑問を口にした。
「君はあの時こんな事を言ったよね。『学校は皆んな嘘吐きばかり。私が虐められていると言っても、無いことにしようとして信用なんかできない!これじゃあ、』って。俺はこの言葉に違和感を感じた。何故、この子は『虐められて』ではなく、『虐められて』と言うのか。君にとっては過去形ではなかったんだよね」
「そんな事で・・・」
目黒明日香の瞳から、一筋涙が流れ落ちた。
「小川。彼女、何か罪に問われるのかな?」
「うーん。威力業務妨害ってところかな。まぁ、被害者しだいかと思うけどな」
小川は、金井校長と久米川教頭を見た。2人は互いの表情をチラチラと伺いながら項垂れている。
「以上で、私からの捜査報告を終わります」
と、俺が締め括ったその時だった。校長室の外で何かが大きな音を立てて割れる音がして、続いて女性の大きな悲鳴が聞こえた。
「何事だ!?行ってみよう!」
俺達は校長室を出て、悲鳴の聞こえた方へ向かった。




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