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第一章 少女が死んだ
3人の友だち
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その日の放課後、俺は大野と共に白鳥萌をよく知る友人達に話しを聞くことになった。
白鳥萌と非常に親しくしていた大嶋くるみ、同じ漫画研究会の部長である片岡美華と部員の島倉和哉の3人だ。
口火を切ったのは、大野だった。
「皆さん、今日はお忙しいところありがとうございます。なぜ今日、3人に集まってもらったかというと、今日から赴任してきた佐藤先生に白鳥萌さんのことを教えてほしいからです。私から説明してもいいのかと思ったんですが、やはり特に親しくしていたあなた方から聞いた方がいいかと思ったの。また辛い事を思い出させてしまうかもしれないけど、お話ししてもらってもいいかしら?」
大野の言葉に、3人は互いに顔を見合わせていた。明らかに動揺して戸惑っているようだった。
「私たちはかまわないんですけど、その、何で今さら萌ちゃんのことを?」
そう言ったのは、漫研の部長である片岡美華である。
「そうですよ、もう一か月も経つのに僕たちも早く忘れたいんですけど」
片岡の言葉に島倉和哉が賛同の意を示す。
「そうかな?私は構わないと思うけど。だって、こうして一か月経っても、まだ私たちはこうして気持ちの整理がついていないんだもの。少し時間を置いてから話すことで、また一か月前とは違う気持ちで話せるかもしれないじゃない?」
大嶋くるみが発言すると、片岡と島倉は再び顔を見合わせて、少しの間考え込んだ。
「じゃあ、少しだけ・・・」
片岡美華は、渋々だが白鳥萌について語ることに応じた。
「ありがとう、皆さんのご協力に感謝します」
大野は3人に頭を下げて、俺に目配せした。
「でも、何から話したらいいのか」
「それではまず、白鳥萌さんがどんな生徒だったのかを教えてもらってもいいかな?」
俺が3人に問いかける。
「それじゃあ同じクラスだったし、私がこの中で一番仲が良かったと思うので、私からお話しします」
大嶋くるみが小さく挙手をして、片岡と島倉の顔を伺いながら話しを切り出した。
「私と萌ちゃんは、同じクラスで同じ部活で、漫画やアニメが大好きなこともあって、一年生の頃から仲良くしてました。ただ、萌ちゃんはあまり自己表現が得意な方ではなかったので、仲良くなるまでは時間がかかるタイプですね。私と仲良くなるのも、夏休みが終わる頃にようやく仲良くなれたという感じです」
「白鳥さんが虐められていたという話しを聞いたんだけど、それは本当なの?」
大野の問いかけに、大嶋は大きく横に首を振って否定した。
「とんでもない!萌ちゃんが虐められていたなんてあり得ません。そうだとしたら、いちばん仲が良かった私が気づかないはずがありません!」
「私も同感です。たしかに私たちみたいなのは、からかいや虐めの対象になりやすいと思いますけど、いつも楽しそうに部活動をしていた白鳥さんが、まさか虐められていたなんて・・・私もそんなふうには思えません」
片岡も大嶋に同調する。
「実は僕、今、虐められているんです」
島倉がボソリと呟いた。
その場にいた全員の視線が島倉に注がれる。
「それで、白鳥先輩に相談してみたんです。そしたら、先輩は『私は、今は虐められてないけど』ってハッキリ言ったんです。だから、きっと虐められていたなんてあり得ないと思うんです」
島倉はホッと一息ため息を吐いて告白を締め括った。
「虐めって、辛いわよね。私も中学生の時に虐められていたから、島倉君の気持ちが分かるわ」
片岡は島倉の肩にそっと手を添えて慰めた。
「そうだわ!萌ちゃんの写真を見て下さい。私の中の萌ちゃんは、いつも楽しそうな笑顔ばかりなんです。見ていただければ、萌ちゃんが虐められていたなんてことが無いって分かってもらえるはずです!」
そう言って、大嶋は自らのスマホのアルバムを開いて、俺たちに白鳥萌の写真を見せた。
そのたくさんある写真の白鳥萌は、総じて笑顔ばかりで、高校生活を精一杯楽しんでいる様子が伝わってきて、とてもその笑顔の裏に、虐めに苦悩しているような影を見い出すことは出来なかった。
「本当に楽しそうね。私は、白鳥さんは大人しい生徒だという印象しかなかったけど、こんな笑顔が素敵な子だったのね。私は、白鳥さんの表面しか見られなかったのね」
大野は白鳥の写真を見ながら、浮かんだ涙をそっと拭った。
「彼女は、最近眼鏡を新調したみたいだけど、何か聞いているか?」
俺に指摘されて、大野は画像をスワイプさせてみる。
「あら、たしかに。前は黒縁眼鏡だったのに、最近の写真はピンク色のフレームに変わっているわ」
「それなら、萌ちゃんが最近また目が悪くなっちゃったみたい、って言って買い替えたんですよ。」
大嶋がそう言うと、片岡や島倉は口々に可愛いとか、印象が明るくなったなど感想を口にした。
「眼鏡を変えたのは、視力が落ちたってことかな?」
「いいえ、最近乱視がひどくなって、今の眼鏡だと物が二重に見えたりするから買い替えた、って言ってました」
「それで、乱視は眼鏡を変えたことで解決したのかな?」
「いいえ、結局のところ乱視が良くなることは無かったんですけど、本人は周りの反応も良くて、ピンクの眼鏡はかなり気に入っていたみたいです」
「ありがとう、とても参考になったよ」
俺の言葉に、大嶋はキョトンとしている。そして一言こう呟いた。
