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第一章 少女が死んだ
沈痛
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3人の生徒が部屋を出ていくと、大野は俺に尋ねた。
「佐藤先生、あの子たちにお尋ねになりたかったのは、あれだけで良かったのですか?」
「えぇ、あの子たちからはあれだけで十分です。それより一つお願いがあるのですけど」
「えっ・・・はい、何でしょうか?」
大野は俺に何を頼まれるか、少し身構えるようにして返事をした。
「白鳥萌の親御さんに会って話しを聞きたいのですが、会うことはできないでしょうか?」
俺の頼みに、大野は少しの間、言葉を失った。大野としては、できれば大切な子供を失って傷心の親の傷口を、再び開くことは避けてほしいと願ったのだが。
「ダメですか?」
「ダメ、とは言わないですけど・・・白鳥さんの親御さんからお話しを聞くことは、どうしても必要なことなのでしょうか?」
大野は抵抗を試みた。
「これは必要なことなんです。大切な事を確認しないといけないのです。もし、話しを聞けて確証を得られれば、今回の件は解決するのです」
「え!?もう解決するのですか?」
大野はあまりの急展開に、驚きを隠すことが出来なかった。
「えぇ、白鳥萌の親御さんに、ある事を確認するだけです。それで今回の件は終わりです」
「わかりました。ちょっと待ってて下さい、職員室に戻ったらすぐに白鳥さんのお母様に電話してみます」
「ありがとうございます、恩に着ます」
その1時間後、俺は大野と共に白鳥萌の自宅にいた。2人は応接室に案内され、そこにお茶を持った白鳥萌の母親が入って来て、俺たちにお茶とお茶菓子を勧めた。
「お忙しい時間に申し訳ありません」
大野と俺は、目の前の白鳥萌の母親に深々と頭を下げた。
「いえ、わざわざお線香を上げに来ていただいて、ありがとうございます。生徒想いの先生に巡り会えて、あの子も幸せだったと思います。それで、今日はどのようなご用件なのでしょうか?」
白鳥萌の母親は、幾分頬がこけて、髪も急な来客だったせいか簡単に結いただけだった。
「はい、実はこちらの佐藤先生が、萌さんのことでお話を伺いたいことがある、ということで参りました」
「お話し、と言いますと?」
「単刀直入に申し上げます。私は学校の依頼で萌さんの亡くなった理由を調べております探偵です」
大野と白鳥萌の母親は目を丸くして俺を見た。
「佐藤先生、その事は内密にということで」
「大野先生、もうここまで来て私の身分を隠す必要は無いでしょう」
「どういうことなんですか、学校が萌の亡くなった理由を調べているって?萌は病気で亡くなったのではないですか?やっぱり虐められていたという事なんですか?」
白鳥萌の母親の狼狽えかたは、彼女にかなりのショックを与えたようだった。
「申し訳ありません。お母様もご存知のこととは思いますが、萌さんが亡くなってから届いた告発文について、当校でも警察とは別に独自の調査をしておりまして、佐藤先生・・・いえ、こちらの探偵の方にご協力をいただいているのです。このような大切な事を、何のご了解も得ずにして申し訳ありませんでした」
大野は非常に恐縮しながら、白鳥萌の母親に説明して謝罪した。
「そ、それで、どうなったのですか?もう、あの子が死んだ理由が分かったのですか?」
「それです。一つ伺いたいことがあって参りました。萌さんの最近の様子です。萌さんが眼鏡を変える前後のことを伺えないでしょうか?その前後のことで、何か気になることは無かったでしょうか?」
俺は落ち着いて、ゆっくりと、丁寧に、刺激を与えないように尋ねた。
「そうですね・・・これと言って無かったと思うのですが」
「では、何故、萌さんは新しい眼鏡を作ることにしたのでしょうか?」
俺は質問の仕方を変えて、白鳥萌の母親に尋ねた。
「あぁ、それでしたら、眼鏡が合わないみたいで最近頭が痛いからって言ってました。それで、私が眼鏡が合わないのかしらね、眼鏡を変えてみたら、と言って買ったのです」
「頭が痛い以外に、何か言ってませんでしたか?」
「そうですね・・・吐き気がするとか、そのせいで食欲が無いとか、腕に力が入らないとか、あと目眩がする、なんてことも言ってました。それで一度病院にでも行こうか、って話しをしていた矢先でした」
「わかりました、ありがとうございます。お母さんの話しを聞いて、全てが解決しました」
俺の言葉に、その場に居合わせた大野も白鳥萌の母親も、一様に驚きを隠せないでいた。
「全て分かったというのは、いったいどういうことなんですか?」
大野が俺に尋ねる。
「それはこれからご説明します。ただ、これには私の推察も含まれています。何しろ肝心の遺体が既に荼毘に伏されているので。しかし、まず間違いないでしょう」
「お願いします!萌ちゃんは、どうして亡くなったのですか?どうか教えて下さい!」
