不忘探偵3 〜波紋〜

あらんすみし

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第一章 少女が死んだ

6人の黒い生徒たち

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俺は、副担任としてクラスの授業を教室の後ろから見ていた。
大野の仕事は早かった。放課後までには作成すると言っていた、生徒1人ひとりの資料を早々に作成して俺に手渡したのだった。
大野の資料で、生徒達の大まかな個性を掴むことができた。
あとは、その生徒のデータという骨格に、自らの感じた印象を肉付けしていく作業をしていた。
そして、その生徒達の中でも特に重要な、白鳥萌を虐めていたとされる6人の生徒達を俺は注目していた。
まず、佐野杏奈あんなである。
佐野杏奈はクラスの中心人物と言える女生徒であり、尚且つリーダー的資質を兼ね備えている。その性格は資料によると、感情的で強引な面も見られるが、学級委員長としてクラスをひとつに団結させる能力に秀でている、ということだった。そして、佐野杏奈を見ていて目を引くのは、その女子高校生とは思えない大人びたルックスである。決して美人というわけではないのだが、派手なルックスは相手に強いインパクトを残すことができるであろう。まさに、クラスを統べる女王然とした風格すら感じさせる、そんな華やかさを身に纏った"女性"だった。
次に、加納慎一だ。彼は佐野杏奈と共に副学級委員長を務める、いわば佐野杏奈を影で支える参謀のような役割をになっているということだ。
加納慎一は、佐野杏奈と同じくリーダー然とした風格を漂わせる、スポーツマンタイプの男だ。資料によると、実際に剣道部の主将を務めており、全国大会でも3位の実力者とのことだ。
その人物像は爽やかで能動的、教師からの信頼も厚く、周囲からも好評価を得ているが、反面、狡猾な一面を持ち合わせているらしく、彼に煮湯を飲まされた生徒たちも少なからずいたようだ。
次は安城あんじょう誠だ。
資料によると、彼はクラスではあまり存在感が強い方では無いようだ。ただ、その学力は並外れて優秀であり、成績は常に学年でもトップであるとのことであった。
常に冷静沈着で、佐野杏奈と加納慎一をサポートする存在らしい。
彼は、その秀でた学力を提供することで佐野杏奈と加納慎一から絶大な信頼を受け、その対価としてクラスでの安定的な地位を享受しているようだ。
次に、中井華子である。
授業中の彼女は特に取り立てて目立つものはないのだが、彼女の個性が垣間見れるのは、授業が終わった直後のことである。
彼女は、終業のベルが鳴り終わるや否や、必ず真っ先に佐野杏奈のもとに駆けつけるのである。
それはまるで、ご主人様の帰宅を待ち侘びていた犬が、帰宅した飼い主に飛びつくかのようだ。
探偵は、彼女が何故、佐野杏奈達のグループに属しているのかは簡単な理由だと思った。
単に、クラスの中心人物達に媚びているだけなのだ。そうすることで、自分もクラスの中で特別な存在の一員として周囲から認められたいのであろう。
次に、槇隆文だ。
槇はクラスのムードメーカー的な役割を担っているらしい。
都内随一の進学校で、他の生徒が一心不乱に勉学に励んでいる中でも、槇はマイペースで教師や他の生徒達と、丁々発止のやりとりをして周囲を笑わせているのだった。
そんな槇隆文がクラスの中心グループに取り入るのは、それほど難しいことではないであろう。
要は、槇隆文のキャラクターは佐野杏奈や加納慎一のお気に召したのだろう。
最後に、田之上陽子だ。
大野の資料によると田之上陽子は、華やかな佐野達のグループにいることが不思議なくらい地味で大人しい生徒だということだ。
成績も中の下で、部活動をしているわけでもなく、家庭に何か問題があるわけでもなく、学校生活においても何か問題を起こしたり抱えている様子も無い。
大野の資料では、田之上陽子がなぜ佐野たちのグループに属しているのかは分からない、と結ばれているが、俺は田之上陽子がグループの中でパシリとして使われていると思った。
それは、午前中の授業が終わった時のことだった。
職員室に戻る俺の横を、沢山のパンや飲み物を抱えた田之上陽子とすれ違ったのだ。
おそらく、全員分のパンや飲み物を買いに行かされたのだろう。
そうして佐野達に媚びていないと、虐めの火の粉がいつ自分に降りかかってくるか分からないことを、田之上陽子はこれまでの人生で学んできているのだろう。

告発文によると、この6人が白鳥萌を虐めていたということか。
しかし、学校側はそのことを把握していなかった。
そういえば、このクラスにはもう1人、この6人に虐められていた生徒がいるはずだな。
そのことは学校側も把握しているようだが。
ともかくその生徒から話しを聞いてみたい。







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