「なんか佐藤先生と話していると、先生と話しているというより、警察の人と話しているみたい」
そう言って大嶋や、片岡も島倉も笑った。
白鳥萌と非常に親しくしていた大嶋くるみ、同じ漫画研究会の部長である片岡美華と部員の島倉和哉の3人だ。
口火を切ったのは、大野だった。
「皆さん、今日はお忙しいところありがとうございます。なぜ今日、3人に集まってもらったかというと、今日から赴任してきた佐藤先生に白鳥萌さんのことを教えてほしいからです。私から説明してもいいのかと思ったんですが、やはり特に親しくしていたあなた方から聞いた方がいいかと思ったの。また辛い事を思い出させてしまうかもしれないけど、お話ししてもらってもいいかしら?」
大野の言葉に、3人は互いに顔を見合わせていた。明らかに動揺して戸惑っているようだった。
「私たちはかまわないんですけど、その、何で今さら萌ちゃんのことを?」
そう言ったのは、漫研の部長である片岡美華である。
「そうですよ、もう一か月も経つのに僕たちも早く忘れたいんですけど」
片岡の言葉に島倉和哉が賛同の意を示す。
「そうかな?私は構わないと思うけど。だって、こうして一か月経っても、まだ私たちはこうして気持ちの整理がついていないんだもの。少し時間を置いてから話すことで、また一か月前とは違う気持ちで話せるかもしれないじゃない?」
大嶋くるみが発言すると、片岡と島倉は再び顔を見合わせて、少しの間考え込んだ。
「じゃあ、少しだけ・・・」
片岡美華は、渋々だが白鳥萌について語ることに応じた。
「ありがとう、皆さんのご協力に感謝します」
大野は3人に頭を下げて、俺に目配せした。
「でも、何から話したらいいのか」
「それではまず、白鳥萌さんがどんな生徒だったのかを教えてもらってもいいかな?」
俺が3人に問いかける。
「それじゃあ同じクラスだったし、私がこの中で一番仲が良かったと思うので、私からお話しします」
大嶋くるみが小さく挙手をして、片岡と島倉の顔を伺いながら話しを切り出した。
「私と萌ちゃんは、同じクラスで同じ部活で、漫画やアニメが大好きなこともあって、一年生の頃から仲良くしてました。ただ、萌ちゃんはあまり自己表現が得意な方ではなかったので、仲良くなるまでは時間がかかるタイプですね。私と仲良くなるのも、夏休みが終わる頃にようやく仲良くなれたという感じです」
「白鳥さんが虐められていたという話しを聞いたんだけど、それは本当なの?」
大野の問いかけに、大嶋は大きく横に首を振って否定した。
「とんでもない!萌ちゃんが虐められていたなんてあり得ません。そうだとしたら、いちばん仲が良かった私が気づかないはずがありません!」
「私も同感です。たしかに私たちみたいなのは、からかいや虐めの対象になりやすいと思いますけど、いつも楽しそうに部活動をしていた白鳥さんが、まさか虐められていたなんて・・・私もそんなふうには思えません」
片岡も大嶋に同調する。
「実は僕、今、虐められているんです」
島倉がボソリと呟いた。
その場にいた全員の視線が島倉に注がれる。
「それで、白鳥先輩に相談してみたんです。そしたら、先輩は『私は、今は虐められてないけど』ってハッキリ言ったんです。だから、きっと虐められていたなんてあり得ないと思うんです」
島倉はホッと一息ため息を吐いて告白を締め括った。
「虐めって、辛いわよね。私も中学生の時に虐められていたから、島倉君の気持ちが分かるわ」
片岡は島倉の肩にそっと手を添えて慰めた。
「そうだわ!萌ちゃんの写真を見て下さい。私の中の萌ちゃんは、いつも楽しそうな笑顔ばかりなんです。見ていただければ、萌ちゃんが虐められていたなんてことが無いって分かってもらえるはずです!」
そう言って、大嶋は自らのスマホのアルバムを開いて、俺たちに白鳥萌の写真を見せた。
そのたくさんある写真の白鳥萌は、総じて笑顔ばかりで、高校生活を精一杯楽しんでいる様子が伝わってきて、とてもその笑顔の裏に、虐めに苦悩しているような影を見い出すことは出来なかった。
「本当に楽しそうね。私は、白鳥さんは大人しい生徒だという印象しかなかったけど、こんな笑顔が素敵な子だったのね。私は、白鳥さんの表面しか見られなかったのね」
大野は白鳥の写真を見ながら、浮かんだ涙をそっと拭った。
「彼女は、最近眼鏡を新調したみたいだけど、何か聞いているか?」
俺に指摘されて、大野は画像をスワイプさせてみる。
「あら、たしかに。前は黒縁眼鏡だったのに、最近の写真はピンク色のフレームに変わっているわ」
「それなら、萌ちゃんが最近また目が悪くなっちゃったみたい、って言って買い替えたんですよ。」
大嶋がそう言うと、片岡や島倉は口々に可愛いとか、印象が明るくなったなど感想を口にした。
「眼鏡を変えたのは、視力が落ちたってことかな?」
「いいえ、最近乱視がひどくなって、今の眼鏡だと物が二重に見えたりするから買い替えた、って言ってました」
「それで、乱視は眼鏡を変えたことで解決したのかな?」
「いいえ、結局のところ乱視が良くなることは無かったんですけど、本人は周りの反応も良くて、ピンクの眼鏡はかなり気に入っていたみたいです」
「ありがとう、とても参考になったよ」
俺の言葉に、大嶋はキョトンとしている。そして一言こう呟いた。
「なんか佐藤先生と話していると、先生と話しているというより、警察の人と話しているみたい」
そう言って大嶋や、片岡も島倉も笑った。
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