白鳥萌の母親は、前のめりになって俺の手を取り懇願する。
「それはですね・・・」
「佐藤先生、あの子たちにお尋ねになりたかったのは、あれだけで良かったのですか?」
「えぇ、あの子たちからはあれだけで十分です。それより一つお願いがあるのですけど」
「えっ・・・はい、何でしょうか?」
大野は俺に何を頼まれるか、少し身構えるようにして返事をした。
「白鳥萌の親御さんに会って話しを聞きたいのですが、会うことはできないでしょうか?」
俺の頼みに、大野は少しの間、言葉を失った。大野としては、できれば大切な子供を失って傷心の親の傷口を、再び開くことは避けてほしいと願ったのだが。
「ダメですか?」
「ダメ、とは言わないですけど・・・白鳥さんの親御さんからお話しを聞くことは、どうしても必要なことなのでしょうか?」
大野は抵抗を試みた。
「これは必要なことなんです。大切な事を確認しないといけないのです。もし、話しを聞けて確証を得られれば、今回の件は解決するのです」
「え!?もう解決するのですか?」
大野はあまりの急展開に、驚きを隠すことが出来なかった。
「えぇ、白鳥萌の親御さんに、ある事を確認するだけです。それで今回の件は終わりです」
「わかりました。ちょっと待ってて下さい、職員室に戻ったらすぐに白鳥さんのお母様に電話してみます」
「ありがとうございます、恩に着ます」
その1時間後、俺は大野と共に白鳥萌の自宅にいた。2人は応接室に案内され、そこにお茶を持った白鳥萌の母親が入って来て、俺たちにお茶とお茶菓子を勧めた。
「お忙しい時間に申し訳ありません」
大野と俺は、目の前の白鳥萌の母親に深々と頭を下げた。
「いえ、わざわざお線香を上げに来ていただいて、ありがとうございます。生徒想いの先生に巡り会えて、あの子も幸せだったと思います。それで、今日はどのようなご用件なのでしょうか?」
白鳥萌の母親は、幾分頬がこけて、髪も急な来客だったせいか簡単に結いただけだった。
「はい、実はこちらの佐藤先生が、萌さんのことでお話を伺いたいことがある、ということで参りました」
「お話し、と言いますと?」
「単刀直入に申し上げます。私は学校の依頼で萌さんの亡くなった理由を調べております探偵です」
大野と白鳥萌の母親は目を丸くして俺を見た。
「佐藤先生、その事は内密にということで」
「大野先生、もうここまで来て私の身分を隠す必要は無いでしょう」
「どういうことなんですか、学校が萌の亡くなった理由を調べているって?萌は病気で亡くなったのではないですか?やっぱり虐められていたという事なんですか?」
白鳥萌の母親の狼狽えかたは、彼女にかなりのショックを与えたようだった。
「申し訳ありません。お母様もご存知のこととは思いますが、萌さんが亡くなってから届いた告発文について、当校でも警察とは別に独自の調査をしておりまして、佐藤先生・・・いえ、こちらの探偵の方にご協力をいただいているのです。このような大切な事を、何のご了解も得ずにして申し訳ありませんでした」
大野は非常に恐縮しながら、白鳥萌の母親に説明して謝罪した。
「そ、それで、どうなったのですか?もう、あの子が死んだ理由が分かったのですか?」
「それです。一つ伺いたいことがあって参りました。萌さんの最近の様子です。萌さんが眼鏡を変える前後のことを伺えないでしょうか?その前後のことで、何か気になることは無かったでしょうか?」
俺は落ち着いて、ゆっくりと、丁寧に、刺激を与えないように尋ねた。
「そうですね・・・これと言って無かったと思うのですが」
「では、何故、萌さんは新しい眼鏡を作ることにしたのでしょうか?」
俺は質問の仕方を変えて、白鳥萌の母親に尋ねた。
「あぁ、それでしたら、眼鏡が合わないみたいで最近頭が痛いからって言ってました。それで、私が眼鏡が合わないのかしらね、眼鏡を変えてみたら、と言って買ったのです」
「頭が痛い以外に、何か言ってませんでしたか?」
「そうですね・・・吐き気がするとか、そのせいで食欲が無いとか、腕に力が入らないとか、あと目眩がする、なんてことも言ってました。それで一度病院にでも行こうか、って話しをしていた矢先でした」
「わかりました、ありがとうございます。お母さんの話しを聞いて、全てが解決しました」
俺の言葉に、その場に居合わせた大野も白鳥萌の母親も、一様に驚きを隠せないでいた。
「全て分かったというのは、いったいどういうことなんですか?」
大野が俺に尋ねる。
「それはこれからご説明します。ただ、これには私の推察も含まれています。何しろ肝心の遺体が既に荼毘に伏されているので。しかし、まず間違いないでしょう」
「お願いします!萌ちゃんは、どうして亡くなったのですか?どうか教えて下さい!」
白鳥萌の母親は、前のめりになって俺の手を取り懇願する。
「それはですね・・・」
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